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降臨、或いは合衆国の巨神

「……どうか、お願いっ!わたしに力を貸して!」 

 カッ!と輝く腕輪。その青い光が龍の翼のように、少女の背から噴き出して。

 

 同時、少女の突き出した手から放たれる光は、倒れ伏すエルフの纏う瘴気を吹き飛ばした。


 「……まだ、いけますっ!」

 そして手を軽く握り、少女……アナは明らかに憔悴した顔で、そう言った。

 

 あれから、約一刻。

 腕輪に選ばれた少女アナスタシアは、一人で下級の魔法を唱え、瘴気を消し去っていっていた。


 何と言うか、流石聖女というか聖女の力を使えるようになる神器。

 アルヴィナ達があれだけ頑張って4人がかりでやったことを切り傷を治すだけの魔法のおまけ効果でやってのけるとか、聖女の名も分かるというものだ。

 というか、実際に目の当たりにすると、そのイカれたスペックが良く分かるというか。


 呪いだ何だが全部問答無用で消し去られるのは爽快感と共にこれ良いのかよってなるというか。

 ゲームではそこまでこうした疫病だののイベントが無かったから気がつかなかったが……えげつないなこれ。

 

 何でスコール・ニクスとかいう地獄みたいな呪いを撒き散らす四天王が居て勝ってるんだ人類と思ったが、勝てるわこれとなるレベル。

 聖女という存在を消さない限り、星壊紋は聖女一人で即座に消し飛ばせる程度のものになってしまう。

 今回のアナはまだまだ子供だから範囲魔法を使えなくて一回一回一人に向けて魔法を使っているが、範囲回復魔法にもあらゆる回復魔法で全デバフを消去って効く筈だしな。

 

 おれも、ヴィルジニーもぽけーっとそれを眺めるしかなくて。

 「……忌み子」

 少しだけ悔しそうに、少女は呟く。


 「要らない子ね、わたくし」

 「おれよりマシだよ。居なければ、そもそもノア姫を治してやって腕輪のところにいけなかったし」

 

 それにしても、何で危機的状況なのにエルフには使えなかったんだ?

 「……そろそろ、ダメです」

 と、淡い銀の前髪を汗で額に貼り付かせて、肩で息をする少女がそう言った。


 まだ、半分近くの民が残っている。

 

 それを聞いて、アナを睨みかけるノア姫と少女の間に割って視線を切らせつつ、それでもおれも似たような事を問いかける。

 「今日はもう休むか?

 明日は頑張れる?」

 だが、おれの言葉に、少女は首を横に振った。

 

 「そうじゃないんです、皇子さま。

 わたしも、げんかい、で、す……けど……」

 くたりと倒れる少女の肩をおれは支える。

 「この腕輪、溜まってる力の分だけしか使えなくて……

 残ってる力を使いきったら、眠っちゃいます」

 「全員を治すには、力が足りない?」

 「いえ、ギリギリ……足ります」

 

 なら、とおれは言いかけて、少女の頭を優しく撫でた。


 「なら、使いきってエルフに大人しく返すことね。

 アテが外れたようで残念かしら?でもそれが現実よ」

 と、ノア姫は吐き捨てるがアナが正解だ。

 

 ……だからだろう。腕輪はエルフには使えなかった。

 危機的状態で、アステールを通して七大天の本神が使用許可を出せるならそもそもノア姫に使わせてやれば良かった話だ。だというのに、アナが手にする事になったのはその差。

 アナは、ギリギリ全員分足りる力を、使いきらないことを選んだ。


 その理由はひとつ。

 

 そもそも今の星壊紋を治しても意味がないと知っているから。

 そう、天狼、そして元凶。それらを何とかしない限り、治してもまた感染させられて終わりだ。

 「違うよ、ノア姫。アナが正しい。

 ギリギリ足りるというのは、足りないってことだよ」


 「そうか?」

 と、疑問符を頼勇は浮かべ、

 「いや、確かに足りないな」

 とおれと同じ結論に至ったのか頷く。

 

 「足りるなら良いでしょう?

 最低限ワタシが手に入る、それだけでも本来アナタの身に余る……」

 「全員治して使いきったら、また元凶が星壊紋を撒いて今度こそゲームセットだ。

 もう腕輪は使えないから、全員殺される」

 「……わるい人を止めなきゃ、だめ」

 と、やけに張り切った感情が言葉に乗ったアルヴィナ。

 

 「……それがアナタ、灰かぶりの悪魔(サンドリヨン)。違うかしら?」

 「違う、ノア姫」

 さすがに限界。


 あまり事を荒立てたくはなくてやりたくはなかったが、父親譲りの威圧的な眼で、おれは馬上の少女を睨み付ける。

 

 「おれ個人については幾らでも言え。慣れてるから別に良い。

 でも、ノア姫。今までの貴女の発言は……命を賭して縁も所縁も無いエルフ種の為に頑張ってくれたアナやアルヴィナを、どうせやらせと侮辱する発言だ。

 一度や二度なら良い。勘違いにいちいち怒っていたら、エルフと話なんて出来ない」

 怒気を込めて、吐き捨てる。


 「でも。これ以上二人を愚弄するな」

 

 エルフは、何も言い返してこなかった。

 

 いや、言い返せなかったのだろう。

 パチパチと、此方を逆撫でするように落ちてきた拍手に、虚を突かれて。

 

 「いやー、ご立派ご立派」

 「……シャーフヴォル」

 其処に居たのは、シャーフヴォル・ガルゲニア

 ゲームでは四天王に唆されて敵になるガイストの兄。そして、真性異言(ゼノグラシア)である、おれの敵。


 「ですが、それでは面白くない。

 エルフには死んで貰うのですよ、リリーナ含めて全員、ね。

 救う運命を持たない君達は、必要ない」

 「……へぇ、やはりあの子狙いなの。下劣なことね」

 ノア姫の発言は何時も通りで。

 

 おれと頼勇は来るだろうもう一人と、恐らく呼ばれる筈の存在に警戒する。

 青髪の少年が、静かに腕を構え、おれは何時でも振るえるように刀の鞘に手を掛ける。

 

 「ですので、あなたがたはサヨウナラ」

 青年シャーフヴォルが、大げさにその左腕の時計に何かを差し込み、

 「させるかよっ!」

 『エンジンシュート!』

 魔力弾が放たれ、青年を襲おうとするが……

 

 ヴゥン、という音と共に掻き消える。

 青い水晶程ではなさげだが、前も見かけた謎の世界が捻れる障壁。


 ……来る!

 

 『G(グラヴィティ)G(ギア)Craft-Catapult Ignition.

 Aurora system Started.

 G-Buster Engine Top Gear.

 SEELE G(グレイヴ)-Combustion Chamber FATAL ERROR.

 

 Avenge

 Time

 Leader of

 UNITED

 STATES


  A(アンチテーゼ)G(ギガント)X(イクス)-ANC(アンセスター)t-(トライアル)09(ゼロナイン)

 ATLUS(アトラス)


 Re:rize』

 

 ……そして、来たるは青と紅の二色の巨神。


 横で、ウィズが息を呑む。

 「君たちではなかったようだね、僕の見た巨神は」

 ……その言葉に、おれは青い巨人を見たという発言を思い出した。

 

 「オルフェ、アミュ……とりあえず走れ!」

 その背に息も絶え絶えなアナを乗せさせ、おれは二頭に指示を出した。

 

 t-09、ならば14(アガートラーム)よりはかなり前!

 何とか、ならないことは……ない!

 可能性がある!

 ならば、やるしかない!

 「行くぞ、竪神!」

 「分かっている!」

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