哮雷の剣、或いは神への問い
突き刺さった哮雷の剣に触れ……
轟く雷を避ける。或いは迎撃する。
何というか、咄嗟の判断や回避、ついでに空気の薄い場所での呼吸は上手くなるなコレ!
といっても、何なんだろうな、この変な修業方法は!?
哮雷の剣ケラウノス。七天御物の一つである伝説の剣だ。
確か伝説での所有者は亜人であり、彼の死後は誰一人所有したことが無かったはず。
ゲーム的に言えば、攻撃力は33、重量1。所持してるだけで全ステータス+10の効果付きなので実質攻撃力は43だな。
同じ七天御物である轟火の剣の攻撃力40+全ステータス+5に比べて攻撃力は下で向こうには不滅不敗の轟剣でHP50%以下で全ステータス+20もある。
それだけ聞くと差が酷いが、此方は重量が1、15と滅茶苦茶に重いデュランダルと違ってほぼ間違いなく重量過多ペナルティが起きないし、片手持ちも余裕の軽さだから逆の手に盾も持てる。
ついでにHPが減らずともフルスペック出せるから実際は甲乙付けがたい性能だ。
まあ、そもそも神器が持ち主を選ぶんだから甲乙付けがたいも何も、ゲームでのカタログスペックでの話になるが。実際は選ばれないと持てないからな
それは置いておいて、性能はほぼ月花迅雷の上位互換。武器種が刀でなく剣だが、それ以外あの刀を一回り強くした感じの武器なのだ。
エッケハルトから話を聞くに、月花迅雷はおれが"あの"天狼の角をごにょごにょして折り取り、それで作られるらしいから……。この世界の今のおれが手にして良いものなのか、手にするものなのか、ちょっと迷うところがある。
だから、万が一哮雷の剣ケラウノスがおれを選んでくれたら願ったり叶ったりだったのだが、そうもいかなかった。
「……ぜぇっ、はぁっ」
三回目の挑戦……というか、選ばれる筈もない為不規則に暫くの間断続的に降り注ぎ、時折地面から噴き上がったり横凪に飛んでくる雷を捌く修業を3セットしたところで、息を切らしながらおれはそれをじーっと見ている少女に声をかけた。
「アステール」
「ちゃん。
もー、旅の間はちゃん付けしてって、ステラいったよー?」
「アステールちゃん」
「うん、なにー?」
耳をぴこぴこ。天狼のお陰で完全に何時もの調子を取り戻したアステールは、今日も絶好調だ。
「七天御物は、七大天の神器だ」
「うんうん、そだねー。だから此処にあるんだよ」
「ならさ、七大天に使わせてくれと言ったら使えたりしないかなって」
浅ましい考えを、頬を掻きながら披露する。
かなりの最低発言だなこれは。直接剣に選ばれないから神頼みって。
だが、狐の少女はそんな馬鹿発言に、何かに気が付いたように耳をピンとする。
「おーじさま、頭いい!
ステラ、ちょっと頼んでみるー!」
いや言ったのおれだけど良いのかそれ。
むむむ……と唸るアステールを見守ること少し。
「だめだってー!」
返ってきたのはやはりという返事。
「やっぱり駄目か」
「良い考えだったんだけどねー
お前の神器はケラウノスじゃないって伝えろって言われちゃったよー」
耳を少し横に倒し、少女はしょんぼりとする。
「……アステールちゃん、まだ話せる?」
神器の事を分かりそうな発言に、おれはそう少女に聞いた。
「ちょっと頭いたいけどー、後で撫でてくれるならがんばるよー?」
健気なのか強かなのか、そもそもおれに撫でられて嬉しいのか。
そんなの、七大天と普通に交流できないおれには分からなくて。とりあえず、それで良いならと安請け合いする。
「それで、王狼さまに何を聞けば良いのー?」
「哮雷の剣がおれを選ぶはずがない事は分かった。
それは良いんだけど、ならば……あの時、どうして轟火の剣はあの時おれの前に現れたんだ?おれの神器じゃないっていうのは同じはずなのに」
「うんうん、きいてみるねー?」
と、少女は再度ちょっとだけ目を瞑り……
すぐに開いて、難しそうに唇を尖らせる。
「どうしたんだ、アステールちゃん」
「えっと、ステラには良く分かんなくてー
おーじさま、おーじさまはおーじさまの神器って、分かる?」
「月花迅雷か?」
「うん。月華神雷っていうのが、おーじさまの為に用意されてる貴方のための神器ですって、龍姫さまがそう言ってたんだけど……
だから、轟火の剣デュランダルはおーじさまの神器じゃなくて。
けどねー?ステラにはわかんないけど、無関係の神器じゃないから、特例で本当に誰かのために、帝国の誇りと民を護るためになら、一時的に使えるんだってー」
無関係じゃない神器ってなんだろねー?と、少女は首を傾げた。
「ごめん、おれにも良くわからないけど、聞いてくれて有り難うな」
そうおれは礼を言って、哮雷の剣に向き直る。
月花迅雷と轟火の剣。何か関連が有ったろうか
没データには無理矢理おれに持たせると炎を纏う月花迅雷モーションになる剣があったらしいし、それか?
いやでも、あれって結局没データだし、確か専用フラグは父シグルドになってた筈。第七皇子ゼノではない。
内部データによると月花迅雷+轟火の剣の融合体(ゲーム内では結局融合先が正規のデータではないので入手不可能)ではあった記憶こそあれ、関係性あるのか無いのか微妙だな。おれが持てる設定になってたってなら話は早かったんだが、融合する可能性があるからって使えるのか?
というか、他に所有者が居る神器+誰でも使える神器を指定した融合ってその所有者は普通、元の神器の所有者じゃないか?誰でも使える月花迅雷を持つおれじゃなくて。
大体、月花迅雷って刀Cで誰でも使えたぞ?それこそ刹月花と併用出来るし、やろうと思えば轟火の剣の使い手たる皇帝シグルドにだって持たせられる。
つまり、これ矛盾してないか?
とりあえず、どう足掻いてもおれに哮雷の剣は使えないこと、けれどもどうしても必要な時……例えばアステールが言っていた『くろいかみさま』と対峙するような時には轟火の剣が今一度力を貸してくれるだろうという事が分かったのは収穫だ。
理屈は分からないが。
これで気兼ねなくケラウノス修業が出来るな。
「おーじさま、おひざ硬いねー」
帰りは天狼がおれに背を向け、蛇王の躯の下まで乗せてくれたので何の苦労もなく。一旦アステールを連れて夜営地に戻ったところで、アステールは撫でてーと寄ってきた。
そして、膝枕を要求しておいて、その大きな耳を付けた頭をおれの膝の上に乗せ、開口一番これである。
「不満があるなら退いてくれ」
「えー、ステラ、この硬いのいいなーって思うよ?」
「そう、か」
何も言うまい。何も。
普通に考えて、原作のおれと今のおれとそこまで行動に差はないと思われる。つまり、原作ゲームでもどことなく帝国びいきとされた若き教皇とはこの子なのだろう。
だが、この狐教皇はゲームでは出てこない。このまま成長したら、おれの皇籍追放イベントが起きた際に、おーじさまが要らないなら貰うよー!にへへーとか何とか言って出てきかねないというか……
実際に、今父さんにもうお前は帝国に要らんわと皇籍を追放されたら間違いなくアステールによって連れ去られるだろう。
だが、ゲームでは追放時にそんなイベントは起きなかった。
つまりだ、ゲーム世界の話でもきっとアステールは居て、けれども成長するうちにおれへの……今みたいな尊敬だか憧れだかを好意と履き違えた間違えた想いは是正されていったのだろう。
それはこの世界でも同じだ。いつかきっと、この今はおれをおーじさまおーじさまと呼んでくる狐も、本当の恋をして離れていく。
アステールは可愛いし、慕ってくれて悪い気はそんな無い。少し寂しいが、それで良いんだ。
おれは、誰も幸せになんて……転生したこの世界でも、きっと出来ないから。
そんなおれの気も知らず、おれの膝の上で無防備にゴロゴロする狐娘を、おれは彼女が満足したと言うまで撫で続けた。
「……君達、恋人どうしかい?」
と、それを見たエルフにからかわれた。
「えへへー、エルフは目が良いねー
ステラ、おーじさまの未来のお嫁さんなんだー」
「いや、全くそういう話はない」
「おーじさま、照れちゃってー
それとも、ほかにも仲良い子が居るから気にしてるのかなー?」
……何言ってるんだろうな、この狐。
「心配なら言っとくね。
ステラ、おーじさまが幸せになるなら、別にお妾さん3人くらいまでなら良いよ?
それ越えちゃうと、ステラもちょーっと嫉妬しちゃうけど」
いや本当にな!?
「そもそも、おれは忌み子だ。
君と結婚するというあってはならない想定の上での話を止めてくれ。あと、アルヴィナやアナを巻き込まないでやってくれ。
あの子達にももっと良い幸せの形はあるだろ」
そんなおれ達の話を、何か可笑しそうに少年エルフは聞いていた。
「良かったね、ノア姉」
「ん?ウィズ、ノア姫が何か」
「いや申し訳ない。ノア姉は人間嫌いだった。
けれどもね。この半年やけにノア姉は人間の存在を気にしていたのさ。あの人間の皇子、絶対一目惚れですわと。
そして僕にも口酸っぱく言ってきたよ、人間は卑しく浅ましく狡猾だと。全部高貴なエルフを堕とさんとする外道の罠だから気を付けなさいって
人間は本心でなく口当たりの良い可笑しな事を呟いてエルフの咎堕ちを狙い穢して手中にしようとする奴だって、ね。
何が仕掛けられてるか分かったものじゃないという七天の息吹を睨んで言ってたよ」
「……何も仕掛けてないから使ってくれ」
余談にはなりますが、今話の月華神雷は誤字ではありません。
月花迅雷+轟火の剣=月華神雷。読み方こそげっかじんらいで同一ですが別武器です。




