修学旅行、或いは準備
「……聞いてますの!」
そうして、時はかなり進み……また、アステールの誕生日が来た頃。
おれは、今日も今日とてヴィルジニーに絡まれていた。
ほぼ毎日だぞ、良く飽きないなと言いたくなるが……
まあ、良いのだろう。
因にだが、おれのレベルはロード:ゼノLv1のままだ。上級職にまでなったらそうそう上がるものではないからな。
というのも、ゲーム本編開始までの話でしかないけれど、少なくとも今はそうだ。
結局、なんだかんだ頼勇も帝国に残っているし、機神ライ-オウの方も順調にフレームに装甲が付けられていっている。
おれを拒絶するように閉じられたガルゲニア家は未だその門を開かず、故にガイストとは会えていないが……他は順調だと言えるだろう。
この一年、特にエルフのノア姫に渡した七天の息吹が使われることもなく、平和そのものだ。
……本当は可笑しい筈なのに。
彼等は、アステールの言っていた『くろいかみさま』なのかそうでないのか、或いは単純にアガートラームが共用なだけなのか。そこら辺は分からないが、少なくともAGX使いであることだけは確かであるシャーフヴォルもまだ特に動きがない。
あった動きと言えば……どこぞのピンクのリリーナがガイスト相手にお兄さんを警戒するようにとか入れ知恵したらしいって噂と、頼勇君だ!と頼勇を見つけて絡んでくるようになった事くらい。
初等部塔に入れておくわけにもいかないから、機神ライ-オウはいざという時(つまりは魔神族が復活し、それがこの王都を襲った時)用にアイリスの名義で建て直した宿泊施設の地下のシェルター擬きに格納してある。そのお陰で頼勇は良く街を出歩くし、そこで引っ掛かるわけだな。
なんだあの桃色はと聞かれたので、おれと似たような奴だと返しておいた。
閑話休題。
今は目の前のグラデーションの少女だ。
「聞いてるよ、ヴィルジニー」
「それで?誰と組むんですの?」
「アイリス次第……って言ってたら、誰も来なかったな」
二年近くかけて、アイリスは初等部で友人のひとりも出来ていない。何というか、引きこもり過ぎは良くないぞアイリスとしか言えないな。
まあ、その引きこもりを仕方ないなとしているおれが言って良い話じゃないし、一応頼勇という友人と、アナというメイドの友達は出来たから昔より一方前進はしてるんだが。
「ええ、そうでしょうね。ふざけたアナタ達はどうせそんな事だと思いました。
ですから、もうわたくしとクロエの班に入れましたわ、文句があって?」
「いや、有り難う」
と、おれは一つ礼を言った。
この班だが……謂わば修学旅行に行く際のグループ決めである。総勢21名を3人ずつ7班にして、旅行中はその班で行動させるわけだ。
おれ?おれはアイリスのおまけだからアイリスと同じ班かつ人数外。
そもそも、ほぼ貴族しか居ないからな、21名の修学旅行と言いつつメイド他の同伴許可されてる時点で言っても仕方ない。
「……ああ、ヴィルジニー。
一つ頼まれて欲しい」
修学旅行の事を考えて、おれは一つ言葉を紡ぐ。
「何ですの?」
「聖教国に伝えて欲しい事がある。
『修学旅行で無理』、と」
「自分で言って下さる?」
と、冷たいブロンドの少女に、おれはなおも頼み込む。
「そもそもおれには魔法が使えない。アナはアステールの居場所を良く知らないから水鏡が使えない。アルヴィナも同じく。
アイリスはアステールが嫌いらしく待ちぼうけで良いと手伝ってくれない」
「嫌ですわ。
そもそも何でそんなことわたくしがやらなきゃいけませんの?おーじさまじゃないって文句言われる為に伝言するなんて御免ですわ」
が、にべもなく断られる。
いや、分かってはいるんだ。おれ自身がちゃんと今年の誕生日にはステラのパーティに来てねーというアステールからの招待状に否を叩きつけに行かなきゃいけないことは。
ってか、前回アステールを送った時、オルフェゴールドで10m近い門飛び越える必要があったってことは、返す気無かったって話な訳で。
黄金の暴君オルフェゴールドの脚力で全速力を出せなきゃ捕まってたかもな。
その先は……アステールと婚約させられるのが一番マシなオチで、酷ければ何だろうな、解剖?
持ち主以外には触れることすら許されない筈の第一世代神器、轟火の剣デュランダルを一時的にとはいえ使ってみせたという事実は……まあ、神学者からすれば色々複雑だろう、良くも悪くもな。
「というか、何で行きませんの?」
「良くて婚約、悪ければ死だ。
それが嫌なのは、君も身に染みてるんじゃないのか?」
「ま、そうですわね」
今回はあっさりとヴィルジニーは引き下がった
クロエも横で頷いてるし、去年のアレは、やっぱり彼女等の心にも傷痕を残したんだろう。
それはそれとして、おれ相手への態度は全く変わってないが。
冗談めかしておれに惚れなかったのか?と聞いたところ、わたくしに惚れたから助けたというのであれば惚れてさしあげますわと返された。
惚れられたくてやった訳ではないから良いんだが、それが皇子としての義務であるしおれの役目だからというおれの理念はお気に召さなかったようである。
その分、君が可愛かったからとぶっちゃけたエッケハルトには好意的な辺り……やはり、相手を想うのは割と重要な思いなのだろう。
まあ、おれには関係ないな。忌み子の血は絶やすべきなのだから。
寧ろ、嫌われているくらいが有り難いし、アステールも……好かれて嫌な気はしないんだがやはり離れていってくれた方が気が楽だ。
そんな事を思いながら、割と直近にある修学旅行の為に、おれは準備を始めた。




