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轟剣、或いは二刀流

赤金の大剣を握り込み、鞘に愛刀を納めて、牙無き者の為の紅ノ牙が咆哮する。

 

 『良いですか、兄さん。

 神様の化身の体に転生した私の力なんかが合わさっての変身です。あまり長くは持ちませんし、解除時に大きな反動が来る諸刃の剣。それを忘れないでくださいね』

 脳裏に響くのはそんな声。

 

 4つになった耳で、弾ける己の体の脂がはぜる音を聞きながら、腰を落として振り抜く寸前で構えた姿を解かずに、燃える風となった魔神王四天王を見上げる。

 

 そう。諸刃の剣だ、この姿は。

 始水によれば、世界の理をねじ曲げる力……つまりAGXといった転生による有り得ない力の持ち込みをしている敵に対し、その被害を食い止め大切なものを護るために、危機的状況であれば、世界のルール無視にはルール無視で対抗するという形で、轟火の剣はおれの手に現れる事が出来るらしい。

 

 だが、今此処に居るカラドリウスは転生特典なんてものは無い。だから、本来は呼べはしない。

 それを……魔神への先祖返りを引き起こしつつ、始水が龍姫の化身パワーで誤魔化すことで……凶悪な転生特典(月花迅雷+龍姫の加護)を持った魔神という敵が其処に存在する、と誤認させることで条件を突破。

 ルールはルールだから一存で無視してはやれないとしている剣の中の帝祖皇帝の魂もその誤認を後押しすることで、居もしない敵を産み出しているのが今だ。

 当然、負荷は何時もより多く、そのうち誤認であると世界に気が付かれて強制終了が来る。それは、世界のルール、世界がしっかりと形を保つためには仕方の無いこと。

 

 だが!それで十分!

 

 おれの力はどこまで行っても武器依存。だからこそ、月花迅雷が幾ら強くとも剣と魔法を同時に駆使して波状攻撃が可能な最上位層には手数の面で劣るならば……

 最強の武器が二本あれば良い!

 

 「……不滅不敗の轟剣(デュランダル)ゥッ!」

 激昂と共に、輝く風の槌……ではなく、羽ばたきから産まれた三羽の……不死鳥を思わせる燃え盛る焔の鳥のような姿をした風がおれとノア、そして背後の団長を焼き尽くすべく飛来する。

 

 「轟!烈波!」

 吹き上がるのは焔の壁。

 焔に見えてその実風属性の巨鳥がその壁に激突して爆発する。下手に斬れば焔を受けた風が膨れ上がって炸裂する技だったようだが!

 轟火の剣の前に、そんなもの!

 

 更に、爆風を受け止める焔の壁はそのままに、大地に突き刺して壁を維持しつつ……月花迅雷を抜刀。残されていた団長の拘束を切り払う。

 そう。一本しか無ければこうした行動は不可能。相手の攻撃を受け止めればそれ以外の行動は大きく制限される。

 だが、これならば……っ!

 

 「はっ!カッコつけておいて、即座に手離すのかよ!?」

 「当然だ、それが……おれの闘い方だから、なっ!」

 焔が消えると共に突っ込んでくる嵐の魔神。

 ハンマーを振り上げた彼の鼻の先へと、おれは地面に突き刺した筈の赤金の轟剣を突きつけた。

 「っ!」

 緊急離脱。青年は地を蹴って空へと登り、

 「抜閃昇龍!」

 天へと向けて斬り上げられた斬撃がそれを追う。

 

 轟火の剣は第一世代神器。突き刺そうが投げようがそれこそ相手に転移させられようが、タイムリミットさえ来ていないならば、仮所有者であるおれの手に何時でも何度でもどんな状況からでも舞い戻る。

 だからこそ、この戦法が成り立つ。二刀流するのではない、適宜月花迅雷へと持ち変えるのだ。何時でも手元に戻せる神器の性質を利用して大剣を時にぶん投げて囮にしたり飛び道具にしたり盾にしつつ、隙を作り抜刀術を叩き込む!

 

 「帝国の象徴の使い方がそれで良い……の、よね多分?

 本人も龍の焔を纏わせて投げてたのだし」

 背後でどこか複雑そうに呟くノア。

 

 「ノア!」

 「っ!そうね、もう行けるのだもの……」

 と、少し前……おれが魅了にかかって無視した頃から少しだけ可笑しくて心配だったエルフの姫は漸く気が付いたのかはっとする。

 もう、最後の枷は外した。ノアの出番が来たのだ。

 

 「……最後の最後!絶望に沈め!」

 そのカラドリウスの言葉と共に……

 何処に隠れていたのだろう。砦の影から何者かがノアの首を狙って飛来する。

 それは、猿のような……いやモモンガらしき怪異。

 

 だが、おれは気にも止めずに、団長の体を持ち上げる。

 何故ならば……

 ドゴン、と鈍い音と共に、ノアを急襲した魔神族が砦の壁にクレーターを産んで沈んだ。

 

 家のアミュを舐めて貰っちゃ困る!ネオサラブレッドの力は、そこらの魔物より余程強い!

 

 「っ!やっぱりこれくらいは、なきゃなぁっ!」

 言いつつ、飛び込んでくるのはカラドリウス本体。

 切り裂かれた体から流れる血がおれと同じように燃え上がりながら、輝く爪がおれを狙って振り下ろされる。

 

 「ああ、そうだな!」

 それをおれは団長をアミュの背に放り投げつつ赤金の剣の腹で受け、そのまま焔を炸裂させて飛び下がる。

 当然ながら、その手には剣を残さず……

 「伝哮雪歌ァッ!」

 相手が此方を見失うその隙を突いての雷速の踏み込み。

 

 「ったく!前見たって……」

 その言葉を、相手は吐ききることが出来なかった。

 そう、焔の壁を貫いて飛び込んでくるのは予想していた蒼き雷刃ではなく最強の轟剣。

 「んなぁっ!?」

 そう、刀を構えての突進の最中に呼び戻して持ち変えたのだ。一点を狙う刀を迎撃すべく受け流す方向で盾のように集約された風を、質量と火力の塊が打ち砕く!

 

 「っ、てめぇっ!」

 振るわれる爪を避けて、おれは右に一歩ステップ。左手で逆手に握り直していた月花迅雷を鞘に納め、相手を睨み付けた。

 

 「最初ッから使えっての、それを」

 「悪いが、リミットがあるんでな」

 そう。そのリミットはそう長いものではない。始水には何度も何度も忠告された。

 

 そして……

 『兄さんに分かりやすく言うと、あと5~6分です。良いですね、無理は禁物ですよ兄さん』

 今も、さらっと当然のように幼馴染が限界を教えてくれている。

 

 そう、だからこそ……何度かノアが隙を作ってくれなければごり押しで団長を救いきるまでに大きく時間を消費してしまったろう。

 

 だが、もう問題ない。

 おれの背後でカッ!と光が瞬く。ノアが魔法で飛んだのだ。

 

 「……ちっ。逃がしたか」

 だというのに、何処にも悔しさが無いような声音で、まあ良いやと殺す為に色々と手を尽くそうとしてきた割にはけろっと、魔神の青年は呟く。

 

 「……さぁ、決着を付けよう、カラドリウス」

 「ああ、良いぜ?本気で来いよ?そうじゃないとアルヴィナ様に捧げるものがなくなっちまう」 

 「……心配事は消えた」

 ノアを護り、団長だけは救えた。

 あとは、プリシラの仇を討つ。

 

 「こっちもだ」 

 にぃっと、おれと彼の焔に照らされて……燃え盛る不死鳥は唇を吊り上げた。

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