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逃走、或いは決意

おれの眼前に降り立ったのは、全長20m程の人型巨大機械。

 その腕が異様に巨大である点は、AGX-ANC14B(アガートラーム)と似通っていて。だがしかし、向こうほど異常な威圧感はない。

 寧ろ、サイズとしては此方の……ATLUSの方が上だというのに、アレ程の圧倒されるような感覚は起こらなくて済む。

 

 「っ!随分な挨拶だね!」

 と、雅弓を引き絞り、ウィズが矢を放つ。おれも修行の際に何度も撃って貰った光の矢だ。

 が、光すらもねじ曲げるフィールドが張られ……そして、装甲に届くも空しく弾かれ消える。

 

 そう、装甲に弾かれ、だ。アガートラーム相手には装甲にさえ届かなかった。変な重力場がねじ曲げる他に、あの青い水晶のバリアがあった。

 だが、ATLUSという名を響かせたあいつには、あの蒼輝霊晶だか何だかの障壁がない!当然、ならば同じ材質だろうエクスカリバーも無い筈!

 

 「来い!L.I.O.H!」

 頼勇が叫ぶ。そして、それに合わせておれも……

 「来いっ!不滅不敗の轟剣(デュランダル)ッ!」

 かつて手を貸してくれた剣を呼ぶ!

 

 って来ねぇっ!?


 アステール!?なあアステール!一年前お前哮雷の剣は無理でも轟火の剣は力を貸してくれるって言ってたよな!?

 こんなタイミングですら現れないんだが、何時なら手を貸してくれるんだ教えてくれよ!?

 

 って、そんな来ないものを考えても仕方がない!

 恐らく神器だろう……というか、間違いなく神器ガーンデーヴァを構えるウィズ、機神を呼んだ頼勇、そしておれの三人で紅と青の機械神に対峙する。

 

 呼ぶだけ呼んで何も起きてないのちょっと恥ずかしいなこれ。

 

 ……で、何で残ったアルヴィナ?


 お前も逃げろと目配せ。

 けれど、少女はダメと首を横に振る。

 「ボクが許せないのはもう一人だけど、ボクも彼等に用がある」

 静かに怒りを珍しくその金の眼に込めて、少女は可愛らしく吠える。

 

 ……ってそうだ。

 何をAGXを見たショックで忘れていたんだおれ!


 AGXはどれだけ強くても、異世界の巨大ロボだ。決してこの世界でかつて死んだ魔神族の得意技を使ってくるような兵器じゃない!


 ならば!この場には!

 ……もう一人来ている!

 

 「竪神!」

 「……ああ!」

 転送されてきた青き機神が咆哮する。

 その目の光は弱く、装甲に亀裂が見え、やはりというか本調子まで整備出来ていないが……

 

 そんな機体に、竪神親子に後を任せて、おれはもう一人がアナ達を襲う予感にかけて、愛馬を追う。

 

 ……っ!

 唐突な悪寒。

 ギリッギリで横っ飛びしてエルフの家に転がり込んだおれの眼前で、大通りが裂けた。


 「……遊びましょう、忌み子皇子?

 弟の友達なら、兄とも遊んでくれないと駄目でしょう?」

 「……ちっ」

 地面を砕きながら引き摺られた全長40mはある巨大剣。それを両の腕ではなく右手一本で握り、宙に舞う紅翼の蒼神。

 

 それを、見上げる。そして……

 「ヤバいな……」

 と、誰に言うでもなく呟いた。

 

 大通りを引き裂いた大剣。宙を舞う翼。どちらも視認は出来た。

 あれがアガートラームならば、大剣で斬られたと、死の間際になってから理解するだろう。速度は大分遅い。

 火力も恐らくアガートラーム以下。アレの攻撃痕は、消滅したような形として残る。力任せに引き裂いたような痕が残る時点で向こうより弱い。

 

 だが、それが何の救いになるだろう、とおれは剣を構え直し、轟音を放つ機神を見上げる。

 アレは、t-09(アトラス)は確かに14B(アガートラーム)より弱い。ソレは間違いない。

 だが、その分……必要なエネルギーも少ないのだろう。

 その圧倒的なまでの力故に逆にまともに駆動しない最強無敵の置物であったアガートラームと異なり、アトラスは最強でも無敵でもないが、置物でもない。満足に機動している。

 

 だとすれば、ある意味その脅威はアガートラーム以上である。

 「ちぃっ!」

 「吼えろ!ライッ!オォォォォウッ!」

 それでも諦めの悪い男二人、少女等を逃がせないかと戦いを挑もうとするが。

 

 その背の翼が一つに連結され、光背となる。その最中の隙間に現れるのは、黒き重力星。


 『グラビトンフィールド、スタンバイ』

 「潰れなさい」

 「ぐがっ!」

 突如体にのし掛かる重み。

 天空山で散々感じてきた超重力。おれはまだ何とか動けなくもないが、他は無理だ。


 そしておれも、動けるといっても遅くて……

 

 『SEELE-System heart beat』

 「ライオウ、アァァクッ!」

 否。緑の光を纏い、何の力の影響か一切の超重力を受けず、蒼き鬣の獅子は吠える!

 

 「……この地の偽物風情が。弱い犬だけに良く吠えるものです」

 放たれた緑の光と炎の輪に、合衆国色の機神は囚われて。

 されど余裕を崩すことなく青年シャーフヴォルは此方を煽る。


 「……父は良く言っていた。ライ-オウに込めた想いを!

 そう」

 鬣の器神が吠える!

 「『オレは強いが!良く吠える!』」

 

 その刹那。

 「セット。縮退光砲アラドヴァール」  

 『Set up error all green

 Ready to Rejudgement.』


 「竪神っ!」

 猛烈な嫌な予感に、剣を振るう。

 

 魂の刃、雪那!


 ……かてぇっ!?

 異様なまでの強度に(おのの)く。

 人工物であるゴーレム等は、作られたときから変わらないが故にレベルが低いもの……そして、魂は脆いものが多い。

 だが、こいつは違う。血反吐と涙と決意が練り上げられた魂の機神。ライ-オウと同じく、一撃で壊せないタイプか!

 

 「アラドヴァール、発射!」

 拘束を砕き、光背の最中に輝く重力星から目映いばかりの光が放たれる。

 それは、重力場に囚われている愛馬を襲い……

 瞬間、弾けるのは燃え上がる赤い焔。

 

 ネオサラブレッドとしての全力全開。焔そのものになったと言われるようなオーラを纏う疾走。

 その最後の力を振り絞っておれの元に戻ってきた愛馬は、そのアーモンドのような緑の瞳を閉ざし、倒れ込む。


 ……死んではいない。だが……

 靴を濡らす血。全力でも避けきれなかったのだろう。足の一本が半ばから無い。

 ……生きていれば、治る怪我だ。でも、それは今すぐ治るものじゃない。

 

 とさっとその背から投げ出された2人の少女。


 おれは、何をすれば良い?

 どうすれば良い?何をすれば勝てる?

 これ以上、大切な人を失わないには何が要る?

 答えろ、答えてくれ轟火の剣。おれは……

 

 「アラドヴァール。第二射。

 今度はあなたが死んでくださいね、皇子?」

 「ライ-オウ!」

 唯一動ける機神がおれとの間に割って入る。

 一撃で右半身が消し飛び、損傷過多により強制的に返送されていく。

 

 「……勝たなきゃ、いけないだろう。

 護らなきゃ、いけないものがある」

 強く、強く拳を握る。

 それでも、意味なんてなく。流れる血も、全ては無意味で。

 

 

 「……アラドヴァール」

 三度目の光は……

 「えー、もう少し遊ばせてよ?」

 そんな無邪気な声に遮られた。

 

 ……まず見えたのは狼。といっても、天狼ではない。

 甲殻の無い黒狼。太陽を喰らう燃える三眼。そう呼ばれた、子供向けの聖女伝説に必ず載っている挿し絵そのままの姿。

 即ち……額に炎の眼を持つ魔神の狼、四天王スコール・ニクス。

 

 「四天王、スコール?」

 呆けた声しか出ない。


 死んだ筈だ、もういない筈だ。だってあいつは……帝祖が倒した筈で。

 次に見えたのは、一人の少女の顔。いや、少女かと見間違う端正な顔の少年だ。

 

 見覚えがある。聖教国にアステールを送り届けた時に、此方を見ていた少年だ。やけに顔立ちが整っていたので覚えている。

 小柄な白狼の背に乗って、少年は屋根の上に現れていた。

 

 「何者だ」

 「知る意味ある?どうせ死ぬんだよ、君ら」

 「それでもだ。相手の名前くらい聞きたいだろう?」

 えー、とめんどくさげに、少年が屋根上で伸びをし、後ろに仰け反る。


 あの小さな白狼も魔神だったのだろう。儚げな少女の姿を取り少年の背もたれになり……

 

 「ボク、初めて怒ったかもしれない」

 ぽつり、とアルヴィナがそんなことを言って。

 

 同時、降り注ぐのは赤き撃滅の雷。

 天狼だ。

 おれ達にも当たるような所かまわない雷撃を解き放ち、赤黒い呪詛を垂れ流しながら降り立った桜雷を纏う白狼は、即座に一番近くに居た機神の頭部へと襲い掛かる。

 ……目の前のものに襲い掛かる衝動のまま、全てを襲おうとする呪いで此方にも攻撃しつつも……来てくれたのだろう。


 「ってかさ、星紋症は兎も角、なんで星壊紋すら治療されてんのさシャーフヴォル?

 何のためにスコールに星紋症を撒かせたって思ってるのさ」

 と、事も無げに言う少年に、理解する。

 

 何となく分かっていた。星紋症は人間が使えるようにした呪詛。そして原型である星壊紋を撒く病の獣は眼前の四天王。

 エッケハルトは違うと言っていたし、流石に疫病で多くを死なせかねない事をやらかすような人格じゃないのは理解している。

 ならば、居た筈なのだ。アナ達に、そしてノア姫達に……数日以内に治せなければ致死率100%の呪いをばら蒔いた元凶が!

 

 それが、コイツか!

 本当ならば此処で一発殴りたい。でも!

 

 「シロノワール」

 アルヴィナがそう、カラスを呼ぶ。

 任せろとばかり、カラスは鳴いた。おれが聞いたことの無い、低い鳴き声だった。

 

 「……行こう、皇子」

 「……」

 少しだけ迷う。

 だが、天狼とて勝つ気で襲撃してきたわけではないだろう。シロノワールも……万が一魔神王本体でもないなら勝てる気とは思えない。

 

 「ああ、行こう、アルヴィナ」

 「未来の為に」

 と、ウィズ。


 「勝つために」

 ……分かってるさ竪神。

 「天狼さん、きっと助けますから」

 光背が崩れ、重力から解き放たれたアナが腕輪に手を当てて呟く。

 

 それを、エルフの少女はじっと見ていて。

 おれは愛馬を背負うと、所構わず撒き散らす天狼の雷によって壊れたエルフの家屋の残骸を踏んで駆け出した。

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