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策略、或いは狐娘

散る7色の花びら。

 突然敷かれる赤い魔物素材のカーペット。それは貴人を出迎える為のもので……王城でも使われているのと同素材。

 

 それが、馬車の扉にまで伸びて……同時、ラッパの音がする。

 いや、この世界的に言えばラッパじゃないんだけど、大きな音を立てる吹奏楽器の音だ。

 聖なる歌(龍姫の伝えたというものなので、おれが良く良く知ってるアニソンだ。何やってるんですか龍姫)をオーケストラで演奏する最中、教会の門が開く。

 

 其所に立つのは……

 アステールだ。何やってるんだアステール?


 いや、遂に表舞台にでられるようになったのは喜ばしいことなんだけど、何で真っ白ドレスでヴェールなんて身に付けてるんだ、花嫁でもあるまいし。

 エルヴィス殿下と結婚する気なら……いや、だとしても止めるわ。

 この兄上、結局アイリスへの態度か刺々しいままっていうちょっと……な人だからな。一応関わったアステールがそんなのと何も知らずに結婚とか止めるしかない。知ってて尚というなら止めないけどさ。

 

 ……いや、そんな割と父からは要らない子な第三皇子よりおれって継承権低いんだけどな。

 忌み子とはいえ、ヤバイなおれの評価。割と人質にしても良い要らない奴寄りな兄上より下なのか。

 まあ仕方ないだろう。正直おれもそれは良く分かる。

 

 というか、おれが口を出す問題じゃないな。

 

 「皇子殿下、我等の言葉に応じ、ようこそおいでくださいました」

 と、アステールと似た金髪に流星の魔眼を持つ男性が恭しく兄上を迎える。

 

 その近くで……睨まないでくれないかヴィルジニー、おれ単なる付き添いだから。

 

 っと、おれもちゃんと礼を取らないと。

 おれはアミュから飛び降りて、月花迅雷を……抜かず、騎士の礼を取る。

 皇子とはいえ向こうは教皇とその娘だ。アステールは気にしなさそうだが礼は必要。

 

 「御苦労!」

 と、気が大きくなったっぽい兄上は、ご機嫌に馬車から降りて……腰の剣を抜く。

 雷鳴が迸り、刀身が青く透き通る。

 

 ……が、光の反射が強いな。本物はもっと深い水のような色で光を透過させるからそれ自体が光ってはいないんだが。

 だからこそ、桜色の雷が映えるのだしな。

 

 「……あなた様は」

 と、教皇コスモであろう男性は、少しだけ意表を突かれたように、兄上を見る。

 「アステールや、彼は」

 「しらない人だよー?」

 と、アステール。

 

 「失礼。名乗りを忘れていました。

 私はエルヴィス。帝国第三皇子。父の命とあなた方の言葉に応じ、馳せ参じた……新たなる神器、新・哮雷の剣の盟主です」

 「そして、送り届ける際の付き人のゼノ」

 と、おれは礼を取ったまま続けた。

 

 「私はコスモ。コスモ・セーマ・レイアデス。

 この地で七天の言の葉を伝える代行者である」

 「そして、ステラはステラだよー?」

 ひょっこりと顔を覗かせるのはアステール。

 

 そのヴェールから飛び出る大きな狐の耳を見て、露骨に兄上は嫌そうな顔をした。

 「……亜人が、何故」

 

 その言葉に、おれは前に出る。


 「兄上。おれと似たようなものです。

 彼女はアステール。アステール・セーマ・ガラクシアース。この地の……少し恥ずべきところはあるかもしれない、しかし本人には何ら罪の無い教皇の娘」

 「差し出がましいぞ、ゼノ」

 「しかし、友人の名誉を守るのは、皇子どころか人として当然の話。最低限、侮蔑はお止めください、兄上。

 

 失礼しました」

 

 睨まれ、そそくさとおれは退散する。

 とりあえず、兄上を送り届けた。あとは、アステールとの幼い憧れの関係に終止符を打って、立ち去るだけだな。

 

 と思うのだけど……

 

 「では、殿下。そして、そこのお付きも。

 着いてきなさい」

 と、教皇猊下におれも呼ばれる。

 

 「はっ!……しかし、猊下。

 私とて、そこまで待たせるわけにはいかぬ者が外に……」

 「……だいじょーぶだよおーじさま。

 まっててくれるってー!」

 と、アステールが耳を揺らし、眼を輝かせてそう呟く。

 その瞳の中の星は煌めいていて。それをされるとどうしようもない。

 あれは、天との交信の証。天が言うなら逆らえまい。

 

 というか、天狼は王狼の似姿と言うだけあって、神の声を聞けそうだしな。王狼から千雷の剣座に来て良いと聞いたら、すぐに案内してくれたように。アウィルも、だから待っててくれるのだろう。

 

 すまない、アウィル達。と心の中で言って、おれは頷いて歩き出す兄に付き従い、大教会へと足を踏み入れた。

 

 そして、おれを出迎えたのは……って違うな、兄上を出迎えたのは壮大な歌唱団の歌。

 聖歌隊の本領発揮という奴だろう。圧倒的な声量に呑み込まれるようで。

 

 尻尾をフリフリとしながら、白ドレスにヴェールのアステールは先んじて紅のカーペットを進む。

 その横に立たないエルヴィス殿下は……それでも、おれよりはお似合いで。

 

 先導されて辿り着いたのは、歓迎の宴の席であった。

 

 「流石中央大教会だな……」

 ぽつりと、今は誰も着いてきていなくて一人なおれはそう呟く。

 それに反応する者は居なくて。エッケハルトが居ればなーなんて、無理なことを思う。

 

 ってか、またレオン等にキレられるな。自分だけ良い思いしやがってと。

 ……持って帰れるだろうか、これ。

 

 宴の席に用意されたさまざまな料理を見て、おれはふと思う。

 

 「……ほう」

 と、口元を綻ばせる兄上。

 「新・哮雷の剣なる神器と、それを携えて来てくださった英雄に」

 「乾」

 「……兄上」

 

 「失礼。代わりにやらせていただきます」

 配られた酒で即座に乾杯しようとする兄を押し留め、おれは自分のグラス(中身は水)を上げずに……

 

 ヤバい、即座に言葉が出てこない。

 

 ってそんなんじゃ駄目だろう。教育を思い出せ。

 「それを迎え、共に歩む七天の(ともがら)との門出に」

 「はーい、かんぱーい!」

 おれに続けて、アステールが締めた。

 

 まあ良いか。あまり良い感じに言えなかったしな、おれ。

 

 カラン、と鳴る音。

 アステールとて、最低限の礼儀は分かっているのだろう。この場の主賓はエルヴィス殿下。兄上だ。


 だから、まずは父である教皇が……ってそうか。

 

 「アステールちゃん、先に付き添いのおれ達がやろうか」

 「はーい!」

 カラン、と鳴らしあうグラス。やけにアステール側の押しが弱く、響くのは小さな音。

 

 それに少しの違和感を覚えつつもおれは近付いてきた金髪の男性相手にもグラスを軽く合わせ……

 

 パキン、という音。

 手に感じる重さの急激な変化に、思わず手を退かせ……ちゃ駄目だろ!馬鹿かおれ!

 出してない左手を前に突き出して、砕けたガラス製の高級なグラスの破片を受け止めた。

 

 ……が、水は止められずに床に溢れる。

 

 「……失礼。力を入れすぎてしまったようだ」

 悪びれもなく言ってくる教皇猊下。

 その瞳の中に星を閉じ込めた目は、濡れた袖をしっかりと見据えていて。

 

 ああ、わざとか。

 

 「いや、失礼。濡れた服で祝いに参列するのは七天も御不況であろう。

 これは私共の無礼。是非この場に相応しい一式を贈らせていただきたい。

 何分、君は私のアステールと既に知り合いであり、その縁でお付きとして同行したのだろう。そんな娘の友人を無下にするわけにはいかないのだからね」

 と、捲し立てるのは教皇猊下。

 

 「おーじさまに似合う服ならー、多分あるよー」

 と、ニッコニコのアステール。

 

 ……さては、最初から連れ出す気で割れるグラスを出したな?

 

 まあ、良いけれども。

 

 「それでは、エルヴィス殿下。ごゆるりと。

 皆のもの、主賓たる殿下を退屈させぬように。私と我が娘の居ぬ間、神々も驚くだろう出し物を」

 「またねー」

 と、教皇父娘はおれを先導して会場を出た。

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