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ルートヴィヒ、或いは燃え盛る焔

「スコォォォォォルッ!」

 「デュランダルゥッ!」

 

 少年ルートヴィヒと二人、頼りきりの武器の名を吼える。

 ……ああ、頼りきりだ。この作戦でのおれは……刀が折れたせいで使い慣れぬ頼勇のエンジンブレードで戦おうとしていた。

 それが轟火の剣になった。

 性能は段違いで……ついでにいえば、おれの刀についての鍛練はやっぱり全く意味がない。雪那もこいつじゃ撃てないしな。

 

 だから、これはおれの力じゃない。帝国の力。不滅不敗の轟剣の力。

 第一世代神器、七天御物のごり押し。彼等のやってることと変わりがない。

 

 だが、それで良い!それで皆を護れるならプライドなんぞ要らない!

 

 空の上で、紅と緑の粒子を撒きながら空を駆ける蒼と銀の機神が、赤と青の機神へとその剣を横凪に振るう。

 ヴゥン、という音と共に、アトラスの姿が背のブラックホール?だろう重力球に呑まれて消え、剣は空を切るが……

 

 「駆けろ!ライオヘクス!」

 撒き散らした粒子には、探知機能もある。そうアイリスが自慢していたとおりだ。


 背後に重力球が出現し、其処から姿を現した機神が鬣の機神へとその巨剣を振り下ろそうとする寸前、

 肩のエネルギーウイングを片方だけ噴かせ、足に増加ブースターとして接続されたものを獅子への変形形態を見越して逆関節にも曲がる足を前方に向けて逆噴射。

 瞬時に右後方へと吹き飛んでいく巨神の姿を見失い、40mはある剣は地響きを立てて地面に埋まる。

 

 「ハイペリオン・斬!」

 そこへ強襲するは鬣の機神の横凪の剣。

 アトラスと呼ばれた機神は、超重力場を維持する為に光背の形に翼を維持するのを諦め天空へと離脱する。

 

 軽くなる体。

 アトラスの相手は完全に竪神親子と妹、あとウィズに任せきりにして。

 

 「っ!らぁぁぁぁっ!」

 最早小手先の技など無い。お得意の抜刀術は轟火の剣で使うものじゃない。

 力任せに、剣を少年に向けて上段から振り下ろす!


 「ガロォォォッ!」

 が、背に構えたところで、がくんと引かれる。

 燃える剣に焼かれるのも構わず、三眼の黒狼が剣を咥えていた。

 

 「……っ!」

 ほぼ人形だから喋れないのだろうか。そういえば、原作のゾンビ四天王も基本台詞無かったな。

 おれの剣を止めて、スノウと呼ばれた白狼がおれの首を狙って襲いかかる。

 どれだけ操られていても生来の性格なのだろうか、控えめに開いた口に威圧感はない。

 

 それに当たってやる義理はない。おれは咥えられた轟火の剣を軸に跳躍して回転。

 牙を剥き出しに刀身を咥える黒狼の頭に飛び乗ると、即座に剣を左手逆手に持ち変えて、

 「っらぁっ!」

 謎の行動に牙が緩んだ瞬間、それこそ自分の腹を切り裂くように手首を捻って逆手故の斬撃で顎を切り裂いた。

 

 ぱっくりと開き、上顎と下顎がズレて、三眼の頭が地面に落ちる。

 ……が、これで倒せるほど甘くはない事は何度かおれは身に染みて分からされている。

 

 おれが体勢の安定のために乗った体が掻き消えたと思うや、地面に落ちた上顎から瘴気が噴き出し、黒狼の姿を取って疾駆する。

 

 ってそっちが本体扱いなのかよ!?

 

 黒狼が目指すのはおれではない。

 護るべき少女たちをその牙にかけるべく、噴き出す黒いオーラと赤い三つめの瞳の光を残光として残して四天王の屍は駆け出す。

 

 「させると、思ってるのかよ!」

 焔のマントをたなびかせて、おれもそれを追って駆け出し……

 「『セイクリット・バインド』!」

 背後から飛んでくるのはそんな拘束魔法。

 

 ちっ!厄介な!

 いくら謎の覚醒状態になってようが、おれはおれだ。

 頭の上に再び狼の耳?が生えていて感覚が研ぎ澄まされ、焔を纏って強化されていようが、生来の【魔防】0が消えたわけではない。魔法に弱いのはそのままだ。


 だが、今回はそれを受け止めてくれる者がいる。

 

 そう。アルヴィナ。

 魔法としておどろおどろしく可愛くないせいか普段は使わないし、おれも最近まで使えることを知らなかった死霊術を使う女の子。

 その少女が付近の彷徨う魂に語りかけて作り上げた仮初めの体が、十字におれを縛り上げるはずの魔法への生きた(死んだ?)盾となる。


 「アルヴィナァァァッ!」

 悔しげに叫ぶ少年の声を尻目に、ギリギリでおれは黒狼に追い付いて、

 「させねえと、言っただろう!」

 二度、その首を跳ねる。


 地面に落としてはそこから復活してくる為、ギリギリ毛皮一枚残したところで手首を捻り、剣を跳ね上げて空中へと首を飛ばし……

 

 「ガルゴォォッ!」

 って、胴体から生えたのか!?

 どこが本体かは勝手に向こうが決められるのか!

 「っ!アルヴィナ!」

 

 一拍呼吸を整えていたおれは、少しだけ対応が遅れた。

 アナを殺すなと念を押されていたから、攻撃するのはじっと天狼の前にひざまずいて魔法書を捲り続けるアナではないだろう。

 だが。アルヴィナは死んでも大丈夫と真性異言(ゼノグラシア)らは話していた。ならば、狙う牙は……

 

 「っ!まに、あえぇっ!」

 考えている暇など無い。剣を振るっても止められない。ならば!盾になるのみ!

 何とか少女の前に出て……

 

 「ルオォォォン!」

 視界を焼く桜光。

 駆け抜ける、白と桜の閃光。

 

 折れた角はそのままに。力尽きた銀の髪の少女をその背に乗せて。

 片眼のみが治った隻眼の白狼が、おれを飛び越えて三眼の黒狼に襲い掛かった。

 

 「天狼!」

 「……っ!ガォォォッ!」

 振り下ろさんと振り上げた左前足に噛み付かれ、バランスを崩した黒狼スコールはそのまま押し倒され、天狼に抑えつけられる。

 

 しかし、相手は魔神。人に近しい姿と本来の姿を持つ怪物。抑えられた腕の拘束を、(みっ)つめの眼が額に輝く武人の姿に変わることで抜け出して、

 「させねぇよ!」

 地面に転がった姿から、腕に発生させた黒いオーラを放って天狼の腹を狙おうとするその男の腕を、轟火の剣を振るって切り落とす!

 

 「ガァァァッ!?」

 人の姿をしていても、他の魔神は流暢に喋るはずでも、響くのは獣の咆哮。

 どこまでも、好き勝手使われているだけ。

 

 そんな四天王の姿に少しだけ憐れみを覚えつつ、おれは天狼を横目で見る。

 傷は半端に治っていて。後ろ足はもう良いのかもしれないし、眼も普通に戻っている。

 だが、力の源とも言われる角が無く、出産の為に体力を息子(確定)に取られているだろう今。既にたった一瞬の攻防でふらついている。


 「……天狼よ」

 静かに、その蒼い片方しか残っていない瞳がおれを見た。

 

 「おれが、貴女に角を取り戻す。あのバカにツケを払わせる。絶対だ。

 だから、アナ達を護ってやって下さい」

 それは、気遣いの言葉だと分かったのだろうか。いや、きっと伝わったのだ。

 ふらつく3足で、天狼はアルヴィナの前へと向かう。

 

 「……ボクも?」

 「大丈夫だよアルヴィナ。轟火の剣は無敵の剣だ。

 絶対に負けない、不滅不敗の轟剣(デュランダル)なんだから」

 こくり、と頷いて。魔神の少女はその背に乗る。

 

 そして、桜雷と共に駆け出す天狼。

 それを追うスコールはおれが止め、

 「キャンッ!?」

 同じくそろそろと大回りをして狙いにいっていた白狼の首を、光の矢が撃ち抜く。

 

 「あの無能が!」

 そして、アトラスから降り注ぐ銃弾の嵐、その頭部に仕込まれたバルカン砲による攻撃は……

 「頼む、アイリス殿下!」

 制空の機神LIO-HXより今一度分離した支援機、アイリスのゴーレムたるHXSがその速力で身を呈して庇いきる。


 バルカンは牽制用故か、その機体に傷付くことはなく。

 

 「……決着をつけよう、少年」

 「うざってえんだよ!お前も同じだろうが忌み子皇子!

 一人だけハーレム満喫して満足かよ!」

 耐火服のお陰か、まだまだおれの体力には余裕がある。前ならもう全身焼けて倒れていたところだが、まだ戦える。

 少し耐えきれず焼け始めた内臓から出る白煙を唇の端からタバコのように格好つけて(くゆ)らせて、微笑する

 

 「満足、か。

 満足な訳はない」

 「はっ!結局同類だろ!」

 ……同類だ。それは違いない。どれだけ格好つけていても、おれも真性異言の一人だ。

 

 アナ達の為?もっと好きになれる人が出来る?

 そう言い聞かせていても、距離を取ろうとはしなかった。本気でそう思っているならば、もっと強く拒絶するべきだ。

 去勢だって、当然やってて然るべき。天の加護がないから聞き届けられない口先だけの不犯の誓いを七天教に奉納するだのやる前に、物理的に潰せた筈。

 だからおれは、少女達に慕われる状況を、何だかんだ楽しんでいたのだろう。

 

 ああ。どれだけ取り繕おうが、おれと彼やユーゴは同じ穴の狢。

 ……もっと離れなければ。あの子達はきっと幸せになれない。

 

 だが、それがどうした。


 身を焼く焔がより強く燃え上がる。

 「だとしても。今此処で!お前を倒さない理由にはならない!」

 今おれが居なければ!竪神が戦わなければ!もっと酷い目に逢うならば!

 クズが同じクズを!同じだからって止めない理由になど!なるものか!


 それが、たとえ本来間違っていても。おれは!親しい誰かを!皆を護る!

 お前を殺すというその悪を背負ってでも。

 

 だから、叫ぶ。

 「共に戦ってくれ、帝祖ゲルハルト・ローランド!」


 応!と燃え上がる焔。たなびく包帯がほどけきって全て燃え尽き、包帯を燃やしてマント状になっていたそれが竜翼となって燃え上がる。

 

 「っ!吼えろぉぉぉっ!」

 「この!たまたま恵まれた偽善者がぁぁっ!」

 黒狼と爆炎、正論と正論がぶつかり合い、紅蓮の焔が、黒き瘴気を呑み込んだ。

 

 肉を斬る感覚。

 幾度もの再生で力を使い果たしたのだろう四天王の屍が瘴気として焔の中に溶け消え、

 「ルートヴィヒ!おれの、勝ちだ!」

 そのまま駆け抜けたおれは、少年を袈裟懸けに両断した。

 

 「あか、あっ……」

 斜めに両断された少年の体は、二つのパーツに分かれてブスブスと焦げた大地に転がる。

 控えた白狼の少女は動かない。これが生きている誰かならば、間違いなく駆け寄ってくるか、おれを追い払おうとするだろうに虚ろな表情になって立ち止まる。


 「……スコール」

 

 再度、瘴気が立ち上ぼり、焔に消えた筈の三眼が万全な状態で姿を見せる。

 全く、即座に復活したのかよそいつ。相手を弄ぶにも程がある。


 だが、それは今更遅いこと。

 

 「……終われ、真性異言(ゼノグラシア)

 「……やめ、て」

 それは、おれが初めて聞く命乞いの言葉。


 立派な人物なら、きっとそれを聞くだろう。

 それほどに憐れっぽく、力を得ただけの日本人だろう意識は恥も外聞もなく、己の死の恐怖に涙を流す。

 その股間から水分が溢れ、燻る火が消えていく。


 ああ、そうだろう。おれより少し上の、まだ10歳かそこら……日本で言っても中学生くらいじゃないか。

 分別なんてまだ無い。おれと同じく馬鹿で、ちょっと強い力に溺れただけで。


 「ああ、分かったよ。

 おれも同じ穴の狢だ」

 次に言う優しい言葉を考えるなか、彼にかけるべきだと思っていた言葉は、この世界では違うなと思い直し。



 「(ソラ)へ堕ちろ。いつか、おれも行く」

 轟く赤金の剣が、少年の首を跳ね、焼き尽くし、灰へと変えた。

 カラン、と。結局使う前に死んだ少年の、魔力になって消えていく体から、天狼の角が溢れ落ちた。

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