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鶏、或いは暁の鳴き声

そうして、暁の頃。

 

 「レオン!団長!」

 蠢く影を確認し、おれは夜営地で仮眠中の二人へ向けて声を限りに叫んだ。

 

 此処は森の中の夜営地。夜の闇に紛れて動いては来なかった魔神族を尻目に、ノア姫の忠告通り暁と共に遺跡へ向けての侵攻が本当に起こる可能性を信じて、部隊の一部を森に潜ませたのだ。

 志願者はたった20人。特別金が出るとしても、異様な敵を相手にあるか分からない襲撃の為に夜営はあまりしたくなかったのか、人は少ない。

 が、それで良い。あまり兵が多ければそもそも森に潜むことが出来ないからな。数十人で良い。

 そもそも、騎士団最強戦力は二人とも此方に居るのだから。

 

 これで、騎士団の砦へ攻められたらおれとノア姫の考えがお笑いになってしまうが、まあ兵は多いしその場合でも恐らく何とか間に合うだろう。その判断を下しただけだ。

 

 果たして……結晶砦から飛び立つ数羽の羽の生えた怪異。単なる鳥では間違いなくない異形の生物……魔神族。

 アルヴィナはあまり混ざってなかったが、全体的に見ればキメラのような姿をした魔神が多い。例えば、今飛び立ったヒポグリフや有翼猿のように。

 

 「……甘い!」

 おれは持ち込んでいた弓を引き絞り、矢を放つ

 空を裂いて空へと放たれた矢は、少しの時間を置いて有翼の猿の翼に突き刺さった。

 

 が、猿は揺らぐのみ。流石に打ち上げる形で射るのは火力的に無理があったか。ゲーム的な射程で考えても射程外かもしれないしな。

 

 だが、それで良い。あくまでも、伏兵に気が付かせるだけの目的だ。

 

 気が付かせたら伏兵の意味がない?そんな事はない。

 待ち伏せて撃滅する為というよりは、今やることはあくまでも向こうの戦力偵察と動向の確認だ。警戒心を植え付けつつ、相手を測る。

 

 ならば、此方に気が付いてくれなければ意味がない。

 

 が、魔神等は弓矢による攻撃を無視し、悠々と空を舞う。

 

 「団長」

 「……好きにしろ」

 おれを見て、もう勝手にしろと肩を竦める団長。

 

 許可は得た。共に戦ってくれるな?

 そう、おれは愛刀の鞘を撫で、柄に左手をかける。

 

 「(はし)れ、蒼雷!」

 腹の底に轟く音と共に、暫く鞘に納められたままであった刀身から雷撃が(ほとばし)った。

 

 「グガウッ!?」

 抜刀と共に走る雷撃に撃たれ、先行していたヒポグリフの体が揺らぐ。

 そのままバランスを崩し、蒼き雷により麻痺した翼では滑空を維持できずに墜落してくる。

 

 空中で叫び声がする。二度の攻撃に、全部で10匹程の魔神族が沸き立ったのだ。

 

 ……そうして、地上へと降り立ってくる。

 そうだろう。弓矢だけならば自分達を脅かす程の脅威ではないと思えたとしても、月花迅雷は無視できまい。

 無視して空を往くならば、幾度となく蒼雷が地上より撃ち抜いてくると思えば、全滅させられる可能性を棄てられないよな!

 

 「総員、戦闘準備!」

 木々の間に隠れていた兵達に向け、団長が指示を飛ばす。そして……

 

 おれとの決闘で扱った鎧は纏わず、当人も森に合わせた短槍を引き抜き、構えた。

 

 「団長、鎧は」

 「前哨戦で使っていては持たない」

 

 ……うん、最もな答えだった。

 基本的に、無限の雷撃を放つ月花迅雷って、半ば夢の無限機関みたいなものでチャージどころか時折放出してやる必要があるレベルだからな。

 魔法も使えないし弓もあまり使わないし刀は脂や血糊をうっすら纏う雷撃が分解するし刃には傷ひとつ付かないおれは、リソースの管理という思考が甘いのかもしれない。

 

 「……レオン、暫くは見に回るぞ」

 「前線に出ないのか?」

 「出ない」

 言いつつ、おれは弓を構え、後方から降り立った魔神達を眺める。

 

 「……おい」

 「月花迅雷を振るえば、此処で彼等は軽く倒せるはず。けれど、それでは出方も戦力も測れない」

 突っ込みを入れたそうなレオンに、おれはそう言いながら矢をつがえる。

 

 本当は誰にも被害を出させないためには今からおれが突っ込むのが一番早い。

 ……だが、そんなことしたら、今は居ないノア姫にまた誰も信じていないと、一人で解決できると先走っていると馬鹿にされるだろう。

 

 それに、アドラー・カラドリウスの動向が気になる。

 だから、此処はあくまでもおれは後方支援。弓矢での攻撃のみに留め、兵を信じる。

 そうして、魔神達の間に、あの雷撃の使い手の存在を感じさせつつ撹乱して、動かす。

 

 「臆するな!いざとなれば幾らでもフォローは効く!」

 そんなゴルド・ランディア騎士団長の言葉と共に、小競り合いは始まった。

 

 そうして、約1/3刻。体感一時間を越える、一日の1/24を経た頃。

 

 ……可怪しい。

 おれは、少し混乱していた。

 

 森を出て、魔神達を追い込む兵士達。本隊から一部兵士が合流し、救援に出てきた魔神族30体を含めた合計40体を追いつめて行く。

 

 本来は良い感じの戦闘推移だ。砦まで戻ろうとする方向を塞ぎ、戦力差は頭数にして5vs1。此方に被害はなく、相手は順調に傷付いていく。

 そう、あまりにも簡単に都合良く推移しすぎている。

 

 こんなに、魔神族は弱いものだったのか?

 そんな筈はあるまい。幾らおれでも、いやおれだからこそ、自分の持つステータスというスペックが如何に今の世界基準でイカれた高さかは解ってる。

 

 魔法関係の数値を除けば、おれのステータスは平均して70近い数値。それは今のこの世界ではあまりにも高い。

 かなり上位の魔物である八咫烏で平均50、おれ達のために戦ってくれた母天狼……即ち神の似姿とされる幻獣で恐らく平均110あるかどうか、作中味方キャラ最強だろう父さんもそれと似たような数値。

 兵士達ならば、平均30前後のステータスが基本だろう。おれの半分以下。計算式上、それこそ全兵士が束になっても物理的な攻撃ではおれ一人に負ける程度のステータスなのだ。

 

 それで幾ら5vs1でもここまで一方的に魔神族を追い込めるものなのか?

 原作ゲームでもモブ兵士が魔神相手に戦ってる話はあったし、実際操作できない味方としてマップに居た事もあったが……彼等は低難易度だとしてもプレイヤーがユニットを操作して助けてやらな蹴れば殺されていた筈。

 ここまでやりあえるなんて、可笑しいのだ。

 

 ……ひょっとして、誘い込んでいるのか?

 

 そう思いながら、兵士を飛び越えるように山なりに矢を射て敵を牽制する。

 

 だが、誘い込んでどうする?範囲攻撃で一気に凪ぎ払う気か?

 

 だが、ゲームでは所謂マップ技……複数人を巻き込む範囲攻撃を使えるエネミーは多くない。

 当たり前だ。マップ攻撃技は複数キャラへ一気にダメージを与える上に、通常の戦闘を行わないから反撃を一切されないという存在そのものがぶっ壊れた攻撃だ。

 そんなもの、そこらの雑魚敵がバンバン使ってきたらゲームの難易度が壊れる。特に男主人公のアルヴィスはガチガチの前衛キャラだからまだ良いが、女主人公は正規でも隠しでも半後衛故にそう耐久性能は高くない。バカスカ雑魚から範囲攻撃飛んで来るゲームとか、聖女が即死するわそんなもの。

 

 ……だから、流石に範囲技を使えるとしてカラドリウスだけだろう。本体の話だが、ゲームでもレイジサイクロンって範囲攻撃持ってたしなあいつ。

 他は……流石に兵士を一気に殺戮できるような技は無いんじゃないか。

 

 ……そう、思って見守る。

 いざとなれば、伝哮雪歌がある。カラドリウスが降り立って攻撃を仕掛けてきたら、即座に斬り込める。

 だから、兵士達の戦いを遠巻きに援護だけして……

 

 遂に、全部隊の1/5が出撃した兵士達が、完全に40体の魔神を囲み、追い込んだ。

 

 其所は、磨き上げられた結晶の乱立する地。何か、反射する鏡のような……

 

 猛烈に嫌な予感がする。いつの間にあんなものが生えてきたんだ?

 

 「もういい、下がれ!」

 

 同時、結晶の真ん中で、朝を告げる鳥の声のような金切り声が響き……

 

 「あ、」

 新たな結晶が10柱、突き立った。

 

 「んなっ!?」

 横でレオンが目を剥く。


 眼前で、人が結晶に変わったのだ、無理もないだろう。

 

 ……そうだ。忘れていた。

 カラドリウス配下で時折出てくる化け物の存在を。ゲームでは、味方が全体的にステータスが高くて無効化しやすいからそこまでの脅威では無かった魔神族。

 だが、今居るのは育ったゲームのメインキャラ達ではない。ならば、脅威そのものな存在。

 

 「コカトリス……っ!」

 

 それが、声を聴かせた者をモノ言わぬ物に変えてしまう、脅威の名だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不審だという意味で使うおかしいは可笑しいではなく可怪しいです 間違いではないんですが小説ならこちらを使うべきかと
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