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銀髪聖女とエルフの姫(side:アナスタシア)

それは、天狼さんに謝ってくるって、果物の干したものやその他沢山のものを持って、アウィルちゃんと一緒に皇子さまが行っちゃった少し後。

 

 天狼さんには敬意を持っているのか、そのさらさらしたわたしでもちょっとズルいなって思っちゃう絹みたいなステキな髪をもう一匹のちいさな天狼さん(ラインハルトくん)に遊ばれながら、すっごいえらいらしいエルフのノアさんはふと、わたしをみて言った。


 「……よく、アレに付いていけるわね」

 って。

 

 その言葉の意味がよく分からなくて、わたしはえっ?と聞き返す。

 「少し分かりにくいかしら」

 「えっと、なんのおはなしですか?」

 「あの灰かぶりの皇子(サンドリヨン)の事よ。立派な大人でしょうに、理解が遅いわね」

 その言葉にむっとして、わたしは頬を膨らませる。

 「わたし、まだ9歳です。大人になりたくても、なれてないですよ?」

 

 わたしがちゃんと大人なら。皇子さまを助けてあげられると思うのに。

 あんなに思い悩まなくて良いって言ってあげられるのに。わたしは、まだ守られてばっかりで。


 他のみんなもそうだけど、この頃から大きく体は成長していくけれど。まだ、わたしの体は子供のまま。

 ちょっと胸だけは大きくなっていく兆候があって、そこは……あれ?誰と比べてうれしかったんだっけ?

 

 「……ああ、そうね」

 って、わたしとそう変わらない外見年齢のお姫様は、その豪奢なのは嫌いなのって結構質素なドレスの袖を揺らす。

 「人間の成長だと、まともな分別が付き始める、大人のなり始めくらいの年齢だったのね。

 ワタシ基準で、同じくらい大人だと勘違いしていたわ」

 「大人なら、皇子さまを……助けてるです」

 へぇ、と面白そうに長耳のお姫様は言う。

 

 「どこが良いのよ、あんなドリリコン」

 「りりこん?リリコン……リリ婚?」

 リリーナさんと結婚?あの桃色の人と?それはちょっとやで、でも、そういうことじゃなさそうで……

 わたしは、首を傾げて、言葉の意味を探る。

 

 「あら、知らなかったのかしら。なら、本当にしょうがないから無知なアナタにワタシが教えてあげるわよ。

 

 リリアンヌ・コンプレックス。これで分かるでしょう?」

 リリアンヌは、わたしにも分かる。

 昔の聖女様の名前。封光の杖を振るうあの人のこと。

 

 でも、こんぷれっくすって聞き覚えがなくて。

 「聖女さまの……」

 「ええ、聖女(リリアンヌ)妄想症(コンプレックス)

 己を聖女か何かと勘違いしている頭のはぐるまが狂った相手の事よ」

 はぐるま、だけ馴染みがないのかカタコトで、少女は告げる。

 顔を少し上気させつつ、忌々しそうに。

 

 「えっと、皇子さまは女の人じゃないですよ?聖女さまでもありませんし」

 「ええ、あくまでも例えだもの。

 それに、彼はもっと酷いものよね。聖女どころか、自分を七天の一員か何かと勘違いしてる重篤者」

 その言葉は、わたしには到底受け入れられなくて。

 

 「皇子さまは、そんな人じゃないです!

 神様だなんて、えらぶってないです!」

 思わず声を荒く、わたしは叫ぶ。

 

 ……あ、ごめんねラインハルトくん。

 びくりとする狼に、わたしは大声を出しちゃったことを反省する。


 「ええ、そうね。彼自身、そんな自覚はないでしょうね。

 ……けれど、彼は内心ではそうなのよ。だから、あそこまでワタシを侮辱できる」

 「ぶじょくだなんて」

 「してるわよ」

 冷たく、ノアさんは吐き捨てる。

 

 「おれが誰かを助けるのは当然?寧ろ多くを護れなかった?それが罪?

 要求することなんてない?

 

 ばっか馬鹿しい。このワタシを、ええ、それこそ助ける義理も無い、寧ろ、洗脳して窃盗を働こうとした相手を、自分の命すらも擲って助けておいて、言うことがソレ?

 エルフを人間の民と同列に扱うなんて、侮蔑でしょうこんなもの。

 

 過半数を救えなかった?多くの犠牲を出した?アナタが居なければ死んでたワタシに向けてそれを言うの?助けられた側すら不快になるわよ。

 どうして、助からない筈の相手を一部助けたことを誇らないのよ」

 一息置いて、わたしに似た想いを持つ彼女は、拳を握って続ける。

 

 「冗談でしょう?

 誰かを護る義務を果たせなかった?その無償で助けて当然だって範囲にワタシを入れて良いのは、家族かワタシ達を創った女神アーマテライア等七大天だけよ。

 ただの人間の癖に、エルフを誰とも知れない有象無象の人間と同等に扱うなんて、神にも等しいおぞましい思考にも程がある。全く、どんな人生送ってきたらあんな吐き気のする生き物になるのよ」

 

 はぁ、と息を吐いて、少女は最初に戻る。

 「よくもまあ、あんなのについていけるわね、アナタ」

 「わたしは、そんな皇子さまだから、助けてあげたいんです」

 呆れたような目を、わたしと似たような目を、少女は返す。

 

 「良いこと無いわよ?

 アレ、釣った魚に餌なんてやらないタイプでしょう?そもそも、釣ったことにすら気が付かないわよ」

 「ノアさんも、皇子さまを好きなんですね?」

 「『も』って何よ。ワタシは釣られてないわ。

 止めて欲しいわね。人間なんかの言葉を少しは覚えてあげるわと色々な本を読んだけれど、ワタシには釣り合う相手が居なかったから全く知らなかった恋愛について描いた本は人なのになかなかと評価してるの。

 だというのに、こんな気持ちが恋ならそれらを『こんな苦しいものを美化しすぎ』って酷評しなくちゃならなくなるじゃないの」

 

 そんな言葉が、どこか可笑しくて。

 「わたしは、皇子さまと居て楽しいこともあります」

 「そう。誰にでも言うでしょう?ぱっと見の人当たりはカリスマがあってよさげに見えるもの。

 実際は、人の上に立つことに致命的に向いていないけれど」

 「でも、皇子さまから言われたって思ったら嬉しいです

 他の子にも可愛いって言うのは少しむっとしますけど、でもそれでも言われないより言われたいですし」

 「ワタシは嫌よ?

 うわべだけの言葉なら幾らでも聴けるもの」

 

 今度はわたしの手にある尻尾型の皇子さまが買ってきた玩具にぺしぺしと前足パンチを繰り出す仔狼さんに向けて玩具を振りつつ、気になってたことをわたしは聞く。

 「ノアさん。ひょっとして、皇子さまみたいな人ってけっこう居るんですか?」

 「あら、どうして?」

 「りりこん?って、言葉があるってことは……皇子さまみたいな人が居て、なんとかしてあげられる方法って」

 「……そう。でも残念ね。あそこまで重篤なのはそう居ないわよ。

 普通のリリコンはね、自分は特別だって思われて認められたいから人助けをするのよ。それこそ、アナタみたいな相手が欲しくて、自分のために一見素晴らしい行動を取るの。

 人助けをする自分は尊敬されるべき特別で、当然助けられた者は感謝して自分を讃えるものって思ってね。

 

 だからこその、リリアンヌコンプレックス。己を誰からも愛される聖女であるかのように妄想する精神症。


 普通なら、アナタみたいなのには滅茶苦茶優しいし、ワタシに向けて礼として、もう既に前に要求した事の範囲縮小版を要求したり、夜中に一人で吐いていたりしないの。

 何よ、有事には誰か一人で良いから手を貸して欲しいって。去年言っていた有事にはエルフにも戦って欲しいよりも要求弱くなってるじゃない」

 

 「……そう、ですよね……」

 しょんぼりしながら、わたしは頷く。

 皇子さまは、自分は誰かを助けるのが当たり前で。でも、自分が助けられたときにはいっそ大袈裟なくらい感謝する人だから。

 

 「あれはもう、認められたり称賛されたりするのを恐れてる節すらあるわ。

 それでも着いていくの?釣られても良いこと無いわよ?」

 「ノアさんと同じです」

 「同じにしないでくれるかしら。

 ワタシは、エルフを単なる人と同列に扱う愚かさを治したいだけよ。依存しているアナタとは違うわ。

 依存していたいなら止めないけど、不幸になるわよ」

 「それでも、わたしは……ひとりぼっちな皇子さまを、支えてあげたいです。幸せになって欲しいです。

 だから、逃げません」

 此方を見る少女に、わたしはきゅっと小さく手を握ってそう返す。

 

 「そう。少しは仲良くなれるかもしれないわね、ワタシ達。

 迎合する気はさらさら無いけれども、向かう先は似た方向だもの」

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