表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/687

報告、或いはからかい

「……ゴルド団長」

 レオンにプリシラと連絡を取って貰い、許可を取って砦近くの騎士団と合流する。

 

 夜の闇に紛れ、ついでにノア姫とアミュは置いてきた。燃える鬣の愛馬は夜闇でも目立つし、その上でおれ達の中では断トツで(はや)いからだ。

 幾らなんでもあの不可思議な突然生えた結晶砦をガン無視という訳にはいかない。監視偵察を行う誰かは残すべきだ。

 それをエルフ故に夜目が利き、直接的な戦闘力はそこまで高くないが魔法の力には長け、いざとなれば魅了という札もあるし、冷静に素早く逃げることを選べるだろうノア姫に頼んだのだ。

 

 とりあえず、今はまだ動きはないが……何時、敵が動くか分かったものではない。夕暮れに現れて、夜に動くかもしれない。

 

 「レオン、ゼノ皇子。ゴブリン達は?」

 その言葉に肩をすくめ、横でギャウギャウ言っている一人を指で示す。

 

 「一匹だけか」

 「一人でも手を貸してくれるのは蛮勇。本来は全員避難していても良い立場ですから」

 「……まあ、それはその筈だが」

 どことなく納得しきれないような表情で、けれども青年騎士団長はそれを認め、遠くに目をやる。

 

 此処は騎士団の砦……からちょっと離れた陣。

 何か動きがあった時用に、団の一部だけを動かして砦の少し先に陣を敷いたのだろう。

 

 「……エルフの彼女は」

 「偵察です。おれ達の中では一番夜に強いので」

 「……合流は出来るのか」

 その言葉には軽く笑い返す。

 

 「家のアミュを舐められても困ります、団長。

 おれの匂いなら、このくらいの距離ならかぎ分けて辿り着けますよ、彼女」

 犬かと言いたくなる嗅覚だからな、ネオサラブレッド。数十キロ離れたところからでも知ってる匂いはかぎ分けられる。

 

 「なら、良いが……

 本当に想定外の場所に現れたな」

 と、遠い目をしながら青年は呟く。

 「想定外の事態という名の想定内。

 そこからどう動くか、まではおれにも何とも分かりませんが……」

 思っていた場所とは違ったが、やはりあの遺跡内部に封印されていた訳では無いのだろう。

 そもそも、アルヴィナ達もこの辺りから来た訳では無いだろうからな。此処は倭克とはかなり離れているのでナラシンハの活動も無い。

 ついでに言えば此処は元シュヴァリエ領だ。ニュクスがやらかすガルゲニア領とも離れている。

 

 「難しいところだが、どうする、皇子」

 「それをおれに聞きますか?」

 と、おれは団長を見上げる。

 静かな瞳は、砦の方を見据えていた。

 

 「まず、相手の戦力は未知数です」

 レオンがそうだと頷く。

 「砦の中は分からない。おれは……偵察に便利な魔法一つ使えませんからね」

 影に潜めるあのカラスならば偵察に行って帰ってくる事も出来たろう。或いは、頼勇なら熱源探知である程度の数くらい把握できたかもしれない

 そういったものはおれには何も無い。

 

 だが、騎士団の面々にならばそういった魔法の使い手が居るのではないか、結構扱いが難しいが無いわけではない筈だ。そう思っておれはそう言ったのだが……

 「……家には居ないな」

 返ってきたのはそんな言葉だった。

 

 「居ないんですか団長」

 「昔は居たが、どんな魔法もあの遺跡内部を調べることは出来ず、何時しか予算を削られた」

 

 ……ああ、成程。そりゃ魔の封じられた遺跡への対応という名目の騎士団だからな。他国との国境付近で、役にも立たない斥候だの偵察要員だのを沢山抱えている訳にもいかないか。

 幾ら相手国がそう大きくはなくその気になれば捻り潰せる国力差があり、ついでに言えばゲーム中では帝国に併合されるから魔神族の襲撃から助けてというSOSが届いていた筈だが、それはそれとして事を荒立てるのは良くないしな。

 実際、原作のおれが死ぬのだって、壊滅的被害を受けた向こうの国の兵達を逃がすためには誰かが四天王アドラー・カラドリウスを、追撃の指示を出せないよう長期間釘付けにしておかなければいけなかったって事情があるわけだ。

 そして、その時それが出来たのは命懸けだとしても原作のゼノ一人。だから死ぬまで殿を務めたって話になる。

 

 今回は、流石にそこまでの事にはならないと良いんだが……

 

 「……ならば、少し仕掛けてみますか?」

 軽く問い掛ける。


 これは別にどちらでも良い。所謂威力偵察、此方から兵を出して向こうの戦力と出方を伺うのは意味はあるが危険もある。

 向こうが何しに現れたのか分からない以上、無闇に攻める必要はない。

 

 そもそも、強力な魔神族はまだ封じられたままの筈。姿を見せるだろうアドラー・カラドリウスはアルヴィナが作った影だ。

 おれの目の前で砕けたアルヴィナ……は無理矢理本来の力を出した結果の強制的なタイムアップだがそれはそれとして、製作者であり修繕が可能であろうアルヴィナが既にこの世界に居なくなっている以上、誰もあの影が壊れていくのを止められない。


 時間を稼げば勝手に四天王はそのうち影の体の限界が来てああして砕ける。

 

 「仕掛けないのか」

 「団長、しばらく前に話したように、おれは師匠と共に彼等と戦った事があります」

 「それとこれとの関係は?」

 「その時対峙したうちの一人がおれが一週間前に感じた気配。

 そして、彼等は本体ではない分身のようなものでした。本体に影響はない、作られた体」

 

 静かに聞かれているのを感じつつ、おれは続けた。

 「彼等四天王の影を産み出した術者は……この眼の傷を追った戦いで、この世界から姿を消しました」

 優しく左目の傷痕をなぞる。

 

 あの時、全てを懸けておれ達を護ってくれたアルヴィナを忘れないように。

 何時か敵として戦うとしても、おれはあの事を忘れない。

 

 「つまり、主の無いゴーレムのようなものだと?」

 その青年の言葉に頷く。

 「はい。あれから一年半。予想では、向こうにはそう時間が残されていない」

 「どれくらい?」

 と、聞いてきたのは団長の側に居たプリシラだ。

 

 「それを知ってたら具体的な時間を言ってるよ」

 「……ぶー」

 ぽつりと不満を溢すプリシラ。

 けれども納得したようにレオンが仕方ないなと言うと、それに合わせたのか言葉の矛を収める。

 

 「とりあえず、砦を築く事で長期戦を仕掛けるように見せ掛けて、恐らくはそう遠くない頃に電撃的に決戦を仕掛けてくる筈。

 それを考慮して、行動を」

 

 「……暫く、昼夜問わず見張りを置く。

 それだけだ」

 少しだけ考えた末、騎士団が出した答えはほぼ静観だった。

 「あとは、魔神族が本当に攻めてきたという騎士団長直々の証言をもって救援を要請する」

 

 あ、そうか。とおれはぽんと手を打った。

 おれ自身はこの戦力で何とかしないとと思っていたんだが、ここまで魔神族が大々的に動いているなら皇の名を持つ騎士団への協力くらい仰げるわな。

 ゲーム本編以前のこの時間軸なら、散発的な魔神族の襲撃により騎士団は担当区域を離れられない……なんて話もないし。

 アイリスに伝令してそれで満足してたが駄目じゃないかおれ。ノア姫にも言われたように、もっと他人を信じて頼らないと。

 割と難しいな。頼勇はゲームでも散々頼ったし、おれ自身憧れてたから頼りやすいんだが……

 

 「良い手ですね、団長」

 そうして、思う。

 時間的にカラドリウスが動くまでに救援は間に合うだろうか。

 幾ら何でもここから都まで届く連絡の魔法を使える人は居ない。だから、手紙を送るのだが……

 

 といっても、アルヴィナがあんな危険地帯と分かっていた場所に来たように、魔神族の上下関係はかなり明確だ。

 あとは、ゲームでの話だが……マップの勝利条件は大半がボスの撃破。敵の全滅が条件のマップはボスが居ないことが多く、上位者の魔神が居るマップはそれを倒せば大概は雑魚が残っていても勝ちになる。

 つまり、おれがカラドリウスを何とか出来れば残された魔神は組織だって動くことは暫くは無くなり、時間は稼げるだろう。

 

 と、その時ふと思い出したことがあった

 「ノア姫なら」

 「……あら、何?」

 と、横からその当人(当エルフ……いや当人で良いか)が顔を見せた。

 

 「ノア姫。昔、転移の魔法を使っていたけど、それで王都に飛べないか?」

 そう、思い出したのはあの日おれが贈った大量の魔法書と共に転移したノア姫の姿。

 あれが出来ればアミュの全速力より速いが……

 「無理ね」

 ばっさりと切られた。

 

 「あの時は(あに)さ……サルースに飛ばされたの。だから間に合った」

 咎云々故か、少し微妙な顔で呼び捨てに言い直しつつ少女は肩を竦めた。

 

 「彼なら昔の縁で王都まで誰かを飛ばせるかもしれないけど、ワタシは無理よ」

 「でも、自分で転移をしてなかったか?」

 「したわよ。でも、あれはワタシの故郷に戻る魔法なの。残念ながら、何処からでも故郷に帰る事しか出来ないわ」

 

 その紅の瞳がおれをふと見上げた。

 「そうね。アナタと結婚でもすれば、アナタにとっての故郷がワタシの第二の故郷にもなるかもしれないわね」

 が、すぐに目線は逸らされる。

 

 「馬鹿馬鹿しい話よ、忘れて。

 そもそも、アナタにとって故郷はあそこじゃなさそうだもの、不可能な想定ね」

 

 仕方ないと頷いて、おれは愛馬の首を軽く撫でる。

 

 「なら、俺は?」

 と、空気を和ませようとしたのか、レオンは突然そんな事を言い出して……

 「って冗談、冗談だって」

 一瞬顔から表情が抜け落ちたプリシラを見て、即刻取り消していた。

 

 「なら、僕が」

 更には便乗してノア姫親衛隊みたいになっていた新米兵士が立候補。

 ……いや、何か話ずれてってないか?


 「悪いけど、家族の故郷であればワタシの故郷とも思えるから飛べる可能性はあるというだけよ。

 エルフは、この灰かぶり皇子(サンドリヨン)から非売品の恩を買ったのよ。二度もね。

 だから特例も特例よ。普通人間を家族と思う心構えなんて無理、成立しないわ。釣り合わないもの」

 ……話はそれたが、どうやら飛べないみたいだということは分かった。

 

 「ノア姫。ならば頼む。

 おれとノア姫しか、アミュはそう馴れていない。だからノア姫にしか出来ないんだ。

 アミュと共に伝令として駆けてくれないか。魔神襲来の話を、父さんに通して欲しい。エルフの姫なら、きっと聞いてくれる」

 

 大丈夫ですよね、団長?とおれは振り返り……呆れた顔で見返された。

 「団長?」

 「いや、それは良いが、姫君はまず何かあったから来たんだろう」

 と、じとっとした眼のレオン。

 

 「……ええ、見事に余計な話に乗せられたわね。

 伝令は分かったわ。体よくワタシを遠ざけようという事ならば断るわよ。あくまでも同盟関係、嫌なものに従う気はないもの。

 でも、ワタシしか出来ないという事ならやってあげる」

 

 エルフの少女は、得意気に顔を綻ばせ、

 「あとね、恐らく遺跡側に向けて、明け方には魔神達が動きそうよ。それを言いに来たの」

 と告げると、淡い金の光を揺らし、白馬と共に駆けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ