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奇策、或いは当然の結論

「何処へ行くんだ、皆」

 慌ただしく出掛けようとする騎士団の兵士達(彼等は税を兵役で納めることにした人々なので兵士だ。騎士団だが爵位のある騎士ではない)におれは声をかけて……

 

 何で居るんだとばかりに、厄介そうな視線を向けられた。

 ……本当に、歓迎されてないな、おれ。

 

 なんて思って少しだけ感傷に浸ろうとしたおれの肩が後ろから柔らかな手と濡れた鼻に押された。

 「人間は馬鹿馬鹿しいわね。

 でも忘れないで。ワタシはアナタが帰ってきた事を……少しは嬉しく思ってるわよ。全員がああじゃないの。

 都合の良い事しか見ないのは勿論駄目な事だけれども、都合の悪いことしか考えないのも同じことよ」

 そんなエルフの姫に、芦毛……じゃなく白馬が同意の嘶きを合わせた。

 

 「……ああ、分かってるよ、ノア姫、アミュ」

 と、そんな間にも兵士達は何処かへと出掛けていく。

 装備は完全装備。マナの器の形である職業に合わせて使える武器……つまりマナの力によって本来よりも使いこなせる武器防具は制限がかかる。その為フルプレートといった重装備ではないが、大盾を持っていたり、何というか物々しい。

 少なくとも、偵察に行く格好ではない。目立つし消音も苦手だろう。

 

 消音に長けた職業はあるし、風属性には音を消す魔法とか色々とあるのは確かなんだが……あの職業は大盾なんて持てない……というかマナの流れを阻害するから持てるけど適性がないし、そもそもそんなものを使ってまでフル装備で偵察をしに行く理由がない。

 

 「まさか、自分達だけでゴルド団長等を助けに?」

 ならば、有り得るとしたらその可能性。

 「冗談でしょう?」

 と、横でノア姫は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに肩を竦めた。

 

 いや、おれもそう思うんだが……それ以外に重装備する理由なんてあるのか?

 勝てない可能性は高い。それでも、自分達で団長等を救いたい。だから無謀でも精一杯戦う……その決意の現れがあの重装備。

 それ以外の可能性って何かあるのか?少なくとも、おれにはぱっと思い付かない。

 

 「……皆、答えてくれ。

 何処に行くんだ?戦いに行くのか」

 おれを見て歓迎されなかったのは分かる。彼等は騎士団の兵士だが、自ら志願した訳ではない。

 いや、志願はしたんだが……あくまでも兵役=納税という形でだ。俺が皆を護るんだ!の精神で騎士団に入った面々とはやる気も勿論レベルやステータスも比べ物にならない。

 

 そんな彼等からしてみれば、おれが戻ってこずにルー姐が居てくれた方が良いんだろう。ルー姐は忌み子じゃないし、おれより強いしな。

 

 「……ちっ、何で忌み子が」

 「戻ってきただけだ」

 本気で鬱陶しそうな兵士達の行く手を阻むように立ち、大の大人な彼等を見据える。

 

 「ゼノ!」

 そんなおれを咎めるように、レオンがやって来る。

 彼を中心に、兵士達が並んだ。

 

 「レオン」

 「ゼノ。お前の言う通りだ。俺達で、プリシラ達を救う術を見つけた」

 そうして、青年の視線は少しだけ下がる。

 

 ……おれの腰へと。

 

 「だから、ゼノ。お前のその刀を貸してくれるよな?

 それが重要なんだ」

 その瞳は真剣で、本気を感じさせる。

 

 これならば、渡すべきかもしれない。

 でも、だ。渡してどうなる?レオンは多少強くはなるだろう。神器、月花迅雷は確かに他の武器とは一線を隔する。

 だけれども、それで勝てるかは……正直微妙だろう。

 

 「なあ、レオン。

 おれも行く。元々、何とかして救う気だった。

 だから、少し出発を待てないか?」

 「待てない。風の刻の終わりまで時間がない」

 

 「まだ一刻以上あるわよ」

 と、半眼でノア姫。

 

 「でもだ。間に合わなかったらプリシラが殺されるんだよ!

 お前はオーリンさんを目の前で殺されていないから、時間ギリギリまでまだあるとか言えるんだろう!」

 吐き捨てるように告げられる言葉に、おれは何も返せなかった。

 

 確かにそうだ。おれにとって、目の前で喪った大事な人は……万四路と、人ではないが天狼の母くらい。産みの親は、産まれたばかりで覚えてすらいない。

 目の前で大事な人を殺されたから、焦る気持ちは……おれにはちょっとだけ分からない。

 

 でも、プリシラを助けなければいけない。

 原作ゲームでは、既に過去の事だからヒロインが介入できない、既に決まった事。プリシラの死。

 でも、此処に居るのはゲームの主役(ヒロイン)ではなくおれで、此処は全てが決まったゲームの中ではなくて、ノア姫というイレギュラーが居る。

 ならば、足掻くべきだ。助けられるかもしれないならば……最後まで諦めるわけにはいかない

 

 「レオン。分かった。

 おれも行くが、お前に……」

 そうして、腰から鞘ごと愛刀を外し、手渡そうと近づいて……

 

 不意に、違和感に気がつく。

 何だ、このねばつくような……

 

 レオンの手が、柄に触れる。

 その瞬間、

 

 悪寒に腕を引こうとするも、それはあまりにも遅すぎた。

 

 「がっ!?」

 おれの体に、複数の風の刃が突き立つ。

 幾ら物理的には鋼より硬かろうが、それはマナの作用。ステータスが0な以上、魔法には紙同然。

 幾多の風と雷と氷の鎖に、おれは為す術無く囚われる。

 腕は動かず、月花迅雷はひったくられ、レオンの手に収まった。

 

 「……レオンっ!

 お前!プリシラを護るんじゃないのかよ!」

 「護るさ!

 だから、これしかないんだよ!」

 「何処がっ!

 おれを差し出そうが、カラドリウスは止まらない……

 お前ら、自分達を犠牲にする覚悟でも、決めたと……」

 「居んだろ、近くに100匹ちょっと」

 

 その言葉で、漸く重装備の理由を理解する。

 「百人だ……」

 「あ、そうだ。人じゃないと駄目だもんな」

 と、兵士の一人。ノア姫にご執心だった若い兵士がそう語る。

 

 「亜人も獣人も人だ。

 その人々を護るのが、帝国騎士団だろうが!」

 

 「何で薄汚い獣人を護らなきゃいけないんだよ!」

 「頭沸いてんのかよ忌み子!」

 「人間が獣人の為に死ななきゃいけないとか有り得ないっての!」

 「ま、忌み子って獣人モドキだし?シンパシーとかあんじゃない?」 

 「「違いないわー!何でこんなのが皇子とか言ってんの?」」

 「団長もさー、認めるとか可笑しいだろ、獣人以下だろコイツ」

 口々に言われる本音。

 

 分かっていた。

 彼等からすれば仕方ない。彼等は普通の人間だ

 普通の、獣人等は魔法が使えない人間未満という七天教のちょっとアレな思想も信じた、当たり前の人間だ。

 分かっている。彼等は悪くない。普通なんだ、これが。誰かの為に命を投げ出す覚悟なんてしていない。本来は特に何事もないこんな場所の騎士団に配属され、時を過ごして税を払う、勇気も何も必要ない……おれたちが護るべき民の一部だ。

 その、特に醜い側面が出ただけ。

 

 「ゴブリン達を、生け贄として連れていくのか!」

 理解した。そして、おれ自身の察しの悪さに歯噛みする。

 ゴブリン達を、100人ちょっと居る彼等を、おれと共に生け贄として差し出して200人。彼等は、そう考えて……ゴブリンを捕らえるために、重装備をしたのだ。

 

 「そんなので!レオン!」

 「お前のせいだろうが、ゼノ!」

 情けなく倒れた顔を蹴り上げられるが……別に痛くはない。ステータス差は、それほどまでに残酷だ。

 

 「お前が自己満足でルディウス殿下を帰らせたんだろ!カラドリウスが戻ってきたと知っていて!」

 更に蹴られるが、痛みはない。ただ、動かない体は転がる。

 

 「ルディウス殿下が居れば、勝てると信じれた!

 でも!お前がそれを潰したんだよ、ゼノ!

 確実に護るには……なら、もうこれしかないだろ!」

 「諦めんのか、レオン……」

 「勝てなきゃプリシラが!あいつが死ぬんだよ!

 賭けなんて……非情なお前だから出来るんだ」

 その言葉と共に、おれの周囲に、魔法の檻が降り注いだ。

 

 「待て、よ……」

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