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覚醒、或いは金雷

同時、空で起きる轟音。

 降り注ぐ、二つの金属腕。

 

 一つはライ-オウ……いやライオヘクスの右腕。アイリスが増加装甲で無理矢理外から動かしていたフレームの腕。

 もう一つは……アトラスと呼ばれたあの機神の左腕。

 

 巨大剣と、粒子を纏う剣。交差する二つの剣が、空中で互いの腕を斬り飛ばしていた。

 

 「ぐっ!紛い物風情が!」

 貰い物が、ほざくな。

 

 なんて気が散る思いは心の中に秘めて。


 駆け寄ってくるオレンジの鬣の馬。その背には、しんじられないといった顔の少女が居た。

 「ノア姫」

 「……アナタは、何者なのよ」

 「おれは単なる、第七皇子。貴女の兄の親友の息子で、灰かぶりだよ」

 背の焔の竜翼は……飛べないことはないな。

 いきなり形成されたから訳分からなかったけど、そういや父さんも轟火の剣で空飛べたな、それの再現が出来ているということなのか、これ。

 

 「……元凶は倒れた。上手くすれば、呪いは解けているかもしれません」

 ふと、思う。

 命乞いしている彼に、解除させて見逃すべきだったのでは?と。

 

 多分彼を殺したのは、おれのエゴで。痛いところ突かれたから否定したくてで、決して立派な動機ではなかったのだろう。

 

 既に、黒き狼は最初から何処にも居なかったように、痕跡すら無く消えていた。

 「アナタ、これからどうするの?」

 「ノア姫、これをお願いします」

 おれは、手に持ったままの天狼の角を馬上の少女へと差し出す。


 きっと、アトラスとやりあう時に、今も帯電する程の力を持つこの角は役立つだろう。何かに使えるだろう。

 だが、それでは彼等と同じだ。同類ではあるけれど、おれは偽善者で居たい。

 この角をルートヴィヒから奪ったのは、返すためであっておれが使う為じゃない。

 

 だから、おれはエルフの姫に、その角を手渡す。

 「天狼に、返してやってください。

 オルフェ、皆をお願いな」

 任せろとステップを踏む愛馬に頷いた。

 

 「……何が、欲しいの」

 「忠誠……は、民だけか。

 信頼と、理解を。あと、戦うためとはいえ森を焼いたことを許してもらえれば」

 愛馬が駆け出すのを見て焔の翼をはためかせ……って慣れないと難しいな。

 少しぎこちなく、おれは空へ舞う。

 

 って、いきなり消えんなよ翼!?

 格好悪く、おれは地面に降り立った。


 「……ああ、そういうことか」

 そろそろ耐火服も限界が来ている。どんどんと穴が大きくなっていて、そこから燃え広がり始めている。

 焔の翼を展開しているのは、かなり力を使い、延焼するのだろう。だから消えた。

 

 其処に、片腕の無い機神が降ってくる。

 「アイリス、竪神!いけるか!」

 「心配をして欲しいところもあるが、まだ動く!」

 『「……あしたから暫く、寝る」』

 「……上等!」

 タイムリミットが近いのが三人、特にアイリスの声は、今にも意識を手放して寝そうなもの。だが向こうも無事では済んでいない。上等すぎる。

 

 睨むおれの前に、転移して着地の隙を潰しながら、片翼をもがれたATLUSが着地する。

 好き勝手飛んでいるように見えて、翼には力場発生装置だか何だか、飛ぶのに必要なものが仕込まれていたのだろう。それを喪ったから降りてきた。

 

 その装甲は黒く染まっていて鮮やかな色はない。

 恐らくだが……黒が素の色で、エネルギーを放つことで色づいていたのだろう。戦闘形態があの赤と青。それが維持できなくなってきている。それだけエネルギー切れが近いということだ。


 見たところ、歪みもない。重力場による障壁も消えている。

 いくら原作にはない、いっそ原作のライ-オウ完成形より強いだろうライオヘクスで挑んだとしてもここまで追い込めるとは、あの14(アガートラーム)のチートっぷりとは偉い違いだ。


 そして、黒い装甲。なら、アステールをさらったという『くろいかみさま』もこのATLUSか。

 そうだと助かる。流石に、ここで3機目の機神とか介入されたら勝ち目がない。

 

 精悍……とは言いがたい顔。ライオヘクスのようなブレードアンテナではなく、機体装甲そのものが後頭部に伸びた二本角の悪魔。

 14はやけにヒロイックであったが、どんな心境の変化が、悪魔の顔をした機体から、救世主面になるのだろう。

 ライ-オウもAGXの系譜に当たるようだが、胸の獅子頭に精悍な顔。これは……原型から?それとも、竪神たちの趣味?

 

 少し思いを馳せたくはなるが、今やっている暇はない。

 

 「……やって、くれますね……」

 「……シャーフヴォル。計画は終わりだ」

 一息つくためか、攻め手を考えているのか。動かないアトラスに向けて、おれはそう宣言する。

 

 「ルートヴィヒはおれが殺した」

 少しだけ、ライオヘクスが揺れる。恐らくだが、アイリスの動揺のせいだろう。


 何だかんだそこそこ優しい心のアイリスは、人殺しなんて考えたこともないだろう。だから、揺らぐ。

 

 「……死ねぇっ!」

 その隙を逃すほど呆けていなかったようで、シャーフヴォルは、機体を()り、吼える。


 右手の間に現れた重力球。そこから今まで振り回していたのが玩具のナイフどころかミニチュアに見える程の巨刃が現れる。

 全長にして、約1500m。おれの1000倍、アトラスでも全長の100倍近い。刃の厚さだけで恐らくおれの身長くらいある超巨大鋼刃。振り下ろせば、衝撃はエルフの村を切り裂くだろう。

 

 こんな切り札を残していたのか!

 だが!


 蒼き機神が小さく頷き、おれは頷き返す。それだけで伝わる。

 やることは一つしかないから。


 「超重豪断!」

 放たれる重力場が、動きを止めようと襲い掛かり……

 「ブラスト!パニッシャー!」

 その重力場で加速した巨刃が大地に叩き付けられる。

 

 それを……

 「私達を、舐めるな!」

 粒子を全開で放出するライオヘクスが受け止める!


 当然止まる筈もない。直ぐに押し込まれていって……

 

 「吼えろ!デュランダル!」

 翼を持つのは、何もライオヘクスだけではない。竜翼を燃やし、おれは飛び出す。


 敵たるATLUSへ向けて。

 

 そして……

 そのコクピットがあるだろう胸部へと轟火の剣を突き立てる!

 「燃え盛れぇぇぇっ!」

 そのまま、轟火の剣の焔を解放。自分ごと焼く覚悟で、焔の柱を立てた。

 

 「ぐっ!

 はぁぁぁぁぁっ!」

 力任せの焔。アトラスに頼る彼と同じごり押し。


 けれども、効果は十分で……

 「んぐぅっ!」

 コクピットにも焔は舞ったらしい。溶け崩れる胸部装甲の隙間から、火に巻かれるいけ好かない男の顔が見えた。

 

 重大な部分にダメージが行ったのか、巨神の姿が傾ぐ。巨剣は重力球の中に消え、そして……

 

 『……Emergency code』

 唐突に走る嫌な予感に、翼を消して全力で機体を蹴り飛び下がる。

 『……life precarious

 SEELEG(グレイヴ)-Combustion Chamber hacked

  Brionac Tuatha Dé Danann compulsion liberate

 Active Active Error ……Active

 It's time to Rejudgement!』

 

 刹那、大きく揺らいだ筈のかの機神から、緑の粒子と雷撃が迸り……

 青と紅の色が黒い機体に戻り、赤いツインアイが緑に変わり、強く輝きだす。

 

 「……なっ!?」

 「再起動した!?」

 男二人して、その事に驚愕し。


 故に、反応が遅れた。

 

 「……っはぁ!これですよこれ!

 有り難う!本当に有り難う」

 場違いな感謝の言葉が降り注ぐ。

 

 「AGX-ANCと言えばやはりブリューナク!けれども、変なロックがかかっていてね。

 どうしても使えずに困っていたんですよ!しかし……」

 翼が修復され、赤青の機体が微かに浮き上がる。

 

 「君たちが!その閉ざされた可能性のドアを開いてくれた!

 感謝してもしきれないですね!」

 その右腕が輝く。

 雷撃が迸り、腕の中に込められた薬莢?が装填されるような音がする。

 

 「ああ、だから……君達は、これで葬ってあげよう。せめてもの礼儀だ」

 「……竪神!」

 しかし、鬣の機神は応えない。

 あの巨剣を押し留めるのに殆どのエネルギーを使い、最早帰還転送を無理矢理抑えているかの機体は動かない。

 

 そして、おれも……

 「ぐぁっ!?」

 一歩踏み出そうとして、炭になった足が砕け、体勢を崩す。

 

 「フィナーレです!

 ブリューナク・トゥアハ・デ・ダナーン!」

 復活したATLUSは、雷撃を纏う槍のような腕を、振り抜く!

 

 その瞬間、二つの金雷が空中で激突した。

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