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雪那、或いは吠える鬣

「駆け抜けろぉっ!」 

 足だけで愛馬の馬体を挟み込み、駆け抜ける最中、両の手で弓を引き絞り、そして影の一つへ向けて放つ。

 

 狙うは翼のある影。四天王アドラー・カラドリウス。

 理由は簡単で、弓には飛行特攻があり、影のカラドリウスには飛行特攻無視がない。本体は特攻無視の能力があるが。

 特攻としては武器威力が3倍だっけか。最強の弓である繚乱の弓の場合は攻撃力は28だから……実に飛行相手にはそれだけで56点の火力upが保証されている。怖いくらいだな。


 今回使う弓はそこまでではない攻撃力10くらいのものだが……火力差は十分!

 70が90になるのは、決して無視できない差だからな!

 

 一陣の炎が駆け抜けて。

 「アミュ、あとはアナ達を任せた!」

 最初の一矢を放つや、おれは愛馬の背から飛び降りて叫んだ。


 まあ、抜刀術と馬って相性悪いからな。乗ってるより、その足で皆を護って貰った方が有意義だ。

 

 「来たか、馬鹿弟子」

 にやりと、二角の男が笑う。その服は乱れているが、傷らしい傷はない。

 1vs4でこれとか、ぶっ壊れって怖いな本当に。


 といっても、流石の1vs4。矢を風の防壁で阻んだカラドリウスを含む4体にも、ダメージらしいダメージはない。

 膠着状態……という程でもないだろう。空飛ぶ人魚は師の剣を避けて飛竜に牧場を焼かせている。止めきれていない証だ。


 「……師匠」

 「2体止められるか?」

 「竪神と二人なら!」

 愛馬の足は、機神より速い。追い抜いた頼勇は、けれども直ぐに辿り着く。


 そして、四天王ナラシンハに襲い掛かる。そういうものだ。

 

 「その答えは良し!そこな人魚を……」

 「いや、カラドリウスを!」

 この場での合理的な判断を下す師を遮り、おれが選ぶのは……原作で因縁浅くはないだろう大翼の青年魔神。


 師がニュクスを任せようとした理由は簡単だ。目の前で飛竜に住み処を焼かせている露出の多い魔神は精神支配を得意とする四天王だ。

 そして、おれは……【鮮血の気迫】のお陰でそういった洗脳に滅法強い。

 間違いなく、此処は勝つだけならおれがニュクスを受け持つのが正解。

 

 だからこそ、おれは此処で彼女と戦ってはいけないのだ。

 本体と対峙した時に、おれとの相性の悪さを悟らせないために。それを理解してか、挑発の為に射る二射目に、男は何も言わない。


 ただ、にやりと笑うのみ。

 

 「ナラシンハァァァァッ!」

 そして、おれに視線を向けた翼の魔神の横に居る四腕の男へと振り下ろされるのは、巨大な鉄槍。

 機神ライ-オウである。


 「かかっ!お前は何者だ!」

 それを二本の腕で受け止め叫ぶ大男。

 「竪神頼勇!竪神貞蔵!そして、L.I.O.H!

 お前を、倒すものだ!」

 「ライオウ……?はっ!かなり早くに来たじゃねぇか、殺されによぉ!」

 牙を剥き出しに吠える四天王ナラシンハ。その腕が肥大化し……


 「その首!牙!多くを食らうその全て、この地に沈めぇぇぇッ!」

 蒼き鬣が咆哮し、ガン!という音と共に、槍が沈みこむ。

 フレームだけで挑むも勝てなかったと頼勇から聞いていた機神は、アイリスの手を借りて立ち向かえるだけの力を得ていたようだ。

 

 だが

 「はっ!おもしれぇっ!ちょっとは食いがいが出来たってことかよぉっ!」

 地面を砕き、四腕が振るわれる。


 10mは越えるその機体が宙に浮き、大地に叩き付けられた。

 「竪神!」


 「気にしてる場合、と思われてるのかな?」

 といっても、おれにも頼勇を気にする余裕はない。


 風を纏う四天王相手に弓だけうち続けても仕方がないので弓は捨て、今回は持ち込みに制限もないし誰にも何も言われない為、師匠から貰ったしっかりとした刀を背中から鞘ごと外して左手に握る。


 「四天王、アドラー・カラドリウス!」

 「まさか、剣で挑むつもりとは、

 舐められた、ものだ!」

 そう言って空高く……とはいえ彼も本気ではないのだろう、いざとなれば即座に降りてフォロー出来る程度の高さまで飛び上がる翼の青年。


 だが、それで良い。

 「烈風剣・(とどろき)!」

 抜刀、発火。


 所謂飛ぶ斬撃の強化版、炎を纏う飛ぶ斬撃スキルだ。

 子供だまし扱いしていた抜刀の際に擦り合わせて火花散らす小技に、血を燃やして火にする要素を込めつつ、飛ばしたものがこれ。

 ゲーム的に言えばHP3消費するようになった代わりに威力の上がった烈風剣だ。原作でも覚えていたスキルだが、月花迅雷は素で雷を放てるからと装備してはいなかったな。


 炎に巻かれ、ほうと青年は息を吐いた。

 

 「只の無策ではなかったようで……

 でも、それがどうかした?」

 纏う風は四天王が起こしているもの。消して纏いなおせば炎は消える。


 面倒な障壁だ。だが、良い。

 

 やるべきは時間稼ぎだ。

 なぜ四天王がこんなところに雁首揃えて現れたのかは分からない。ゲームでは過去にこんなことが起きてはいない筈だ。


 だが、此処には師匠が居る。竪神頼勇も居る。護るべき皆だって居る。

 負けられない理由も、負けない理由も幾らでもあるのだ。


 おれは勝たなくて良い。四天王……魔神との決着はいずれゲーム本編頃の時間軸で付けることになるし、今此処で無理をして倒しても本体にはダメージ一つ無いから無意味。


 やるべきことは、機神がナラシンハを抑えている間、おれもカラドリウスを抑えること。

 1vs2なら、少なくとも師匠は負けない。影は大分弱体化しているから。だから、あの人が駆けつけるまで誰も傷付けさせないだけで良い。

 

 ……だが、本当にそれで良いのか?

 疑問と共に、牽制のための攻撃を止めないままに、ふとおれはその名を呼ぶ。


 「……デュランダル」

 と、かつて手を貸してくれた轟剣の名を。

 

 来る気配がないな!四天王相手でも来ないって、寧ろどうしてあの時だけ手を貸してくれたんだよあの剣!?

 

 だが、良い!

 

 「ゼノ皇子っ!」

 不意に呼ばれる声。

 各所から煙を上げつつ、鬣の機神が吠えている

 合わせてほしいという事なのだろう。隙を作ってくれと。

 

 それは出来る。あいつ次第だが。

 ……良いだろう!一回限り、賭けてみようじゃないか!

 

 「シロノワール!」 

 もしかしたら、万が一。あのカラスが本当に魔神王テネーブルだったら。

 この、言葉はきっと無視されるだろう。


 だがその叫びにおれの影の中のヤタガラスは応えた。

 導く白い光が、空に現れたヤタガラスより発せられる。

 それは強い発光。目眩ましにはなる光。


 「……!?」

 フードを被ったニーラが固まり、カラドリウスの羽ばたきが不規則となり……

 「ライオウ、アァァァクッ!」

 ナラシンハの動きが止まった瞬間、機神の胸ライオンが吠える。


 そこから放たれる緑の光と炎の輪が、四腕の巨漢を拘束し 。

 『ゼーレ・システム レリック・バースト!タイム トゥ ジャッジメント!』

 「ボルカニック・クラッシュ!」

 拘束した男へと、燃え盛る炎を輪を取り込みながら、緑の残光を残して蒼き機神は駆ける。


 そして……

 「はっ!あめえあめぇ、血より甘めぇっ!」

 男が拘束されたまま己を覆う大地の外殻で防御するのと同時、赤と緑の輝きを纏う槍が突きこまれる!

 

 「吠えろ!ラァイオォォォウッ!」

 『ガン!ガン!ガォォォオンッ!』

 大地を砕く槍は、その防壁にヒビを入れていく。

 そして……

 

 「……忌み子!」

 「馬鹿!オルフェ!何をやって……」

 意識が逸れる。

 正直な話、来られても困る。


 けれども、いてもたってもいられない他人の気持ちは止められなくて。

 黄金の光と共に、オルフェゴールドが駆け付ける。

 それ自体は良い。オルフェゴールドだけならば、ネオサラブレッド種としてニュクス・トゥナロアによって操られた飛竜とくらい戦える。

 だが、問題は置いてくるわけにもいかないとはいえその背にヴィルジニーが乗ったままということで……

 

 「……今か!」

 動きを止めた四天王の中でも別格に小さな影。己の本来の姿を隠す四天王ニーラを二角鬼の振るう3つにも見える一刃が両断したその隙に、おれと師匠の注視を外れた大きな翼が更なる風を纏う。

 

 「精々勝手に、死合ってくれよ!」 

 今まさに防壁が破られようという刹那、片翼の風は解き放たれ……

 「転送っ!」

 風が、蒼き鬣を包み、消える。

 

 そこには……防壁に突き刺さった槍以外、何も無かった。

 

 「竪神!」

 死んだ訳ではない。何処かに飛ばされただけだ。

 だが、何処に?そもそも、何のためにわざわざ彼等はそう長くは動けないだろう影の状態で集まってきた?


 これは、罠か?

 

 「もう一発行っとけ!お前らも!」

 迷う暇はない。

 カラドリウスの瞳の見据える先は……おれではなく、駆け付けたヴィルジニーの方。


 「ちっ!」

 それを受けて、おれも地を蹴る。

 「アミュ!」

 今更呼んでも遅い。

 だが、愛馬を呼んで……

 

 「あらあら、怖い顔しちゃってー

 色々と台無しじゃなーい。お姉さんと」

 立ちはだかろうと、いやからかいつつ精神をいじくりその足を止めようとする女魔神を

 「雪那!」

 淡雪のように軽く朧気な抜刀一閃。その一撃があったことすら理解できぬ幻の奥義でもって、一刀の元に斬り伏せる。

 

 奥義、雪那。魂の器に溜め込まれ巡る魔力……マナを器から解き放ち、対象を斬る実体の無いマナの抜刀術。

 実体に傷は付かないが、魂にダメージは行く。


 余裕ぶった笑みを浮かべたままにぐらりと傾ぐ女魔神の体を無視しておれは駆け抜けて……

 「転送っ!」

 四天王は、ひっ!と動けないブロンドの少女の眼前でその風を解き放つ。

 「っ!アナ!ヴィルジニー!アミュ!」

 ギリギリで、おれは風の範囲に飛び込んだ。


 その瞬間、空間認識の連続性は途切れた。

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