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残酷な言葉、或いは決別

「……皇子」

 おれは、正式に建てられた兵舎の地下に設けられた格納庫で、頼勇に声を掛けられた。

 

 時刻は土の刻の半ば(日の出前)。朝早くにライ-オウを見ていた竪神頼勇は、おれを見て複雑な表情を浮かべる。

 「本当に、彼等に勝てるだろうか」

 「……分からない。だが」

 「やるしかない、だよな?」

 

 おれは頷き、近付いてきた蒼髪少年と左拳を突き合わす。

 

 「ああ」

 そして、修復と……後は四足駆動形態への変形が可能となった蒼き鬣の機神を見上げた。

 

 横にあるのは、作りかけの2機。巨大な鯱のような姿をしたゴーレムと、熊のような姿のゴーレム。

 そして、今は此処には無い、一応の完成を見た2機のスペース。

 

 いや、正確にはHXS(ヒュペリオクロス)1機と特殊な武器だが。

 「現状何とか形になっているのは、LIO-HXくらいか……」

 「どうにも、調整がな。エルフの皆に協力してもらえて、机上の空論であった合体時の強度問題は解決しそうではあるが……

 やはり、アイリス殿下への負担が大きいままだ」

 

 「その事なんだが、竪神」

 と、おれは今日言わなければ言えない言葉を切り出す。

 「皇子?」

 「竪神、これを」

 おれが取り出すのは、騎士団のエンブレム。

 

 「……新規発足するという」

 「ああ、お前に副団長を頼みたい」

 「……この国の戸籍のない人物より、アルトマン辺境伯の子の方が相応しいんじゃないか?」

 

 そんな言葉に、おれはいや、と返す。

 「あいつは無理だ。跡取り息子だからな。騎士団には入れない。

 それに、竪神一人くらい、籍はおれでも用意できる。

 

 アイリスの為の騎士団、いざという時の構え。そして、孤児達に国に貢献できる意味を与えるもの。

 アイリスの為に、やってくれないか、竪神」

 

 少しだけ悩み、少年は……

 分かったと、そのエンブレムを取った。


 「そうか、皇子は兵役に行くって言っていたな。

 殿下の近くに誰か居るべきだということは分かる。皇子が兵役から帰るまで、私がその役目を遂行しよう」

 「ああ、頼んだ、竪神。

 アイリスを、エーリカ達を、騎士団の皆を。おれが居ない間に来るかもしれない理不尽や、普段でも有り得るあれこれから。

 貞蔵さんやライ-オウ、あとアイリスや団長のあの人と共に、護ってやってくれ」

 「任せろ、皇子」

 

 「あと、エーリカ達も宜しくな。

 騎士団の雑用として雇うことにしたから」

 「皇子、公私混同はあまり良くないぞ?」

 と、そもそも公私混同で雇われた(実力は確かな)友人がそう冷静にツッコミを入れるが、まあそもそもの目的がと誤魔化して。

 

 「アイリスの為の騎士団で、ついでに恵まれない子の雇用枠用意して、おれが捩じ込んでそろそろ騎士学校出る子を入れて、更に何しようが今更公私混同も無いさ。

 公私混同の塊みたいな騎士団だから」

 因にだが、団長はアイアンゴーレム事件でやりあったあの人拐いのリーダーの元騎士だ。

 実力はまあ確かなので、反省しているのを確かめて服役中に再雇用した。

 ちょっとロリコンな彼も、ロリな妹の直下なら真面目に働いてくれる筈だからな。


 無理矢理手を出す?ゴーレム使いとして格の差を分からせられた後の彼にそんな気は起きないだろう。

 

 「……まあ、そうか」

 「だろ?」

 二人して、なかなか無理矢理な発足に苦笑して。

 「騎士団については任せて欲しい。アイリス殿下と二人で、皇子から引き継ぐ」

 

 そうして、騎士団についてを終え……というか竪神に丸投げして、おれは朝早くに徹夜で仕上げた書類を王城のアルノルフ伯爵へと送る。

 

 魔法が使えないから完全人力。軽いものを空を飛ばせて運ばせる魔法とか色々あるんだけどな……

 と思ったところで、こんなのも使えないとは可哀想ねと起きてきて言ってきたのでノア姫に任せた。

 

 少なくとも下着くらい身に付けてくれ。顔すら見れないから。

 

 ずっと忘れていた……いや、忘れようと目を背けていたが、始水達の事をはっきり思い出してもずっと動かないのは皇子としての欺瞞。

 

 先天的、或いは幼年期に事故等で障害を負った子供向けの基金を立ち上げた。初期財源は……アステールである。

 アナに水鏡で繋いでもらって、もうステラノヨイチシステムで良いから貸してくれと頼み込んだら、返すことを制約に常識的な金利で貸してくれた。

 

 それに、基金だからな。考えなしにばらまく訳じゃない。

 本人負担3割の分割払い。最初に基金に申請した時点で、民にはその治療に使った魔法の3割の額をいずれ返納する義務が生じる。

 ただ、それでも、分割出来るし全額負担でなくなる分かなり先天的な障害を持ったまま育つ子は減る筈だ。

 この国では障害を持つことはそれだけで下に見られるハンデ。幼くしてそれを背負わずとも済むなら……それが良い。

 馬鹿馬鹿しいとノア姫には馬鹿にされたが、それでもやるべきだとおれは思う。

 

 そこら辺までは良い。元からそろそろだと話を進めていたから。

 

 そして、問題は……

 

 「皇子さま、今日の朝ごはんはどうしましょう?

 わたし、何でも頑張ります」

 そう、目の前に居るメイドの女の子である。

 

 連れていくわけにはいかない。だから……此処で別れを切り出さなきゃいけない。

 彼女を何時までもおれなんかに縛らないように。

 流石におれでも、アステールのように幼い憧れを向けられているのは分かるから……ここでその想いを潰す。

 

 それが、少し難しくて。

 

 「アナ」

 意を決して、作って貰った朝食を前に、そう切り出す。

 

 「あ、皇子さま、ちょっと味薄かったですか?」

 「違う。こんな時だけど、こんな時にしか言えないから……聞いてくれ。

 

 おれは明日、兵役に行く。

 多分、5年は帰ってこない」

 

 父は何年とは言わなかったが、大体分かる。

 原作ゼノ15歳が、兵役帰りの皇子と呼ばれていたから。今帰ったという感じで、戦闘マップ開始とほぼ同時にイベントが挿入されて加入するんだよな。

 だからか、チュートリアルのインターミッションでは居ないし武器も変えられず、削りには初手からは使えなくて不便だ。

 

 だから、分かる。生き残れれば帰るのは15の時。原作乙女ゲームの開始と同時だ。

 

 ころんと、少女の手からフォークが落ちる。

 「皇子、さま?

 ほん、とう、ですか?」

 「ああ。確定事項だ」

 「……危険なところ、行くんですか?」

 「そんな危険じゃないよ、旧シュヴァリエ領。魔が居るとされる旧遺跡の辺りで、ナタリエの故郷付近」

 

 実際はそこそこ危険なんだが、おれはそう嘯く。

 ルーク、ティア、そしておれが四天王カラドリウスと因縁があるらしいと分かるあのステージだが、その遺跡付近だ。

 まあ、ティアがあの遺跡の守護龍一族らしい(ちなみに最後の一体)から当然なんだが。

 

 ルークはゴブリンとコボルドのハーフだし、あの辺りから出たこともないだろうから……兵役中に再度あのアドラー・カラドリウスの影と対峙する事になるのだろう。

 

 あの刹月花の少年の時に青い血に見せ掛けたのは恐らくは自分の正体を隠したかったアルヴィナ。

 だが、四天王襲撃については、アルヴィナだけが後からぽんと怪しく現れた辺り、アルヴィナの策では無かったと考えられる。

 

 ならば、他に動いている魔神が居る。それがシロノワール……じゃなくて魔神王テネーブルということも、多分無い。

 いや、協力するフリをして此方の信頼を得ようとした可能性はなくもないが。

 

 故に、あの時の本気でなかったカラドリウスと同じと思うのは危険。

 月花迅雷さえあれば少しは安心できるが、おれ自身が潰した。

 

 「皇子さま、嘘言わないでください」

 「……四天王が出てくるかもしれない。

 だから、皇族が行くんだ。いざという時の民の剣である為に」

 「なら、わたしも」

 「……ダメだよ、アナ」

 「どうしてですか!」

 二対の少女の瞳が、おれを見る。

 

 ノア姫が、優雅に一人だけ食べ続けながらおれを見ていた。

 

 「これ以上、君を巻き込めない。

 アナ。君は幸せになるべきだ。幸せになれる」

 「……なら、皇子さま」

 「おれと居ても、おれが助かるだけ」

 

 ……彼女をここで突き放すべきか。

 決まってる。おれは、第七皇子だ。ゼノだ。


 誰かを救う皇子でなければいけない。

 

 「アナ、おれはね。

 自己中で、忌み子で、真性異言(ゼノグラシア)なんだ。

 

 君の事も、色々知っていて……おれの思うがままに動いて欲しいから助けた」

 嘘だ。そんなこと知ってたらもっと楽だった。

 

 だが、あえて嘘つきになる。

 

 「おれは、君を苦しめたルートヴィヒ等と同じような奴だ」

 「皇子さま!」

 「おれは、君の皇子さまなんかじゃない。

 単なる君を好きなように動かしていた転生者、獅童三千矢(しどうみちや)だ」

 

 「そんなの、ウソですよね……?」

 「嘘じゃないよ」

 「なら、あの人たちの使う変な凄い兵器の、一番凄いのの名前は」

 「DIS-Astra(ディザストラ)

 淀みなく答える。


 実際の名前なんて知る筈もないが、さもそれが正解であるかのように、自信満々にそれっぽい口からでまかせを呟く。


 アナ自身、答えなんて知らない筈だから。

 

 「おうじ、さま……ほんとうに」

 眼を伏せ、銀の少女は言葉を喪った。

 

 ……これで、少女の幼い幻影を打ち砕くのには十分だろうか。

 正直、心が痛い。これから、同じことをアステールにもやりに行くというのに。

 

 「おれは君を好きじゃない。勝手に好き勝手操ろうとしていただけ。

 でも、もう要らない」

 少女を見る。

 

 おれに、すがるような泣きそうな眼。

 それを振りきるように、踵を返す。

 

 「一度は好きにしようとしたから、こう言うよ。

 二度と会うことはないかもしれないけれど、君の幸福を勝手に願っている。


 大丈夫、おれより素敵な人は、幾らでも居る。今なら、それに気がつける筈だ」

 そして、アナを護ろうとでもいうかのようにおれを睨む狼に向けて一言告げる。

 

 「ラインハルトさん。父のところに、帰るぞ」

 ガブリ、と噛み付かれる感触。

 

 痛みを無視し、撫でたりといった対アウィル用の行動はせず、ただ告げる。

 「君たちのお父さんのところに、帰るぞ」

 狼は、静かにおれを睨み、それでも立ち上がる。

 

 「……ごちそうさま」

 そうして、此方を睨む事は止めない天狼の子と共に部屋を出る。

 

 少女は、追いかけてこなかった。

「……皇子さま。アステールちゃんから聞いてます

答えは……アルトアイネスですよ?」


ということで、振ったように見えて全く振れていません。寧ろドヤ顔で無知晒して振る理由が嘘だと晒しただけです。

本気で誠実ならもうちょいマシな振り方をするので、本人に自覚はありませんが振るフリです。クズが誠実っぽく振る舞うポーズに過ぎません。その為、アナちゃんはヒロインです、以降も変わり無く。

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