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決闘、或いは約束

そうして、二週間。

 

 暫く周囲をコボルドやゴブリンと共に探ってはみたものの……特に収穫はない。

 あのヒポグリフが偵察であれば次のが出てくるかとは思ったのだが、そんな気配は微塵も感じず。ただ、時だけが過ぎていく。

 

 ヒポグリフが倒された事で警戒をしているのか、それとも……アレは何らかの理由ではぐれただけで、カラドリウスとの戦いなんて本当は無いのか。

 それすらも判別がつかない。

 

 そんな事を考えつつ、今日も今日とて月花迅雷を振って感覚を研ぎ澄ましたり、遺跡の周囲を散策する日を過ごす。

 

 もしかしたら……と、一人思う。

 アルヴィナのことを覚えているのは父とおれだけで。ノア姫に相談しても誰よそれと返されるのがオチで、アナやアステールとはもう縁を切るべきだから今更言葉は交わせない。

 だから、一人で思うしかなくて。

 

 一人の思考の堂々巡りの中、一つの仮説を立てる。

 "暴嵐"の四天王アドラー・カラドリウスは、魔神王テネーブルの友人であり、そしてスコール・ニクスに憧れを抱いていた魔神だ。

 ならば、だ。友人の妹で、憧れの狼の……娘?いや孫娘か?であるだろうアルヴィナへも何らかの特別な想いを抱いていても可笑しくはないだろう。

 そのアルヴィナへの感情が、アルヴィナに関係するおれへの怒りや怨みに繋がり、原作ゲームでは原作第二部で初対面のおれを執拗に狙ってくる。そんな仮説。

 

 いや、なら何でティアも優先的に狙うのかとか、そもそも原作ゲームでは魔神王の妹とおれの間に何もないだろうとか、幾つかの矛盾点が産まれてしまうから無いか。

 

 「……ふぅ。

 まだまだ駄目だな……」

 と、おれは刃を鞘に戻して一息吐く。

 月花迅雷は長く持っていると自分の罪に押し潰されそうで。ついでに火力が高すぎるため今は使わず、予備の刀を振っている。

 

 そして、置いてある師匠からの巻物を一つ確認する。

 内容は雪那の上位技、雪那月華閃の指南書である。四天王の影、そしてルートヴィヒ等。魂への刃が効くかもしれない相手に対し単純火力の奥義である迅雷抜翔断よりも恐らく役立つだろう。

 故に、その奥義の修得に勤しんでいるのだが……

 

 やはりというか、これが中々上手く行かない。

 基礎は分かっていたとして、それでたった2週間で覚えられるなら奥義スキルなんて誰でも使えるわな。

 

 と、不意に視線を感じておれは書面から顔を上げた。

 

 「ん?ノア姫……ではなく、ゴルド団長」

 おれを見下ろすのは、この騎士団の最高権力者であった。

 

 「団長。何か御用でしょうか」

 「忌み子皇子。

 我が従弟等への態度を聞かせて貰った」

 「レオン達へですか?最低限の対応は忘れていないとは思うのですが」

 給与もアイリスから借りて払うようにしたしな。

 

 妹のあまり変わらない表情に大きな呆れが浮かぶのが目に見えるようだが、それでもきっと貸してくれるだろう。

 

 衣食住が騎士団から出る為別枠、三人合わせて税金免除の月40ディンギル。大体大貴族に仕える執事等の月給が平均すると80ディンギルとか言われてるから、おれ個人の筆頭執事一家+乳母兄に払う額としてはかなり低いんだが……

 というか、本来なら合わせて250とかなんだけど、税金免除とか衣食住が騎士団持ちとかあるから許してくれ。

 

 ……そもそも、プリシラがおれ付きのメイドとしての仕事を最後に果たしたの何時だろう……って話にもなるしな!

 いや本気で。あいつここ数年おれが初等部で暮らしてたこともあっておれのベッドを勝手に引き取ってそこで寝てたとか、珍しく部屋に帰ったら劇を見に行ってたとかそんなんばっかだな……

 主人が帰ってくるタイミングで何時もバカンスへ行っている、主人がほぼ帰らないから主人のものを私物化してるメイドとはこれ如何に。

 何なら元・おれのベッドの掛布団とかプリシラの私物としてこの辺境に持ち込まれてるし。

 

 まあ良いか。

 メイドに舐められるのも、執事や乳母兄がそれを止めないのも、おれが情けない忌み子だからだろう。認めさせられないおれが悪い。

 でも給与は下げさせて貰うぞプリシラ。おれも金がないから。

 

 「給与も出すし、特に命令も何も無し。

 それに問題があるのでしょうか、ゴルド団長」

 「大有りだ!」

 

 そんな叫びに、おれは首をかしげる。

 いや、あそこはおれとプリシラ達の契約関係な訳で、端から安すぎるとか口を出されても困るんだが……

 

 「可愛い従弟とその親しい一家を、差別しているようじゃないか」

 冷たい瞳がおれを見下ろす。

 「おれに差別している気はありません、団長」

 「どの口が」

 

 と、伸ばされる手。

 大の大人がおれの手の中の書物に伸ばすそれを、おれは後ろ手に巻物を隠すことで避けて、相手を見上げる。

 

 「……ゴルド団長」

 「例えば、それだ。同じ時に入門したという弟子でありながら、忌み子なお前だけが妙に優遇されているそうじゃないか」

 

 「師匠はそもそも父がおれに付けてくれた刀の師。レオンはおまけみたいなものなので」

 「……それでも、差が酷いと聞いた。

 忌み子皇子よ。一人だけ修業に付き合って貰ったりしているそうではないか」

 ……いや、天空山の時にアステールと頼勇を誘っておいてレオンを無視したのは不味かったかなーとは思ってたんだ。

 

 レオンのステータスは原作の初期値から考えて天空山に行くには危険な気もしたから結局頼勇にしたけどさ。

 アステール?もっと危険だけど彼女には景色という付いてきて貰うだけの理由があった。

 

 「確かにそうですが、おれは仮にも皇子です。多少の優遇は地位の差として認めてくれませんか?」

 その言葉に、はっ!と騎士団の長はバカにしたような声をあげた。

 

 「鏡を見てから言ってくれないか?

 その顔で?醜い隻眼が?皇子?

 

 馬鹿馬鹿しい。血筋は皇族かもしれないが、そんな傷痕持ちが皇子を名乗るとは」

 

 まあ、その通りかとおれも頷く。

 

 基本的に高位貴族って傷一つ無い人だらけだからな。それが地位の象徴みたいなものだし。

 傷だらけの指揮官ってニホンの感覚だとそんな違和感がないけれど、この世界では自分の傷すら治せない貧乏野郎って形であまり歓迎されない。

 

 だから、まあ、分からないでもない。

 

 「……おれは忌み子なので。理解していただくしか」

 「……そもそも、片目を喪うような者が、本当に民の剣と嘯けるような実力があるのか、怪しいものだ」

 「……ならば、戦いますか?」

 「ほう」

 と、ゴルド団長の唇がつり上がる。

 

 「忌み子皇子。面白いことを言う。

 10歳だったか?そんなガキが、騎士団長に勝てると?」

 「勝てる、と思いますが?」

 少なくとも、ステータス面では魔法関連以外は同等くらいはある……だろう。

 

 辺境を任されてる騎士団長とはいえ、爵位は準男爵。

 つまりは一代貴族だ。功績や実力で正式な子孫に受け継がれるだけの爵位を貰っている訳ではない。

 

 そのレベルならば、騎士団長といえ、勝てない道理は無い。

 というか、おれが月花迅雷込みで勝てないと思える騎士団長は、皇+七天の名を冠した7つの騎士団の長ぐらい。特に、勝ち目がないと思えるのは皇狼騎士団長のルディウス殿下……つまりおれの兄である第四皇子だけだ。

 

 その7人以外の騎士団長ならば、正直な話1vs1なら勝てる。

 

 新設のあそこ?竪神頼勇+LI-OHの時点で厳しく、LIO-HX相手だと勝ち目はほぼ無いが、頼勇は副団長であって団長じゃないからな。

 いや、それも辞めたんだっけ?ガイストが騎士団に入ってくれる事になったので、流石に公爵家に相応の地位を渡してその下に行くべきだとかとかで。最近手紙で見た覚えがある。

 ガイストが手を貸してくれるのは嬉しい事なんで、そこは良い。

 

 「……言うな、忌み子皇子」

 「言いますよ、おれも皇族の一員ですから」

 

 その言葉に、青年騎士団長は、ニヤリと頷いた。

 

 「では、決闘だ、忌み子皇子」

 「日時は?」

 「明日、龍の刻の始めに、この場で」

 「了解しました、ゴルド団長」

 そう頷きながら、おれは……

 

 やけに積極的に決闘しにくるなーなんて思っていた。

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