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対話、或いは精神修行

さて。と。

 状況を整理しよう、おれ。

 

 ということで、夜。ベッドの中……という訳ではない。敢えて言うならば石の上。中々に寒い。所謂精神統一という奴である。

 何でこんな……というと簡単な話であり、腕吊ってる状態でまともに寝られるか!という奴。それよりは座禅でも組んで瞑想してた方が寝返り打たなくて良いだろうという屁理屈に丸め込まれ、こんな事をさせられているのである。

 因にだが、我が師もしっかりと横で足を組んでいるし、夜勤の兵には時おり攻撃してくるようにと師がしっかりと頼んでいた。寝てたら当たるぞという奴だろう。中々に酷いが、修練にはなる。

 

 まあ、そんな状態だが要は寝なければ良い訳で。思索を巡らすくらいならば我が師は何も言わない。

 そして此処は、正直この世界で3番目くらいには安全な場所である。何があろうがまあ死にはしないだろう。我が師……剣鬼とも呼ばれる彼は、おれの知る限り親父の次に強い。

 確か……本人から聞いたことによると、西方の鬼と西の皇族の血を引く娘(お忍びで出掛けた先でこさえた隠し子)のハーフだとか。皇族の強い血故に、異種の血を混ぜても産まれてしまったとかそんな形で、鬼の同類じゃないかと忌み子のような扱いを昔は受けていた……らしい。

 だから同じく忌み子扱いなおれの師なんぞを他国から流れてきてわざわざやってくれている。本人が強すぎて、要求が高いのが難点だが、良い人だとおれは思っている。

 

 閑話休題。

 今考えることは、この先おれはどうするべきか、である。

 なんてことを、飛んでくる矢を目を瞑ったまま首だけ右に傾けて避ける。魔法でなければ楽なもの。

 考えながらでも何とかなる。立たなければ避けられないものは来ない、そういう約束だから。

 

 まずやるべきことは……

 いやまて、何だろうか、やるべき事。

 生き残ること、生きていく事。それが最終目標なのは間違いない。ピンクい主人公も確認した。だからきっと、このまま行けば世界は封光の杖時代のように俺をモブとして進み、そして俺はあの世界で断片的に語られたように、四天王扱いされている魔物相手に殿を務めて死ぬ。

 それが相討ちか敗死かはその時おれが神器を持っているかで一応変わるが死ぬことには変わりがない。

 ずっとそう思っていた。リリーナからすれば俺は気にも止めないモブ、存在している筈なのに、攻略対象どころか仲間キャラとしてすら認識されない。

 だから強くなろうと。ついでに何か出来ないかと。

 

 だが、リリーナが増えた。

 二人目のリリーナ。どちらが聖女なのは分からない。知るはずもない。だが、基本的に主人公は一人だ。一人でなければ可笑しい。

 乙女ゲーとして、選ばなかった外見が主人公と同じ立場で出てくるなどあってはならない。特別である事が、シナリオ上大切な意味を持つはずなのに。神に選ばれた聖女は一人、もう一人編だと正規出てこなくなるくらいにはそれは徹底していた。

 女神に選ばれた正規聖女は現れず、故に龍姫に選ばれた少女が聖女となるのがもう一人ルート。

 それなのに、同じだけ特別な存在が、同じく主役足り得る存在が複数居て良い訳がない。だからピンク髪を選べば黒髪リリーナなんて登場するはずもないのだ。

 だが、登場した。そこに光明がある。

 

 リリーナを攻略しようぜ!という話である。


 という事は勿論無い。当たり前だ。

 どちらが聖女なのか分からないので万一やるとしたらどちらも攻略する事になる。

 何だそれ二股かよという話もあるし、他にも色々。 

 第一おれ、誰とも結婚しないし、互いに結婚する気はないがニコレットという婚約者も居る。向こうが本当に好きな人を見つけたなら此方が泥を被って婚約を破棄してやる事に異論はないが、此方から浮気は最低だろう。

 さらに、おれを……第七皇子ゼノをモブとする聖女となる少女はつまり、忌み子を不吉として嫌う一般的な少女だろう。元からどうしようもない。

 

 「第一貴様には、あの銀髪の娘が居る、か?」

 「人の心読まないで下さい師匠」

 「……読んでなどおらん。貴様が女の名前を呟いて難しい顔をしていただけだ」

 「師匠、そもそもアナは別にそんな事を考えてないです。

 ちょっとはなつかれていますが、忌み子のおれなんかになつくより、きっともっと幸せになれる」

 そう、エッケハルトとか。

 いやあいつちょっと不安だな。

 おれは竪神頼勇とか良いと思うぞ。いやあいつ頼アイ派が最大派閥だから無いな。おれもだし。

 ……まあ、何にしてももっと良い人と出会える筈だ。


 「……子供らしからんな」

 と、目を閉じたまま眼前の二角はくつくつと笑う。

 「いや、幼子か。打算無く友の幸せを願う。

 大人には出来ん事よ」

 

 「……話を聞こうか」

 ひとしきり笑うと、男はおれの言葉を待つ。

 「話なんてしてて良いんですか?」

 「話しながらでも精神を研ぎ澄ませ、馬鹿弟子。それが出来れば問題ない」

 「確かに、それはそうですね」


 合間に降ってくる槍に微動だにせずに受け答え。当たらないと分かっているから反応しない。

 上からでは座ったままでは避けられない。だから上から降ってくるものは、下手に避けようとしなければ決しておれにも師にも当たらない。当たる前に風魔法なり何なりで確実に逸れる。

 当たるとすれば、下手に避けようとして逸れるはずの先に体を入れてしまう事だけ。分かってはいても避けてしまうというのが有りがちな話ではあるが、もう慣れた。

 フェイントに動じない心、友と共に戦うとき、友を信じて一人で避けにいかない心等を鍛える……らしい。

 

 「夢で見た、話なんですが」

 「何だその導入は」

 「いや、たまにあるじゃないですか。夢に神が出てきてーというお告げの導入。

 おれが見たのは……」

 と、思考を巡らせる。

 

 そう、当に分かっていた、おれが今のおれとなる直前。おれは死んだよと笑っていた道化。彼は……

 「七大天、焔嘗める道化。

 彼から、リリーナという貴族の娘が世界にとって、この国にとって重要だという御告げを夢で受け取った。

 単なる夢かもしれないけれども」


 「それで、馬鹿弟子は皇族としてその使命を愚直に一人で果たそうと思ったか?」

 「……それが。

 リリーナって、ちょっと調べただけで二人居たんだ」

 「傑作だな、馬鹿弟子」

 唇の端をにやりと吊り上げ、我が師は笑う。あの人が大笑いをしている所を見たことは無い。だからきっと、彼にとってはこれが精一杯の笑顔なのだ。

 「それで、どうする気だった?」

 

 「……どうもしない」

 「夢で見たのだろう?」

 「鵜呑みにしていても困るでしょう?

 ただ単純に、少しだけ気に止めておくだけと思っていました」

 分からない。どうすれば良いのか。

 

 ただ、光明は見えている。そう、簡単な話だ。

 そもそもリリーナ編であろうから死ぬと思っていたならばとても分かりやすい光明。そもそも、この世界がリリーナ編を辿るものでなければ?という話。

 アナザー聖女ルート……は多分無いだろう。大きめの教会を見ても、成長すれば聖女のグラフィックになるだろう外見の子は居なかった。

 名前は非デフォルトである事のみ分かっているので確証はないがきっと。


 ただし、此処で一つの道がある。そう、凍王の槍。つまりは日本っぽい異世界からアルヴィスがやって来る世界線であること。

 あれならば此方からの行動によっては、友人関係になることが出来るだろう。そうすれば、辺境で死ぬ運命からは外れる。

 皇族で無くなろうとも、傭兵として彼らの旅路に着いていく道になる。ゲーム的に言えば、2部で再加入しそのままラストまで使える。死ぬイベントも裏で死んでるだろうイベントも無い。

 その道に入れれば万々歳。まあアルヴィスが来ると決まった訳ではないのでそれで安心とはいかないが。

 

 「父には?」

 「ちょっと与太話過ぎますよ。陛下に聞かせるには確証が無さすぎる」

 実は前世の記憶があって……って何の気狂いの戯れ言だ。真性異言(ゼノグラシア)ってそういった記憶もち転生者を示す言葉はあるけれど。

 都合の良い妄言と思われる事も多い。ってか、実は大貴族のご令嬢と夫婦になると世界が救われるってとか、実際には何も知らないのに未来を知ってます風吹かせて適当吹聴して自分の都合の良い婚約とかしたがるアホってたまに居るのだ。

 おれも、今ほざいてもその一人にしかならない。

 「……気になったので婚約をとほざくか?」

 「今更過ぎて。一応これでも、アラン=フルニエのニコレットと婚約している身」

 「だが、奴には正直な話好かれていないのだろう?」

 「それでも、一度した約束を下手に違えるのは御法度では?」

 「固いな、賢しく振る舞うが頑な過ぎる。石か馬鹿弟子、可愛いげが無い」

 そんな事を話しつつ、適当に飛んでくる矢や槍を避けつつ、夜は更けていった。

 

 翌日、目の下に隈が出来ていて更に怖いと何時しか孤児院に入り浸りだしたエッケハルトの馬鹿に散々笑われ、アナは目が覚めるようにと孤児院に置いていった魔法で必死に水を冷やしてくれた。

 ちょっと果実でも混ぜたのか、少しだけ塩気と酸味の混じった水は、美味しかったがちょっと冷たすぎた。


 ところでエッケハルト?おれと違って期待されてる子息が何やってんだこいつ

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