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影、或いは交差

「……始水」

 「兄さん、もう一度無茶したら、暫く私も好きにやりますからね?」

 「ごめん、心配かけて」

 「本当に、何時もそうですよ」

 

 けれど、青い髪を揺らし、少女はおれの背後に控えてくれる。翼は全開、頭の角の間には天使でも気取っているのか小さな水の輪が渦巻いていて。されど手を出すことをせず、幼馴染は一度おれを見送る。

 

 「で?結局一人?舐められてるのかこれは?」

 挑発的に唇の端を釣り上げるのは魔神の青年。地上に降りた彼の翼は風に震え、苛立たしげに硬質の足爪が遺跡の床を引っ掻いて傷を残す。

 「舐めてないよ。これは、おれとお前の話だ。始水は関係ない」

 もう良いや、どうせバレてるんだからと呼びやすく始水の名を出して、真性異言全開で行く。

  

 「確かに、始水に共に戦って貰えばお前に勝てるとは思う」

 カラドリウスの影とやりあって分かったが、大体スペックはあの日戦った四天王スコールと同等。浴びるだけでそのうち死ぬ星壊紋の瘴気を帯びていないだけ戦いやすいが、その分纏うものは風。刀の軌道がブレやすく、決して与し易い(くみしやすい)とは言えないだろう。

 あの日のおれと違ってぶっ壊れそのものの轟火の剣は無く、フォローしてくれるアルヴィナも居ないが、始水が居ればお釣りが来る。油断がなければ、そして向こうに切り札がないならば間違いなく勝てるだろう。

 

 だが、そんな事は取らぬ狸だ。

 「だけど、それに意味はないだろ?」

 「言いやがるなホント」

 「おれはお前を信じたい。おれはまだアルヴィナを信じているから、アルヴィナに近いお前の事も、本当はさ、こんな刃を向け合わない相手になれた方がいいんだよ」

 わざとらしく、おれは愛刀をだらりと下げる。

 

 決して隙を晒す訳ではない。自然体からの疑似抜刀、構えならざる構え。そういった技の基礎くらいおれにもある。

 それでも、構えた状況よりも強いとはとても言えない形を取り、訴えかける。

 

 「だからだ。おれはお前を倒す気なんて無い。

 寧ろ、お前のアルヴィナへの想いを信じるから、記憶くらい持ち帰って貰った方が都合が良い。此処で倒しちゃ不味いんだよ」

 「勝てるつもりかよ、四天王に」

 

 「勝てるつもりだ、いや、勝てなきゃいけない」

 わざとだろう……いや素かもしれない挑発的な魔神に合わせるように、おれも挑発的な狂暴な笑みを見せて応戦する。

 

 感じる。刃を合わせるのはたった一度。あと一回で、全てを決める。

 「そうだろう!アルヴィナを信じるならば!アルヴィナに向けた絵空事を事実に変えるなら!

 魔神王に勝てなきゃ話になんないんだよ!」

 「はっ!刀頼りがそれを言うな!」

 「それは、それだ!」

 

 ……ヤバい。言い返せないというか、ついさっき突き付けられた事に反論が出来ない。

 さっきカラドリウスは魔法に当たる技と武器を同時に駆使してきた。始水や父も同じことが出来るだろう。

 魔法による盾で相手の武器を止めつつ自分は攻撃、或いはその逆といった一人での同時攻撃(マルチアクション)、おれは……今ではまるで当然のように雷を振り回すおれは、その全てが月花迅雷頼み故にその行動が取れない。

 例えば、周囲に雷のバリアを貼ろうとするならば、納刀して一拍溜めてから拳一つ分くらい抜刀という行動を取る必要がある。

 刀を振るうことで雷撃を放ちつつ、刀で攻撃を止めるなんて月花迅雷が分裂しないと不可能。その一点で、おれは間違いなく剣と魔法の双方を扱う最強クラスに一歩劣る。

 

 「……兄さん」

 呆れたような始水の声。

 「そうだよな。おれは一人じゃない。一人同士なら負けていても、助けてくれる誰かを加えれば、どうだろうな!」

 「それはアルヴィナ様達に余計な苦労をかけるということだ!」

 

 その通りだよ畜生が!

 分かってんだよ、そんなこと!だからあんまり言いたくなくてそれはそれと投げたんだよ!

 おれがもっと強ければ!頼りになれば!ATLUSだってあんな被害を出さずに止められた!何度も何度も、何時も何時も誰かに助けられて何とかギリギリ事態を収拾するなんて事にもなっていない!

 んなこと、誰よりもおれが知っている!

 

 「それでも、あがき続ける!」

 「負担を女の子に押し付けて!そんな奴が!」

 「……言い返せない。それでもだ!おれには、この道しかない!諦めるか、進むか……

 ならば、おれは行く。行くしかないんだよ!」


 「そんな馬鹿が、俺からアルヴィナ様を奪おうってのか!

 こんな、奴がぁぁっ!」

 二度、カラドリウスの爪が輝く。

 「パラディオン・ネイルッ!

 パラディオン……フィンガァァァッ!」

 さらに輝きを増し、何十層も重ねられた風の輝爪が走る……

 

 それを受け止めるべく、おれは相手を見据え、

 「……二人とも」

 「っ!伝哮っ!雪歌ァァッ!」

 おれとカラドリウスの最中に不意に小さな光と共に現れた小さな姿を見るや、なりふり構わずに駆け抜ける。


 その影から軌道を逸らすこと、爪と交差する軌道の突進を行うこと。その二つの両立など不可能

 でも良い。そんなもの、後で考える!

 

 「っ!ぐぅぅぅ!」

 辛うじて腹への直撃だけは回避。左手の二の腕を突きだして、少女の前に飛び出したおれは突っ込んでくるカラドリウスの右爪を受ける。

 引き裂かれる感触、背に向けられる視線。

 そして……

 

 「もう怒りましたからね、兄さん。

 兄さんに任せてはおけません」

 凍りつく世界。

 睨み付ける双眼が、おれ達を見下ろす。

 背に翼の生えた、長い体の東洋龍。そう表現すべき一柱の龍が、周囲の全てを凍らせて君臨していた。

 

 「……はぁ、分かりきってた結末か」

 呆れたように息を吐いて、カラドリウスが翼を畳む。同時、爪の纏う煌めく風も止み、必殺の力はおれの左腕に3爪の穴を空けた程度で消滅する。

 

 「ちょっとくらい疑えよ、アホ」

 おれの背に庇った白い狼耳を持つヴェールを被った黒髪の小さなドレスの女の子……ちょっとだけ美化されたウェディングドレスのアルヴィナの姿がほどけて風に変わり、消える。


 それは、おれを試すために……いや、行動を見極めるために作られた偽アルヴィナ。

 「疑っていた。でも、本当におれ達を止めに来ていたら、そしてタイミングが悪かったなら。そう思った時には動いていた」

 「いつか死ぬぞそこのアホ」

 「……だからこそ、私は周囲を変える。もう良いでしょうカラドリウス。

 これ以上やるなら私が殺しに行きますよ」

 と、巨龍……ゲーム内でも見せた龍姫に似た守護龍としての本来の姿を見せ付けながら、龍化した幼馴染が吠える。

 

 外見は可愛いなんて要素が完全に消えた勇ましいドラゴンそのものなのに声が可愛い始水のものそのままなのが、何と言うかギャップが凄いな。

 

 「もう良いっての。咄嗟にアルヴィナ様の姿をしたものを庇った時点で、もうこのアホ救えねぇって分かったから。これ以上やっても何も良いこと無いって」

 

 「……そうか」

 おれも刀を振って、納めるような動作をする。鞘はないので、あくまでもフリだ。

 というかそもそも、始水が貼った氷の壁が今はおれとカラドリウスを隔てているのでやりあいようもないんだが、ポーズだ。

 

 「本当に納得いかない……

 俺が、アルヴィナ様を護る。お前なんぞに盗られてたまるかって話だ」

 「まだやりますか?」

 上から降ってくる始水の声。

 おれを護ろうとしてくれたんだろう。次に無茶したらと言われた後、左二の腕に3つほど貫通した穴が空いたし。

 

 「やらないって。忌々しい龍と同じように、アルヴィナ様も同じように無理をしてこのアホを護って傷付く。

 そんなことは許せないから、そうならなくて良いように護るんだよ」

 「兄さんを殺して、ですか?」

 「殺しても良いことあんまり無いだろ。馬鹿やらかしてでもアルヴィナ様を通して分かり合おうという気だけは感じた。

 分不相応に突っ走るアホと、それを支える馬鹿共。アルヴィナ様がそんな馬鹿げた賭けに乗ったなら、アルヴィナ様まで破滅に巻き込まれないようにちょっとだけ乗ってやるって言ってんだけど?みなまで言わないと分かんないのかよ?」

 「分かってないですねカラドリウス。

 みなまで言わなくても分かるから、言わせて言質(げんち)にするんですよ?」

 

 「……うざってぇなクソドラゴン」

 「そちらも目障りですよ、吐苦頭汚鷲(はくとおわし)

 「……ストップ、始水」

 はくとおわし……どういう意味で言ってるかはおれにはてんで分からないが、少なくとも喧嘩腰なのは確か。おれは幼馴染に向けて駄目だと首を振った。

 

 「まあ、兄さんに免じて今は仲良くしないくらいで済ませますが」

 「まあ、アルヴィナ様のために今は敵対しないでおいてやるが……」

次回更新は21日です。


また、次回は某ヒロインと主人公以外のキス(未遂)があります。耐性の無い人はお気をつけください。

まあNTRとかでは無いのですが、一応ですね……

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