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真実、或いは怒りの焔

バキン!と背後で響く何かが割れる音。

 結晶の砦が砕けてゆく。吹き荒れる風が周囲を覆い、戦場を他の何者も入れぬ嵐の大地へと変えて行く。

 

 地面の砕ける音に飛び下がる。

 地割れと共に噴き出すのはこういう時に思い描くマグマ……等ではなく、輝く暴風。


 「かぐっ!」

 砕け散った結晶の破片が周囲に散乱している。それらの大半はひび割れた地面に転がっているが、横凪に今もおれを何処かへ持ち去ろうかという暴風によって滞空したものも幾らか。

 そのうちひとつに頭をぶつけ、ダメージは無いが衝撃で声が漏れる。

 

 突如として、煽る風の向きが変わる。上から叩きつけてくる明らかな異常風へと。

 

 「ぐぅぅっ!」

 あの日受けた超重力のように地面に縫い付けようとする力に唸りながら、轟火の剣を杖に耐えようとして……

 

 っ!違う!

 耐えるという弱気を振り払う。


 『そうだ!立ち上がれ、幾千の決意と覚悟(ほのお)を身に纏い!弱き者の盾となれ!』

 「そして……未来(きぼう)を切り開け、デュランダル!」

 それが、帝国の剣!不滅不敗の轟剣!

 

 「これは、未来(あす)へ至る咆哮!」

 叩き付ける風の中、ぺたりと倒れる獣の耳を気にも止めずに足の力だけで剣を掲げ強引に立ち上がる。

 

 「パラディオン……ヘルッ!」

 原作カラドリウスも使ってきた必殺の力。このタイミングで、影であるこいつも使ってくるとは!

 暴嵐の領域。風の爪が噛み合って自身と相手を閉じ込める戦闘領域。

 ゲーム的に言えば、地形効果を強制的に書き換えた上で、一定範囲外からの全支援を遮断する力だ。

 刹月花の能力に似ているが、あれとの違いは自分と相手のみの時の止まった世界に移行する事であらゆる干渉を受けないのではなく……自分有利な地形に書き換えてくる点と、周囲を巻き込むのである程度の範囲内ならば一気に叩ける点。

 

 最初っからこれを使われていたら、ノアを護りきるのはほぼ不可能だった。

 全く、随分と……

 

 舐められたものだ!

 

 『……遠き子よ、良いのか』

 剣を通して、おれ達を今も見守る先祖が問い掛けてくる。

 『本当に良いんですよね、兄さん』

 なんて、始水も。

 

 良いに決まっている。

 確かに、今のあいつは可笑しい。何処か言動に齟齬がある。

 アルヴィナの為に殺すと言いつつ、アルヴィナを護れる力をと言っていた。あれは……決して自分へ言ってた言葉なんかじゃない。おれへ向けてだ。

 

 今から殺そうという相手に、あれを言うなんて錯乱しているとしか思えない。

 

 だが……それで良い。

 もう止まれない。プリシラを殺し、多くを殺そうとした。そうまでしておれの本気を見たいならば!

 何か裏があろうが無かろうが!

 全ての理由を踏み越える!それが!民の最強の剣であり盾(帝国皇族)ってものだろう!

 

 分かり合えた気がした。

 手を取れる可能性を夢見た。

 そんな寂しさごと、この身を燃やしてでも!

 

 「(タスク)!」

 天の大鳥から放たれる、空間すらも抉りそうな……風を纏い回転する爪。

 

 「紅ノ牙!」

 正面から押し通る!焔を纏った赤金の剣をそのまま同じくぶん投げて正面衝突。

 

 「……余裕かよ!」

 「って訳でもないがな!」

 渦巻く風の爪とそれを食らう焔の牙に紛れて燃え盛る不死鳥が急襲する。

 それをおれは呼び戻した剣で鍔迫り合いへと持ち込み……

 

 「同時には存在できないんだろう?」

 正面衝突させていた轟剣が消えたことで、空から(タスク)と呼ばれた風の爪が降り注ぐ。

 

 だが……

 「ぐがっ!」

 背後に回り込みながら、おれは雷刃を鞘走らせる。

 当然知っている。対処も出来る。

 

 焔を裂いて赤き雷が迸り、片翼の半ばまで食い込むが……

 「……舐めんじゃねぇ!」

 おれは咄嗟の判断で刃を引き抜きながら飛び下がる。

 

 刹那、おれの目の前までの空間を無数の風嵐のケージが引き裂いた。

 

 「……やっぱお前強いわ」

 そうして、ぽつりと魔神は呟いた。

 「その姿はイライラするが……お前の死骸、きっとアルヴィナ様は喜んでくれる」

 

 ようやく理解した。

 こいつは、おれを……全力のおれを殺す意味があるとしていた。それは……アルヴィナへの貢ぎ物。

 考えてみれば当然か。アルヴィナは死霊使いの魔神。原作でいえば最終ステージで結集する四天王のゾンビだってアルヴィナが用意したものの筈。


 おれを殺して持っていけば、おれが強ければ強いほど良い手駒になる……ってか。

 

 全部、その為か。

 アルヴィナ関係で変なこと言ったのも、希望を持たせようとしたのも……

 全部!全部!全部!その為か!

 

 「カラドリウスッ!」

 そう、死霊術は相手の同意が必要。それはアルヴィナが言っていた。

 だからこそ、希望を持たせ、アルヴィナに……手を貸したくさせようとした!

 

 怒りと共に、おれの全身から黄金の焔が噴き上がる。

 

 「さあ、終りにしよう!アルヴィナ様の為に!」

 「ああ……終りにしよう!」

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