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裏話 世界の裏側で(三人称風)

『よーっす』

 『……何ですか、貴方が来るなんて、一体何用ですか』

 色素の薄い三つ編みの髪を揺らし、龍人の少女は、その薄青い大きな翼を一つはためかせて振り返る。

 

 『ドゥラーシャ(猿侯)。世界の果ての先に居る筈の貴方が訪ねてくるなんて、随分と珍しいですね』

 今の体の身長差では、普段は遥か見下ろす相手の目を上目遣いで見上げることになりながら、龍人少女はそんなことを問う。

 

 『そろそろ、貴方の行ったこの世界への手助けが甘すぎたと思って、何らかの介入でも起こそうかと思ったんですか?

 ちょっと決断が遅いとは思いますが、基本自由なのが貴方ですからね』

 『ティア(龍姫)、おめぇ性格変わったか?』

 『ティアミシュタル=アラスティルです。貴方は勝手に略さないでください。調子が狂います』

 

 羽根をぱたぱたと羽ばたかせ、少女……七大天、滝流せる龍姫の化身は桃色の唇を尖らせる。

 

 『ええ、そうですよ猿侯。

 この龍姫めは、今、愛しのおにーたん関連で気が立っていますからね。あまり刺激しては、沸騰してしまいますとも』

 『……そちらから来てくれましたか、道化。

 貴方には散々言いたいことがあったのでちょうど良いです』

 

 そんな龍姫の言葉に、突如として姿を見せた道化師は、おお怖い怖いと呆けた笑いを浮かべた。


 『ああ、わざわざ貴方が私達すらもそう深く干渉できないように固める事で、神々の好き勝手な作り替えをある程度封殺したこの世界。

 されどその世界の命達を守りたいと、世界に干渉出来うる範囲に抑えて意識と力の一部を化身し、だというのに世界のためには此処から出ずに守護を続けねばならず誰とも触れあえないという憐れな同僚のひとときの慰みとしてこの遺跡に足を踏み入れてあげたというのに。その優しさへの返答がそれですか。

 およよ、全く、おにーたんが傷つくとこれだから、乙女というものはこまりますねぇ』

 

 『ノンノティリス、そこに直ってください』

 『怒っていては話が進みませんよ、龍姫。

 ああ、失礼。今の貴方はこう呼んであげた方が良かったですかね。随分と楽しい逃避行だったようで。

 愛しのおにーたんとの二人っきりの異世界生活は楽しかったですか、金星 始水(かなほし しすい)ちゃん?』

 

 『……結末は、貴方が一番良く知っているでしょうに、良く言いますね、ノンノティリス』

 忌々しげに、龍人の姿を取りティアという名前と化身を使って世界に少しの介入をしようとしている七大天ティアミシュタルはそう吐き捨てた。

 

 『ってかよ、オラついていけてねぇんだけんど』

 斉天の猿神は、その六本の腕の一組を胸元で組みつつ、ちらりと背の低い同僚神の化身を見る。

 

 『やっぱり、あれおめぇの大事な大事な彼なワケ?

 ん?シドーなんちゃら……オラ達と話せるあの狐ちゃんに言ってた名前でいうと獅童だっけ?

 じゃああれって何者なんだ?』

 『ええ。そこを私も知りたくて、貴方が来るのを待っていたんですよ、ノンノティリス。

 どうして、兄さんにあの時代の記憶が残っているんですか?きちんと話してもらいましょうか』

 

 『ん?あの時代ってことはおめぇ、獅童ってのとあの皇子、同一人物なんか?真性異言(ゼノグラシア)じゃなく』

 『いえ、猿侯。彼は真性異言ですよ。

 ただ、他のような憑依転生者……他人の体を乗っ取った別の魂ではないだけです』

 龍姫に続き、道化は愉快そうに言葉を紡ぐ。

 

 『そもそも、我等七天、この世界の神なのだよ?そこを生きる民は全て私達の子のようなもの。子に惚れ込む迷惑な母君も居たりはするといえど……』

 ちらり、と道化師は自身を睨み付ける龍少女を皮肉った視線を向けて、言葉を続ける。

 

 『子を殺して他者をその体に入れる等、世界を揺らがせる行動など流石に取れんとも』

 『んーそれもそうだな。

 出来るとして、同一人物の魂を少し弄るくらいか』

 『そう。彼は……獅童三千矢として生きた記憶を持つ第七皇子の魂と一つになった第七皇子。同じ魂なのだから、一つにくらいなるともさ』

 『マジで同一人物なんかアレ』

 

 『そうとも。彼の人格は……獅童三千矢としての魂は、龍姫が逃避行の際に持ち出した死人の魂。

 龍姫が深く関わらず、結果的に民を守るために殿を勤め死んだ第七皇子ゼノの魂を、愛しのおにーたんに幸福をと龍姫めが別の世界枝に送って生まれ変わらせたもの』

 『……ええ。私と契約した兄さんには、私と永遠を過ごす前に、少しくらい幸せな人生を送って欲しかったですからね。記憶無しで、大きな戦いの無い世界で。

 記憶があったら、あの先を護れなかったって……しなくていい後悔をするでしょうから。

 

 まさか、幾らあの世界は私達の管轄ではないからそう干渉できなかったとはいえ、お金と地位があれば兄さんは大丈夫と思っていたら私と会う前にあそこまで普通の兄さんな性格になるとは予想外でしたが……

 魂の奥底にある想いは、世界を変えても残るものなんですね』

 

 そして、少女神はじとっとした目で道化師を見上げる。

 

 『それで?

 あの世界での事も、結局兄さんの幸せには繋がりませんでしたね。

 なのに、どうしてあの記憶を……今の兄さんに引き継がせたんですか』

 『それが、彼の願いだったからさ。

 

 私はしっかりと警告したとも。君の魂を焼き尽くす地獄の焔だと。

 後悔と苦悩という、彼にとって地獄だろう記憶の焔を灯す、知恵の果実。

 私は……誰でも良かったという一つの嘘をついたし、それを彼に教えてあげたとも。

 それを、あの知恵の果実が……獅童時代も抜け落ちる筈の魔神娘との過去も含めた全ての記憶を忘れない力が、彼の心を焼く地獄の焔となるという警告が嘘だと、彼は勝手に納得したけれどもね』

 

 『……おめぇ、だから嫌われてんだぞ』

 呆れたように、赤毛の猿神が突っ込みを入れた。

 

 『んで、今は……』

 『この世界ではない世界枝の神が、下手にこの世界に干渉してもう一度が起きているってのが今か』

 『ええ。

 ……もう一度やり直させるというならば、私にも考えがあります。

 あのときは、女神の選んだ聖女が居るならとそう深く世界を歪めかねない干渉はしませんでしたが、今回は私も聖女を選び力くらい貸しますよ』

 『……愛しのおにーたんのお嫁さんに?』


 『……たまたまです。


 と言いたいですが、ええ、悪いですか?

 兄さんを助けられるのは七大天の加護を色濃く受けた者だけです。私もこの化身姿では七大天としての十全を出せはしませんから、他にも兄さんを支えてくれる人を私が選んで何が悪いんですか。

 兄さんが世界を救う気無いなら兎も角、全力で救いに行ってるんですから文句を言われる筋合いなんてありません』

 

 『……龍姫、おめぇそれで良いんか』

 『構いません。誰と恋をしても、もんな人生を送っても。兄さんは最後は契約した私のところに来ますから。

 契約した私との縁はもう切れません。死んでもね。

 なら、人生内くらい誰と自由に恋をしても、文句なんて言いませんよ。最初から最後まで、兄さんはもう私のものですから。それを覆そうなんて馬鹿を考えないなら、どうぞご自由に兄さんと恋愛してください。

 兄さんを幸せにしたいなら、私とも利害は一致してますしね』

 ふふん、と少しだけ自慢げに、少女姿の神は微笑む。

 

 それを見て、猿神は……おおこっわ、と肩を竦めて苦笑した。

 

 と、不意に世界に緑の光が満ちる。

 重力球が現れ、其処から片仮面の男が姿を見せた。


 その右目は不可思議な紫に色付き、髪は金に染められている精悍な顔立ちをした男を見て、赤毛の猿神はへぇーと呑気に眼をしばたかせる。

 『おー、ユートピアじゃん。この世界来れんの?』

 『そこの龍姫みたいな形でならばな。

 あくまでも、姿だけならば』

 響くのは低い声。AGXと呼ばれた機械神が現出(げんしゅつ)する際に聞こえる声に混じる音。

 

 『てかよー、お前んところの兵器(AGX)が密輸され過ぎてんだけど、取り締まりしっかりてくんね?』

 『……勝手かつ無理矢理な違法コピーだ。オレ自身、潰せるものなら潰したいが……』

 仮面の男は、困ったように、小型コンピュータを脳直結で埋め込んだ機械の左目を隠すように左頬のみを覆う片仮面のラインを、コンピュータのナノマシンの光を透過させ七色に輝かせる。

 

 『オレが出張れば、世界は焔と消える。ブリューナクの真髄はそういうものだ。

 それは、お前達も望むところではないだろう、七大天』

 『相変わらず物騒ですね、墓標の精霊王(精霊真王ユートピア)

 呆れるように、金星 始水(滝流せる龍姫)は呟く。

 

 『……違法コピーが使えれば、少しは違うかもしれないが。

 オレは違法コピーを勝手に持ち込めないからな』

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