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ノア姫と鳥団子(side:ノア・ミュルクヴィズ)

注意:今回の話は某エルフが滅茶苦茶上機嫌にガバガバ料理で鳥団子のトマトコンソメスープを作ってるだけの回です。

「あ、ノア様!」

 と、声をかけてくるのは何時もの少年兵。

 「ノア様は今から何処に行くのですか?」

 

 「何かしら、用でもあるの?」

 「はい、ノア様もお疲れだと思うので、一緒に食堂でご飯を……」

 「要らないわ。施しを受ける気は残念ながら無いの」

 「施しだなんて」

 と、ぱたぱたと手を振る少年。その髪の色は金に近いけれど魔力は感じない。魔力によって染まったのではなく地毛のようだ。

 

 「施しよ。ワタシは別に、この砦で勤務してないもの。

 部外者に無償で炊き出しするような、あの灰かぶり(サンドリヨン)の意志を受け継いだ馬鹿じゃないでしょうアナタ達は」

 だから、何かして欲しいからというのが見え見え。

 

 それを受けてあげる気は、一切無い。幾ら単なる自業自得であっても、それが正しいかどうかと納得するかどうかは別の話。正直なところ、絆されてあげるつもりはない。

 だから、施しなど受けない。あの灰かぶり相手なら、一つ借りにしておくわとでも言ってあげても良いのだけれど。彼への態度からして、此処の人間に協力なんて御免。

 

 というか、何で謎のマントが残ってるかは知らないけれど、そもそもどうしてあの神器が枕元に無いのかしらね。

 必要な事態が起こってる訳でも無いでしょうに、他人が持ち出してるなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

 「でも……」

 「というか、ごめんなさい。

 例えそうじゃなくても、食事を取る気にはなれないの」

 と、ワタシは魔法……火属性の陽炎で隠しておいた、此処に戻る際に仕留めておいた一羽の猛禽の姿をすっと現して示す。

 「ワタシの用事は今から厨房を借りて、これを調理すること。自分達が食べるための料理を作る前に他のものなんて食べられないわ」

 「そ、そうなんですね……」

 と、少年兵は少しだけもじもじとする。

 

 何かしらね、これ。

 「それ、どんな」

 「何、欲しいのかしら」

 「え?良いんですか!?」

 と、目を輝かせる少年。

 

 ……あげるとは一言も言ってないのだけれども。

 でも、まあ……彼と二人分には少し大きいもの、別に良いかしら。どうせ、人間に借りを作らないために代価として少し分ける前提だったのだしね。

 

 そう思って、ワタシは小さくうなずきを返した。

 「ええ、分かったわ。そんなに欲しいなら少し分けてあげる。その代わり、厨房を借りる際の便宜を図ってくれる?

 ま、口添えだけで良いわよ、許可を出させるだけの権力なんて求めてないから」

 

 こうして、厨房を借りたワタシは……

 「穴の空く程見られても困るわよ。

 あと、見飽きたら何処かへ行ってくれる?一応これでも秘伝の料理、他人に見せる気にはなれないの」

 これを着けて!と強弁されたエプロンなる余計な布を身に付けて厨房に立っていた。

 

 汚れを防ぐらしいけれど、魔法で後で流せば良くないかしら?そんなものの為にこんな余計な布を着なきゃいけないなんて、人間も大変ね。

 いえ、まあ、下着なんて余計極まるものを身に付けてるのだもの、今更なのだけれど。

 

 それにしても、短めスカートのワンピースとあまり好きではない桃色エプロンなんて、そんなの楽しいのかしらね。ワタシからしてみれば単なる邪魔なのだけれど。

 

 「あ、あの……見てて、良いですか?」

 「駄目よ。別に妄想するなら止めないけれど、邪魔は邪魔。外に行ってくれる?」

 これでも90歳は越えてるから、流石にその視線に下心……淫らな欲が混じっている事くらいは分かる。

 それは別にどうでも良い。高貴なエルフ相手に夢想するくらい、お姫様との身分違いの恋を夢見るのと同じこと。釣り合わない、叶わないからこそ好きにすれば良い。どんな視線を向けられても正直なところ、どうせ夢のままなのだから勝手にすれば良いわ。

 

 だから……ベッドにでも行って一人で慰めててくれる?

 

 そんな風に気を散らしながら、ワタシは血を集めるためにボウルを用意し、天井から足を括って吊るした猛禽の首を跳ねる。

 既に硬直してきた鳥の体から流れるのはちょろちょろとした血。心臓が既に止まっているのだから、噴出という勢いは無い。

 それでは血抜きに困るから、ワタシは魔法書片手に、私物の石を磨いた包丁を置いて心臓がある辺りに右手を当てる。

 そして、魔法を小さく唱えると……炎によって活力を与えられた既に役目を終えた心臓に火が灯る。

 けれど、心臓だけが動いても生きてはいないし、首を切り落としているから全身を巡る血はどんどんと首から流出し、ボウルに溜まっていく。

 

 「さて、血抜きは終わりね」

 血抜き用に数百年前から使われている魔法を信用して、血はソースにでも……と思ってから気が付く。

 「馬鹿馬鹿しい。病人に食べさせるのに血のソースを使ったテリーヌ?思慮足りなさすぎでしょうワタシ」

 肉をしっかりと焼いて血をベースにしたソースを掛けた家庭料理を出そうとしていた馬鹿に、ワタシは自分で突っ込む。

 

 「でも、無駄には出来ないわね、これ」

 自給自足のエルフとして、狩ったものをあまり粗末にするのは御法度。だからこそ、血すら美味しく食べられるのが本来のエルフ料理といえるのだけれど……

 

 「ルビージェリーにでもしようかしら。失敗したら一人で食べれば良いし」

 血の活用法を考えつき、火属性魔法を熱を奪う方向で活用する事で冷却できる魔法の箱を魔力で起動。ボウル一杯の血をとりあえず最後にゼリーにするために冷やして保存しておく。

 

 「なら、そうね……」

 思い出すのは、昔……ワタシ自身が彼くらいに実年齢が幼かった頃に、体調を崩したワタシの為に祖父ティグルが作ってくれたもの。

 「肉は団子にして、スープにしましょうか」

 

 皮は魔法で皮下を炙って浮かせて一気に剥ぎ取る。翼などはゴブリンにあげてしまったのでもう無い。

 羽毛はなにかに使えるかもしれないけれど、無駄も少しはしょうがないわね。

 

 「骨はまあ、スープの味が出せるし分けておきましょうか」

 人間の王都で見かけた丸鳥……の内蔵入り猛禽版になったそれに、自作の石包丁ですっと切れ目を入れていく。

 そして、まずは腹を裂いて内臓を取り出す。昔はうえっ……となったものだけれども、20年もした頃には完全に感触にも慣れた。

 内臓は後で油で揚げて酒のつまみ、貸し一つよと売り付けてやろうかしら。

 

 「水魔法が使えれば楽なんだけれどもね」

 独り言を言いつつ、内臓の無くなった鳥を洗う。

 空飛ぶ為に、大きさの割には全体的に軽い。骨も軽量化されているし、肉も案外細身。梟なんてモコモコの毛の下はガリッガリという体型ではない人喰鷹……というか体格的に人間は無理でゴブリン喰鷹だけれど、子供くらいの大きさのゴブリンを狙う程の大きさしてる割に、可食部は多くはない。

 大概は羽毛だし、引き締まった翼の筋肉は……まあ固いとはいえ美味しいのだけれどもゴブリンにあげてしまったから、残る肉は割と貧相な胴と強靭な足。それでも二人分より多くは取れる。

 

 そうして包丁で入れておいた線を元に手で肉を裂いていく。

 ぶつ切りにしても良いのだけれども、こうして力をかけてやれば、肉質の違いや骨の継ぎ目……つまり軟骨部から結構さくっと部位ごとに分けられる。

 まあ、結局どうせ大体は挽き肉にしてしまうから骨さえ取れば良いのだけれど、多少熟成させるのも……エルフ料理の流儀には反するけれど、良いかもしれないわね。どうせ、人間の口にも入るのだもの、向こうの流儀に則った料理も作ってみても面白いもの。

 

 そんな事を考えつつ、部位ごとに分けた肉に更に包丁を入れて大きな骨を取っていく。

 バレルと呼ばれる足、骨付きの胸、そうした焼いても美味しく行ける部位からちょっと使いにくい部位までも細かく骨の周囲の肉に切れ目を入れて露出させては抜いていく。形は崩れても気にしない。

 その傍らで借り物の鍋に湯を沸かして、ゴブリン達から翼の代わりに貰ってきた小鳥の卵を茹でる。

 味は淡白で小粒だけれど、それで良いの。人間が良く使う鶏?というものの卵ではちょっと大きすぎる。

 

 しっかりと固茹で。冷やしてから殻を剥いて、それは後で使うから別に分けておく。特に味は要らない、下手に主張が強くなられても困るから塩すら振らない。

 

 そうこうするうちに骨を取りきったので、砕いて鍋へ。優しい甘味のある切ると涙が出てくる野菜や強い旨味と甘味のある赤くて水っぽい野菜と共に鍋で煮込む。

 最終的に骨は()し取るし細かいと面倒なのだけれど、割った方が味が出るので手間は惜しまない。

 

 そして、取り出すのはオルジェットの実。

 すーっとする香りと少し苦い味のするオレンジ色の皮を持つ果物で、果肉は……食感としてはあの皇子がくれた林檎ってものに似てるかしら。もう少しシャリシャリと水っぽくて、酸味が強いけれど。

 元々はソースの香り付けの為に持ってきたのだけれど、ちょうど良かったわね。

 そんなことを思いつつ、包丁で皮を小さく削っていく。果肉は別に使うから皮だけをしっかりと。

 剥いた細かい皮と、骨を取った肉を揃えたら……

 

 一気にズタズタに。所謂ミンチというぐらいに挽き潰す。

 包丁で叩き続ければ時間がかかるけれど、厨房には大体ミートボールやミートソースを作るために、屑肉からミンチを作る為の道具は置いてあるのだから、手抜きとして使わせて貰う。

 

 そうして臭みを抑える為のオルジェットの皮を混ぜて猛禽の肉がミンチになったら、基本的にどれもかなりパサパサなので鶏油を少々加え、個人で持っている茸の細切れ(出汁が簡単に少しだけ加わって味に深みを出すのに便利なもの)も少々入れて、幾つか取っておいた小鳥の卵を割り入れて粘りを確保。

 そうして暫くそれを気分良く歌なんて歌いつつ捏ねてあげたら……生地にして掌の上に伸ばし、予め用意しておいた小鳥の茹で卵を一つ上に乗せてくるむ。

 

 それを繰り返して……途中で彼用の卵が尽きたので後は明確な差もあるのだしと適当に丸めて団子に。

 表面を軽く火魔法で炙って崩れにくくしたら、後は……茹でても良いのだけれど、味が逃げるので目の細かい木のザルを用意してスープを煮る鍋の上で蒸す。

 まあ、借りる条件として一品と言われてた分は適当に焼いておきましょうか。

 

 え、肉団子のソース?知らないわよ勝手に塩でも振れば?

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