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桃色少女と未来の話(side:リリーナ・アグノエル)

「ゼノ君、私はゼノ君を信じるよ。

 だってゼノ君は、私が知ってるそのままのゼノ君だし、お兄にスノウってメイドが付いてたのは私も覚えてるもん」

 魔神を従えてーって言うけど、それが本当は嘘なら私の記憶と違うもんね。

 

 そっかー、雪って名前は銀髪ならそれなりにあっても可笑しくないなーって思ったけど、魔神の名前でもあるんだ。私不勉強だったかなー。

 でも、ゲームの事を忘れないように反復したりノートに書いたりしてたから、結構それに時間取られてゲームでは出てこなかった事は学んでないんだよね。

 ま、どうせ学校行くし?って思ってたんだけど……ダメだったかな?

 

 そんなこんなでニコッと笑って私は言うんだけど、何処かゼノ君は浮かない顔。

 「そう、か」

 「どうしたのゼノ君?」

 「おれは、君の兄を、家族を殺したんだぞ?そんな軽くて良いのか?」

 左拳を握り締めて、少年は問い掛ける。右手は……今もずっと、皇族だからとあらゆる場所で帯刀する権利を行使して持ち込んだ月花迅雷の柄に掛かったまま。

 

 「おれは……」

 あ、そっか。ゼノ君って妹と仲良いもんね。妹側だけちょっとインモラル入ってそうなくらいに。やっぱり兄妹仲を裂いたこと、無駄に気にしてるのかな。

 「ん?気にしてないよ?私って、お兄お兄ばっかりで家庭内でも割と浮いてて、良い思い出全然無かったし」

 寧ろ、粘っこい視線が怖かったんだよーってぱたぱたと手を振る。

 

 いや、私だってちょっと男の人怖い事もあるけど、好かれたいよ?だから乙女ゲームをプレイしてたんだし。

 でも、ああいった性欲にまみれたのは背筋が凍るからやなんだよね。兄の癖に妹を性の対象として見てそうなお兄、正直留学してくれて助かったーってずっと思ってたもん。

 

 暫くして、何か息を吐いてゼノ君は右手を刀の柄から退けて、私に笑いかけた。

 「分かった、君を信じよう、アグノエル嬢」

 「リリーナ」

 「ああ、君がそれで良いならば。

 すまなかったリリーナ嬢。怖かったろう?」

 そう言われて、ゼノ君の瞳とそしてその刀に手を掛けた気配に、攻略対象が目の前に居るのに食い付くどころか少しだけ椅子を引いていた事に漸く気が付く。

 そそくさと椅子を直す私に、ゼノ君は優しく笑ってくれる。

 

 「すまなかった。けれども……円卓の(ラウンズ)と名乗る以上、彼等は決して一人じゃない。君がもしも兄と同じくその一員であり、だから彼に何もされなかったのだとしたら、そう考えると、つい身構えてしまっていた」

 困ったように目尻を下げて、彼は胸ポケットから小さな布を差し出す。

 「女の子に向けて睨み付けるなんて、皇族失格も良いところなのにな。

 本当にすまない。これで汗を拭いてくれ」

 

 その白い布で私はいつの間にか出ていた汗を拭う。

 わっ!凄い量!気が付かなかったよー。

 でも、仕方ないよね。お兄が悪者だったなら、その妹で転生者だってゼノ君に言っちゃってた私は?って警戒されるのも当然だよ。

 寧ろ、怯えているって私ですら無意識だった事に気が付いて警戒を解いてくれるだけ優しい……って言いたいんだけど、好感度がフラット過ぎて結構感情が分かりにくいんだよねゼノ君。

 本当に警戒してないのか、表面上なのか、私の眼でも全く分かんない。周りに見えてる数値も-20と0とって前と変わらないしね。

 

 「それで……真性異言(ゼノグラシア)な君の言う未来を聞かせてくれないか?」

 姿勢を正し、真剣な眼で見詰めてくるゼノ君。

 やっぱり、ちょっと火傷痕があってもイケメンだよね、流石攻略対象。

 「うん。ちょっと骨董無形かもしれないけど、後一年ちょっと後には魔神が封印から蘇るんだ」

 「知ってる。というか、激突したこともあるし、既にルー姐やおれ、後はシルヴェール兄さんは本格的な復活に備えて動いてる」

 はやっ!?手が早いよゼノ君!ってか、そんな事になってたの!?

 

 「そんな中、ほぼ一年後かな。私が聖女に選ばれるの!」 

 どう!すごいでしょ!と喜色満面、ニッコニコで私は言う。

 ゼノ君もこれにはびっくりだよね、少しだけ目を見開いて反応してくれる。

 

 「聖女、君が……か。

 いや、すまない。聖女の預言はあったが、もっと高位の貴族の可能性を考えていた。ただ……七大天の女神が選ぶもの、常識で考えても仕方ないのか……」

 ちなみに、候補としてはゼノ君に付きまとってたあのアナスタシア・アルカンシエルもそうなんだけどそれは言わない。私に不利だしね!

 それに、聖女候補が複数とかゼノ君を混乱させちゃうし……

 

 いや、言った方が良いのかな?あの銀髪、絶対にゼノ君大好きっ子でしょ?狂信者とかリアルティアとか頭アナスタシアとか言われてたのと同類の……って、当人なんだから頭アナスタシアは当然なんだけど。

 彼女の幸せまで考えたら、ここで教えてあげた方が……ってちょっと思うけど、やっぱり止めておこうかな。

 ほら、転生ものの小説であるじゃん?二人は原作ではくっつく運命なの!って言われた二人が妙に意識して逆にうまく行かないとか。

 って、ゼノ君は絶対に私をストーカーして傷付けたりしないし好き寄りのキャラだから、取られたくないなーって気持ちもちょっとあるけど。

 

 でも、そもそも私が目指したい逆ハーレムルートって、大団円というかみんなちょっとずつ見せ場があるおまけルートって感じで、突入条件も確か攻略対象全員との絆支援値がC、が必須。B以上のキャラが居たら駄目なんだよね。

 それを考えたら……

 

 いやでも、ゼノ君ルートって原作では無いけどさ?目の前に居て婚約してって凄い状態だよ?わざわざそれを潰す必要なくない?

 

 なんて目を白黒させていると、ゼノ君は大丈夫か?とお茶をポットから自分で注いで出してくれる。

 結構注ぐの上手い。

 「あ、ごめん、考え事で……」

 「異世界の記憶を話すんだから、そうもなるかな。

 少しずつで良いよ」

 「うん、大丈夫」

 一口ゼノ君が用意してくれた(って言っても元々はフランが置いててくれたものだけどね)お茶を一口。ハーブティのすーっとした香りが鼻に効いて、意識を切り替えた私はくすっと笑ってから話を続ける。

 

 「その中で、聖女である私は学園で多くの人と出会って恋をして……そうして、そんな人達と共に、聖女として魔神王に挑むことになるんだ」

 要約するとこうだよね?

 それに頷いて、ゼノ君は更に問い掛けてくる。

 

 「恋をする、か。不躾な質問にはなるけれど、その相手は?」

 じっと見据える眼。何を思ってるんだろう……って、その相手が転生者で敵である可能性を見極めようとか、きっとそんな感じなんだろうけどね?少なくとも、その相手への嫉妬とか全く無い。婚約者って何だっけ?

 

 ここで

 「ゼノ君!」

 って叫んでみたいんだけど……あっ!

 

 「……おれ?」

 あ、スッゴく面食らった顔してる!レア!スチルよりもレアだよこれ!

 でも、ゼノ君って恋愛とか滅茶苦茶硬いからね。みるみるうちに疑うような目になる。

 「ごめん半分嘘。誰かがゼノ君と仲良くなる話があったのは覚えてるんだけど、相手が私だったか曖昧なんだよねー」

 って慌ててフォローする私。実は覚えてるんだけどね、相手は私じゃなくてアナスタシアって。

 でもちょっとくらい良いよね?ゼノ君ルートがあることは本当だし。

 

 「本当か?そんな気はしないんだが……」

 って言いながらも何となく分かってくれたっぽいゼノ君にふぅ、と息を吐いて、私は続けた。

 

 「ゼノ君は皇子だから多分分かるかな?

 まずは、シルヴェール様」

 「第二皇子で、教師やってるね」

 「次に、ガイスト君」

 「ガルゲニア公爵の息子。アイリスの友人」

 そうなんだよね。ガルゲニア公爵家って本来ならもう崩壊してそうなんだけどそんな気配全然無いの。どこかで惨劇が起きてガイスト君以外が全員……あれ?名前は何だっけ?

 兎に角、お兄さんに殺されちゃうんだよね。その筈なのに、お兄さんは何処かに行方を眩ましちゃうし、惨劇は全然起きてなくて。

 

 「あれ?ひょっとしてだけど、ガイスト君のお兄さんはまさか」

 「真性異言(ゼノグラシア)の一人だ。ルートヴィヒ……君のお兄さんと共に、星壊紋を撒いているところに遭遇した」

 「殺しちゃったの!?」

 「いや、逃げられた。相応の手傷は負わせたものの……リリーナ嬢も気を付けてくれ」

 だからガイスト君って原作より厨二台詞言うときに余裕があるんだねー。

 

 ってあれ?これ私ガイスト君攻略するの無理じゃない?勝手にゼノ君達が心の傷を未然に防いじゃってるんだけど?

 まっいっか。家族と使用人達を全員殺されるなんて悲劇、ないほうが勿論良いよね!

 シナリオが変わるのは不安だけど、そもそも死にかけるけど助かるとかそんなんじゃなくて、虐殺が起きたって重い過去だもん……うん、仕方ないよ。

 

 「後は、エッケハルト君」

 「辺境伯の息子で、最近聖教国から目を付けられてる」

 「え?そうなの?」

 「とある場所で、初等部に留学していた枢機卿の娘と縁が出来たらしい」

 ……うーん、厳しい!

 「頼勇様……は、分かんないかさすがに」

 なのに、ゼノ君はいや?と首を横に。

 

 「竪神、頼勇。倭克の出だろ?

 彼が手を貸してくれなければ、おれはルートヴィヒを止められてない。恩人だ」

 嘘!頼勇様来てたの!?

 会えたら良かったのに……

 「君が来てくれた劇も鑑賞してたらしい」

 「え!?うっそ!?」

 ニアミスしてたの!?ざ、残念……

 

 なんて思いつつ、ここで止めておく。

 全員覚えてるっちゃ覚えてるんだけどね。シナリオが曖昧なキャラも居るし、ちょっと私的にはあまり深入りしたくないのも居るし……

 「私が覚えてる相手はこれくらいかな。

 あと、ゼノ君もそうだったかもしれないってくらい」

 その言葉に、反芻するように彼はなにかを考えて目を閉じる。

 

 「っていうか、ゼノ君」

 「大丈夫。おれが、君を学園に通わせる。君の知る未来のために、幾らでも協力する」

 「そもそも、私……学園に行って良いの?」

 って、不安になって私は聞く。

 

 だって、ゲームでは恋愛する場所が必要だから学園に行くけどさ。現実だよ?

 聖女なのに、のんびり青春して良いの?変な転生者も居るのに?

 「良いんだ、リリーナ嬢。

 そもそも、本来君のような女の子に、聖女だとしても戦わせるのが間違ってる」

 って、彼は原作でも言いそうな持論を語る。

 

 「本来は、おれが……おれ達が、何とかすべきなんだ。

 有事に民を護るからこそ、皇族なんて名乗って人々の上に居るんだろう。相手が魔神王だろうが何だろうが。それが出来なくて何が皇族か」

 でも、と自身の愛刀に目を向けて、彼は呟く。

 「それが出来ないから、君達の手を借りなければならない相手だから。

 聖女の預言があり、七大天が聖女を選ぶということは、彼女無くしては何ともならない敵だって事だから」

 すっと眼を上げて、彼は片眼で私を見る。

 

 「君の言う未来が本当ならば、円卓の(セイヴァー・オブ)救世主(・ラウンズ)にも魔神にも邪魔はさせない。

 これ自体酷いことだけれども、せめて。この世界を好きになって、大事な人が出来て、心からこの世界を護りたいと思えるように思春期の大事な時間を皆に。

 それが、ルー姐とおれと、アイリスの誓いだ」

 うん。これ乙女ゲームなら攻略対象確定の台詞じゃないかな!?

 ゼノ君ってば、女の子泣かせるの上手くない?

 

 「でも、確定じゃないけれど、君が聖女で貴族で良かった」

 「そうなの?」

 ふと漏らす少年に首をかしげる。

 「貴族はまだそれなりに領民を護る義務を持つ。

 だが、万が一平民だったら、おれはどんな面をしておれ達に護られるべき民に向けて『聖女だから戦え』と言えば良いのかと」

 

 え?その面だよ?

 

 無駄にシリアスそうなゼノ君に向けて、私は心のなかで突っ込んでいた。

 ゼノ君が頼めば絶対に喜んで戦ってくれるよあの子。

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