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第三皇子、或いは出迎え

「良い御身分だな、ゼノ」

 「……兄上」

 

 馬車に揺られながらその窓から顔を出す兄に対して、おれは馬上でどうして良いか分からず曖昧な表情を浮かべる。

 

 「ネオサラブレッドに跨がって、どちらが主役だ?」

 「幾らアミュがネオサラブレッドとはいえ、裸馬と皇家の馬車のどちらが貴人かは間違えないでしょう。

 杞憂ですよ兄上」

 と、おれは兄エルヴィスを宥める。

 

 そう、アミュはおれが連れてきた。

 いくら実力のある馬とはいえ、出走停止等を経たアミュグダレーオークスは……人々の人気だとかさまざまな理由から中央王都で競走馬を続けていくのが難しくなったのだ。

 

 だから、走れないで苛立つ愛馬をおれは兵役に連れていくことにした。

 因みに当然だがオルフェは置いてきた。

 本来おれの馬ってオルフェゴールドの方なんだが、あいつは最近もアイリスGPという著名なグランプリを勝った名馬だからな。周囲の反応的に連れては行けない。

 

 「寄越せよそいつ」

 「……父さんに言って自前の馬を貰えば良かったのに」

 ぼそりと言うおれに、ばたんと窓を閉める兄上。

 

 ……まあ、白馬の皇子様としてイケメン売りしていたいエルヴィス殿下としては、当時葦毛もロクなの居なかったから要らないと突っぱねたのだろうな。

 何だかんだ、私財から引かれるしな馬の餌代とか。それも馬鹿にならない額。

 

 おれは更に孤児院だ、最近はアウィルの為にだ、もっと多額の金を使う様々のせいでオルフェの餌代とか気にしてなかったんだが、ぱっと見て無視できる額ではないな。

 月20ディンギルじゃ済まない額だしな。

 

 「……新たな神器を手に、聖教国に赴く大使である兄に対してその態度は何だ」

 と、怒り心頭、青光りする一振の剣を手にもう一度顔を出してくるエルヴィス殿下。

 

 ……いや、気が付かれてないのか?それとも、自分がこの剣を神器ではないと発言する訳にはいかないと分かっていて、わざと神器だと印象付けようと周囲に嘘を喧伝しているのか?

 どちらかは分からないが、兄上、それは確かに強い剣ではあるけど普通に壊れる武器です。

 

 ゲーム的に言えば、超雷神剣だとかそんな感じになるのだろうか。

 少なくとも、新・哮雷の剣の名を背負うには荷が重いだろう。

 

 だが、それをおれは言わず、腰に帯刀した月花迅雷の柄の角を撫でる。

 大丈夫、龍姫からもたらされたというドラゴニッククォーツのインゴットの残り一個は聖教国にあるはず。教皇やアステールはあれが本物でないと気が付いて……

 

 駄目だ、心配になってきた。

 アステールが無邪気そうに偽物を大事にしてるって馬鹿にして、残すのをおれに変えようとか考えないだろうか。

 

 「聞いているのか、忌み子!」

 ……兄上。弟にその言い種は少し……

 

 あとアウィル、離れててくれと言ったろ、隠れててくれ。

 兄を下手に刺激したら、父親の元に返してやれないからひょいとアミュに近づこうとする天狼兄妹を追い返す。

 

 今日の夜も遊んでやらないとな。

 

 そんなことを考えて、父から割と期待されてない第三皇子である兄の相手をしつつ、2週間かけて聖教国を目指す。

 アミュ単騎で駆ければ2~3日ってところなんだけどな。仮にも神器を持ち大使として……という名目である兄は、そんな事は出来ない。

 

 あとは、おれもオーリン達とナタリエを兵役に連れていくから単騎で駆ける訳にもいかない。

 ……アウィルとラインハルト兄妹?アウィルはまだおれの膝に乗ろうとしてくれるし、そもそも流石にネオサラブレッドの全速力には桜色の雷を纏ったとしても追い付けないが、多少の本気速度になら追い付けるのが天狼種だ。

 というか、アウィルは割と良い馬に引かせている馬車を軽々と追い越して、ちょっと離れては兄とじゃれているくらいには速い。

 時速100kmは出せてるな。

 

 時折不服そうに嘶く愛馬を宥めつつ、夜は思い切り走りたがるアミュとアウィルにおいかけっこで遊ばせたりして……

 

 一年以上ぶりに、おれは聖教国の聖都を訪れていた。

 前に来たのは、天空山の帰りにアステールを送っていった時だ。

 

 全体が白亜色の街並み。宗教と言えばそんなイメージがおれにはあるが、聖都はそんな事はない。

 とてもカラフルな建物が多く、目が痛いくらいだ。

 

 赤い屋根、黄色い建物、青い扉……七大天を特に信奉する者達の国は、7つの色を使うが故にとても色が多い。

 おれの語彙ではローマ風といった言い方くらいしか出来ず、色合い以外は割と古風にも見えるが……中身は魔法文明の塊だ。

 例えば、神々の声を聴く教皇様のお膝元で……そして聖女リリアンヌの眠る地で過ごしたいと押し寄せた人々によって何度も増築が繰り返され、今では8階建て?くらいになった、石の平屋の上に建つ木造の建物が見えるが……。あれ、魔法のエレベーターが通ってる筈だし、恐らくエアコンもどきも入っている。

 おれの知るコンクリートの家と比べても、イメージに反して快適さではそう劣らないだろう。

 

 石畳に覆われた道を、馬車は進む。

 教会のような……というよりは、魔王城とでも呼ぶべき教皇の居城へと。

 

 そう。七大天の意匠を盛り込もうとした結果、角も翼もある教会というおれの語彙では魔王城としか呼べない物体と化しているのが、七天教の総本山である。

 まあ、信ずる神の中に龍どころか晶魔という悪魔のような姿の天が含まれているしさもありなんというか……

 

 ゴテゴテしているからか、アウィルは入ろうとしなかったので、外で待っている。

 姿を隠す分別は、天狼だけあって持っているから問題にはならない筈だ。

 

 そんなこんなで、そろそろ気にすべきだなとアミュの首を撫でて遅く歩くように指示。馬車より馬の足で数歩分下がる。

 

 そして、教会の門の前に馬車は止まるも……出迎えは無い。

 カーペットが敷かれたりという事もない。

 

 あれ?大丈夫かこの国。

 

 そう思った瞬間、魔法が発動し……

 一気に色とりどりの花びらが舞い散った。

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