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同行、或いは父の言葉

そうして、おれはアナたちとともに帰路について……

 

 「ノア姫?」

 それが当然の権利であるかのように、傷は何とか治癒したもののぎこちなく歩みを進めるネオサラブレッド種に跨がるエルフの姫に、おれは疑問を溢す。

 

 「ノアさん?何で着いてくるんですか?」

 オルフェに対しておれの馬だが占有権を持つかの如く我が物顔のヴィルジニーはまあ良い。

 だが、我が物顔で乗るノア姫については良くわからなくて。

 

 「……なにか可笑しいかしら?」

 だというのに、高貴な筈のエルフの媛は、当然だといわんばかりの表情でおれに着いてくる。


 ……いや、何故?

 

 「ノア姫。おれは、何か伝え間違いをしたろうか」

 だから、おれは確認をして……

 

 「何も間違ってないわよ」

 けれども、その辺りは否定される。


 「……いや、可笑しくないか」

 「何処が?」

 「どうして着いてくるんだ?」

 だからおれはそう問いかけた

 

 「相変わらず、人間は馬鹿馬鹿しいわね」

 と、なんか失礼な事を言われた。


 「アナタがワタシに言ったのでしょう?大事が起こった時、ワタシに手を貸して欲しいと」

 

 その言葉には頷く。

 大事と言っても、相手次第だが……

 「大事なんて無いよ、ノア姫」

 

 その言葉に、エルフの少女は淡い金の髪を揺らす。

 「全く、馬鹿馬鹿しいにも程があるわね」

 「……そうです」

 と、アナが何故かノア姫の味方をしていて、それが気になった。

 

 「いやちょっと待ってくれ。いったい何処が問題なんだ」

 「何で馬鹿馬鹿しい。そんなことも灰かぶりには分からないのかしら?

 少しはゆっくり休んで頭を冷やすことね」

 「いや、本気で分からないんだが」

 真面目にどういうことだ?

 

 「帝国内で、異例の力を振るう何者かが現れた。

 ええ、アトラスだったからしら?そういった怪物を扱うものが、ね。

 それがどうして、大事ではない等と嘯くのかしら。誰がどう見ても、あまりにも明白な大事でしょう?」

 

 ……いやまあそうかもしれないが。

 「それ程の大事を前にして、ワタシが動かなければ、それこそ約束を破るという事。

 いくら相手が下等な人間ごときとはいえ、約束は守るわよ」

 ……大事かそうでないかは任せきり。幾らでも踏み倒せるようにしていたんだが……

 

 「すまない。助かる」

 その厚意は無駄にはしない。

 浅ましい話だが、助けてくれるというならば勝手に手を借りる。

 本来、姫と呼んでいる彼女は、おれが連れ回すような存在ではなく、エルフ達の支柱であるべき相手だろうとしても。

 

 「ええ、分かれば良いの。重要な事態を片付けて、早めにワタシを返してくれると嬉しいわね」

 「努力するよ。どこまで意味があるかは知らないけれど」

 実際問題、何処まで知ってるかは分からないしな。

 

 「……ふざけずに、努力することを祈るわ。

 ワタシを、早くふざけた話から解放するようにして欲しいわね」

 「努力するよ」

 ……少なくとも、あの刹月花の少年と、ユーゴと、あとは……恐らく、シャーフヴォル。最低3人は居る相手達だ。


 ノア姫が嫌々やっているならば、早めに返してやるのが筋だろう。

 敵は挑めば何時死んでも可笑しくない化け物揃いだ。大抵馬鹿馬鹿しい間抜けなのだけが救いだが、それでも一歩間違えるだけで死ねる。

 あまり、ノア姫を巻き込みたくない。

 それを言うならば、アナもだが。


 全てをだいたい理解してなお、共に戦おうと言ってくれた竪神は兎も角、他は巻き込むわけにはいかない。

 少し前に巻き込んでしまったのだって、おれの落ち度だ。もっと、何とかなったろうに。

 

 そうして、王都に辿り着く。

 特に何かが起こることはなく。少しぎこちない歩みの愛馬への心配はありつつも、事態は終息した。


 そして……

 「……父さん」

 おれは、皇帝陛下に呼び出されていた。

 結局、助けに来なかった彼に。

 

 そんな銀の髪の皇帝は、ふとおれに何かを差し出す。

 「これについて、理解はあるか?」

 と、出されたそれは……

 おれがアルヴィナに贈った、天狼の大きなぬいぐるみであった。

 少し焦げていて、アタマにはしっかりとした帽子が被せられている。

 

 「アルヴィナに贈った……」

 と、おれの言葉に、父は頷く。

 「成程、やはりお前は覚えていたか。お前まで忘れていたら(オレ)は自身の記憶を疑わねばならいところであった」

 「父さん、それは」

 「この地に潜入していた魔神どもが残していったものだ。

 フラれたな、馬鹿息子」

 馬鹿にするのか、同情するのか、さもなくは違うのか。

 良く分からない表情で、男は言う。

 

 「……アルヴィナ」

 「轟火の剣が消えて戻った。

 ならば全てはもう終わったとして、直感通りにあの男爵家に向かったが……少しだけ剣を合わせたものの、逃げられてこうなった。

 最早、あの貴様の嫁候補だった魔神娘など誰も知らん。(オレ)とお前だけが覚えている」

 「そう、か」

 見下ろしてくる父に、おれはそう返す。

 

 「というか、何故フラれた?」

 少しだけ意外そうに、男は聞く。

 「いや、フラれたって」

 「(オレ)はお前を信じてあの魔神どもについてを任せた」

 「知ってたのか、父さん」

 「当たり前だ。あの魔神王について、少し対話したぞ?」

 いや、なら教えてくれという心はさておいて、おれは父からぬいぐるみを受け取りつつ聞く。

 

 「それと、フラれたって言葉に因果関係は?」

 「いや、貴様が好かれたままなら、このぬいぐるみは持ち帰るだろう?」

 ……確かに。

 

 「いや、アルヴィナと決別するような事は特に無かったんだが」

 首をひねるおれ。

 それに苦笑して、皇帝は問う。

 

 「なら、何故置いていく。それに貴様……その左目はどうした」

 「アルヴィナにあげた。欲しがってたから」

 

 「……ふはははは!」

 突然、父は笑い出す。


 「ああ、明鏡止水の瞳か。確かに欲しそうにしていたな。明らかに異常な欲求だが……それを叶えてやったか」

 くつくつと、皇帝は嗤う。

 

 「成程成程。どうしてそうした?」

 「アルヴィナが、命懸けでおれ達を護ってくれたから」

 「良いだろう。貴様がフラれたという言葉は取り消そう。

 

 ……つまり、あの烏めの言葉の裏付けか」


 「……父さん?」

 ぬいぐるみを抱きつつ、持って帰ってくれればなんて思ってたおれは、不意をうたれる。

 

 「ふん、面白くなってきたというところか。

 ともすれば……一部の魔神どもとは共闘も有り得るか。普通ならば与太話だが……」

 「いや、だから何なんだ父さん?」

 「いや、良くやったゼノ。そのぬいぐるみを大事にして、いつか返してやれ。

 恐らくだが、無くして落ち込んでいるだろうからな」

 なんて、父はそう言って……転移魔法で消えた。


 後には、何が何だか分からないおれだけが残された。

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