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転送、或いは再会

四天王襲撃から、少し後。

 ボクは一人、離れた場所で一人の青年と会っていた。


 「アルヴィナ様」

 そう呟く彼の名はアドラー・カラドリウス。昔はボクの兄だったテネーブル・ブランシュに従う四天王の一人。


 ……の、影。ボクが死霊術で作った、封印された本体の他に用意した魂も肉体も仮初めな自由に操れる似姿。 

 言ってしまえば、皇子の妹のゴーレムにそっくりなシステムで、ボクが完成後に弄れなくなるけど他人に使えるもの。


 「……あにうえの指示?」

 あれはもう、お兄ちゃんじゃない。けど、兄でないモノになっていても。突然そう態度にしたら変だから、あにうえと呼ぶ。


 けど、兄だなんて、思ってない。あんなの、亜似(あに)だ。外見が似てるだけ。


 「真性異言(ゼノグラシア)どもが大きく動き出したってさ。なら、その力を計るために、この先厄介な敵になるはずの相手には精々試金石になって貰おうって話」

 「……それが、目的?」

 それで、ボクの前からあの眼を奪ったの?


 「実際、あの皇子は危険な技を使ったし、あの少年も何時かナラシンハを倒す力を得かねない。

 ここで消えて貰うに越したことはないかなーって」

 「……何処に?」


 「エルフのところ。奴等が動いてるから、精々勝手に死合って貰って、力を計らせて貰う」

 そして、四天王はボクへと手を差し出す。


 「帰りましょうアルヴィナ様。

 テネーブルも待ってるぜ。ついでにアルヴィナ様の魔法であのクソ皇子の盗聴魔法併用して色々聞こうって」

 あのクソ皇子、アルヴィナ様に軽々しく……と。

 亜似(あに)だけでなく、この四天王もあの明鏡止水の眼が嫌いみたいで。


 「飛ばして」

 ボクは、そう呟く。


 「アルヴィナ様?」

 ボクにも分かる。彼が、かつてボクが盗聴している時に出会ったという真性異言(ゼノグラシア)の使っていたあがーとらーむ?が恐ろしい力を持つものだと。

 そして、今四天王が、亜似がぶつけようとしている相手も、きっと似たようななにかを持っている。

 例えば、あのイライラさせる狐の言っていた『くろいかみさま』とか。


 ボクの知らないところで、あの時みたいに、あの眼がなくなるのは嫌だ。


 そんなの、耐えられない。


 だからボクは言う。

 「飛ばして、アドラー」

 「けど、テネーブルからは帰ってくるようにって」

 「ボクが直接見てきた方が良く分かる」


 大丈夫、とボクはくるっと一回転して全身を見せる。

 「ボクの体も同じ。壊れても問題ない」

 「でも、相手は真性異言(ゼノグラシア)だ。何が起こるか……」

 その言葉に、ボクは大丈夫と何時も持っているナイフを抜いて、ボク自身の首に当てた。


 「ボクも行く、アドラー。いざとなれば自殺して帰るから」

 「……けれど」

 「……ボクを、飛ばして」


 惚れた弱みは強い。

 ボクの祖父スコール・ニクスに命を救われ、ボクを見守ってきて、婚約者にも立候補した彼は……静かに、ボクに転移をかけようとして。

 「行き先が違う。

 ボクも、エルフの森」


 今度こそ、ちゃんとした転移の風が、ボクを包んだ。

「……っ!」

 嵐が晴れる。

 

 そして……

 「ヴィルジニー!」

 おれは嵐の中で放り出されたのであろうブロンドの少女をその腕で受け止めた。


 「おぐっ!」

 その上に落ちてくるのはオレンジの鬣を持つ馬、オルフェゴールド。

 横でもう一頭は、アナをその背に乗せて着地した。

 

 「って、酷いなオルフェ……」

 顔を蹄で踏まれかけて間に身を滑り込ませつつ、おれは愚痴り……

 そして、しっかりと立ち上がると周囲を見渡した。

 

 「どうなってるんですの、これは」

 「皇子さま、何が起こったんですか?」

 口々に言ってくる少女に……おれは分からないと首を振る。


 「……二人だけ?」

 「はい。アイリスさんは『やるべきことは、お兄ちゃんの手助けじゃなくお兄ちゃんの出来ないこと』って言って、四足で何処かに駆けていってしまったんです」

 「で、ボクは待つって馬鹿を言って、あの黒いのは降りたわ」

 と、二人の少女は残り2人が来なかった理由を語る。

 そして……

 

 「ゼノ皇子。あとは……二人か」

 周囲の折れ焼け焦げたた木々の間から、青髪の少年が顔を出した。


 「竪神。無事か」

 「何とかな」

 「ライ-オウは?」

 「見ての通りだ」

 と、根本から折れた木々を少年は指差した。


 「地面に落ちたせいで、森林破壊してしまった」

 「いや、そうじゃなく……」


 と、そこで思い出す。

 原作ゲームでもそうだが、機神には行動制限がある。ゲームではそれは大体の場合3ターン。それを過ぎると消えてしまうのだ。


 ゼルフィード・ノヴァや完成ライ-オウはステータスだけで言えば皇帝シグルド越えるしな、それがずっと使えるのはゲームバランスとして不味い。

 ゲームでない話で言えば、エネルギーの切れた機神を元あった場所まで返し、そして修復するのは骨だ。その為、転送されてきた機神はエネルギー残量が減ると自動で呼ばれる前の場所に戻るようにという魔法が組み込まれているという形の設定だったか。

 

 「戻ったのか」

 「ああ。致命的な破損をしないように、帰還機能を付けていたからな」

 「それにしても、此処は……」

 と、見回すも、広がるのは一部が焦げた森のみ。焦げ跡は、何というか雷が落ちたかのような……

 

 「分かるか、竪神?」

 「……無理だ」


 「ヴィルジニーは」

 「わたくしに聞かないでくださる?

 分かってたら言ってるなんて、貴方でも分かるでしょう?」

 頬を膨らませて当然のようにオルフェに跨がりつつ、少女はそう言った。

 

 「アナ、君も」

 文句を言っても仕方ない。そもそも、この中では弱い二人の女の子が馬に乗るべきだろう。

 だからおれは鼻を擦り付けてくるアミュの足を折らせ、その背に銀の少女を乗せてやる。


 「皇子さまは」

 「おれと竪神の方が徒歩には慣れてるし」

 その間にも擦り付けるのを止めない白馬に、何かあるのかとおれは思い。

 「アミュ、何か分かるのか?」

 と、問いかける。

 

 馬は人より鼻が良い。何か匂いを感じたのかもしれない。

 そう思ったおれの勘は……正しかったのだろう。


 二頭の馬は、ネオサラブレッドの実力か折れた木々もある森の最中を軽快に駆けていく。

 それを追い掛けるのは荒れ地仕様は無いからと自分の足で駆けるおれと頼勇。

 そして……

 

 空を切って飛んでくる矢を切り払う。

 「……何者!」


 ……見覚えないか、この矢?


 確か

 「……何だ、君達か」

 と、少し離れた木の間から顔を覗かせたのは、金髪の少年であった。

 「ウィズ……と、ペコラ」

 少年の背後から見える巻き髪に付け加える。

 何度か修業として撃って貰った豪奢な弓を握り、警戒した様子をおれの姿を見て解くエルフの少年と、その少年と居た羊の女の子が其処に居た。

 

 「……ってことは、此処は……

 エルフの森か」

 「エルフの!?」

 弾かれたようにグラデーションの少女が、持ってきていた魔法を構える。


 エルフが人間を下に見ているという話を知っているのだろう。

 それを手で制しながら、おれは……

 

 「そうだ!七天の息吹!

 何か起きているのか、ウィズ!」

 四天王との戦いの最中に飛ばされたせいで頭から抜け落ちていた重大なことを思い出し、叫んだ。

 

 「……やはり、ノア姉の言った通り、何か仕掛けてたのかな?」

 その言葉に、少年エルフは弓を構える。


 「いや、万が一七天の息吹を使うことになったら、それは贈ったものでは解決できない何かが起きてたということ。それならば、何かしないとと思って使用が探知できるようになってた……だけだ。

 それが不快に思われていたならば謝るよ。

 でも、信じてくれ。おれは……おれ達はエルフと戦いたい訳じゃない」

 刀を抜かずに両手を上げて、おれは呟く。

 

 「わたしも、でも、急に飛ばされちゃって……」

 と、横でフォローしながらアナ。ヴィルジニーは自分はちょっと高飛車なのを理解しているせいか、オルフェの上で静かにしている。

 

 「……まあ、君だからね」

 と、エルフ少年は弓を下ろした。


 「では、君達は……エルフに何かが起こったと思って駆け付けたのかな?」

 「それだったら格好付いたし、実際その気ではあったんだが……残念ながら違う。

 おれ達は、太古の魔神の影によって、訳も分からずここに飛ばされてきた」


 「ええ、全くワケわかりませんの」

 「その際、私の使っていた武器が森林に傷を付けてしまった、すまない」

 と、素直に頼勇は少年へと頭を下げる。

 後で知られるより先にという事だろう。律儀な話だ。

 

 「ってことは、あの蒼い巨影は……」

 「恐らく、私のL.I.O.Hだ」

 「なら、仕方ないね。ライオに悪気はないようだし……」

 と、頷いて少年はそこで話を終わらせる。

 

 「ただし、此処はエルフの森。其処に踏み入れた事は別問題だ」

 と、少年は背後の少女と共に三度弓を構える。


 二頭の馬が……おいオルフェあくびをするな。

 「君達には相応の裁きが必要だ。それがエルフの掟だからね」

 左右で色の違う目で、少年が此方を見る。


 「皇子さま、わたしたち……」

 「大丈夫だよ、アナ。

 ……分かった、従おう」

 「数日で、僕のこれから言う言葉を分かったのかい?」

 「何となく、な。

 そもそもそのつもりで森に行く気だった」

 その言葉に、頼勇は私も同じだと続ける。

 

 「……やはり、サルース兄さんは間違ってないね。

 今、この森は大変な事態になっている。その解決に力を貸して貰うよ」

 

 「じゃあ、どんな問題が?」

 今問題に当たっているウィズ等の拠点だという場所に案内されながら、おれはそう問い掛ける。

 

 四天王については、もうそこまで心配していない。雪那を振るった以上、ニーラとニュクスの2体は撃退できた筈だ。


 そもそも、雪那の魂に作用する刃は、魂そのものが仮初めに作られたものであるゴーレム系列に対しては即死技である。

 ゴーレムや普通のアンデッドは産み出されたその時に魂の器が仮に作られ変わることはない。一切変わらなくて良いからこそ器は弱く、魂に作用する効果に弱いのだ。

 故に、雪那で斬れば大体の場合即死する。まあ、所詮ゴーレムやアンデッドなんて幾らでも作り直せるが、四天王は別だ。

 魔神が仮に動かせる肉体。恐らくは死霊術で作られたものだとは思うが、即刻次のものを用意するのは難しいだろう。暫くは出てこない。

 

 そして、1vs2、それも土の防壁に槍が突き刺さっていたからナラシンハ側は恐らく大きな傷を負っているだろう。それなら、もう師匠に負けはない。

 心配すべきは……

 

 そう思った瞬間。

 「……どこ、此処?」

 おれの前に、一人の少女が降ってきた。


 「……アルヴィナ?」

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