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桃色少女の覚醒(side:リリーナ・アグノエル)

その顔を見た瞬間、脳裏に電撃が走った。

 あっ、わたしこの人、知ってる……

 

 『よしっ!全キャラ攻略完了!

 ……でも、アナザーだと逆ハーレムルート無いんだぁ……残念』

 スマートフォンに映し出した攻略サイト片手に、手にしたコントローラーをクッションに放り投げる少女の視界がフラッシュバックする。

 一人の男性が笑いかけて手を差し伸べるスチルが映されたテレビがデカデカと視界を占拠していた……

 

 そうして、リリーナ=わたしは、本来の自分を取り戻した。

 眼前には、見覚えのある火傷痕の銀髪少年。そして、視界にかかるピンクの髪。

 やだ!わたし、乙女ゲーの世界に転生しちゃったの!?

 

 思わず、少年に駆け寄る。

 そうして、マジマジとその顔を見詰める。

 「……君は?」

 言いながら立ち上がる銀髪少年。その声はちょっと大人びた、そこそこ有名な女性声優の低めの少年声。

 ドラマCDで何度も聞いたものそのまんまの美声。これがゲームだったら、再現完璧だよ!

 ぜ、ゼノくんだぁ……本物だぁ……

 立ち上がった少年より今の自分の背は低くて、見上げる形。

 灰色に近いくすんだ銀髪も、父親譲りの色素の薄い赤い眼も、左頬から上を覆う火傷痕も決して綺麗ではなくて。けど隠しきれない美形さを残す、大人びた顔立ち。

 ドラマCDのイラストそのまんまの美形さに、思わず再現完璧……なんて、まあ、仕方ないよね!

 「おれに、何か御用が?」

 聞きながらも、ゼノくんは視線を一旦わたしから外して近くの床へ向ける。

 

 何?何なの?

 と思ったら、近くに女の子が倒れていた。多分新品だけど、黒髪に似合った黒い地味な子供向けドレス。装飾もちょっと金の刺繍が袖と襟とスカートの先と胸元にあるだけでお金ないんだって分かる。


 っていうか、何でこんな所で倒れてるんだろ?

 首を傾げるわたしを他所に、ゼノくんは片膝をついてその子に右手を差し伸べる。

 良く見ると左手吊ってる……痛そう。

 あ、ゼノくんの方ね。ゼノくんって、怪我のイメージあるからねー

 「大丈夫、倒れたりしないから。

 立てるか?」

 そう、少女に微笑むゼノくん。ちょっと火傷で目尻がひきつっててぎこちないところまで完璧にゼノくん。

 わたしも微笑まれたい!

 そうやって、みすぼらしい女の子を立たせてあげるや、ゼノくんはわたしに向き直る。

 「それで、君は?」

 

 「わたし、リリーナ!」

 そうだよね、きっとデフォルトネーム。だってピンクの髪はこの世界に主人公しか居ないもん。

 「リリーナ、君が彼女に当たってしまったんだ」

 「えっ、そうなの?」

 だから倒れてたんだーと頷くわたしに、ゼノくんは一つだけ頷き返し。

 「謝れる?」

 と聞いてきた。

 

 「そうだったんだ、ごめんねー」

 もう、謝れない訳無いじゃんかーとちょっとだけ頬を膨らませて。

 ゼノくんってば、人を信じてよね!

 「アルヴィナ男爵令嬢、彼女の事をこれで許してあげられるか?」

 その声にこくこくと小さく頷くみすぼらしい子。覚えなくて良いかな、多分モブだろうし。そんな名前聞いたこと無いもん。

 頷くや女の子はそそくさと逃げていく。まあ、皇子と話すにはみすぼらしいもんねあの子。

 

 それよりゼノくん!

 「そっちの席は戻ってくる人が居るから、此方に、ね」

 って、ちょっと遠いけど顔が向かい合わせになる席を軽く引いてエスコートしてくれる。やっぱりゼノくんって外見ちょっと怖いけど優しい!

 「ねぇねぇゼノくん!」

 何から話せば良いかな?

 それが、わたしと彼との出会いだった。

 

 「むっふふー」

 家に帰ってきたわたし。これからの事、この世界の事、色々考えなきゃいけなくて、頭がこんがらがっちゃうからお父さんにはあそこでちょっと食べ過ぎちゃったって言ってそそくさと部屋に引きこもった。

 わたしの部屋はいかにもお貴族様ーって感じの豪華な部屋。生前の……って今のわたしはリリーナなんだからちょっと言い回し可笑しいけど、あの家全部合わせたよりひろーい!

 話を聞くに、あの時のゼノくんは婚約発表の会に、一応主賓として出席してて、わたしの家も呼ばれてたんだって。

 で、ゼノくんと彼女は実際に結婚する気とかお互いに無いから、婚約者は近くに居なかった……ますますゲーム通り、これはきっと、ゲームの中に違いないよね!

 

 えっと確かー

 って、用意してある広い机にぜーんぜん何にも書いてない日記帳を広げ、覚えてる事をメモしはじめる。

 この世界はゼノくんが居るんだし、遥かなる蒼炎の紋章って乙女ゲームの世界。そして、わたしはそのゲームの主人公!

 でもってゼノくんは……実はちょっと面倒な立場なんだよね。

 ゼノくん……第七皇子ゼノ。この剣と魔法の世界において、魔法の一切が使えないし良い魔法が基本効かないって産まれながらの障害を持った忌み子で、けどすごく強い筈の皇子でもあるって難儀な人。

 忌み子って扱いを受けてきたからか何時もどこか物憂げで、けれども困ったときには優しくて、そして剣……というか刀の腕は凄腕!

 声優さんはそこまで有名じゃ無いけれども良い声!って事で、スッゴく設定からして攻略対象っぽいんだけど……実は違う。

 いや、攻略対象なんだよ?わたしじゃなくて、隠し主人公の方の。貴族の間では彼は忌み子って遠巻きにされてたから、その関係かイベントが起きなくて貴族出身なわたしのルートでは攻略出来ないの。

 

 けど、そんなこと関係無いよね!だってゲームでのリリーナはそうだったけど、わたしはゼノくん嫌いじゃないもん。寧ろ推し側!

 偏見とか無しに行けば、きっと振り向いてくれるはずだよね!だって、そうじゃなきゃ死んじゃうし。

 ゼノくんを死なせたりしたら後味悪いし、頑張ろう、わたし!


 と、ゼノくんばっかりじゃダメダメ。エッケハルト君とか、頼勇様とか、ルーデウスさんとか、他にも攻略対象は何人も居るんだし。

 やっぱり折角主人公になったんだから、逆ハーレムルート行きたいじゃん。ゼノくんは優しいからきっと逆ハーレムに組み込めるし……助けられる!

 それに、ゼノくんが居るって事は、隠しじゃないと攻略出来ないキャラなんかもしっかりこの世界には居るって事だもんね!

 ゲーム通りにやってたら彼等と会えないし、しっかり考えないと!

 

 「お嬢様」

 「お茶、置いといてー!」

 お嬢様、だって。初めて呼ばれたよそんな事!

 キャッキャしながら、転生して初めての夜は更けていった。

 後で思ったけど、こういうネット小説では死にかけた時に思い出したり、思い出した時には手遅れだったり、高熱出したりとか色々あるけど、そんな痛いの無くて良かったー

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[一言] 視野が狭そうで怖いな
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