表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/687

炎の公子とワンチャンに賭ける決意(side:エッケハルト・アルトマン)

「アナちゃん!」

 女子寮の一室。腕輪の聖女アナスタシア・アルカンシエル……本人が特別扱いはやですと言っていたが、それでも特別な措置を取らないわけにはいかない少女の為に用意された、皇女等と同レベルに整えられた最大の一部屋。

 

 突然予言の聖女こと天光の聖女リリーナ・アグノエルが誕生しはしたものの、予言の聖女が現れるという事そのものはゼノや俺から進言していた為に部屋に問題はない。

 しっかりと、学園の新入生の中に現れるとも限りない筈の聖女が新入生の一人だと仮定して、聖女向けの部屋は二つ用意されている。どたばたするような事は起こらないのだ。

 

 といっても、それは皇帝の、つまりは派閥も何もない頂点の膝元である学園の事だからだろう。

 事実、学園には次期皇帝を目指せる範囲の継承権を持つ皇族の3派閥全ての勢力が届いている。

 

 ひとつ、第二皇子シルヴェール当人が教員の一人として教鞭を取っている継承権第一位のシルヴェール派。派閥としては他には大物としては前線に居るらしい第四皇子くらいで学園にも派閥の者はあまり居ないのだけれども、下級貴族に支持者が多く頂点本人が学園に居るという事で影響は大きい。

 ひとつ、継承権第四位の長兄を中心とする穏健派。武断な皇帝とか怖いだろって多くが在籍しているけれど、案外これは弱い派閥だ。何たって、命懸けで国民を護るとか覚悟決めきった尖った人間が全然居ない。そういうのがシルヴェール派に流れていく。なので、在籍している人数だけなら多いし結構教員の中にも居るんだけど影が薄いというか、シルヴェール一人に食われている感じがある。

 ひとつ、機虹騎士団を有する継承権第二位のアイリス派。派閥筆頭のゼノが学生として入り、長であるアイリスも一年後には入学を決めていて……虎の子である騎士団の両翼を何の縁か更に護衛として捩じ込んできた。学園の運営者という点では弱いが、聖女二人を護衛するという形で生徒には滅茶苦茶な影響を持つ。

 ってか、アナちゃんの元庇護者で何でか桃色リリーナと婚約してるゼノのコネパワーだけどな!何あいつ。何で婚約してんの後で聞こう。

 

 何でそこら辺知ってるのかって?

 いや、俺……エッケハルト・アルトマンというか遠藤隼人って、アナちゃんの為にゲームやってた訳で。推しが現実になった世界で真面目に生きないなんてそんな事出来る訳がない。エッケハルトとして覚えてなきゃいけない事くらいそりゃ覚えるさ。

 

 ひとつだけ言えるのは、都合が良い!

 って俺はすぅすぅと眠る銀のサイドテールの女の子の唇に目を奪われる。

 だって、アナちゃんを自分から手離してくれてる訳だろ?ってか、俺がわざと黙ってたアナちゃん=ゼノルートが存在する『もう一人の聖女』って事に気が付いてそれでアナちゃんとイチャイチャする気になられたら多分勝てなかったと思うんだけど、その事知っても幼少期のどこか突き放した態度を変えなかった。

 つまり、ゼノ側はゼノルート目指す気がないって事で、これマジで(エッケハルト)ルート目指せるんじゃないか?

 そもそも俺はアナちゃん(小説版)のイラスト可愛い!で界隈に入り、恋するアナちゃん可愛い!で攻略対象の気分になって主人公とのイチャイチャを楽しむために乙女ゲーな原作もプレイした訳で……。現実で仲良くなってあわよくばってのは願ったり叶ったりだ。

 

 ……本当にあいつ分かってるよな?きがついてなかったとか無いよな?

 ふ、不安だ……あのゼノ、マジで単なるゼノだからな……。肝心な所で鈍かったりしても可笑しくない。

 

 って眺めていると……

 「こほん」

 と、エルフな女の子が俺をじとっとした目で眺めてくる。

 「あ、えっと、ノア先生?」

 13歳くらいのエルフの女の子。何で此処に。

 「ええ。男を寮に入れるなんて、間違いを起こされたら大問題よ。教師として見過ごせないから監視してるの」

 その流麗な長い耳をぴくりと跳ねさせて、馬の尻尾のような淡い金のポニーテールを揺らし、腕を組んだロリエルフ先生は俺をじっと見上げる。

 「可笑しな事かしら、エッケハルト・アルトマン?」

 「い、いや……うん、そうだよな」

 

 当然、俺にアナちゃんを傷付けるつもりはない。そりゃえっちな事を考えないと言ったら嘘になる。

 小さな唇にキス出来るならしたいし、豊かで谷間の見えるおっぱいを揉めるなら揉みたい。その先だって望むところ。でも、それは彼女を傷付けることだからまだ駄目だって理性のブレーキは壊れてなんかいない。

 

 「お、女の子の部屋は……

 しかし、神は見ている……」

 と、扉の先で言うのはガイスト。

 うん、こいつ言動が厨二な割に?ウブで童貞だったわ。初デートイベントとかガチガチ過ぎて失敗するイベントだった筈だし女の子の部屋とか許可あっても入れないわな。

 

 それに託すって馬鹿かゼノ?いや馬鹿だから納得だわ。

 

 そんな事を考えながら、美少女過ぎて辛い推しの乙女ゲー主人公の寝顔を役得と眺めていると……

 その形の良い眉が動いた。

 

 「う、ん……」

 って、少し苦しそうに息を吐いて、少女のアイスブルーの瞳が開く。

 そして、俺を見て数度目をぱちくりさせ……

 「エッケハルトさん?」

 って、俺の名を澄んだ声で呼んだ。

 

 「俺だよ、アナちゃん」

 「皇子さまじゃ、ないんですね」

 「当たり前だろ!」

 って、語気が強くなる。

 

 いや、マジで……

 割と辛い。ゲーム内では俺=ゼノって自己投影してプレイ出来たからまだ良いんだけど(因みにあいつ頭やべーから良くはない)、現実の俺はゼノじゃ無いわけで。

 俺のものじゃないけどそこはかとない寝取られを感じるというか……NTR音声作品を聞いてる感じ。

 

 ちょっと興奮するけど、割と心が痛い。

 そう、胸を抑えながら俺は叫んで。

  

 「だ、大丈夫ですか!?痛むんですか」

 って、自分がさっきまで気を喪ってたのに気丈にベッドの上にはね起きた少女が心配そうに潤んだ瞳で俺を見上げる。

 

 「ちょっとなら腕輪の力で良くなりますから……」

 って、腕輪をしたすべすべで少しひんやりした右手で俺の左手を優しく握ってもくれる。

 

 「気分は大丈夫ですか?

 わたしたちを護るために、頑張ってくれたからですか?」

 うん、違う。

 単なるNTRのダメージだ。寝てもないし、寝られてもないけど。

 

 「いや、ちょっと昨日徹夜で本読んでて、それで」

 「良かったです……」

 って、ほっと息を吐いて小さく儚い花のような笑顔を見せてくれるサイドテールの女の子。

 

 そんな少女を前に、心臓バクバクいっている俺は……

 「アナちゃん、聞いてくれ。大事な話なんだ」

 本当に重要な話を切り出した。

 

 やっぱりさ。お前に負けるのは嫌だし悔しいから。

 諦めないぜ、ゼノ。お前に勝つ。

 まずは……その一歩。今はまだ、受け入れてもらえなくても良い。その覚悟を決めて……やってやる!

 

 告白を!

恋の熱により彼はワンチャン(そんなもの既に無い)に賭けるのです……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ