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呪詛、或いは提案

「……天狼か」

 エルフの隠れ里だという場所で、おれは一息つくやそう切り出した。

 

 「天狼。そして……」

 「星壊紋」

 その言葉を呟いたのは、褐色肌のエルフの男、サルース・ミュルクヴィズ。


 「皇子さま、星壊紋って?」

 「アナ、星紋症は知ってるよな?」

 「はい、わたしがかかっちゃった……」

 「そいつは昔一人の男が作った人工の呪いなんだけど。その呪いのモチーフとして、原型として使われたのが……星壊紋」


 「太古の魔神が使った世界を壊す呪い」

 と、アルヴィナ。

 そう。星壊紋とは、四天王スコール・ニクスが使ったとされる呪いである。

 

 「星紋症の更に危険なものと思えば良いよ、アナ」

 と、おれはエルフの隠れ家を見る。


 元々は咎だ何だとエルフの里を追われたサルースが一人で暮らしていたというその隠れ家は今閉鎖されていた。

 一人の少女の存在によって。

 

 「治せないんですか?ほら、似たものだっていうなら星紋症と同じで」

 「……ノア姉達がやったよ。余った魔法書を使ってみて、それで無理だった。

 だから、僕だけはって僕に七天の息吹を使ったんだ」


 「それにおれが気が付いたのか」

 「そうだね。そして、ノア姉はあそこで倒れた。

 僕からの星壊紋でね」

 悔しそうに、少年は唇を噛む。

 

 「僕が、瘴気を放つ遺体を見つけた時にもう少し警戒していれば、話は違ったのかな」

 「……さあな」

 おれには何も言えない。だからただ、そう返した。

 

 「……そもそもの始まりはなんだったんだ」

 と、周囲を警戒している頼勇が尋ねる。


 といっても、警戒先は天狼ではない。あいつは多分おれたちの逃げた方向に追ってこないだろう。

 

 「……僕はある日、ズタズタになった魔物と、その横で事切れているエルフを見付けたんだ」

 と、エルフ少年は語る。


 「いったい誰が。それを知りたくて、僕は遺体に近付いて……

 そして、その遺体に残る瘴気を浴びた。恐らくその時だね、僕が星壊紋に掛かったのは」

 唇を噛んだまま、少年は続ける。


 「けれど、怖いのは星壊紋。最初は全く自覚がない。僕は、瘴気が出てるということは危険なものなんだとその場を離れ、皆に報告しようと里に戻ってしまった。

 ……言われて初めて、僕は自分の眼に赤い星の紋章が……呪いが浮かんでいることを教えられた。

 でもね、指摘されても、瞳がしっかり見える範囲まで近付いた時点で遅かったんだ」

 「治そうとは?」


 「当然、聞いたノア姉がしたよ。

 ……でも、治せなかった。星紋症は簡略化されたものだからだろうね。なにか一つ足りなくて、あれの治療魔法は効きそうで効かなかった。

 そのうちに、次々と皆が瘴気を上げて倒れ始めた。ノア姉は少し迷った様子で七天の息吹を僕に唱えて、そして……」

 

 「……それで、今か」

 「どうにかならないかとノア姉を連れて相談に走る最中、僕はあの狂乱した狼を見た。

 そして、あああれが元凶なんだと知ったけれど……」

 悔しげに、少年は弓を握り締める。


 「そんな存在だと、もっと早くに」

 「ウィズ、元凶は別に居る」

 そんなエルフの少年に向けて、おれは首を振る。

 

 「違うというのかい?」

 「間違いなく違う。何者かは知らないが、元凶は間違いなく居る」

 言うべきか一瞬悩み。


 「真性異言(ゼノグラシア)だろう何者か。それが、アナ……」

 と、おれはまだ紹介とかしてなかったなと思い、目線を愛馬達に向けた。


 「あっちの銀髪の方の子な。アナ達に向けてやエルフ達に向けて星紋症を撒き、そして今星壊紋を使って、星紋症では果たせなかったエルフの殲滅を果たそうとする何者かが」


 実際には違うのかもしれない。

 けれどもだ。あの星紋症をエッケハルトがやったとも思えない。昔はどうせあいつだろうと思っていたが、今はそこまで性根が腐ってる気もしない。

 それに、あいつアナの事好きなのは分かってるしな。助けて好かれたいのはまあ良いとして、その為のマッチポンプとはいえ、星紋症なんて一歩間違えば死ぬような呪い使うか普通?


 ならば、元凶は……誰か他に居る。

 

 何でアナを狙ったのかは分からない。

 アルヴィナを狙ったあいつは、多分リリーナを消したかったんだろうが。

 いずれ、あの桃色も襲われるかもしれない。そして……エルフに居るらしいリリーナも、恐らく今狙われている。

 なら、アナは……小説でアルカ何とかって姓がついたらしいもう一人の聖女?


 ってんな訳無いな。あったらエッケハルトが多分言ってる。

 その方が対策とか立てやすいしな。

 

 「悪いが、おれも元凶が誰かは知らない。

 けれども、奴等がそういった存在で、知っている未来をねじ曲げるために色々とやらかしているのは知っている」

 と、おれは横で聞いていた少女を呼ぶ。

 

 「一年半ほど前の聖夜に、アルヴィナも襲われた」

 こくん、と少女は頷く。

 「ボクの時は、直接神器を持って乗り込んできた」

 「じゃあ今回も……」


 「いや、多分担当が違うんだろう」

 ユーゴ、アステールを拐いユーゴに引き渡した『くろいかみさま』の使い手、それと同一人物か分からないがAGX使いのシャーフヴォル・ガルゲニア、そして、刹月花の使い手の少年。

 そのうちどこまでが繋がっているのかは不明。だが、最低限二人繋がっていることは確かで。

 ならば、呪いを転生特典だか何だかで持ち込んだ何者かも居るのだろう。

 

 「それに、ボクを変な呼び方してた」

 「ああ、そういえばおれをしてんのうだの、アルヴィナを魔神王の妹、屍の皇女だの呼んでたな。

 恐らく、相手は魔神だから直接行くしかないと思ったんだろうな」


 その割に、あいつ強くなかったが何でだ?

 AGX-ANC14Bアガートラームと呼ばれたあの巨大兵器なら、問答無用でアルヴィナを殺せたろうに。

 

 というところで気が付く。

 そうか、影か。アルヴィナが本当に魔神なら、今居るアルヴィナは本体の影みたいなもの。殺しても手の内を晒すだけだ。

 

 「……あれは違うと?」

 「そもそもさ、元凶ならおれたち死んでるよ」

 と、おれは少年に言った。

 その言葉に、横で頼勇も頷く。やはり、戦ってみて分かったのだろう。

 

 「竪神、体調は?」

 「ずっと口を閉ざして唸られていたが、瘴気は浴びていない」

 「って事だ。おれが竪神の救援に入ったとき、おれに向けて瘴気が掛からないように開けかけた口を閉ざした。

 そもそも、天狼と過ごしてて気が付かなかったか?」 

 「何が?」

 「時折おれと戦ってくれた時、ずっと青い雷纏ってただろ?」


 「確かにそうだけど、天狼は雷を纏って戦う種」

 と頼勇は少し意外そうに呟く。

 「……あれ、手加減なんだよ。身体機能を麻痺させたりする弱体、制圧のための青い雷を纏って、おれにスペック合わせてくれてたんだ」


 赤雷は火力、青雷は妨害、桜雷は活性である。金は見てないので知らないが、少なくともおれが出会った天狼はそう3色の雷を使い分けていた。

 

 「此方を襲う時だって、わざわざ待ってくれてたろう?

 目の前の何かに襲いかからずにはいられない。そんな中で必死に自分を抑えてる。

 ……だからさ、今も来ないんだ。

 本来の天狼のテリトリーの広さを考えたら、とっくの昔に此処を嗅ぎ付けてる筈なのにさ」

 

 「……視野が狭くなっていたようだね」

 暫くして、頭を振って少年エルフは呟いた。

 「言われてみればそうだ。ノア姉達がって、大局を把握できていなかったよ。

 さて。それらが分かったとして、じゃあどうすれば良いんだい?」

 誰も何も言わない。

 

 状況が分かっても打開策とか現状特に無いからな!


 「……あ」

 と、手を上げたのは黒髪の少女アルヴィナ。

 「ボクの魔法は、影属性。特に霊が強い」

 「それで?」

 「話で読んだ呪いの大元はむり。でも……

 星紋症は死に引きずり込む死霊魔法の呪い。ボクなら……一歩違うくらいの感染者なら、治せるかも」

 だが、おれはそれに首を振る。


 「ダメだ、アルヴィナ。治せなかった時に危険だ」

 多分だが、魔神なら瘴気で呪いになったりしないだろう。だが、アルヴィナを信じている以上、もしも敵なら想定なんて出来る筈がない。

 

 と、少女は不思議そうにおれを見る。

 「なんで?」

 と。

 

 「キミは命を張るのに、ボクは危険だとダメなの?」

 「おれは皇子だ。命懸けて民の盾をやるのが役目なんだよ。でも、アルヴィナは違うだろ」

 「違わない。

 ボクとキミはトモダチだから」

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