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抗議、或いは宣誓

「……夜も朝も居ないから逃げたと思っていたぞ、忌み子皇子」

 「逃げないために、そうしていただけです、ゴルド団長」

 

 そうして、翌日、龍の刻の始め。二つの太陽がほぼ重なる正午。

 おれは、此方を見下ろす青年の前に立ち、訓練場である中庭で騎士団の騎士達……というか兵士達に囲まれていた。

 

 ちなみに、騎士と兵士の差は爵位。騎士は元々爵位があるか、或いは騎士として与えられたかどちらかの貴族であり、兵士は違う。

 

 例えば、ゴルド団長はランディア子爵家の出だが子爵位は持たない。だが、本人は騎士として準男爵の位を持つから騎士。

 レオンも実はおれの乳母兄としてランディア子爵は継がないが準男爵の地位を持つので理論上は騎士。おれは皇族なので騎士という訳だ。

 

 騎士団と言っても、所属するのは騎士ばかりではないんだよな。皇龍騎士団や皇狼騎士団とかレベルまで行くと騎士だらけなんだけど、兵は置いておきたい、くらいの辺境の騎士団ともなれば団長副団長くらいまでしか騎士じゃなかったりする。

 

 頼勇?エルフ達との友好等への多大なる貢献を加味してとかアイリス名義でおれが適当言ってた結果タテガミ準男爵になったから騎士だ。

 

 「……刀はどうした」

 おれの腰に差されたのが銀色の鞘に収まった狼頭の柄を持つ神器ではない事を目敏く見付け、騎士団長は不満げに鼻を鳴らす。

 

 「これはおれと貴方の決闘。おれにとっては、忌み子でも皇子、あまり蔑ろにしないで貰おうという意志を押し通す為のものです。

 月花迅雷を抜けば、それは果たせない。例えどれだけ貴方を圧倒しても、それはあの刀の力によるものというケチが付く」

 「……舐められてるな」

 

 「あんまりゴルド兄を舐めるなよゼノ」

 と、レオン。

 その横にはいつも通りのプリシラも立っていて、その姿を見て、可笑しそうにノア姫が笑う。

 

 「……ノア姫?」

 「あれアナタのメイドじゃなくて、そこの剣士のメイドだったのね。

 アナタからは自分付きと聞いていたのだけれど」

 

 いや何言ってるんだろうなこのエルフの姫。

 「いや、プリシラは家のメイドだよ」

 「……そう。言いたいことはあるけれど、後で言うわ。

 今はアナタを邪魔する気にはなれないもの」

 一度だけレオンとプリシラの幼馴染二人を馬鹿にするように見、エルフの姫はおれが預けた神器を使わないそうよと鞘のままこれみよがしに周囲に見せ付ける。

 

 そして一人踵を返すとあらかじめ用意しておいたクッション重ねて一段高くした椅子に腰かけた。

 兵士達が各々座って観戦した時に、ニホンの感覚で12~3頃の少女(今のアナくらい)姿のエルフが、問題なく後方の席から見れるような形だ。

 用意はおれとノア姫。

 

 「……あの刀は業物だ」

 「エルヴィス兄上に託された新・哮雷の剣を鍛造するにあたって試作された疑似神器ですからね」

 と、おれは事実とは逆のカバーストーリーを語る。

 父から、お前なら多分心配ないが此方が本物だとそうそう語るなよ?と口止めされ、それっぽい話を作ってあるのだ。

 

 「それを使わず勝つと?随分と強気だ」

 「おれは、皇族ですからね」

 それで十分、とおれは普通の刀の柄を叩いてそう告げた。

 

 今回使うのは業物でも何でもない。月花迅雷がある以上、今のおれに最早業物の刀なんて要らない。

 だからこその、あの神器を抜くべきではない鍛練の際等に使う安物だ。

 新米職人が練習で鍛えたという一振。後の巨匠……となるかは兎も角、出来はまだまだ悪い。

 

 「そもそもだ。あの刀を貴様が持つ必然性があるのか?」

 と、対峙した青年騎士団長はおれに問い掛けてきた。

 

 「家のレオンも刀の使い手だ。レオンが持っているべきだと思うことは無いのか?」

 「……確かに」

 と、おれは一つ頷く。

 

 「おれが持っているよりも、レオンが持っていた方が役立つ場面はそれなりにあるでしょう。総合的には、そちらの方が戦力は上になると思います」

 「なら渡せば?」 

 と、プリシラ。

 

 「だが!

 月花迅雷の無いおれの強さは貴方より少し上。貴方が勝てない何かが出てきた時、その場合おれも勝てません」

 

 一息置いて、おれは続ける。

 「おれは皇子だ。おれは、民を護る最強の剣であり盾でなければならない。

 予言の如く魔神が復活したりといった災厄が起きた時、もしもレオンに渡していたら。おれは皇族の使命を果たせない」

 「その時返せば問題ないだろ?」

 厄介そうにレオンは言う。

 

 実際その通りではあるんだが……

 

 「何時起きるかも分からない。返される保証もない。いや、違うか。

 返そうと思っても、近くに居るとは限らない」

 レオンは押し黙る。

 

 「だから、渡せません。普段は明らかにおれが持って過剰戦力にするよりもレオンの手元にあるべきであっても。

 本当に必要な時に、おれが振るえるように」

 「……ならば」

 

 と、団長は呟く。

 「この決闘。そのゲッカジンライを賭けろ。

 大きく出た以上、負ける奴には必要あるまい」

 

 一つ、おれは頷く。

 「分かりました、ゴルド団長。

 互いに対等な条件で最強の剣たれないならば、おれが語る論理は破綻していますから」

 ノア姫に睨まれて、おれは続ける。

 

 「但し、おれが勝ったなら、その時は……

 レオン達の給与を、貴殿方が接収しているおれの皇族としての資金から出せるように。

 忌み子特例として停止している皇族としての権利を復活させて貰います」

 

 「……言うじゃないか」

 「流石に、毎月アイリスから借りる訳にもいかないので」

 

 「……アイリス殿下に間違いを突き付けよう」

 おれに向けて槍の尖端を向けて、騎士団長は叫ぶ。

 

 さてはアイリスから抗議のお手紙辺りを貰ったな?

 だから、これ幸いとおれの挑発に乗ったのか。

 

 忌み子の扱いは正しい、と。幾ら皇族だろうが所詮は忌み子として、下手におれに従わされることのないように。

 

 それを咎める気はない。普通ならそれでも良い。

 けれど、そうではいけない理由が此処にある。だから、咎めさせて貰う。

 

 「……我、帝国第七皇子ゼノ」

 「我、帝国境槍騎士団団長、ゴルド・ランディア準男爵」

 

 唱えるのは決闘の作法。

 互いに武器を合わせて、呟く。

 

 「我が罪を背負う蒼き雷刃の名にかけて」

 「兄としての誇りにかけて」

 

 「我が妹アイリスの名の元に」

 「我が敬愛するルディウス殿下の名の元に」

 

 「皇子たる由縁を顕す事を」

 「我が家族への愚弄者を裁くことを」

 

 「父シグルドと我が罪、そして見守る天ティアミシュタル=アラスティルに誓う!」

 「雷纏う王狼に誓約する!」

 響く団長の言葉に、魔名は無く。

 

 決闘は此処に開始した。

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