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砦、或いは結晶

「レオン、大丈夫か?」

 あまり物を食べていない乳母兄に、ふとおれは問い掛ける。

 

 「……獣臭い」

 「まあ、ゴブリンって食べ物は生か焼くか香草振り掛けて焼くかが大半だからな……」

 おれに比べて、臭みのある肉に慣れてないんだろうな、レオン。

 

 一方その頃ノア姫はというと、エルフという高貴なイメージとは裏腹に、上品に小さく切り分けてはいるものの臭みの強い鹿のような魔物の肉を、食べられる葉の草でくるんで頬張っていた。

 

 此処はゴブリン集落。

 魔法が使えてプリシラと話せる魔道具も持っている(ちなみにおれは使えないし使えても王都は遠すぎるのでアイリスと話したくても意味がない)レオンを連絡役に、ここ一週間かけて3ヶ所避難場所を見繕い、そして有事には避難するようにという練習をしたところだ。

 その為、レオンにもゴブリンのもてなしはあったんだが、どうにも慣れないようだ。

 

 ……一応皇族のおれが野生を狩ってきたのをそのままその場で解体して獣臭いまま食べることに慣れていて、従者が慣れてないとはこれ如何に。

 いや、レオン達を蔑ろにしてきたおれのせいなんだけどな。

 

 「ノア姫は、思ったより肉食べるよな」

 「エルフは果物しか食べない印象でもあったのかしら?」

 悪戯っぽく珍しく柔らかな微笑を浮かべ、木のナイフで器用に肉を切り分ける手を止めて少女はおれを見上げた。

 

 「そうじゃないけど」

 「人間の中では菜食主義者として良く書かれてるわよね。

 エルフとの恋愛物語郡、あの都合の良い空想譚でも、エルフは弓を扱い肉を食べないのが基本系」

 

 「……プリシラの読んでた本でもそうだった」

 と、レオン。

 

 「でもね。肉も果物も同じ命よ。生きるために戴く事に変わりはないの」

 小さくした肉の破片を、行儀良く口に含み……

 食べながら話すのは行儀が悪いと飲み込んでから、エルフの少女は言葉を続ける。


 「だから、本来のエルフは肉も食べるわよ。

 菜食主義の方が所詮は全部空想というのが際立って人に都合良く描かれていてもバカにされた気がしないから、空想エルフは果物だけで生活する定番を続けて欲しいものね」

 

 と、不意におれの耳が不可思議な音を捉える。

 何かが砕けるような音。

 アルヴィナと居た時に聞こえたような音。

 

 どうしてそれに気がついたのかは分からない。

 左目が疼いたような気がして、それが本当に何らかの魔神関連の気配を感じての事だったのか、それとも勘違いか、それすらも不明。

 

 ただ、何かに突き動かされて見上げた空に……

 色がない場所があった。


 今は夜になりかけたところ。東と西に二つの太陽が沈まんとしていて、夕焼けのような黄昏色の空が拡がっているはずだったのだ。

 その最中に、まるで見ている空が天井に描かれた絵で、一ヶ所だけ天井が割れて地が見えているかのように……空が割れ、色の無い不可思議なものが見える。

 

 そして……風が吹く。

 割れた空が何者かに修繕されるように戻り行く最中、色の無い空から何かが嵐と共に地上に降りていくのが見えた。

 

 「ノア姫、レオン!」

 「……ゼノ?」

 「……御免なさい、見逃したわ。

 もう少し早くに気が付ければ良かったのだけれどもね。何があったのかしら?」

 「……あ、悪い」

 見かけたはいいが、それを共有するのを忘れていた。一人で眺めてるだけじゃ駄目だったな。

 

 「兎に角だ。

 来た。予想通りに……此処から砦方向!」

 遺跡付近に現れるとは限らないという話は、ゴルド団長とも交わしていた。故に、想定より近くに降り立たれたとしても不意をうたれるような事はないとは思うが……どうなるか。

 「とりあえず、ゴブリン達!避難だ!

 今回は訓練でもリハーサルでもない!」

 「ギャギャウ!」

 

 そうして、ゴブリン達を遺跡付近の避難場所に誘導し、おれは森を抜ける。

 

 「……見事に分断されたわね」

 「だな」

 連れてきている愛馬に乗せられたノア姫が、アミュの背中でぽつりと呟くのに同意した。

 

 遺跡付近の森と、平原に築かれた砦。その間に布陣するように、不可思議な何かが現れていた。

 それは……結晶で作られた砦のようなもの。

 

 ああ、そういえば原作のステージでも結晶の王座とか色々結晶云々の場所があったな。あれ、その場で作られてるものだったのか。

 

 「それで、どうするのかしら?

 ワタシと二人……じゃないわね」

 と、エルフの姫は馬上から周囲を見渡すと、ぽつりと言った。

 

 「ニンゲン!ツイテク!」

 そう、ゴブリンである。


 一人だけ……ゴブリン随一の弓の名手だというゴブリンがおれに着いてきていたのだ。

 ……ゴブリンは割と非力である。子供のような身長にしては力は強いのだが、子供に毛が生えたくらい。レベルによってもそうステータスが激増する訳ではなく、大体同レベル帯の人間より一回り低いステータスになる。

 そんなゴブリンの弓の名手が、どれくらいなのかは良く分からないが……まあ、総出で手伝うとか言われなくて助かったな。

 

 「……三人で突撃する?」

 試すような瞳。

 おれは、それに対していや?と首を横に振った。

 

 「どれだけの戦力がいるか分かったものじゃないし、観察しながら団長等と合流するよ。

 ゴブリン達の避難場所は遺跡を越えた先、たとえ目的が遺跡だったとしてもかち合う事はないし……」

 と、おれは結晶の砦を見る。

 

 「砦を築くってことは、暫くこの辺りを拠点にする筈。その間に叩くさ」

 少しだけ後ろめたさはある。

 だが、おれは皇子だ。民を護る。

 

 それが、アルヴィナ達と敵対することだとしても。おれは皆を護る。

 

 だから、何時でも来い、アドラー・カラドリウス。

 

 そんなことを、おれは尖った砦の四隅の塔を見ながら思っていた。

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