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墜落、或いは怒号

「っ!おらぁぁぁぁっ!」

 放物線を描いての墜落。ノア姫に頼み込み、ルー姐が武器として持ってきてくれたらしい魔導投石機を起動してもらって……檻から抜け出した自分自身を射出。

 主人を檻に捕らえた相手に捕まらないように逃げ去っていたっぽい愛馬アミュグダレーオークスがそのうち戻ってくるのを待つよりも、自分で走るよりも、此方の方が速い。

 

 そうして、最大出力+軽さで無理矢理に飛ばして貰ったおれは、(武器としての運用想定射程では砦までは届かなかった筈だが)運良く砦の中庭にまで飛ばされ……

 

 「ビンゴ!」

 更にそのまま、完全な運でもって軌道が丁度当たるものだったのを利用し、今にも風の刃を放たんとするカラドリウスに……ぶち当たる!

 

 「っ!?はぐっ!?」

 正面衝突。額と額のかち合いと共に……丁度おれの前に奴の唇があって……

 「うげらっ!?」

 たまらず離脱。四天王ともあろう青年が、己の純潔の唇(推測)を護るためにかみっともなく顔を抑え、攻撃のために纏った風を身を護るために転用して空へと逃げる。

 

 ……まあ、おれ自身もファーストキスなんだが……別におれはキスとか誰ともする予定がないし良いか。原作でももう一人の聖女以外の女の子とのキスは無かったしな!

 ただ、アルヴィナに一途な彼としては、男と正面衝突からの事故が初めてとか嫌だったんだろうな。

 

 そのまま着陸というか墜落。地面に小さなクレーターを作りながら、頭突きをかまして一回転したお陰で何とか不恰好ながら足から着地し、軽く地面に足を埋める。

 

 「……ゼ、ノ。どうやって……」

 ぽつりと呟くのは、へっぴり腰なまま正眼に刀を構えた青年、レオン。

 「簡単な事だ。レーザーは地面に当たると消えていたし、地面に傷一つ付けなかった。

 ……だったら、おれの体が入れるくらいの深さまで穴を掘り、そこから横穴を作って……地面の下に埋まった格子を曲げる分には、雷撃に耐えるだけ、だろ?」

 実際は死ぬかと思ったが、何とかなった。

 人一人通れるくらいまで曲げたところで、格子から出られるなら後は何とかするわと言って魔法であと半分素手で掘る気だったのを代わってくれたノア姫には頭が上がらないな。

 

 だが、今は終わったことはどうでも良い。

 おれは、カラドリウスがそのまま攻めてくる気はなさげに十字架の上に禅を組んで降り立ったことを一瞥して確認すると……

 

 眼前で呆ける乳母兄に近付き、その騎士服の襟を締め上げた。

 「が、ぐっ!?」

 面食らって眼を白黒させるレオン。おれより少し背が高いその青年を、割と値段がする服の襟が曲がり伸ばされ血で汚れるのも構わず、腕一本で宙に吊り上げる。

 

 「何を、やめ……」

 手足をバタつかせられるが、足で脛を蹴られようが痛くはない。それが、ステータス差というものだ。

 右手に携えられた月花迅雷だけは通るが……遮二無二振られるその右手首を左手で抑えれば無力化出来る。

 

 「レオン君!」

 「黙れ!」

 静かな威圧。たった一言で、騎士団の兵を鎮める。

 「『シャドウ……』」

 されど、諦めぬ者も居たようで、

 

 唱えられる呪文。放たれるのは拘束の魔法。

 ならば良い。本来はどうであれ護るべきだが……今のおれはちょっと何時もより悪辣で、傷にならないならば、レオンを盾にもする。

 

 「ふぎっ!?」

 おれは容赦なく腕を動かして、右から飛ばされてきた影の縄に向けてレオンを突き出す。

 緑髪の青年は、為す術なくぐるぐる巻きにされて地面に転がった。

 

 「……言っておくが、今のおれはちょっぴりキレてるんだ。

 ゴブリン達を連れてとっとと消えてくれ」

 言いつつ、おれは地面に転がる……兵士がとっとと影の縄を消したことで解放された青年を再度持ち上げる。

 

 「ゼノ……お前」

 「レオン。お前が本当にプリシラを護るためというならば、月花迅雷を貸しても良いと思っていた。

 

 だがな」

 左手で愛刀をレオンの手から引き抜く。

 

 「弱きを護るが皇族だ。

 いや……弱いものを、儚いものを、何かを護る優しさという勇気が人を人足らしめる」

 

 脳裏に浮かぶのは、その昔、前世の頃にマリー・アントワネットを例に、始水(ティア)が語った言葉。

 自然の生物は家族でないものは基本護らない。縁がなくとも、利益がなくとも、何かを護る優しさこそが獣と人を分けるんです、と。

 

 それに、おれは同意した。だからこそ、護るべき万四路を殺したようなもののおれは……と歯噛みした。

 

 だから、だ。

 

 「その人の勇気を忘れ!弱きものを差し出して生き残る術に逃げる。

 それが悪いこととは言わない。無謀に近い勇気を振り絞れとなんて、言う権利はおれにはない」

 でもな、とおれは乳母兄を残された右目で睨み付ける。

 

 「弱きものを、おれ達を、最後まで護り抜いた彼女の思いを、お前の保身で穢すな。

 今のお前に、月花迅雷を持たせる訳にはいかない」

 

 「ごがぁっ!?」

 そうして、おれは手を離し……レオン腰に吊るしていた鞘を取り戻して自分の腰に刀身を納めてからマウント、そのままレオンを掴み直すと、兵士達に向けて投げる。

 

 「自分達が生き残る為の策であるとして、今回の事は不問にする。

 だからこそ、これ以上の被害をゴブリン達に出させるな」

 「……あ」

 「皇族命令だ、良いな!とっとと消えろ!」

 普段響かせない、本気の怒号。びくりと怯えた兵士達は、こくこくと頷くとレオンを連れてそそくさと逃げていく。

 恐怖で押さえ付けるのは決して良いことではないし、やりたくないんだが……今回ばかりは仕方ない。悪にもなろう。

 

 そんなおれ達のやりとりを、カラドリウスは何処か面白そうに翼を仕舞って眺めていた。

 

 「……で?話は終わったか?」

 「……ああ。

 やはり、本気で人質と200人を交換する気なんて無かったか」

 「そりゃな?

 本気のお前を呼び寄せてぶっ殺し、アルヴィナ様に捧げつつ……人類どもに四天王の恐怖を見せ付ける。その為にお前をキレさせたかっただけ」

 あっけらかんと青年は言う。

 

 アルヴィナという言葉を出してきたことから、ある程度本気だというのは分かるな。完全にその通りなのかは……微妙だが、少なくともおれを呼び出して本気にさせるためというのは事実なのだろう。

 

 「そう、か。

 下がる気は」

 「なぁ、あると思うか?」

 そう告げる緑のカラドリウスの瞳は、どこまでも……澄みきった色に染まっていた。

 

 「……やるしかない、ってか」

 「まだ言うかよ、人間。本気の皇族をぶっ殺して、アルヴィナ様に捧げようってのにうだうだと」

 

 すっと、魔神の眼が細まる。

 

 「なら、人質殺すか」 

 突如、カラドリウスが翼を拡げる。

 「……でも、まあ、一度はあの場から抜けるために少しだけ縁がある身だ。特別に教えてやるか」

 好戦的に歪む顔。風を孕み天空へと駆け行く四天王から、一つの声がおれに向けて降り注ぐ。

 

 「これから俺はお前が護る筈だと信じた方を急襲して殺す。

 特別サービスで教えてやったんだ。護って見せろよ皇族!」

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