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光明、或いは灰被りの悪魔

灰かぶりの悪魔(サンドリヨン)

 と、エルフの少女はキッ!と此方を睨み付ける。

 

 ところでさ、サンドリヨンって何?

 「サンドリヨンって何か分かる?」

 と、周囲に振ってみるも、特に返答はない。

 

 「人の書いた下らない物語で読んだわ。アナタのような人の事を、そう呼ぶのでしょう?」

 「いや、誰なんだ?」

 と、おれの疑問に答える声があった。

 

 「シンデレラ」

 その声の主は、眠そうに眼を擦りながら、此方を見ていた。

 「アルヴィナ、起きて大丈夫か?」

 「煩くて寝られない」

 「……悪い」

 確かにそうだとおれは頷く。


 「オルフェ、背に乗せてちょっと離れていてやってくれ」

 アステールは去年朝日を見に行った時に背中で眠っていたしと思い、愛馬を呼ぶも……

 「良い。また寝るのめんどう」

 と、にべもなく断られ。

 

 「それにしても、灰かぶり姫(シンデレラ)か。言われてみれば」

 昔の真性異言(ゼノグラシア)の過去の名作を別世界で自分オリジナルとして提供シリーズの一作だ。

 魔法が一般的な世界で何で魔法使いが一人しか居ないんだとか言われてた覚えがある。

 

 「ええ、無害な振り、無垢なフリ、それらをもって周囲を操り、最終的に自身は手を下さずに復讐を果たし全てを手にする魔眼の魔女。

 アナタはアレにそっくりよ、灰かぶりの悪魔(サンドリヨン)

 ってこれ、けっこうエグいって事だけ自慢げに話してるのを聞いた、童話原典?パターンじゃないか。


 いや、アナから幸福の王子とかおれには過ぎた例えをされたこともあるけど、何で灰かぶり扱いされてるんだおれ?

 

 助けてくれガイスト。お前の厨二台詞理解度が必要だ。

 「……おれはお姫様になる側じゃないよ」

 「……どうだか」

 と、エルフの少女は一年半前後で完璧にマスターしたらしいティリス公用語で吐き捨てた。

 

 「とりあえず。そんなにエルフを堕としたかったのなら良いわ。ワタシ一人が、罠にかかって堕ちてあげる。

 認めて楽になりなさい、それで身に余る光栄でしょう?」

 と、目尻を上げたまま、少女は告げた。


 ……ところで、何でこうなってるんだ?

 奴隷契約書とかあったからか?いやあれは効果無いものだしそもそも水溶してもう無いぞ?

 

 「いや、堕ちてどうするんだ?」

 と、ぽつりと頼勇が突っ込みを入れた。

 ヴィルジニーは、付き合ってられないわとばかりに寝ている。

 寝られる辺り、おれが変なちょっかいをかけてくる心配はしていないのだろう。まあしないが。

 「満足させてこの茶番を終わらせるのよ。当然でしょう?」

 これだから理解力の無い人間風情はとでも言いたげに、エルフの少女はその流れるような金の髪を揺らして答えた。

 

 「それで解決するならやってるよ」

 と、おれは言って……結局最初に戻る。


 即ち、この先どうすべきか。アルヴィナを酷使して少しの数だけでも救うか、それともその他の何かをやるべきか。

 まずはノア姫が魔法書を使ったとウィズが言っていた以上、彼女も治療魔法は使えるのだろう。

 だが、それでローテーションして休めるのはアルヴィナ以外だ。肝心要が休めないから効率は変わらない。

 

 「……本気で言ってるのかしら?」

 「おれは本気の事しか大体言わないよ」

 「さっきの言葉も正気だと?」

 その言葉に、少しだけおれは過去を探る。

 

 死んだ親の残した借金のかたに親の形見を奪われそうになり傷害事件に発展した少年のために治療費と借金の金は払ったけど、それは違うな。

 馬鹿がてめぇは助けてって言ったら見逃してくれんだろ?と自分の楽しみのために強盗しておいて図太い事言ってたから騎士団に突き出したのは、民の剣としての役目だから真逆の事だ。

 一昨年親が病気でって少年がお前が遅かったから母は眼が見えなくなったんだって恨み言送ってきたから魔法かかった眼鏡送ったな。ってこれも無関係か。

 体が弱くて臥せってる妹の心の為にとぬいぐるみの窃盗を考えてた奴はお前が捕まったら意味ないだろ買え!と先払いで給料渡して一ヶ月雇ったな。案外火の魔法の才能あったのでアナと一緒に料理させてたらそれなりに上手くなっていた。そのうち料理屋にでも就職できるだろう。

 想定以上の働きだったとちょっと色付けておいた。

 

 後は左耳が悪い幼馴染(金星始水)の事を思い出したから、何で忘れてたんだと生まれつき障害のある子を治してやりたい親向けの基金を……設立しようとして金の問題で断念した。

 おれの前世は左耳が悪くて苛められてた始水の存在等からそういった先天的な障害を治せる医者を志してたっぽいけど結局なれなかったし、この世界での医者は治癒の魔法の使い手と=なので今のおれは目指すことすら出来ない。だから基金だったのだが……

 国庫から引き出すだけの説得が出来ず、ならアステールから借りればと思ったけどおーじさまの為ならあげるけどおーじさま以外の人しか得しないからと返されてしまったからな。

 正確にはステラノヨイチシステムで幾らでも貸すらしいが8日(ヨウカ)1倍(イチバイ)という地獄かよって利率は幾らおれでも躊躇する。借りなきゃ目の前の誰かを……せめて30人くらいを救えないというなら考えるけど。

 

 うん、案外言い返せる事例がないな。


 まあ、良いか。

 

 と、そこで不意にアナが顔を上げる、

 「アナ?どうした」

 「えっと、ちょっと待ってください……

 う、うーんと、ちょっと……」

 と、アミュグダレーオークスに積んであった水を少し器に張り、魔法書を手にして何かを始める。

 水鏡か?でも、あれは遠ければ遠いほど力を使う。幼い少女に使わせるにはいかないと諦めてたんだが。

 

 だが、少女は必死に魔法を唱えきり、

 「お、皇子さま……出来ました」

 と、息を切らして此方を見上げた。


 「ありがとうな、アナ」

 少女の頭を撫でてやりながら、おれは水面を覗き込む。

 恐らくその先に居るのはアイリスか父シグルド、或いはおれの奴隷ということになっている一児の母になったコボルド種たるナタリエか。

 そう思って水鏡を覗いたおれだが、其所に居たのはその誰でもなかった。

 

 「アステール?」

 そう、此方を見返してきたのは、流星の魔眼を持つ赤と緑の瞳に、付け根だけ何度も削ぎ落とされた痕が白く残る大きな耳の狐娘。聖教国教皇の娘アステールであった。

 「『おーじさま、元気?』」

 と、アナでは出来ない言葉のやりとりを魔法でやりながら、少女はそう問い掛けてくる。


 「『ステラはねぇー、誕生日におとーさんが折角初めて小さなパーティしてくれたのにおーじさまが来てくれなくて元気ないよー』」

 と、そんな恨み言まで言ってくる始末。

 

 いやどうしろと?

 「いや、出席して帰れる気がしない」

 「『帰る必要あるのかなー?』」

 「帰らなきゃ父さんに殺される」

 実際には殺されないだろうが、そう言われて頷きそうになるのが彼の纏う雰囲気だ。


 「おれには、帝国第七皇子であるって肩書きがなければ他にほぼ何にもないから。

 その地位を捨てるわけにはいかない」

 一息付いて、水面の先の少女を見る。

 

 「アステールちゃん」

 何度もつい忘れるちゃんも付けて、おれは言う。

 「アナも疲れてるから無理させたくない。

 君はのんびり話したいかもしれないけど、今回は手短に用件だけ言ってくれ」

 「『えー、折角のステラの誕生日なのにー』」

 「後で、おれが帰れたら君に対しておれが出来ることで埋め合わせる」

 「『でも、結婚はしてくれないよねー』」

 「おれに出来ることの範囲にないからな。

 ……用件は?」

 急かすように、おれはアステールに催促した。

 

 「『おーじさまに嫌われたくないし、仕方ないかなー。

 おーじさま、今エルフのところに居るんだよね?』」

 「良く分かったな」 

 ……いや、分かるか。


 「『そしてー、おこまりー』」

 「解決方法があるのか、アステールちゃん?」

 静かに周囲はおれと狐娘の話を聞いている。

 邪魔すればその分疲れた状態で水鏡を繋げているアナの負担になると分かっているのだろう。

 

 「『これは龍姫さまからの神託なんだけどー。

 エルフの里に、流水の腕輪ってものがあるんだってー』」

 と、その声におれは此方をじっと睨むエルフの少女を見る。

 

 「ああ、その腕輪も目的だったの。強欲な事」

 どうやら本当にあるらしい。

 あれか?アステールと組んで秘宝まで奪う気かって考えられてるのかこれ?

 そんなつもりはないんだが……

 

 アステールの耳がぴくりと動き、水鏡の先でその尻尾が軽く膨らむ。

 「アステール、抑えてくれ」

 「『……おーじさまが言うなら』」

 と、少女は眼を一回閉じて気持ちをリセットしたのか、ノア姫に向けての発言を飲み込んで続ける。


 「『おーじさま、呪いをどうやって解くかで悩んでるんだよねー?

 なら、その腕輪は擬似的に聖女の力を与えるものでー、それを使えば簡単に解除できるようになるよーって。

 大丈夫、使える人はその中に居るんだって。ステラじゃないけどねー』」

 「……そんなものが」


 聖女の力か。確か、もう一人の聖女の固有スキルって回復魔法に万能のデバフ解消効果が付くって効果のあるスキルだっけか?

 

 ってことは、そのスキルが一時的に使えるとなれば、確かに解決になるだろう。

 あれ、どんな異常でも消し飛ばすからな。星壊紋であれ、星紋症であれ、他の毒であれ。


 「有り難う、アステール。お陰で光明が見えたよ」

 「『えへへー、ステラ偉いでしょ?』」

 誉めて誉めてとやってくる狐娘に偉いよと返して、おれは瞳の焦点が合わなくなってきた目の前の少女にもう大丈夫と頷いた。

 

 「御免なアナ、無理させて」

 「すみません、皇子さま……ちょっと、限界、で、す……」

 こてん、と落ちる頭を慌てて支えてやる。

 少女にしては荒く浅い寝息。余程無理をしたのだろう。


 当然だ。他国の特定地点まで映像を繋げるのだ。気軽にやってやれる奴は化け物だけ。

 

 「……ノア姫、ウィズ。

 すまないが、おれにはこれしか方法が分からない。

 エルフの秘宝を使わせてくれないか」

 ほらやっぱりとばかり、エルフの少女が周囲を見た。


 「強欲なこと。

 でも仕方ないわ。そこまで追い込まれたワタシ達の負け、悔しいことにね。

 ええ、使わせてあげるわ、本当に使えると思うのならばね」

ちなみにですが、この正論でけおけおしているエルフのお姫様、ヒロインの一人です


主人公にしっかりと苦言を呈してくれるヒロインが今まで居なさすぎたんだ……

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴィルジニーにその枠を期待してたんですけど脈がなさそうなので最初に好感度低い人はヒロインにならないのかなって思ってましたけどまさか姫が来るとは
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