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焔の公子とテンプレなろう主人公(side:エッケハルト・アルトマン)

ザ・なろう主人公な要素もりもりの主人公ゼノの意識に混ざりあっている前世人格のクズさや歪み、そこから醸し出される醜悪さが全開の前世語り回です


不快になる可能性がありますし、この話の内容を一切知らなくても続きは問題なく読めるので不快なのは嫌だよという方は読み飛ばして次の話へお願いします

同時投稿の次の話からはこの醜悪さ抑えめのいつものロリなヒロインとのまだ距離感のあるイチャイチャに戻りますので……

「そ、それよりさ!ゼノの方はどうなんだ?」

 と、恥ずかしさを誤魔化すように露骨に俺は目の前の少年へと話題を変えようとする。


 ステラちゃん曰くシドーミチヤ。市道路八(しどうみちや)とかこんな感じか?

 

 「おれ?エッケハルトみたいに面白くも、凄くもないぞ?」

 って、唇を上向けた思案顔で、絶対そうじゃないだろって感じの第七皇子は返してきた。


 「それにさ、エッケハルト等ってきちんと全記憶有るんだろ?おれはかなり曖昧なんだ」

 「何でなんだ?」

 「分からない。七大天によって転生させられた……って違うな」


 と、何時ものように言い直しの苦笑。

 笑って誤魔化す癖が見える。


 「おれがその道を選んで転生させて貰った時には、少年は少年のまま、と言われたから記憶を残してる方が正しい筈なんだが……」

 と、唇の左端に鉤状に曲げた右手の人差し指を当て、少年は思案する。

 

 ってか、俺を選んだのはユートピアって良く分からない奴で、七大天にユートピアは居ないから暫く此処は異世界というよりゲームだって思ってたんだけど、お前違うのかよ。

 え?この世界の神である七大天に転生させられてたの?


 へー、選ばれし者は最初から出自が違うんだなー。

 じゃない!おいユートピア、何でこんなの居るんだよ!

 アナちゃんとイチャイチャ出来る世界じゃないじゃんこんなの!どうやって勝てば良いんだよ!原作でのヒーローが前世の記憶を取り戻した直後にヒロインと出会うとか俺が間に挟まってヒーローに成り代わるの無理ゲー極まるだろう!?

 

 と、意味もない愚痴を心の中で叫んだ瞬間。


 「……知りたいの?」

 「アルヴィナ、聞いてたのか」

 と、いつの間にかゼノの横の椅子に、ちょこんと黒髪の女の子が座っていた。


 いつも大きな帽子をした多分聖女でない方のリリーナ、リリーナ・アルヴィナだ。

 元からアナちゃんに惚れてゲームをやった関係で、リリーナについてはそこまで思い入れは無いし、可愛いとは思うんだけど何か怖いから距離取りたい相手だ。

 あと、去年の聖夜以降ゼノに向ける眼が怖い。近付くステラちゃんとか良く睨んでるし。

 

 「リリーナ・アルヴィナ……」 


 ぞわっとする。

 どこまで聞いてた?


 「ついさっき来た。3月にぽっくり……から」

 ……良かった。良かったのかこれ?

 と、俺は胸を撫で下ろし……

 「って、俺が真性異言(ゼノグラシア)だと分かるのか!?」

 コクリ、と頷く少女。

 

 「ボクの魔法は霊魔法。魂の違和感くらい……分かる」

 「げっ」

 「お兄ちゃんと影武者じゃない方も、顔形は同じだけど、魂で見分けが付く。

 ……皇子も」


 その言葉に、だろ?バレるんだと当の皇子は少しだけ自慢気に此方を見てきた。

 ……いや、チート能力無しで分かるものではないと思う。

 

 「……というか、ずっと知ってたのか」

 「譫言で、マシロってボクを抱き締めた日から」


 その言葉に、すまないと皇子は謝って。

 いや謝るところなんだなそれという俺を置き去りに、少年の話は進む。


 「……じゃあひょっとして、魔法でおれの前世?って言って良いのか分からない誰かの事、分かるのか?」

 「分からないけど、表面にそっちを出させられる」

 「なら、頼む」

 と、皇子は眼を閉じて、椅子の背もたれに全身を預けた。


 いや思い切り良いなこいつ……。思い切り良いから、躊躇無く助けと言われて炎の中に飛び込んだりするんだろうけど。

 

 その顔を暫く黒髪の女の子は眺め……

 「……出来た」

 眼を開いた皇子は、焦点の合わない虚ろな眼をしていた。

 

 「……名前は?」


 本当に変わってるのか?

 その疑問を解消するべく、俺は近くにある紙とペンを押しつつ、少年に聞く。

 これで、名前を漢字で書けたら成功だ。


 「……獅童(しどう)三千矢(みちや)

 少したどたどしい文字で、こう書かれた。

 あー獅童ね、獅童。無駄にカッコいい名字してるなーってなる。


 「じゃあ、獅童」

 「うん」

 ゼノよりちょっとだけ素直に、少しの幼さを残して、少年は俺の声に耳を震わせる。


 いや、外見は同じなんだけど、少しだけ何時もの表情の険しさとそれを自覚しているのか雰囲気を柔らかくしようとしている作り物の笑みが薄い。

 

 「君の人生ってどんなんだったんだ」

 そう聞いた瞬間、焦点の合わない瞳が少しだけ曇る。

 「話して、包み隠さず」

 術者の言葉。それは、魂に作用する絶対の力。基本的に、死霊術、霊術と呼ばれる種類の魔法において、霊は術者に全て従う。


 ……ならばどんな奴でも死んだら操り放題のチートと思いがちなんだけど、そもそも上級職以降って死んだら死体が魔力になって分解されてしまうし、案外死体を操るって難しい。


 魂自体は死んでも暫く残るし、そこから肉付けすれば肉体も用意できるけど、魂を従えられるって才能と……後は生前の導線とかが関係してるらしい。

 例えばだけど、死んでるからって帝祖皇帝を呼び出して従えて無双させる!とかは基本無理。帝祖自身が従いに来てくれれば何とか……って理論上は言われている。


 って、授業でやった。俺自身は影属性も天属性も無いから使えないしな!


 「……小学校2年になる春、僕は……俺は両親と兄二人と義姉、そして……妹の万四路(ましろ)と共に、春休みの旅行に行ったんだ」

 と、ゼノ顔の少年は語り始める。


 「へー」

 「……その帰り、飛行機はハイジャックされて……墜落した」

 「ハ、ハイジャックぅ!?」

 何だこいつの過去。それで死んだとか言われたら環境違いすぎて笑うんだけど。

 

 「機長の機転によって、飛行機は埋め立て開発中の区画に墜落、ハイジャック目的のサミット会場への激突は回避された……って、後々ニュースでやってた」

 「お、おう……」 

 あー、あったな、そんなん。


 いや、帝京都の話だし、家は大分そこより北なんでニュースやってたなーってくらいの認識だけど、確かにあったわそんな事件。子供の頃に。


 「激突の時、おれは……万四路を護ろうとして、怖がって抱き付いてきた妹をこの手に抱き締めて……覆い被さって」

 虚ろな眼で、少年は虚空を抱き締める。

 「白二兄さんが、三千矢って後方の屋根が悲鳴をあげたのを見て、覆い被さってきて……

 

 残骸から助け出されたのは、俺一人だった」


 「みんなは?」

 「万四路を……って叫んだ俺の腕の中に在ったのは、飛行機の胴体の破片がお腹に突き刺さって事切れた妹だったものだった。

 

 あいつは、万四路は……護ろうとした俺に、逆に盾にされる格好になって。

 それでも、俺に悲鳴すら聞かせずに。一人堪えて、死んでいった……」


 語る少年の、色素の無い血色の瞳からぽろぽろと零れる水滴が机を濡らす。

 

 「……なぁ、万四路。お兄ちゃんは、どうすれば良かったんだ?」

 重っ!?

 

 虚ろな眼のまま、涙を拭うこともなく、少年は話続ける。


 「……一人だけ、生き残った俺は……

 親戚の叔父に引き取られた。でも、気持ち悪いって……叔父夫婦が元々住んでた小さな一軒家に一人で暮らすことになった。

 当然だよな。毎晩毎晩、魘されて両腕を『いっそ壊れてしまえ』ってかきむしるような奴、キモいよな」


 「え?その夫婦は?腕は?」

 「あの一軒家より、父さんの家の方が……士兄さん夫婦含めて2世帯で暮らしてた事もあって大きかったから。

 腕は、良く血が出てたから、ずっと包帯巻いてた。それでからかわれて苛められたけど、そこは有り難かった」

 あのー、思い出の家盗られたって言いませんかねそれ?


 良いのかお前本当にそれで。

 

 「……学校も変わった。元の学校、ちょっと高かったから」

 「ってか、ゲームについては?」

 「そうして変わった学校で、俺は……護らなきゃいけなかった妹を盾に生き残ってしまったこの穢らわしい命は、兄と妹が護ってくれたこの大事な命は、どうやって二人に……ううん、助けられず死んでいった皆に償えば良いのかずっと悩んでたんだ」


 「無視かよオイ」

 正直辛いんでもっとまいてくれ。


 「……でもさ、出来ることなんて、全部のやりたくないからやっててと言われた雑用を代わりにやったりとか、その程度の何でもない事だけで。

 それじゃいけないって。助けられた命は、もっと償うために何かしなきゃいけないって……焦ってた」


 ところでこいつ正気?

 

 「そんな中、ちょっと前に虐められてた子と、虐めてた子とが、おれに矛先が向いたのを切っ掛けに仲良くなってたのを見て、気が付いたんだ。

 今の俺に出来る事はこれだって。

 それから、全部の虐めに割って入ってさ、虐めの矛先を俺に変えた」

 

 「お、おう……」

 何と返せというのか。控えめに言ってキチガイだと思う。

 いや、納得はできるけど、それを現実に行動に移せる奴がいる事実を理解できないというか……

 

 「替えがないシャーペンを折られて、芯だけでテスト受けたり……自分の小学3年の誕生日だからって買ったサッカーボールを誰かの庭に蹴りこまれたりって、それくらいしか無かったからちょっと嫌だけど耐えられた」

 買ったボールを3日目に画鋲で穴開けられた時は悲しかったけどと、ゼノっぽく彼は仕方ないなと笑う。

 

 アナちゃーん!ヘルプミー!

 助けてー!針の筵なんだけどさー!

 って、そんな俺を気にせず、話せと魔法で言われた彼は言葉を紡ぎ続ける。

 

 「ちょっと辛いこともあったけど、それなりにやってたよ。

 そんなある日、雨上がりの溝に頭押し付けられて給食費盗られて泥だらけの帰り道、近所の優しい高校生のお姉さんに家に誘われたんだ。

 汚れるから駄目だって断ったんだけど……結局、俺って弱いから。暖かいお茶の言葉に釣られちゃってさ」

 もう何も言うまい、そういうところだぞゼノ。

 

 「そこでお姉さんがやってたのが、封光の杖。

 ……あの後、何度かお姉さんと会って、ゲームもやらせて貰って……

 小学5年になった後で、誕生日プレゼント兼完全版出たからもう要らないしって、封光の杖をゲーム機ごと貰ったんだ。

 

 元々、家に古いテレビあったからさ、それでその後は大体ずっとゲームしてた」

 「他に友達は?」

 「あとは一人だけ。始水ちゃん」

 「……どんな?」

 何か聞き覚えあるような……

 

 「ゴールドスターグループのお嬢様?って名乗ってた」

 俺は何を聞かされているのだろう。

 これ、本当に日本人の過去だよな?ラノベ主人公の経歴とかじゃなくて。


 何でゴールドスターなんて皆知ってる大手メーカーの名前が出てくるの?何でお前そこの令嬢と知り合いなの?ラノベ主人公なの?

 

 「でも、ほら、俺もそうだけど、小学生って怖いもの無しで無鉄砲だから」

 自嘲するように少年は笑う。


 「今考えたらヤバいんだけど、普通の小学校に通ってる澄ましたお嬢様って、生意気って感じで女の子グループからちょっと虐められてる時期があって。

 特に、聞こえないって程じゃないけど左耳が悪かったからかな。変に目立って、狙われてた。


 ペンをチョークの粉入れに隠されたり、図書室から借りた本をゴミ箱に突っ込まれて無くすなんてべんしょーだーされたりって感じで……流石にさ、皆分かってるのか、補聴器まで壊したりはなかったんだけど。

 それを一緒に探したり、そのグループに文句言ってより生意気って思われたりしてたら、ちよっとだけ縁が出来たんだ」


 うん、これは酷い。

 

 「でも、習い事で忙しいし、耳を治すために通院もしてるし、俺と話しすぎたらまた虐めの標的にされる。

 皆分別が付くようになればそんな事起きないんだろうけど……ただでさえ、始水は俺相手への虐めとか嫌ってたから、危険でさ。


 だから、ちょっとたまーに遊ぶ程度で。それ以外、外で遊んでたらまた泥投げられたりボール割られたりするからずっとゲームしてた。

 でもさ、新しいゲームは高くて。ずっと封光の杖、時にお姉さんから借りて轟火の剣をやってて……何周したか覚えてないかな」

 「いや新しいの買えよ」

 半眼で思わず返す。


 何でこいつゲーム高いとか言うの?

 話聞く限り、超大手のご令嬢という誕生日プレゼントに欲しいと言えば嬉々としてハードごと買ってくれそうな相手が居るとしか思えないんだが?

 

 「……叔父さんから送られる生活費、本当にギリギリでさ」

 「いや、令嬢の幼馴染に頼んで……」

 「無理だ」

 「え、そこは無理なの?」

 ウッソだろゴールドスターグループ。あんな有名なグループの令嬢が友達にゲーム一つ買わないの?

 

 「万四路から奪った命にも、何を返して良いのかすら分からない。誰かを助け続けるくらいしか、ぼんやりとした考えすら浮かばない。

 でもさ、俺って割と勉強出来なくて、医者は……目指しても無理なんじゃって思って。あんな行き当たりばったりしか出来てなくて。

 始水みたいな誰かを治せたらって思ったのに。でも、俺、バカで。

 ずっとペン持ってノート見てるだけで腕がずっとチラチラしてて、それが……不意に万四路の血で赤く見えて。あんまり勉強、続かなくてさ。

 

 そんな俺が、始水から何か貰うなんて出来ないよ。何にも返せないのに。

 償いすら、まともに出来ないくせに。

 ……貰ったゲームの分、高校生になったらバイトしてお姉さんに返そうって思ってたことも、結局出来ず仕舞いだったのに」

 

 ……墓穴掘ったわ。

 こんな答えなの分かりきってたじゃん!?話聞く限り、こいつ日本に生きてるのに性格ほぼ原作ゼノと同じっていうアホなんだからさ!

 何で精神ダメージ食らいに行ったんだよ俺!?

 

 ってか、話聞くにご令嬢が可哀想になってくるんだが。何この鈍感クソボケ。

 「だってさ、始水の誕生日に、何送って良いか分からなくて、予算もなくてさ。

 思い出に取っておいてた家族の服や昔の服を縫って、不格好なスポンサーだって言ってた球団のマスコットのぬいぐるみ作って送るくらいしか出来なかったのが俺だし」

 寂しそうに、少年は笑う。


 「ちょっと考えればさ、スポンサーなんだから、もっと出来良いのを幾らでも持っててあんな不格好なの、邪魔だって分かるのに」

 「それで?」

 「始水にも、とっても微妙な表情をされたよ。泣きそうな、寂しそうな……

 きっと、失望したよな。そんな俺が、始水から何か貰うなんて出来ない」

 

 こんのクソボケがぁぁぁっ!


 重いわ!プレゼントが重すぎるわ!そんなもの渡してきておいて、自分はお返し出来るものがないからプレゼントは要らないってこいつはさぁ……ゼノかよ。

 ゼノだわ今。

 

 「ま、そんなこんなで、始水と……分不相応にちょっと仲良かった以外普通の虐められっ子だった俺は、始水と別の中学に行った」

 「えマジ?」

 そこで別学校なの?付いてかないの?

 わっかんねぇなぁ……これと付き合い続けてる時点で、どう考えてもそのお嬢様、獅童にベタ惚れレベルだろうに。

 

 「……全寮制のお嬢様学校なんて受験しないって、ちょっとだけ始水は受験勉強で只でさえ少ない遊べる時間が0になるのが嫌なのか言ってたけど」

 あ、やっぱり言ったんだそれ。

 それ多分、お前と離れたくない方便だったと思う。

 

 「立派な大人の人になれるから、グループを背負える人にもなるし、行くべきだって説得してくれと言われて。

 娘はお前みたいなメサイアコンプレックスのゴミクズの横なんぞに居るべきじゃないって始水のお父様に告げられて。

 俺もそうだと思ったから説得した。まだ中学なら、虐めも有り得なくないし……」

 うわ可哀想に。

 

 「そして、別々の中学で……

 って言ってもさ、半分くらいの生徒は同じ小学校。虐めの新体系とかもそこまで増えてなくて、全部乱入して引き受けるのは結構簡単で。

 ……7月だったかな。そろそろ期末で、それが終わったら夏休み。始水も寮から帰ってきて、同年代の男女でないと行けない場所があるから着いてきなさいって約束を1週間後にした頃。

 試験期間に入るから夏休みまで使わないし最後に体育倉庫を整理しておけと言われて」


 「……あっ」

 「その通り。外から鍵閉められて、電気消されたんだ。……俺、暗くて狭い場所、嫌いでさ。

 万四路を盾にして殺した、あの日を思い出してしまうから。

 って、始水と閉じ込められた似たような状況の時は、彼女の前であんまり弱音を吐けないから何とか耐えた……ってか、耐えきれず万四路……って魘されたけど、当たり散らすことは無かったけど。


 その時は無理だった」

 ……もう分かった、止めて?

 

 「一人だと、どうしようもなくて。

 奇声を上げてさ。何とか光をって、それだけ思ったんだ。

 そして、そういや上部に鍵の掛からない小窓あった!って暗闇の中で、その小窓開けようと、適当に跳び箱っぽいのに登って……

 

 変な積みかたされてたのか、がらりと崩れて。横にあったバスケットボールの籠に頭を強打。そのまま御陀仏だよ」


 ぐえー!

 死に方がキツいんだけど、何でこれ聞かされてるの俺?新手の拷問なのかこれ?

 

 「……そんな、面白味の無い、何も為せなかった、普通の人生だったよ」

 それを普通とは言わない。

 

 「……心残りは?」

 「……万四路と白二兄さんから奪った命を、何にも出来ずに使い潰した。俺が関係改善しきる前に死んで多分虐めだって元通り。皆には希望だけ持たせる最低な事をして……同年代の異性が俺しか居ないから付き合えっていう始水との約束も破ったし、お姉さんに貰ったゲームのお返しだって出来てない。

 出来てない心残りだらけで……」

 

 苦々しげに、少年は吐き捨てる。

 「そんなんじゃ。いけないんだ」

 ぽつり、少年は充血した瞳を輝かせ、呟く。


 「暗がりが嫌で、狭い場所が苦手で。毎晩、万四路を殺したこの手が!穢らわしいものに見えて。

 手が、足が、すくんで動けない事がある、そんな弱っちい、獅童三千矢じゃ、駄目なんだよ、エッケハルト」


 瞳に光が戻っている。


 「だから!おれは忌み子で、獅童三千矢で、情けなくて……

 でも!それでも!それ以前に皇子で……誰かを救う人間で!誰かを救える!救おうと動ける!第七皇子ゼノでなくちゃいけなくて!

 生きる筈だった!未来も夢もあった!皆を差し置いて生き残った俺は!奪った彼等分の何かを!それ以上を!世界に!皆に!返さなきゃいけなくて!


 だから!だからっ!だからぁッ!

 こんな、無力で!馬鹿で!何にも出来なくてッ!!

 動かなきゃいけない時に!あの時と同じように無理だって諦めて動けなくなりそうなそんな事!獅童三千矢なんて!!

 忘れてなきゃ!いけないんだ!何時か背負うとしても!忘れちゃいけなくても!

 今の『おれ』が償えるようになるその日まで!あっちゃいけないんだ!覚えてちゃ、護らなきゃいけない時に動けない後悔なんて!

 

 まだ、要らないんだよ!こんな!記憶ぅッ!!」


 バチっという大きな音と共に、リリーナ・アルヴィナの魔法が弾け飛ぶ。


 同時、少年の唇の端から一条の血が垂れ……

 ぐらりと傾いて、意識の糸の切れた少年の体は机に突っ伏した。

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