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異伝・妹面幼馴染と未知なるシドウ①(三人称風)

前世編(とりあえず全2話)です。

挿絵(By みてみん)

時折語られていた獅童三千矢がどんな奴なのか……というものより、さらっと度々語られる金星のお嬢様の掘り下げです。特にこの先読んでないと理解できない新情報は無いので読んでも読まなくても問題ありません。

午前10時07分。二度目に時計を確認した頃。

 

 「ごめん、寝坊してさ」

 と、家とは反対方向から現れた白髪交じりの少年獅童三千矢に対して、金星始水は仕方ないですねと呟いた。

 

 「7分遅刻です。それで、兄さんは今度は何してたんですか?」

 「単純に寝坊だよ」 

 寝坊なら、逆方面から来るはずで。息を切らせた少年は嘘をつく。

 

 「おばあさん、案内出来ました?」

 悪戯っぽく、隔世遺伝である色素の薄い流れる髪の先を指先にくるくると巻きながら、今年12歳になる少女は幼馴染へとそう問い掛けた。

 

 「……知ってたんだ」

 困ったな、という表情を白髪交じりの少年は浮かべる。

 「30分前に来て、10分前におばあさんに道案内を頼まれてましたね」

 「そこまで見てたんだ。ちょっと遠くの銀行を探してて、一緒に探したんだ」

 あそこ、ちょっと遊歩道渡るのが面倒だしね、と駅の複雑さを少年は笑う。


 「はい。向かいのカフェから5分前に出ようとして、ばっちり」

 と、お洒落な個人店を見て、少女は言った。

 

 「ごめん」

 「兄さんは何時もそうですからね。間が悪いというか、時間ギリギリに何かを頼まれて遅れるというか。

 慣れましたよ。だから、15分くらい余裕をもって10時と言ったんです」

 「うん。いつもごめん」

 少年は軽く頭を下げ、始水の左、聞こえにくい方の耳を護るような定位置にすっと移動する。

 

 「いこ、おにーたん」

 その腕をとって、可能な限り甘い声で、金星のお嬢様は言う。


 「……始水?何時も思うけど、意味あるのそれ?」

 「ありますよ兄さん。金星のお嬢様は一人っ子。兄さんをおにーたんと呼んで甘えれば、正体がバレにくいんです」

 だから我慢してくださいと、何時ものように引っ掻き傷だらけの少年の手を引いて、お嬢様らしからぬ少女は歩みを進めた。

 

 「それにしても兄さん、いい加減遅れる時は遅れるって言えるように、携帯くらい持ちませんか?」

 「駄目だよ、始水。高いじゃん」

 「モニターテストとして、最新機種貸しましょうか?

 使い心地とか教えてくれれば、それで大丈夫です。お父さんに言えば明日には届きますけど」

 その言葉に対し、少年獅童は駄目だよと首を振る。

 

 「駄目。あれ、通信費とか高いから返すの大変だし」

 「そこはテストのお礼としてタダで大丈夫ですよ?」

 「それに、壊されたり盗られたりしたら取り返しがつかないから良いよ」

 肩を竦め、少年は少女の前に出る。

 今日の行き先は分かりきっていて。先導するように歩き始める。

 

 「今度は何を盗られたんですか?」

 そんな隣のクラスの少年に、半眼で始水はツッコミを入れた。

 「なにも」

 「ああ、一昨日ふと外を見たら、一人だけ体操服じゃなく私服で授業受けてましたね。体操服ですか」

 「盗られてないよ。ゴミ当番した時に、1組の給食のゴミに混じって捨てられてるのを見付けたから」

 と、6年2組の少年は少しだけ困ったように笑う。


 「誰かうっかり捨てちゃったんだろうね」

 「別のクラスの人が?」

 「うん。時たまクラスでやってるでしょ?体操服袋サッカー。

 そのボールとして使って、そのままって感じじゃないかな?」

 「隣のクラスなのに?」

 「昼間とか、別のクラスにも遊びに行くでしょ?その時に」

 はぁ、と少女は息を吐く。

 

 「兄さん、いい加減びしっと言いましょう。苛められてますよそれ」

 その言葉に、少年は頷く。

 「知ってるよ」


 「兄さん。今日の分のお金はありますか?」

 「無いよ」

 「一昨日はあるって言ってませんでしたか?」

 「何でも、新しいゲーム出たからお前も金出せってさ」

 「いい加減にしてください。それで、渡したんですか?」

 少年は素直に頷く。

 

 「少し残す気だったんだけどさ。小銭同士が当たる音させちゃって。あるだけ出せって」

 全く、ちょっとくらい残して欲しいよなと、少年は小さく笑う。

 盗られること自体は受け入れたように。

 

 「それは窃盗です。犯罪です。

 流石に怒りました。彼等、どうにかしてもらって来ます」

 ちょうど、新発売のゲームソフトを買って逆方向に歩いていく同級生等を見付け、少女は踵を返

 「駄目だ、始水」

 そうとして、その手を少年に優しく掴まれる。


 「離してください、兄さん。今日という今日は許しません」

 「止めてくれ、始水。今がちょうど良いんだ」

 「苛められてるのが?」

 「皆の矛先が俺に向いていて、でも、キツすぎない。

 そして、俺一人が敵になって、みんな仲良くできてる。昔苛められてた子も、苛めてた子も、俺という敵が居ることで同じ方向を向ける。

 

 この今が一番なんだ。それを壊してしまったら、また誰かが苛められる。大事になんてしたら、誰かが標的を俺から変える。

 だから、お願いだ、止めてくれ」

 

 少女の腕を痛くないように掴んで、少年はひたすらに頭を下げる。

 

 「……それは何度も聞きました。

 だから、何度でも聞きます。兄さん、兄さんが敵にならなきゃいけない理由は何ですか?

 どんな罪があって、その罰を受けるんですか?まだまだ子供な兄さんの前世に何があったら、そんな業を背負わされるんですか」

 その言葉に、少年は何かを思い出そうとする。

 

 「……護れなかったものがあった。

 救えなかった人が居た。

 助けなきゃいけない相手が、死んでいった」

 けれども、しっかりとした答えが帰ってくることはなく。


 「それは、兄さんの身に起きた事故の事です。それに、それは兄さんの罪ではありません」

 「万四路を、俺は殺したんだ」

 「……殺してないです」

 何時もの発作を発症し、少し虚ろになった目の少年の手を、幼馴染の少女は引く。


 「全く、兄さんは……おにーたんは、何処でも変わりませんね」

 ふと漏れたその言葉は、少年の耳に届くことはなく流れた。

 

 「ほら、遅れますよ」

 「……ああ、ごめん」

 ふと、正気に戻り、少年は歩き出した。

 

 そして、二人が来た場所は……駅の映画館であった。

 駅ビル11階のシネマ。エレベーターではなく、少年が落ち着くよう時間をかけてエスカレーターを乗り継いで其所へ辿り着く。

 

 「今回は私が払います。今度はちゃんと、お小遣い貯めてくださいね。

 盗られたりせず」

 言いつつ、小学生の少女は三人分の券を買う。

 子供二人と、少し離れて見ている一人のボディーガードの分で3人。近くにいさせつつ邪魔されないよう、三人がL字になるように。

 

 そして、わざと大きめのポップコーンを買って、席につく。

 「兄さん、はい」

 「それ、始水のものだろ?」

 「二つの味となると、このサイズしかなかったからちょっと大きすぎるのを買ったんです。手伝ってください」

 困ってますと言えば、少し悪いなって顔をしつつも食べてくれる。

 それを知る幼馴染の少女は、遠慮がちな少年にポップコーンを半分押し付けて、スクリーンを見た。

 

 「……わざわざ映画館に普通に来る必要あるのか?」

 何時も思うけど、と少年は呟く。


 「俺と来なくても、始水……ゴールドスターグループなら好きに貸しきったり出来るんじゃ」

 「私は、映画はこうしてポップコーンと共に、多くの人と同じスクリーンで見てこそだと思うんです。そして、終わったあとに一緒に来た人と感想を言い合うのまでが、私の好きな映画鑑賞です。

 家じゃ多くの人とって訳にも、ポップコーンを食べるわけにもいかないから、兄さんと来てるんです」

 「そっか。今日のは何だっけ?」

 「最近公開された恋愛小説原作のラブロマンスです

 寝ないでくださいね、兄さん?」

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