表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/687

閑話 世界の裏側で(三人称風)

ヒィン、と静かな音と共に、重力球が現れる。

 それを潜り、青年は事象の地平線……ブラックホール内部、時間空間の歪んだ世界に潜航する艦艇のブリッジへと辿り着いた。

 

 「……ああ、貴方ですか」

 ブリッジの円卓、12の席が用意されているその会議場の椅子……上座下座を作らない大理石の円テーブルを囲む椅子ながら、決して同列ではなく格差を感じさせるそれの中で、背もたれに赤と青のビロードが掛かる等豪華な方な椅子に腰かけた青年が、そう呼び掛けた。

 

 「シャーフヴォル」

 苛立たしげに机についた左手でコツコツと自身の額をたたく青年に向けて、新たに来た側の青年はそう呼び掛け、円卓の中ではみすぼらしい席に座る。

 そして……隣の毛皮の席に、空の花瓶が置かれていることに気が付いた。

 

 「……ナニコレ」

 「何って、見て分からないとは実に蒙昧でしょう。花瓶ですよ」

 「ここってルートヴィヒの席だろ?

 お前と一緒に主人公になりうる娘の周囲に星紋症ばら蒔いて、僕等とは別に動いている奴等が居ないか確認しつつ、主人公等が手に入るなら手に入れようってやってた」

 「元、ですね」

 青年シャーフヴォルは、つまらなさそうにそう言った。

 

 「元?元って……」

 (ほう)けた青年に(あき)れるように、シャーフヴォルはやれやれと首を竦める。


 「無様に死にましたよ、彼。

 知りませんでしたか、ヴィルフリート?」

 

 その言葉に、赤毛の青年ヴィルフリートは、マジで?と自分より格上の青年をマジマジと見る。

 「マジ?アグノエルの奴死んだの?」

 「死にましたが?」

 「いやでも、死んでもセーフなんだろ僕等。

 なのに死ぬって有り得なくない?」

 「……それが、あのふざけたチート皇子等のせいで、そうも言えなくなったんですよ」

 ATLUSの制御装置も壊されましたし、数年は表に出られませんね、とシャーフヴォルは続けた。

 

 「いや、アガートラームん時も思ったんだけどさ、何で負けてんの?」

 心底意外そうに、ヴィルフリートは言った。

 

 「そうそう、『使いこなせてない上に慢心するから負けたんですよ、ANC14(アガートラーム)なんてこの中でも3番目には強い武器を持ちながら』、ってさんっざん言っといてよぉ!笑っちまうぜ」

 「……ユーゴ。

 言いますね、アガートラームを持っていながら負けた身で」

 

 重力球によって転移してきた金髪少年は、はっ!と吐き捨てる。


 「てめーみたいに一回殺されてたりしねぇの。しかも、アトラスの奴ボロッボロにされてんじゃん。

 アガートラームは傷一つ付けられてねぇのに、なっさけねーのはどっちだよ」

 「あの皇子が、一人だけ与太話出身のチート野郎(スカーレットゼノン)だった上に、ATLUSも万全とは言い難かった。

 その上で、此方の勝ちを覆してきた反則技を使われただけですよ」

 「反則だぁ?

 んまぁ、あいつ何故か轟火の剣使ってきやがったけど」

 ユーゴの言葉に、青年は頷く。

 

 「ええ、貴方の時はそうでしたが、今度は……しっかり変身してきましたよ、彼。

 魔神剣帝スカーレットゼノン。あれ、ソシャゲ版与太イベントの時空での話でしょうに、ね」

 「「えマジで?」」

 

 「しかも、それだけじゃありません

 向こうも向こうで、囲い込みしているようですね」

 「えーっと、竪神の奴居るんだっけ?ホモかよって思ってたんだけど」

 「ええ、その報告を聞いてましたかユーゴ。

 どうやら、彼もあのチート皇子と同じく真性異言、それも私達の敵のようですね」

 「どうして分かる?」

 

 その言葉に、馬鹿にするようにシャーフヴォルは呟いた。

 「そもそも、紛い物のパチモノAGXライ-オウにATLUSが負ける筈もありません。地を駆けずり回るしか能のないあんなものに、どうやったら負けられるというのですか。

 ですが、彼は違った。LIO-HXと呼ばれる没データを使ってきました。

 チートですか、感心しませんね」

 

 「ライオヘクス?そんなんあったっけ?

 ってああ、《鎮魂歌》のDLCにあったアレか。翼生えてて飛べるライ-オウ」

 「ええ、それです。

 全く、この世界では存在しないものを……。そもそも、今の時期にライオウがフレームではなく完成してる時点で可笑しいんですが、本当に彼等は……」

 自分達を棚にあげ、青年は愚痴る。

 

 「そもそも、彼等ズルでしょう。

 私達は、半モブみたいな立場でこんなに健気に頑張っているというのに、彼等はメインキャラクター、絆支援等の縁の深め方が分かっていて、元々縁があって。

 

 そんな恵まれた状況から、その状況と彼女等を縛る運命(ストーリー)を悪用して私の彼女を奪い、上から目線。

 全く、赦しがたい悪行三昧」

 「だよなー、ステラも、そういや原作でも昔憧れてたって言ってたのを何か裏で手引きして無理やり手籠めにしたっぽいし」

 

 「ん?ユーゴ様?

 一年前は裏切り狐がー!って言ってなかった?僕にさんっざん無理矢理愚痴を聞かせていたような」

 「うっせぇ!良く良く考えたら原作であんなにユーゴ様がステラのおーじさまなんだよ?って言ってくれてるステラが裏切る筈無いし、洗脳みたいなのは魔法がない世界でもあるじゃん!

 クソったれな話術で他の子みたいに洗脳してたぶらかしんだろ!ふざけやがって!」

 ドン!と少年は机を叩いた。

 

 「アガートラームの制御装置が復活したらぶっ殺してやる!」

 

 「気を付けたほうが良いですよ、ユーゴ」

 そんな少年をシャーフヴォルは嗜めた。

 「彼、変な力を他にも持ってましたから。

 というか、あのドチート二人相手に、ルートヴィヒは毛ほども役に立ちませんでしたがそれでも勝った筈だったのです。

 が、突如として死んだ筈の狼だの、剣の中の帝祖だのが湧いてきて……

 

 全く、ふざけた力です。唯でさえ、メインキャラクターで環境に恵まれているというのにヒーロー様はこれだから」

 忌々しそうに、シャーフヴォルは奥歯を噛み、目の前に置いた焼けて融解した時計を見る。

 

 「シエルの幼馴染で皇族で?欠点を無くすために一人だけ与太話時空出身で?

 それだけではあきたらず、天狼に護られ何故かヴィルジニーも連れてて?

 ええええ、それだけ世界に接待されてれば、我々のように真実の使命の声を聞くこともなく、人生楽しいでしょうねぇ」

 ギリリと、歯軋りの音。

 

 「この豪運と接待チート野郎が。


 何時か、貴方に教えてあげましょう。

 私達の使命を。

 彼女らを……世界を!その恋を!想いを!未来を!

 貴殿方に都合良く定められたゲームのストーリーというがんじがらめのふざけた縛り糸(運命)から解き放つ。それが、この世界を救う我等円卓……」

 「「「「セイヴァー・オブ・ラウンズ」」」」

 4つの声が唱和する。

 

 何時しか、一番豪奢な椅子に、一人の精悍な顔付きの男性が足を組み、踵を卓上に載せて傲岸不遜な態度で座っていた。

 その双眼は吸い込まれるような深い紫。黄金の髪を揺らしたその男に、シャーフヴォル等は珍しく少しだけ頭を下げる。

 「ユートピア」

 「今のオレは……世界を救う者、アヴァロン・ユートピアだ。

 ……来たのは3人か。まあ良い。話を始めよう」


 椅子に備え付けられた特注の鞘に、虹色に輝く剣を……王圏ファムファタール・エアと呼ばれるそれを突き刺して。精悍な顔付きの18前後の青年は、そう姿を見せた真性異言達に告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ