好機、或いは停滞
そんなこんなで、二日が過ぎたその日。
唐突にチャンスは訪れた。
つまりは何時もの話で庭園会に顔を出さされた訳だ。
腕がーとか言い訳してサボっていたりはしたが、正式な婚約発表を兼ねてアラン=フルニエ商会が主催するソレには流石に顔を出さないという選択肢は無かった。
自分は皇族と繋がりを持ったのだ、忌み子だけどという発表。忌み子を押し付けられたという見方は当然多発するが、それでも父皇におれはしっかり馬鹿息子として認知されている。
おれ個人は兎も角、おれを通して皇帝と繋がりがあるというのは忌み子を引き受けたと明かすマイナスを補って余りある強みだ。
その中に、居たのである。リリーナとリリーナが。
どちらの家もあまり高位貴族ではない為繋がりあって呼ばれてたりしないかなーと思ったのだが、まさか両方呼ばれているとは。
但し、婚約を決めたその時には招待状は出している。エッケハルトと秘密を共有してある意味盟友となったのはその後だ。
よって縁がないのでエッケハルトは来ていないし、レオンもプリシラとお留守番。よってぼっちである。頼れる者は一人として居ない。
師匠?おれの刀受け取りに行った際に一度戻ってきてくれと言われて今日西に帰った。一昨日の修練で色々と聞いてきたのは、暫く離れるから馬鹿弟子をからかっておくかとかそんな感じだったのだろう。
此方に次に来るのは4月後、つまりは半年後だ。
親父?来るわけ無いだろ皇帝が来るなら主催はおれにされる。一応商家より忌み子でも皇族の方が格式上だから。
なので、主賓に近いのだが割と肩身が狭い。始まるや否や最初に用意された俺の横の椅子に留まることはなくささっと友人だろう皆の中に混じっていったニコレットは明らかに不満そうだし……
少しは隠してくれそれを。だからか、周囲の招待された貴族……特に当主等の目は生暖かい。厄介な忌み子押し付けられてやがるという奴だろう余計なお世話だ。
そんな中、主賓だし席を立つのも……特に婚約者ではなく別の同じ年頃の少女に声をかけるわけにもいかないとチャンスなのに手持ち無沙汰であったおれに、近づいてくる影があった。
どちらが主人公になるのか確かめるために話しかける?
愛人でも作ろうとしていたとか変な噂立てられるのがオチだ。知らなかったで済まされるのは皇族では5歳になるまでだ。下手な動きは出来ない。
……アレである。下手に席を立てないということは、向こうのテーブルに用意されている料理などにも手を付けられないという話である。レオンが居れば取ってきてで済むのだが、今日は居ない。
「……あ、」
それを見かねたのだろうか。大きくはない皿に小盛り、ちょっと物足りないながらも無難なチョイスの食べ物を皿に載せて。一人の少女が言葉を掛けてきた。
……リリーナ(黒)だった。
「……君は?」
けれども、まずはそこから。
おれはゲーム知識から相手が何者か大体知っていても、第七皇子ゼノは彼女の事を知らないはずだ。
記憶を辿っても、こんな少女と出会った記憶なんて無い。というか殆ど妹のアイリスの記憶と、頑張らないとという勉強及び剣の鍛練しか記憶に無い。
「り、リリーナ。リリーナ=アルヴィナ」
「ああ、アルヴィナ男爵の」
と、ひきつった火傷顔で笑いかける。
姓で判別出来れば楽なのだが……実際問題、本編では主人公の姓は特に出ない。
親もほぼ出てこない。なので何とも言えないのが困りものだ。
「それは?」
「あ、あの……なにも、食べて、らっしゃらなかった?……ので」
びくびくおどおど。
ちょっと震えながらの対応は……何というか、初対面のアナっぽい。まあ、顔が顔だけに仕方ないか。
というか、慣れてないのか口調もどこか変。
「うん、有り難うアルヴィナ男爵令嬢」
リリーナ、とは呼ばない。姓で異性を呼ぶのはそれなりに親しい間柄だけだ。リリーナだと二人居るというのもまあそうだが。
礼を言って、右手で皿を受け取る。手を使って食べるもの、特に零れにくい片手でつまめそうなものばかりだ。
「……良いセンスだ、有り難う」
恐らくは片腕が使えないことを考慮してくれたのだろうから、そう更に重ねて礼。
それに割り込むように、ピンク髪が目の前に現れた。