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風呂、或いはエルフ襲来

「……ふぅ」

 そう広くはない湯船に浸かり、息を吐く。

 用意してくれたスープを食べ終わるや、湧かしてるわよとノア姫があっけらかんと言い、そのまま汗臭いと風呂に放り込まれた。

 

 「やっぱり臭いか……」

 遺跡に閉じ込められてた際は始水が神様の化身舐めないで下さいと毎日お湯をくれたのでそれで体を拭いていたんだが、それはそれとしてしっかりとした風呂は久し振りだ。感覚的には大体50日ぶり。

 自分では匂いに気が付かないが、眉を潜めていた辺り相当臭かったんだろう。

 アウィルはそういうのに敏感で、孤児院で周囲の皆が泥だらけで遊ぶことが多かったアナはその辺りあんまり気にしませんよ?と言っていたっけ。自分は綺麗好きだけど人の匂いには頓着しないというか。アイリスは徹底して自分も周囲も良い香りで埋めるけど。

 

 砦には当然騎士団の皆のための大浴場(男湯)があるものの、今のおれは入浴拒否確実。傷はまだ治ってないし、下手したら血で汚れるなんて他の人が嫌がるだろう。

 ということで、今居るのは「必要でしょ?」とここ二年で空き部屋に新しく作られた女風呂なのである。

 利用者はそもそも女性がノア姫とプリシラと女兵士が2人で合計4人しか居ない。だからまあ、おれが使っても女性陣の風呂の邪魔にはまずならないが……良いのか男を入れて。

 駄目だと思うんだがなぁなんて思いつつ、ちゃんと洗うまで外には出さないわよとノア姫は宣言したので居心地悪くとも逃げるわけにも行かず、入れて二人のそう広くない湯船に沈む。

 お湯の温度はかなり熱い。46度前後か?ノア姫の好みがこのくらいなんだろう。

 

 「湯が無駄に汚れるでしょう、まずは洗ってくれる?」

 「ああ、御免ノアひ……」

 かけられる声に普段通り反応しようとして……

 咄嗟に目を背けて壁を見つめる。

 

 「ノア姫!?」

 「何かしら」

 気にしていないように少女は……風呂場へと入ってくる。

 いや駄目だろう色々と。 

 

 「いや、風呂入ってるんだけど」

 「知ってるわよ。ワタシが言っておいて入ってないなんて思わないわ」

 「いや、さ……」

 何て言うべきか、少しゆだった頭で考えて……

 「不味いだろ色々と」

 結局曖昧な事しか言えない。

 

 「ああ、そういうこと。大丈夫よ」

 そう言われて、ふと思う。

 確かプリシラは水着とか持ってた筈だ。ビキニタイプでパレオ突きのもの。この辺りに泳げるような深さの川は無いし何のために買ったんだよこれと思いつつ、備品とごり押されたので経費としておれが払ったのを覚えているし、それでも借りてきたのだろうか。

 ちなみに1.2ディンギル。日本円換算で1万越えるとか女物の水着って高いんだな……

 

 そう思って振り向いて、

 「がぶぁっ!」

 思いっきり湯船に頭を突っ込んで退避。

 見えたのはほぼミルク色の肌一色。確か鮮やかな赤だった水着っぽい色はどこにもなく、なだらかでちょっと蠱惑的な曲線のみが輪郭で見えて……

 その先は見てないし見ちゃいけない。認識する前に、振り払うために湯船の中で頭を振り、少女からそっぽをむいて浮かび上がる。

 

 「けほっ」

 苦しくはないが、いきなり準備なく顔を水に叩きつけたので少しだけ水が喉に入って咳き込む。

 

 「何やってるのよ」

 なんて、呆れた声が背後から来るが振り向くことは出来ない。

 「いや、普通の反応だろ」

 「普通かしら。見たくもない程に評価されないとは、アナタ相当な歳上好きなの?

 確かに胸はあまり無いから、ワタシを見てもそんな反応になるかも知れないけれど」

 「いや、そもそも水着辺りを着てても見るのはさぁってなるのに、どうしたんだよノア姫!?」

 「だから言ってるじゃない」

 羞恥の欠片もなく、顔は見えないが少女は多分当然のような顔で語っているのだろう。

 

 「別に、見られて恥ずかしいような体型はしてないわよワタシ」

 ……うん。それは知ってる。

 「いや、ノア姫は綺麗だと思うし、そこは分かるんだけど」

 「だから良いのよ」

 「それはそれとして見られたら恥ずかしいとか」

 「相手は人間でしょう?見られたからって、相手が届かない夢を見るだけよ。

 恥ずかしい体じゃないもの、見たいなら見なさいよ。どうせ手を触れられるものでもないのだから」

 それで良いのかエルフ……と思うが、そういえば彼女等は下着を着けない種族だった。

 いや、考えればゴブリン種も腰巻き一丁の成人男性とか多いし、獣人種にも尻尾の邪魔とパンツ拒否者が居るらしいし、パンツを履く人間が可笑しいのだろうか。

 

 「いやそれでもさ!?」

 それはそれとして、目に毒なので目線は合わせられない。

 「なら何で何時もは服着てるんだって」

 「外では森を歩く際に木々の枝や葉からある程度身を護れるから便利なのよ。それとも、脱いで欲しいの?変態ね」

 「着ててくださいお願いします」

 

 「兎に角。足折れてて腕がそれで」

 と、エルフの少女は男だ何だを気にせず更に近付いてくる。

 「まともに体を洗えないでしょう?

 手伝ってあげるわよ」

 「い、いや自分で何とか……」

 何度かこうしてボロボロになった事はあるが、女の子に手伝って貰ったことはほぼ無い。

 恥ずかしくて死にそうだったです……と意識がない時に血塗れの服を何とか脱がしたことを後でアナから聞いたのと、アステールに薬湯に放り込まれたくらいか。

 どちらも意識が朦朧としていて、相手の女の子をそこまで意識していなかったから耐えられた訳で。はっきりした意識で触れられるとちょっと気恥ずかしさに耐えられないというか。

 

 ぴとりと触れられる感覚。湯で上気した肌に冷たく思える人肌の温度。

 

 「御免なさい。案外効くわねこれ」

 と、少し紅くした頬で少女は呟いて……少しして、体にタオルを巻いて戻ってきた。

 うん、これなら大丈夫だ。ちょっと肩が出てるしスカート丈よりもタオルの端が短いけれど、そこまで露出は何時もと変わらないし耐えられるな。

 

 そしてエルフの姫は、漸くおれと顔を合わせて、

 「それにしても、本当に生真面目ね。欲望とか無いの?」

 なんて言ったのだった。

 

 「……背中酷いわね。彼相手にこんな燃やされたの?」

 つーっと柔らかな濡れミニタオルに泡立った薬品を纏わせて、エルフ少女の腕がおれの背中を優しく擦る。

 「いや、自分で加速のために爆発を受けたからそのせい」

 「捨て身ね。そんなことしなくても勝てるように頑張りなさい。

 それが出来ないなら他人を頼ること。一人で傷だらけになって勝つことに、皆で無傷で勝つこと以上の価値を用意なんて出来ないの」

 「分かってる」

 どこか、少女に触れられるのは恥ずかしくて、早く切り上げようとおれは頷く。

 

 「……ところで、なのだけれど」

 と、少ししたところでなおも背中をしっかりと手で洗う中、少女が呟いた。

 「どうしたんだノア姫?

 恥ずかしいから早く終わって欲しいんだけど」

 「我慢なさい。

 あの借用書は何かしら?」

 「レオンがプリシラの指を治すために備品の七天の息吹を使って買い直したからその請求書というか借用書だと思う。

 おれもレオンも10000ディンギルなんて持ってないからさ、借りなきゃ払えない」

 「それ、彼の借金でしょう?」

 呆れたのか、少女の手が強く背を擦る。痛くはないが、爪でも立てられている気分。

 「その筈なんだけど、ほら。

 彼等の生活の保証って本来雇い主のおれがやるものでさ。保険って奴。

 その保険的におれが払うことになったんじゃないか?」

 「ふざけてるわね。

 でも、彼等を腐らせてるのはアナタの態度。ワタシはもう、何も言わないわ。

 というか、彼女死んだんじゃなかったのかしら」

 ちょっと不思議そうな少女に、おれは苦笑しながら、そして背中を擦られながら答えようとして……

 柔らかな手の感覚が消える。

 

 「はい、おしまい。

 前は自分で洗ってくれる?案外気になるものだったから」

 「ああ、っていうか、恥ずかしいならおれ一人で」

 「背中、自分で洗えないでしょう今のアナタ。無理にタオルで洗おうとして加減を間違えたら皮捲れて酷い事になるわよ」

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