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出来ること、或いはやりたいこと

書き溜めがない為遅れました、申し訳ありません。

「……私がカラドリウスの嘘ですよと言えば信じますか、兄さん?」

 基本的におれに嘘は言いたがらない幼馴染のその言葉は、何よりも答えだった。

 

 「ティア、何となくそうなんじゃないかと思っていたんだが……とっくの昔に、それこそおれがシドーミチヤだった頃には……おれは君と約束していたんだな?」

 「おや、分かりました?」

 「そうだろう?

 この世界がゲームなら兎も角、おれをこの世界に呼んだのは七大天の一柱、焔嘗める道化。

 ならば、此処はゲームの世界じゃないし、神々も日本人の考えた作り物じゃなく実在する、日本と同じような一つの世界」

 一息ついて、角と翼と瞳の形以外がほぼそのままの幼馴染をまっすぐ見据える。

 

 「ならば、その神の化身姿とほぼ同一の姿だなんて、偶然そんなことになる方が可笑しい。他の世界の神様と繋がってるから同じ姿になったって方が自然。

 だったら、最初から始水はティアで、ティアは龍姫様の化身。

 ならば、あの時の日本人のおれと関わりがあるなら、あの時にはもう、おれと始水は契約していた」

 「ってか、契約が無かったらお前飛ばせば来れるなんて馬鹿げた話になるかよ」

 と、カラドリウス。

 

 まあそうだわな。変な縁もなしに転移で入れるなら誰か入れてる筈だ。例え遺跡に入った後出られずとも、行方不明という事で話にはなる筈。

 その辺りの一切が話としてないというのは、きっと誰も入れなかった証なのだから。

 

 それが、おれだけ入れたし……何より真性異言である事は無関係に入れると確信されていた。

 それは、シドーミチヤ(おれ)と始水の縁を前提とは出来ない以上、既に分かるレベルの何らかの縁が見えていないと出来ない判断だ。

 だってそうだろう?ゼノとティアの間には原作では縁があるがそれは、ゲームのシナリオ的には此処で飛ばされて縁になる形。……カラドリウスが共に侵入しようとする、なんてイレギュラーを起こしても問題なく飛べるなんて言いきれない話。

 ならば、日本人のおれとティアの間に縁があるという話は普通に考えたら有り得ない以上、飛べて当然と言いきる縁なんて、実際に契約でも存在しなければあると言える道理がない筈だ。

 

 ……だからこそ、カラドリウスはおれを警戒していたんだろうなぁ……

 それに気付けなかったのはおれの見落としか。

 

 「……ええ、そうですね」

 一度目を閉じた始水は、その背の蒼い翼を完全に広げて、もう一度目を見開いた。

 同時、おれの左手首に鎖……いや手錠が嵌められる。片割れは始水の腕に嵌まってるし完全に手錠だこれ。

 

 「その通り、私と兄さんはとっくに契約していますから、最初から兄さんは私と同じ遺跡の防人です」

 「じゃあ、どうして。

 即座に帰れたんじゃないのか」

 「それは無理ですよ、兄さん。兄さんは呪いのせいで自力では転移を使えませんから、誰かが兄さんに転移魔法を悪意を込めてぶつけなければいけません。

 だから、私と同じ防人でありながらも兄さんは自由に転移できなかったんですし」

 

 それに……と、少女は静かに告げる。

 「この門の先が、目的地ですから。

 帰りますよ、兄さん」

 ぐいと強い力で、氷で作られた手錠が引かれる。

 「帰る……何処へ?」

 始水に対して力なんてかけたくない、それでもおれは地面を踏み締めて、その力に対抗する。

 

 「私はさっき言いましたよ兄さん。もう忘れたんですか?

 元の世界……日本です」

 「にほ、ん?」

 予想外の言葉に、鸚鵡返しにおれは呆けて聞き返した。

 

 「ええ、そうです。この門は他の世界との境界。越えれば別世界に渡ることだって出来ます。

 それこそ、あの日本にも帰れます。だから帰りましょう兄さん。安心してください、私も一緒です。兄さんを一人になんてしませんから」

 どこまでも優しく、慈母のような笑顔で、おれより少し幼く見える幼馴染はおれへと左手を伸ばす。

 

 「ティア、それは……」

 「何を迷うことがあるんですか?」

 「ティア、君は……この世界の神だろう」

 「ええ。そうですね。

 でも、ずっと龍姫が頑張ってきたんです。今回の事態くらい、あまり働かない晶魔達に働いて貰ったって良いでしょう?」

 どこまでも、始水の笑顔は崩れない。

 聖母を描いた一枚の絵画そのものであるかのように、少女の笑顔には一点の翳りすらも見えることはない。

 

 「……そうか。なら、始水は良いよ。

 おれは?おれはどうして、一人逃げられる」

 「兄さん。兄さんはずっと頑張ってきたんですよ?」

 

 不意に、おれの左目を覆う火傷痕がひんやりした手で優しく撫でられる。

 目にも止まらぬ速さ……いや、空間転移してきた少女が、おれの顔を撫でながら、どこまでも慈愛に満ちた……けれどちょっと幼く可愛らしすぎる声を紡ぐ。

 

 「ボロボロになって、何度も血反吐を吐いて……命すら二度も擲って。

 もう良いじゃないですか。私が赦します。誰が何と言おうと……文句なんて通しません。

 兄さんは寧ろ、あまりにも頑張りすぎたんです。休んだって良いんです」

 

 それに……と、少女は翼を二度羽ばたかせ、門らしきものを実体化させながら呟く。

 

 「此処に飛ばされて行方不明になったから、兄さんは外では死んだことになったみたいですよ?」

 「……そう、か」

 

 何となくそんな気はしていたんだ。ティアと出会う時に……行方不明になる可能性を考えたら多分おれの権利とか地位とか潰されるだろうな、と。

 だからその前にエッケハルトに孤児院を任せていて良かった。そうでなければ……おれは更にアナ達を裏切ることになったろう。

 

 せめて、あの子達が一人で立てるようになるまで、あの孤児院(いえ)に彼等彼女等が居られるように。

 おれは、彼等を助けると言ったのだから。

 

 「兄さん、兄さんは社会的に死んだんです。帰っても良いことなんてきっとありません」

 「……そうかもしれない」

 でも、おれの答えは最初から……

 

 びゅうと吹く風が、おれの背中を押す。

 ちくちくと痛むが、それで良い。

 

 きつく、左手に下げた愛刀を握り込む。

 

 「だから、もう終わりで良いんです。頑張りすぎた兄さんは、もう休んで良いんですよ。

 さあ、分かったら帰りましょう兄さん。日本へ、ゴールドスターグループへ、獅童三千矢へ、戻りましょう。

 

 私が兄さんに幸せを約束しますから。ずっと……ずっと。

 だからもう、辛くて苦しくて痛いことは終わりにしましょう?」

 

 「有り難うな、始水」

 おれは、右手で少女の角のある頭に触れる。

 「誰よりも、おれ個人の事を想ってくれて。本当に嬉しいし、勿体無いくらいだ」

 

 背中に突き刺さる風が勢いを増す。

 「でも」

 

 握り締めた剣が閃く雷を放ち、手錠を粉々にした。

 「命を懸けて人々を…そう、おれたちを護ってくれた彼女に誓ったんだ。その想いを継ぐと」

 

 轟、と焔が燃える。

 「遥かなる祖に願ったんだ。民を護る力を」

 姿を現したデュランダルを右手で握り込む。焔がおれを焼くが、それで良い。

 それがおれの、決意と覚悟だから。

 

 「おれは、獅童三千矢で、第七皇子ゼノだ。おれのやるべき事から、逃げるわけにはいかないんだよ、始水」

 「本気ですか、兄さん。

 それは後付けです。皇子に転生したことで背負わされた……」

 

 「違うよ、始水。

 

 もしも、そうでなくとも。おれが皇子じゃなくて、ただのゼノでも。

 君を、アナを、アルヴィナを、竪神を……いや、もっともっと多くの皆を。

 綺麗だと思った、眩しいと感じた、そんな人々を、その人生を!滅茶苦茶にされるなんて……嫌なんだよ。だから、おれは戦う。

 戦える力が、おれにはある。これはさ、ただそれだけの……運命でも使命でもない、おれの我が儘なんだ」

 

 「ならば、無理矢理にでも……」

 あの顔になってから初めて、慈母の笑顔が崩れる。

 少しだけ泣き落としが得意なおれの良く知る金星始水が顔を出し、おれに向けて小さく手を伸ばす。

 

 「カラドリウス!

 飛ばせ!悪意のある転移魔法なら、おれたちを此処から弾き飛ばせる!」

 「ったく!面倒な状況まで待たせやがる!

 アルヴィナ様を危険な懸けに動かしておいて!自分一人安穏と安全圏の遺跡に籠られたらぶっ殺したくなるんだよ。

 吹き飛べ、戦え、良いな人間!」

 おれは轟火の剣がならば良しとばかりに消えた右手で伸ばされたその小さな手を握り、そして……

 

 「だからさ、約束だ。

 全て終わったら、おれがもう覚えていない何時かの約束通り、おれはティアと門を護るよ。

 だから、最低の発言だけど……それまで、おれのやりたいことが終わるまで待っててくれ、始水」

 「兄さんっ!」

 

 お前なぁと言いたげな鉤爪がおれの肩に食い込み、おれを嵐に包み込んだ。

次回は26日になると思います。

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