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ノア姫とプライドの別れ(side:ノア・ミュルクヴィズ)

「はい、お仕舞い。解析出来たわよ」

 と、ワタシは預かりものであった黒いマントを目の前の青年に近付いた少年に向けて手渡した。

 本当は必要ないのだけれども、形だけね。

 

 「それにしても、恐ろしいものね、コレ。相当時間が掛かったわ」

 と、ワタシはマントが触れていた手を火魔法で軽く炙って消毒しながら呟く。

 本当に、厄介。ワタシこれでもあのティグルの孫娘なのだけれど。それでしっかりどういうものかを鑑定するのに魔法を使った上で相当掛かるなんてね。

 お陰で、彼はマントを羽織ったまま勝手なことをするし……最近はワタシの知らないし興味も無い筈の桃色少女相手に婚約なんて持ち出していたわね。彼に許可を取って遠見の魔法で見させて貰った……というか、いつの間にか貰ってきていた彼の妹が無断で仕込んだ遠見魔法に許可を得て相乗りさせて貰っただけだけれども。

 だから、残念ながら婚約を切り出した瞬間までしか知らないのよね。あの妹が怒りに任せて向こうの受信用のものを壊してしまったらしく止まってしまったから。

 

 でも、あの桃色少女、やけに気になるのだけれど何故かしらね。ワタシとしては、目の前の灰かぶり(サンドリヨン)、龍姫が見守るあの銀の子、兄の友人の皇帝以外、人間は人間と特別視せずフラットに見るつもりだったのだけれど……

 

 「そんなに……」

 と、彼の言葉に思考を中断。

 「ええ。魔神の魂。死出の左翼。少し語弊があるけれども、アナタを呪っているものと言って差し支えないわね」

 「呪い、か」

 って、火傷痕の少年は少しだけ寂しそうに笑って、腕に掛けたマントを撫でた。

 

 「ええ、呪われてるわね。だから、アナタ以外には使えないし、アナタが認めない限り触れることすら出来ないわ。

 その辺り、第一世代神器に近いわね。アナタの魂に小さく楔として食い込んで、傷と共に紐付けられている」

 と、ワタシも別に魂が見えるわけではないけれど、半眼でそう言葉を紡ぐ。

 

 「第一世代神器は魂と一体化してるものだけれど、これは外付けね」

 「っていうか、神器ってそういうものだったのか……」

 と、何処か納得したようにうんうん頷く少年に、無学ねと微笑む。

 

 まあ、エルフ程の神に近い存在ではないし、寿命的に魂の研究とか進んでなさそうだものね。知らなくても無理はないのだから、無学と下に見るのも本当は可笑しいのだけれど。

 「ええ。だからアナタは異例よ。どれだけ力を貸したくとも、不滅不敗の轟剣(デュランダル)は兄様の盟友シグルドの魂に同じ。魂を他人に貸すことなんて不可能よ、普通」

 「なのに飛んできてくれるんだな。中の帝祖の魂と共に」

 「そうね。己の魂だからこそ、どんな状況からでもその手に在るのだから。異様も異様な状況。でも今の話には関係ないわ。

 このマントも、似たようなものよ。他人に渡せるとか第二世代神器に近い部分もあるけれど、本質は違うわ」

 「つまり、例えばおれがノア姫にこのマントを託したとして……」

 と、マントを持ち上げて少年は拡げる。

 

 「冗談で頼むわ。触れるだけで嫌よ」

 「あくまでも仮にだよ」

 「ええ、お願い。そうね、ワタシが持っていても、何の意味もないわ。これはアナタへの呪い。アナタにしか意味の無いもの」

 「そう、か」

 少年はきゅっとマントを握り締める。

 

 「使い方については簡単に解ったからもう知ってるわよね。というか、妹の見舞いがてら帽子なんて取りに行って、何処かに行っていたものね?」

 気が気で無かったからあんまりやって欲しくはないわねと肩を竦める。

 

 傷が治り次第、彼はまた神器をパクっていたあのレオンという青年と話し合い……彼は騎士団を、そして彼の側仕えを止めて婚約者と故郷に引っ込むことになった。

 大事な人を喪いかけ、恐怖から最強の武器をこっそり奪い……それでも、恐怖に震える彼には、やっぱり戦場は相応しくないものね。

 

 目の前の皇子は原作では戦う筈だからシナリオが……と真性異言(ゼノグラシア)として呟いていたけれど、話を聞く限り、あのメイド娘まで死んだことで復讐心が恐怖を塗り潰したからでしょう?と返したら納得された。

 

 ええ、誇れば良いのよ。アナタは彼等の心すらも護ったのだから。

 

 ……何でワタシ、ここまで面倒見てあげてるのかしらねと疑問にも思うけれど、やりたくてやってるという答えが出るから特に言うことはない。

 

 「それにしても、怪盗ね。

 アナタらしくない随分な物言いだったけど、どうしてあんな言葉を言ったのか、そろそろ教えてくれないかしら?

 言い出すのを待っていたのだけれど、そろそろ期限」

 って、小首を傾げ、小さく少年の服の袖を摘まむ。

 

 「……おれは、奪って、壊して……

 それしか出来ないから。せめて、格好付けた言い方をしただけだ」

 眼に光無く、少年は告げる。

 何時もイカれた光を湛えている割に、感情が抜け落ちたようなその瞳は珍しく曇っていて、何も読み取れない。

 

 「馬鹿馬鹿しい。何を壊したのよ」

 「アナ達の、未来を」

 へぇ、とワタシは内心を隠して唇を釣り上げる。

 

 隠しておいてあげてくれるかしら?とワタシは頼まれて白馬と巡った時に言っておいたのだけれど、何でバレてるのかしらね。人間はこれだから、約束を護らなくて困るわ。

 なんて評価を心中で下げつつ、

 「あら、知ってたのね。あの孤児院が無くなったこと」

 と、仮面のように無表情を張り付けて呟く。


 そうしないと、怒りが顔に出てしまう。

 

 「……ああ」

 「でも、アレはアナタが壊したんじゃないわよ」

 「それでもっ!おれのせいだ。おれが、護るって言って、護り抜かなきゃいけなかったんだ!

 おれは……おれはっ!結局何を与えた?」

 「命と、希望と、時間よ。あの子から聞いたわ」

 受け売りをワタシは語る。

 ここら辺、彼は面倒臭い。失敗はオリハルコンより重く、成功は羽より軽いのだから困りものね。

 

 「今日より悪くなった明日か!何時か吹き消えてより闇を濃くする残酷な希望の光か!中途半端に育っているせいで拾われた先に馴染めないまま孤独に大人になって苦しむための猶予時間か!」

 「そう。そう感じるなら、勝手になさい」

 と、血を吐き出すように絞り出される言葉を、ワタシは軽く受け流す。

 

 分かるもの。これ、ワタシが何を言っても絶対効かないし、下手に慰めると更に自傷が広がるだけ。

 何とか出来るとすれば彼が未来を奪ったって馬鹿言ってる対象である銀の子アナスタシア当人くらいだから、下手に刺激しない。

 

 「それで?そもそもアナタ、話があるんでしょう?」

 と、無理に話の軌道を戻す。

 「ああ、ノア姫」

 って奥歯を強く噛んで何時もの顔に戻りながら、灰かぶりの髪の少年は頷いた。

 

 「今まで有り難う、ノア姫。

 もう、大丈夫だ」

 と、突如切り出されるのは別れの言葉。

 

 「そう。どう考えても、まだまだ異常事態は起きると思うのだけれど?」

 「大丈夫だ。真性異言(ゼノグラシア)の記憶的に……過去に起こる大事は、ここまで」

 と、少年黒いマントを大事そうに羽織る。

 

 「だから、もう大丈夫。何度も大事だからと手を貸して貰って、本当に有り難かった」

 「そう。そろそろアナタの元を離れたいと思っていたから、丁度良かったのだけれど……嘘じゃないわよね?」

 

 「動く気はないだろう。アドラーを倒した。その事実を、ニーラはしっかりと受け取るだろうからな」

 と、突然響く声と共に、少年の影からカラスが顔を見せる。

 

 「テネーブル。今度は言葉を交わしてくれるのか」

 「誰が。アルヴィナの為に、一時滅ぼす翼を休めているだけだ。馴れ合いはない、交わす言葉も本来はない。

 私の全て(アルヴィナ)を、汚似(おに)いちゃんから取り戻す。その先の私は、お前の死だ。馴れ合おうとするな」

 と、馴れ合う気が無いにしては長々と話して、直ぐにカラスは影の中に消えた。

 

 「近付かれるだけで鳥肌立つ魔神王の残りカスも居ることだし、そろそろアナタの横に居たくなかったの。

 魔神は来ない、約束を果たせたというなら、故郷に帰りたいしワタシは去るわ」

 さも終わりと言いたげな感じに見えるように、ワタシは踵を返す。

 

 流石に、彼の話を聞くに学園に行くようだけれども、そこまでのこのこ付いていって、人間の子供に混じるなんて言語道断だものね。

 それを回避するには……そろそろ期限。

 

 「ああ、本当に助かったよ、有り難う。

 ノア姫が居なければ、多くを喪っていたろう」

 と、少年は名残惜しさを見せずに、しっかりと頭を下げる。

 

 引き止めてくれないのね、とワタシは少しだけ息を吐くけれど、止められても残る気は無いし、感謝は感じる。

 

 「送るよ」

 そう言われて、少年と共に砦の部屋を出て、正門前に来ると……

 

 嘶きと共に燃える鬣の白馬がやってきてワタシに鼻先を擦り付ける。

 「……ノア姫、アミュを連れていってやってはくれませんか?

 アミュ、ノア姫を頼むぞ」

 と、ワタシが良く乗ってたのは確かだけれども自分の馬だというのに、彼はそう言って、手綱を手渡してくる。

 

 「ええ、借りさせて貰うわ。故郷の森にも戻りたいしあそこでは不要だけれど、他では足は欲しいもの」

 ……でも、分かってるのかしらね、彼。エルフは借りは返すもの、そしてこの馬は大きな借りということに。

 

 そんなことを思いながら、既に慣れた彼女……アミュグダレーオークスの背に跨がり、軽くその首を撫でる。

 それだけで伝わったのか、白馬は一回だけ己の主を見てから走り出した。

ちなみにですが、こんな事言ってさも別れのようにしてますが、直ぐに戻ってきます。

単純に、ゼノ君の付き人扱いや学園の生徒として70くらい年下の人間と共に学園に放り込まれたくないだけですからね。


生徒でも、生徒の付き人でもなく学園に入るには……?

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