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決闘、或いは電光石火

決闘の開始と同時、突きこまれる槍をバックステップで大きく距離を取ることで回避。

 

 息を吐いて刀を鞘に納め、おれは相手を見る。

 「いきなり降伏か、忌み子皇子」

 と、挑発的に槍を大きく振り、青年騎士団長はそんなことを言った。

 

 勿論、そんな訳はない。

 「おれはレオンと同じ流派。一撃で戦いの流れを掴みきる……抜刀術の使い手。

 刀を抜いたままの方が無礼なだけです、ゴルド団長」

 

 刀というものは本来は案外脆いものだ。月花迅雷は兎も角、今の刀は下手に使えば即座に折れる。

 相手のステータスを測るために打ち合わせるなどもっての他だろう。

 

 さて、どうするか……

 そう思いながら、おれは年の離れたレオンの従兄を見る。

 鑑定眼とかそういった便利なもの……というか、敵のステータスが普通に分かるゲーム的な性質があれば良かったんだけど、残念ながらおれには無い。

 だが、分かることはある。

 

 騎士団長の条件は上級職レベル5以上。人を越えた超人に達した器を持ち、更にそこからマナを取り込みレベルを上げ、一つ以上の奥義スキルを持つものだけが、騎士団の長として認められる。

 そこから、最低限これくらいは強いという範囲は見て分かるのだ。

 

 「逃げるだけか?」

 「攻め手は基本一撃。無闇に振るわないのが、おれなので」

 横凪に振るわれる槍をやはり飛び下がって避けながら、おれは言う。

 

 何かブーイングが飛んできた。


 真面目にやれとか、兵士ががやがやとやっている。

 「はっ!逃げ腰とは、傷だらけの忌み子らしい

 その眼の傷も逃げ傷か?」

 「……そうだよ」

 

 「ならばよぉっ!」

 大振りに振るわれる槍。大上段から振り下ろされる、しなる一撃。

 「そこだぁっ!」

 抜刀一閃。狙いは違わず。

 見極めやすく、一拍の隙があり、軌道を変えにくいソレを受けて、おれは刃を振るい……案外軽い感触と共に槍の穂先を撥ね飛ばした。

 

 「っらぁっ!」

 そのまま、身体能力にものを言わせたオーバーヘッド。おれへと叩き付ける力のベクトルを大きくズラされて空へと回転して舞い上がる槍先を蹴る。

 流星のごとく落ちた槍先は、青年の横の地面に埋め込まれて止まった。

 

 ……やっぱり蹴り慣れてないと当たらないな!

 

 「……くっ!」

 「まだ続けるよな、団長?」

 刀を鞘に納め、おれはそう呟く。

 訓練用の槍は斬り飛ばしたが、それで終わるようなら決闘なんて乗ってこないだろう。

 

 果たして……

 

 「鎧装!」

 青年の叫びと共に、ダークグリーンを基調とした騎士服の周囲に、輝く魔力の鎧が現れ……即座に装着された。

 

 成程、魔鎧騎士だったか、とおれは一人思う。

 

 魔鎧騎士。上級職の一つだ。エッケハルトとかがなれる職で、特徴としてはMPを継続的に消費する代わりに全体的にステータスが上がる鎧を身に纏う【鎧装】の奥義を持つこと。

 ゲーム的に言えば、MPを使うが全ステータスが自身の【魔力】の2割上昇する奥義が使える訳だな。

 ステータス1.2倍とか、SRPGではバカみたいに強いに決まってる。まあ、魔鎧騎士自体は【魔力】が魔法職に比べたら成長率悪くてそこまでは強くはないんだが。

 

 「【鎧槍】の力を見せてやるよ、忌み子。

 流石に仮にも皇子。訓練用の槍は礼儀に欠けていたようだからな!」

 輝く鎧はエメラルドのような光を放つ。

 魔鎧騎士の鎧は当人の魔力が形になったもの。消費MPはバカにならないというか、確か発動に20で維持が毎ターン10……だけどそこは良いか。

 当人の魔力が鎧になっている以上、髪や瞳のように魔力属性が透けて見えるのだ。

 

 エメラルドのようなグリーンということは、レオンと同じ風属性。

 月花迅雷があれば相性は良い方なんだが……無い場合はちょっと相性悪いな。

 

 「此方も、舐めすぎていたようだ!」

 一拍ズラしての踏み込み。

 なまくらでも真剣だ。騎士服の青年に向けて振ることには躊躇があったが、鎧装出来ているならば、気にすることはない!

 

 おれの出せる全力で青年の横を駆け抜けて、鞘走らせる勢いのまま回転するように横凪に背後を斬り払う。

 相手は雑魚ではない。だが、おれより格上でもない。だからこその師から習った不意を突く小手先の技だ。

 

 「っ!てめっ!」

 ガギン、と鈍い音。魔力が硬質化した鎧と同じ色の槍が、ギリギリで振るわれる刃を受け止めていた。

 

 「っ!らあっ!」

 だが、流石におれとて斬れるとは思っていない。受けるために相手は両足で踏ん張るが、おれは無理矢理右足だけを軸に回転している。

 

 ならば、足ががら空き!

 そのまま左足での追撃足払い。

 

 「足癖が悪い!」

 が、それを中断し、おれは軌道を変えて地面を蹴って距離を取る。

 今の今までおれが居た場所に、青年騎士団長の鎧の背にある棘から分離した小型の槍が突き刺さった。

 

 魔鎧の機能の一つだ。自動迎撃。

 鎧によっては持ってない事もあるが、流石は騎士団長といったところ。

 

 「避けたか」

 「当たれば痛いからな!」

 さて、と距離を取り、思う。

 

 正直な話、魔鎧騎士は強いが……消費MP的に長期戦は難しく、ついでに魔法も使いにくい。何たって、魔力を自分が纏っているから暴発しやすいのだ。

 ゲーム的には危険だからと【鎧装】中は使えなくなってたっけか。

 

 なら、時間切れまでこうして戯れるのもそれで勝てはする手だ。

 だが、それで良いのか?

 

 良いわけがない。

 

 「此方から行かせて貰うぞ、皇子!」

 鎧の属性は風。風を纏い、青年が槍を構えて突貫する。

 

 だが、

 「……雪那」

 魂の刃は、その全てを無視する。どんな鎧も、おれのようなステータスによる異様な頑健さも、あらゆるものが効かぬ朧の一刀。

 

 「あぐっがぁっ!」

 心臓を貫かれたような錯覚が、彼には走ったろう。

 おれも、修得しろという時に師匠に同じ目に逢わされた。

 

 青年の意識は乱れるが、鎧はそのまま。迎撃に棘が蠢く。

 しかし、遅い!

 

 「……おれの勝ちで良いですか、団長」

 それが発射される前に、青年の首筋に刃を当てて、おれはそう訪ねた。

 

 「……まだ、だ!」

 

 ……上等!

 

 放たれる棘を避け、おれは左にステップして距離を取る。おれが左手に鞘をもって抜刀する関係で、左側の方が手薄になりがちなのをカバーする。

 

 あのまま刃を振るっても、正直止めは刺せない。刺す気だって無いが。

 勢いの無い刀に脅威はない。レオンの従兄だけあって良く分かっている。

 

 「……やるな、忌み子の割には!」

 「いい加減、認めてくれませんかね?」

 「……いや、まだだ!」

 その言葉に、おれはにやりと笑う。

 

 「ならば、とことんまで付き合おうじゃないか、団長!」

 

 そうして、暫し打ち合った後。

 不意に距離を取ったゴルド団長は、徐におれから目線を外し、ノア姫の方を見た。

 

 「エルフの姫よ。

 皇子にあの刀を持て」

 

 は?

 

 「流石に舐めきられた態度だな、ゴルド団長」

 おれは、突然のその言葉に抗議する。

 「……認めよう皇子。

 確かに忌み子ながら、強さはある。

 

 ならば!本当に我が従弟に渡すべきではないのか。その真髄を見せてみろ!」

 「ノア姫!」

 「ええ、そういうことなら」

 

 少女が杖を振るとおれへ向けた光の帯が現れ、それを通るように愛刀が投げ渡される。

 

 それを空中で受け取って抜刀。刃を持ち上げ、突きの型へ。

 

 「伝!哮!」

 鞘に納まっている間にも溢れる月花迅雷の雷撃を、溜め込まれたそれを……解放する!

 

 「雪!歌ァッ!」

 青、桜、そして赤。三色の雷撃が迸る、歌う閃光。雷に乗り放つ、音を越えた雷速の一突き。

 

 迅雷抜翔断の初撃に通ずるかの奥義の名を、伝哮雪歌(でんこうせっか)

 

 「団長、分かって貰えましたか?」

 おれの言葉に、鎧装が迸る雷光の余波で砕けた青年は、静かに手にした折れた槍を捨てた。

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