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ノア姫とリンゴの酒(side:ノア・ミュルクヴィズ)

「来たか」

 帝国王都。皇帝の居城ではあるけれど王都。其処に聳え立つ城の一室……玉座の間に一人君臨する灰銀の炎帝が、入ってきた一人の小柄な姿を見て視線を上げた。

 

 ワタシは、何で待ってるのよと思いながらも、彼……皇帝シグルドを見上げる。

 帝国民であれば平伏したりせめて何らかの礼を取るのでしょうけれど、馬鹿馬鹿しい。

 

 「ふん、皇帝への礼儀はどうした?」

 「ワタシを誰だと思っているのかしら、皇帝陛下?

 高貴なるエルフに対してその口を聞くことを許す側よ。せめて同格でしょう?」

 「はっ、初対面のサルースか貴様は」

 けれど、皇帝はそれを咎めない。くつくつと愉快そうに笑い、玉座に腰掛けたまま睨み付けるような眼で射抜く。

 

 「まあ構わん。結局のところ、エルフは帝国領土の森に住んではいるが、民ではない。独立した存在だ。

 それとも、民になったか?」

 「なってないわよ。アナタのバカ息子からは勝手に帝国民扱いされているけれどもね」

 「違いない」

 言いつつ、男は手に呼び出した剣を玉座の前の地面に突き立てる。


 炎が広がり、玉座の間を埋め尽くしたかと思うと……何時しか消え、其処には一人が使うには些か大きな机と椅子が置かれていた。

 机にはクロスが敷かれ、上には嗜好品であるガラス細工の足の細いグラスと、一樽の酒。

 

 「あら、果実酒ではないのね」

 「樽仕込みだが、一応果実酒だ。(オレ)は熟成と共に変わる味を愉しむ方が好きでな。

 対等に話すならば、酒は相応の敬意として好いたものの方が良いだろう?それとも、嫌いか?」

 その言葉に、ワタシは頷く。

 

 「ええ。酒自体があんまりね。特に熟成させるということに馴染みがないわ。命は戴いたら直ぐに食べるものよ」

 けれど、と魔物素材でふかふかしたものが敷かれた椅子を引き、腰掛ける。

 「あまり好意を無下にする気はないし良いわ、アナタ達の流儀に合わせてあげる。

 これがただ高いものだったら拒否していたけれど、相手の好きなものを出されては断れないものね」

 と言いつつ、樽を見て……

 「これ、どうするのかしら?」

 と、聞いたのだった。

 

 「そうか。酒など呑まんなら知らんか」

 そう言って近付いてきた男に空けて貰い、注がれるのは琥珀色の液。漂うのは甘い香りと、既に分かるアルコール。

 

 「これ、リンゴ?」

 「リンゴの酒だ。ヒヒリンゴではなく赤い奴故に案外安酒だが、素で食べるならばまだしも酒としては此方の方が旨い」

 言いつつ彼は自前のグラスには並々と注ぎ、軽く掲げる。

 

 「ええ、戴くわ」

 そうワタシも合わせて一度掲げて一口、

 「むぐっ!」

 そして、()せた。

 

 「何これ、体が熱い……」

 「ふはは、バカ強い酒だからな」

 と、炎の鞭が器用に運んできたのは氷が満載された金属器。

 「薄めて呑め。味は行けるぞ?」

 「一瞬媚薬か何かかと思ったわよ……」

 と、火照った顔を落ち着けながら、ワタシは呟いた。

 まだ喉が燃えてる気がするわね……強い酒って面白いけれど怖いものね。

 あと、それを煽って素面の皇帝も恐ろしい。

 「その火照りが良いんだろう?」

 

 そして、暫く後

 「さあ、エルフの姫よ。ノア・ミュルクヴィズよ。

 多少歓迎を済ませたところで聞こうか。何しに来た?」

 「そうね。一つ頼みがあって来たの」

 告げられる言葉に、静かに返す。

 「成程、あのバカ息子との婚約か?」

 「ち、が、う、わ、よ!」

 「まあ、だろうな。第一あの阿呆、無駄にアグノエルと婚約しているからな。後ろ楯が欲しくて弱ったところを無理矢理取り付けたと喧伝して」

 少しだけ眉を上げ、グラスを傾けながら皇帝は続ける。

 

 「妹に裏切られ、悪評を更に広められているがな……

 何をやらかしたあの馬鹿」

 「単純に、アナタが無理矢理にした婚約ではなくお兄ちゃんから言い出した婚約なんて、お兄ちゃんを取られそうで嫌だってだけじゃないの?」

 「ガキかあやつ等。

 まだ未成年、しかもアイリスはかなりの箱入り……ガキだな」

 と、額をグラスを持たない手で抑えた皇帝は仕方ないとばかりに自問自答する。

 

 「成程な。

 欲しいのはこれか?」

 そう言って投げ渡されたのは、一つのバッジだった。

 「何よこれ」

 「高等部の教員である証だ」

 その言葉に、ワタシは眼を見開く。

 

 「ワタシが教員として雇って貰えるかしら?と言いに来たなんて良く分かったわね」

 「エルフとの付き合いはそこそこ長くてな。プライドが無駄とも思える程に高く、相手より下になることを良しとしない。

 だが、あの阿呆を見捨てる気はなし」

 にやりと唇がつり上がり、炎の瞳が朱に染まった長耳を射抜く。

 「ならば、便宜的に上を取ろうと教員と言い出すのは自明」


 「よく知ってるわね。その通り。

 ああ、安心してくれる?ちゃんと授業も受け持つわよ。伝説の英雄ティグル・ミュルクヴィズにスープを作って貰い寝物語を直接聞かされた孫娘による歴史講座、悪くないでしょう?」

 「授業としては人外史観の聖女史で良いか?」

 「ええ。人外扱いは……まあ仕方無いことかしら。人間主体な学校だものね」

 その答えに、ならば良しとばかりに男は頷いた。


 「不足はなし。だが、魔法ではないのか」

 「ええ、魔法なんて属性次第。教えられる相手と無理な相手がハッキリ分かれるわ。そんなものよりも、誰でも受けられる歴史の授業の方が価値が高い、違うかしら?」

 「違いない。あの阿呆でも受けられるとなれば、歴史かやはり」

 「いやそれ関係ないわよ」

 呆れたように、ワタシは燃えるような酒を一口氷水で三倍に薄めてから口に流し込んだ。


 ……まだ濃いわね……


 「あと、一つだけ。その態度、止めた方が良いわよ。怖い」

 去る前に、気を良くしたワタシは一つ忠告する。

 「そうか。あの阿呆を焼いてから多少気を付けてはいたが……」

 「っていうか、何で焼いたのよ」

 グラスを置いて半眼で睨む。


 「あの阿呆が沈んでいたので強くなれと言おうと思ったがな。多少高揚するだけの筈の炎で火傷し、それを治そうとしたら呪いで永遠に焼き付いた。

 あれが忌み子の真髄かと、あの時ばかりは頭を抱えたくなったものだ」

 と、珍しく反省するように、皇帝たる男は眼を閉じて呟く。


 「ええ、忌むべき子とは魔神への先祖返り。裏切り者として混沌に呪われた子。

 エルフの中には伝わっていたのだけれど、人間は知らなかったからそうなったのね」

 でも、とワタシは更に疑問を投げる。


 「なら、もっと見てあげなさいよ。あの銀髪取られてたり、アナタ割と酷いわよ。

 勿論、一番駄目なのは灰かぶり自身なのだけれど、フォローくらいしてあげなさいよ。火傷がああして治らないの、アナタのせいでしょう?」

 「子供への接し方など、ロクに知らん」

 「とんだ駄目親父ね。後、ワタシへの態度が」

 「それは正しい。下手に出来るだろうと思う事は反省したが……貴様等エルフは応えられる側だろう」

 「ええ、そうよ?だから、ちょっと言い方をまともにしてくれればそれで良いの」


 言いつつ、席を立つ。

 「何処へ行く?」

 「一旦故郷に帰るわ。人間の中で生活するのにも疲れたのよ。パンツなんてもの履かされるしね」

 そうして、扉を出る寸前……


 「頼んだぞ、ノア先生」

 なんて声が聞こえてきたのだった。

ということで、外見ローティーン実年齢そろそろ3桁、ワンピースタイプの服が好きでぱんつはかない美少女エルフのノア先生誕生です。

ま、だから直ぐ帰ってくる訳ですね。

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