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アルヴィナ・ブランシュと嘘吐珍獣(side:アルヴィナ・ブランシュ)

不意に、ボクは目を覚ます。

 其処には、何時もボクの横に置いてある帽子は無くて。必死に探して、胸元にとあるものを見付ける。

 

 蒼い血色をした、魔神の瞳。ボクの水晶に覆われた、左眼球。

 ボクが呪い、口付け、そしてボクのものにした、帝国第七皇子の瞳。

 時の止まった永遠。ボクのものになったその瞬間の、魔神に先祖返りを起こして血の色が蒼く変わっている状態のまま死んで保存されているボクのたからもの。

 

 此方を見つめる、明鏡止水の瞳。皇子からのプレゼント。

 帽子の代わりにそれを見付けて、ボクは冷たい石の上でほっと息を吐く。

 

 ……そして、人間の社会のベッドはふかふかだったって思い出す。


 今まで、この石の上は寝心地が良いと思っていたし、ボクは今でも好きだけど。それでも、あれはあれで良かったと思う。

 

 ……皇子じゃなくて、横があの銀髪娘なのが少し難点だったけど。

 

 そうして、ボクは貰ったたからものをぎゅっと胸に当てるように抱き締めて。

 水晶に覆われた瞳と、ボクの胸元の水晶が打ち合わさって、不思議な気持ち。


 気持ちいいけど、やり過ぎると多分暫く頭がバカになる。

 だから、ボクは……せっかくの皇子の目だけど、どうせならこの明鏡止水がボクのものなのを見せびらかしたいけれど。胸元に飾るのは危険だから、悩む。

 

 そうして耳を動かして考えていると、ボクに近付いてくる影があった。

 「……ウォルテール」

 それは、四天王の一人。ボクの知る中では新しく、そして……可哀想な四天王ニーラ・ウォルテール。


 恋愛とか興味ないボクでも分かるくらいに、兄を見ていて、そして……

 その後ろから、少女姿の魔神の肩を抱くように現れる影に、ボクは眉をひそめる。

 

 普通なら、兄なら……まずそんな現れ方はしないから。

 やっぱり、彼はお兄ちゃんじゃない。亜似(あに)だ。

 

 「お兄ちゃん」

 でも、それを明かすわけにはいかないから、ボクは……ねばつく口を開いて、呼びたくもない呼び方で彼を呼ぶ。

 黒翼の先導者(ヴァンガード)、テネーブル・ブランシュであった筈のその男を。

 

 「おー、アルヴィナ、起きたか」

 心配するように近付いてくる彼を避けるように、ボクが描いた魔方陣の刻まれた石のベッドから飛び降りながら、ボクは本来の白耳の黒狼のような姿に戻る。

 

 「んー?どうしたアルヴィナ?お兄ちゃんの腕に飛び込んできて良いんだぞ?

 一年も眠ってたんだ、何かヤバかったんだろ?」

 

 ……一年?

 そう、ボク、一年も眠っていたんだと、事態を呑み込む。

 あの巨大兵器相手に戦いを挑むのは、少し無茶が過ぎたかもしれない。お兄ちゃんも、ボクが形を維持していたから力が足りなくて姿を消しちゃったし。

 どれだけ影が傷付いても本来は欠片もフィードバックなんて無い筈だけど、彼等の力は……きっと、それだけ異質だった。

 

 「えーじーえっくす?」

 「……名前は?」

 「えっと、皇子が言っていたのは……あとらす」

 「t-(トライアル)09(ゼロナイン)ATLUSかー

 多分楽勝で勝てる相手だとは思うけど、どんなもんかなー」

 あっけらかんと、魔神王をやっている真性異言はそんなことを言う。

 

 耳を疑った。

 あれが、楽勝?何故かどんどんと黒い変な玉に壊れたパーツが覆われたかと思うと新品と交換されていくという感じで、勝手に修復されていったアレが?

 皇子が元々大きく傷付けてくれていて、あの左腕が機械の少年が、全力で傷を残してくれていて。

 それらを引き継いで、予想外の救援であるティグル・ミュルクヴィズが重力操作?をしてくる翼を徹底的に直る度に破壊してくれて、それで何とか漸く、勝負になったのに。

 

 遠い子達を護るためだしな、と。帝祖皇帝が轟火の剣の中からボクの声に応えてくれなければ、勝ち目すら無かったのに。

 ……それを期待して、持ってきた本の中から帝祖の本を読んで予習しようとしたのもあるけれど、本当に応えてくれるとは、ちょっと思ってなかった。

 ボクのお祖父さんと、死闘を繰り広げた相手だから。

 

 「勝てるの?」

 「13……辺りから怪しいけど、ATLUSなら多分まだまだ装甲脆い段階だから王権ファムファタールの敵じゃない。

 アルヴィナ、安心しろ。アルヴィナを殺したそいつ、ぶっ壊してやるから」

 

 その言葉に、むっとして、

 「……勝った」

 不機嫌に、ボクは言う。


 「……マジで?」

 と、目をまん丸くする亜似と、ついていけない感じのニーラ。

 

 「アルヴィナ様。そのATLUSとやらは、どれくらいの」 

 「……お兄ちゃんが勝てるか分からないくらい」

 絶句するニーラを無視。

 

 「そうか、本来の力を」

 その言葉に、こくりと頷く。

 「記憶、消えるって聞いたから、構わず使った」

 「偉いぞーアルヴィナ」

 そう、頭を撫でに来る亜似。

 

 ボクはそれをするりと抜けて、もう一度人の姿を取ると、固まっているニーラに尋ねる。

 「ウォルテール。

 ボクの帽子、何処?」

 

 「帽子?」

 「帽子」

 ……持っていった方は、もうボロボロになっていたけど。

 皇子が最後に被せてくれたのは、きっと……ボクの帽子じゃなかったんだと思うし、あれが帽子でも、残念ながらあの体はあそこで砕けて終わりだから持ち帰れなかったけど。

 

 家に置いてきた方は違う。この世界に戻る際に持って帰れるように、わざわざ何時も見れるし触れる利点を捨ててまで、皇子がくれたぬいぐるみごとあの家に置いてきたのに。

 

 「それがなーアルヴィナ」

 だのに、珍獣は悪びれもせずに言う。

 「アルヴィナが帰ったのを察知してあの世界から離脱するって時に、来たんだよ」

 「……なにが?」

 「皇帝が」

 ……ったく、何で嗅ぎ付けてきてるんだあいつ、と愚痴る亜似。

 

 それに、ボクは首を傾げた。

 お兄ちゃんから、皇子の父皇帝がボクの正体を知って泳がせているという話は聞いていた。だから、彼が察知して現れる事は予想の範囲内。

 でも、その先が繋がらない。

 

 「帽子と、ぬいぐるみ」

 「だから、皇帝に襲撃されて燃やされたよ」

 ……嘘だ。

 

 ボク達は、欠落した人の居た場所に居るように見せ掛けていただけ。亜似があの世界から居なくなれば、ボク達の記憶は消える。

 ……でも、それは眼前のこいつが、あの世界から消えた時の話。

 

 「持って帰れた筈。

 出して」

 「だから、持って帰ろうとした時に皇帝が来てさぁ。

 王権フルパワーなら殺せたと思うけど、あそこで殺してもあんまり良い事思い浮かばなかったから、大人しく帰ってきた訳。

 そんときに燃やされた」

 

 その嘘っぱちの言葉に、ぷいっと耳を伏せてそっぽを向く。

 なら、その手のボクに買ってこさせた指抜きグローブは、どうして持って帰れているのか聞きたい。


 「ボクのペットは?」

 「アルヴィナー、可愛がってたのは知ってるけど、いくらアンデッド化してても、いぬっころの魂は持ち込むのは無理だって」

 そこは知ってる。だから、確認。

 

 「……ボクの帽子、返して」

 「皇帝に言ってくれよ」

 真面目に困ったというように、肩を竦める亜似。

 

 「っていうか、アルヴィナにはあんな似合わない帽子無い方が可愛いから良いだろ?」

 「もう、良い」

 せめてこれだけはなくならないように、掌の中できゅっと彼の眼を握り締めて。

 ボクは一人、亜似と居たくなくて歩き出す。

 

 それを、四天王ニーラは、困惑したように眺めていた。

 

 「アルヴィナ様。良かった」

 外に出ると、そう声を掛けてくるのは、四天王カラドリウス。

 「あの皇子、アルヴィナ様に」

 「……彼が居なければ、ボクは多分、二度と目覚めなかった。

 ボクを襲ったのは、彼じゃない。寧ろ、最後までボクを護ろうとした側」

 その言葉に、ボクの婚約者?である青年姿の魔神は複雑そうな表情をする。

 

 それを気にせず、ボクは……久し振りの光の無い世界を歩き続けた。

 「カラドリウス。ボクの皇子を、馬鹿にしないで欲しい」


 なんて、彼から貰った眼を、見せ付けながら。

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