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聖なる腕輪の清少女(side:アステール・セーマ・ガラクシアース)

「ふっふっふー、誰でしょー?」

 って、ステラは小さな七つの像じゃなくておっきな一つの像と水差しが置かれた白い石造りの部屋で、無駄におっきくてムカつく胸の前で手を組んで祈る薄い灰色のヴェールを被った女の子の目を後ろから塞ぐ。

 

 「あ、えっ!?」

 って、その女の子は一瞬戸惑って肩をびくってさせて……

 「アステールさま?」

 って、一瞬で正解に辿り着く。うーん、つまんない。

 

 「うん、ステラだよ?」

 って、けれども正解は正解。ステラはおっきな耳をピン!と立ててから目隠しを外してあげた。

 「アステールさま、どうしたんですか?

 あっ、もっと敬語とか使わなきゃ駄目ですよね、すみません」

 って、膝をちゃんと床に付けたままくるっと振り返ろうとする女の子。

 それに別に立って良いよ?ってステラは怒らない証拠に最近三本目が生えてきた尻尾のうち左右の二本を上下にぱたぱたと振りつつ、右手を出した。

 

 「あ、有り難う御座います」

 って、手を借りて立ち上がった女の子は困ったように笑う。

 「ご免なさい。やっぱり、学がないわたし、敬語とか使うの苦手で……

 しっかりしないとって、分かってるんですけど」

 「おーじさま、自分に敬意を払われないこと、寧ろとーぜんって思ってたもんねー」

 唇に左手の人差し指を触れさせ、困った人だよねと同意を求める。

 

 「シエル様、この方は」

 と、そこで女の子を見守っていた緑の神官服の男の人が困ったようにそう問い掛けてくる。

 「見たところ亜人のようですが……

 シエル様に気軽に触れるなど」

 「わたし、元はただの孤児ですよ?」

 「それにー、ステラはステラだもんねー

 アステール・セーマ、で良いー?」

 って、その子の護衛……を多分勝手に買って出ている神官に向けて、瞳の中の星を見せ付けるように片目でウィンク。

 

 「セーマ、そしてその瞳は……

 失礼しました!ですがシエル様程の方が孤児だなどとご謙遜なされる必要は」

 「うんうん、この子もステラが免罪したんだよ?あんまり邪魔しないでくれるとうれしーな」

 分かるよね?と、ステラは微笑む。

 「すみません。わたしに付き合ってくれてるのは助かるんですけど、アステールさまの為にちょっと席を外してくれませんか?」

 と、多分憧れの子にも言われて、コクコクと頷く緑服の神官。

 「あ、あと……すみませんけど、この水を、熱を訴えてる子供のみんなにお願いします。

 祈って腕輪の力を込めたから、一口飲めばきっと良くなりますから」

 「何と、流行り風邪のために……

 はっ!我らが聖女の御心のままに」

 ってビシッ!として彼は大きな水差しを持って出ていった。

 

 それを見て、聖女なんかじゃないんです……って恥ずかしそうに少女は俯く。

 

 「あー、残酷だよねー」

 って、その背を見送ってステラは呟き、改めてステラより頭1/3くらい(耳は含まないよー?)背丈の低い女の子を見た。

 ゆったりした作りのワンピース状の神官服。それなりに上の地位の人しか着れない可愛さ重視の白いワンピースはあんまり体の線が出ないんだけど、それでもそこそこ開いた胸元にははっきりと二つの大きなお山があるのが分かるし、男の人を惑わせる谷間もちゃんと少し見える。サイズ合ってないからねー、背丈が低いのに胸ばっかりおっきいから想定より押し上げられるって、嫉妬するよねー。

 腰はきゅっと金線の入った蒼いリボンで締められていて、風であんまり大きく捲れないようになってる。ふつー要らないんだけど、胸のせいで締めないとお腹部分がすっかすかで風でめくれたら真っ白いお腹まですぐに見えちゃうんだよね。ステラそういうのズルいと思うなー。

 膝上までのスカートの裾はフリルで二重になっていて、そこだけ水を思わせる薄青く透けた素材。そこから見える太ももはちょっとだけ昔の貧しい食生活の名残を感じさせる細さを持ちつつも健康的で、女の子のステラから見ても眩しい。そんな脚を膝まで覆うのはフリルとリボンで可愛さを加えたニーソックス。他は龍姫の青で統一されているけれど、これだけ個人の趣味で桃色。

 腕には肩が出るワンピースとはセパレートされた袖部分。その袖に隠されているけれど、良く見ると蒼い腕輪が間からちらっと見える。首元にはフリルとリボンでワンピースの大きな胸元露出を抑えられる襟付きタイ。

 そして何より、ステラが初めて会った時から……というよりそれ以前から、かれこれ10年近くずっと付けているらしい、雪の髪留め。おーじさまが選んで皇帝陛下が持ってきた、透き通った結晶製の……今ではたった一つだけ残った思い出だっていう道具。

 それで彩られた顔は、大きく優しげなアイスブルーの瞳に、悔しいけどステラも美少女って認めざるを得ない可愛い系の顔立ち。髪の毛がちょっとした額で売れた頃の名残だけれども気に入っているからと今でも一部を残して切り揃えられた結果の左サイドテールのような髪型は、龍姫様の加護があるんだろうねーって何となく分かるような微かに青みがかった淡い色の銀髪。挿絵(By みてみん) 

 

 「報われない恋って大変だよねー、シエル?」

 「わたしは……」

 って、ぽつりとその少女は返す。

 「でも、仕方ないよねー。秘蔵の子。教国の腕輪の聖女……アナスタシア・アルカンシエルだもんねー」

 ってステラは、目の前で困る、おーじさまにつきまとってた元孤児の子に向けてそう呟いた。

 

 にしても、凄いよねーってステラは耳をぴこぴこさせる。

 ステラもびっくりだけど、あの時免罪符で助けて聖教国に連れてきたら、またたく間に頭角を現して気が付くと聖女って呼ばれて祭り上げられてたんだよね。

 もう驚きってレベルじゃなかったんだけど、考えてみればあの子、流水の腕輪使えるんだからそりゃそうだよねーって納得。

 エルフの秘宝である神器を持ってて、それでとはいえ聖女の力を使えるならそりゃ聖女扱いされるに決まってるよねー

 

 お陰でたった二年で、彼女はかつて孤児だったなんて誰も信じない。今ではお偉いさんであるアルカンシエル家の秘蔵の子だったってカバーストーリーすら与えられてるの。

 本当の出自を覚えてるのは本人とステラくらい。ま、所詮みんなその頃の事知らないしね。

 

 「頑張ってるねー」

 って、ステラは言う。

 「皇子さまに追い付きたいですから。あの人みたいに、出来ることがあれば、わたしだって何とかしてあげたいです」

 って微笑む彼女は、ステラでもキラキラに見えて。うん、男のファンとか胸元のガード緩いし増えるよねー。可愛い服ってだけで本人着てるけど、えっちだし。

 本人は一筋っていうか、完全に一途なんだけどね、ちょっと嫌なことに。

 

 ステラはやさしーから、おーじさまの浮気は許すけど。でも、この子はちょっとねー

 触れれば触れるほど、今は他の男の人には一切見向きもしないっていうのが分かるから困る。浮気はいーけど、本気はやだなーって。

 

 男の人を嫌うわけじゃないんだけど、好きなのはおーじさま一人って、本当に困るよねー。邪険に扱うわけにもいかないし、かといっておーじさまの一番を取られそうでイライラするし……

 神様の力で存在を教えて貰った魔神の子なんかは、一番になる気がないっぽいから良いんだけどね。

 

 ほんと、あの妹並みに危険だよこの子。

 って思いながらも、ステラは口にはしない。

 

 「やめたほーが良いよ?」

 とだけ。

 

 みるみるうちに、その瞳が曇る。

 「だって、七天教に居たら分かるよねー。忌み子、呪われた子、そういったものが……どれだけおぞましい化け物扱いなのか」

 それが困りものだよねーとステラも溜め息を吐く。

 

 「どうして」

 「どーしてもこーしても、神様の与えた奇跡の力である魔法に対して、特別な呪われたはんのーを返すからだよ?そんなの、おぞましい化け物だよねー」

 「でもっ、神様は皇子さまの事を呪ったり嫌ってなんか」

 「しょーこがないよ?

 神々の声を聴けるのがステラ達の特別。ステラ一人で神様の言葉を訴えても、呪われてる事実が導く嘘を覆すのはしょーこ無しでは無理かなー」

 「でもっ!」

 「シエルはアルカンシエルのお家の秘蔵っ子。そんな大事な大事な聖女さまが忌み子となんて、結婚とか」

 冷たく、ステラは事実を言いかけて、

 「……わたしは、皇子さまのお嫁さんになりたいなんて、そこまでは思ってないです。

 ただ、あの人の、いっつも一人で傷だらけになる皇子さまの手を取りたい。側で支えてあげたいだけで、メイドさんでも何でも良いんです」

 ぽつりと大事そうに髪飾りに触れて呟く銀髪娘。

 遮られたけど、結局のところこの思考が一番ステラにとって危険だから無視して言葉を続ける。

 「それどころか、話すことすら歓迎されないよ?」

 

 「それは、アステールさまも」

 「んー?ステラはまだ結局のところ薄汚い獣の血って言われてるからねー」

 って、自慢の耳をぴこぴこと左右に振る。

 

 「この耳と尻尾がステラの穢れ(ほこり)。おとーさんみたいに受け入れてくれる人も多いけど……

 珠傷があるから、ステラはだいじょーぶ。所詮穢れてるって、血筋があんまり大事にされてないからねー」

 ま、とステラはかるく跳ねて少女に背を向ける。

 

 「残念だけど、それでも流石に結婚相手にするともなると、()めろ止めてくれそれだけはあり得ないって()められるんだけどねー」

 全く、分かってないよねーって、ステラは顔だけ微笑(わら)う。

 

 「でも、シエルはそういった傷のない腕輪の聖女さま。下手したら、ステラよりも大事な扱いされる人」

 本当の聖女じゃないけどねーってニコニコ笑う。

 此処で言う聖女は神が選ぶものじゃなくて、教会が勝手に名乗らせてるもの、預言のとは別人なんだけど……

 

 「諦めたほーが楽だよ?」

 「諦めるって……」

 少女の眼が虚ろになる。

 「聖女シエル様を呪われた忌むべき怪物から護るために、みんな頑張るよ?こっちに押し付けられたあの第三皇子とかー本当にみんなが。

 一人で大きな善意に立ち向かうより、いっそ割りきって、おーじさまなんて忘れて恋をした方が人生たのしーよ?みんな好いてくれるって、羨ましー生活になるし。

 それに、おーじさまってけっこー酷いから、きっと報われないよ?」

 「それでもわたしは、アナですっ!只のアナスタシアで……腕輪の聖女シエルなんかじゃないんですっ!

 皇子さまに助けられて命を繋いだ、幸運だった孤児でっ!」

 って、それでも少女はスカートの袖を軽く握って叫ぶ。

 

 「……どれだけ大事でも、罪を購った時にその過去は無かったことにされちゃったんだよ?

 今のシエルは、その子とは別人……って事になってるし」

 それが免罪符。どんな罪でも購うし誰も口出し出来ない代わりに、今までの過去を無くすもの。

 記憶とか消えるわけじゃないけどね。神に仕える人間として生まれ変わったような扱いをされ、過去の事は地位も何もかも無視される。それは、低い地位も高い地位も同じこと。

 

 元々大貴族でも、奴隷でも、免罪符で罪を購われた後は一緒の扱い。その先は、七柱の神様の祝福や実力といったものだけが意味を持つ。

 その中で、この子は神の一柱の龍姫様が直々に目をかけていて神器を与えているって最上級の祝福持ち。だから、こうなるんだよねー

 

 おーじさまの役に立ちたいって頑張れば頑張るほど、おーじさまより遥かに高みに奉り上げられてしまう。本人は一途なのに、どんどんと尊いものを忌み子から護れって善意によって出来た障壁が膨れ上がる。

 

 「わた、しは……」

 って、その何時ものキラキラさが抜け落ちた瞳から光が溢れる。

 「やめてほしーな。

 泣かせたってバレたら、ステラでも怒られちゃうんだよ?」

 教皇の娘でも問題視されるなんて扱い相当だよねーって苦笑して、ステラはハンカチでその溢れる涙を拭った。

 

 「でもだいじょーぶ!」

 って、今回此処に来た目的の為にステラは尻尾をくゆらせて叫んだ。

 「アステールさま?」

 「ほんとーはステラもりゅーがくしたかったんだけど、それは止められちゃったんだよねー

 でも、ほら。おーじさまのおとーさんから、絶対に貴様が持ってったあの銀髪娘を帝国の学園に来させろ、ってお手紙貰っちゃってねー」

 困った人だよねーって尻尾が恐怖で丸まる。

 

 「出来なければ(コン)畜生として狐鍋って、お姫さまに対する言葉じゃないよねー

 でも、ステラ狐鍋はやだから、頑張ってがっこー通えるようにするよ?」

 「がっ、こう?」

 「そーだよ?おーじさまが妹のために暫く通ってた初等部の上、皇立帝国学園こーとーぶ」

 「……でも、」

 って沈んだ顔のままのアナスタシアに、ステラはしょーがないなーってその胸に軽く指を埋めて沈む意識を逸らしつつ告げた。

 まだ育ってる途中だけど早くステラも欲しいなーって、一足先にアピール始めたマシュマロに恨みを込めてちょっと強く。

 

 「きゃっ!?アステールさま!?」

 「おーじさまは絶対に来るよ。

 だって……あそこに居ないと世界を護れないしね?」

何度か読者の皆様はキャラ紹介で見たとは思いますが、此処からアナ→アナスタシア・アルカンシエルに名義が変更され、姿が少女期である此方(イラスト:mimabi@4649様)に変わります。

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