焔の公子と前世の話(side:エッケハルト・アルトマン)
「ゼノ、どうだった?」
と、俺……エッケハルト・アルトマンはそう淫ピなリリーナを見送った銀髪火傷痕の少年に尋ねた。
「割と色々話してくれたよ。
自分が真性異言だということ。おれの味方だとか、君も皆も助けたいとか……
恐らくだけど、おれが同じ転生者だって事にはまだ気付いてない」
ま、まだボロが出てないだけで、下手に縁が出来たら即座にばれそうだけどな、と茶化すように言う彼に、俺はというと。
いやいやいやねぇよと心の中で突っ込んでいた。
時折話しててコイツ本当に転生者、真性異言と呼ばれる奴……なんだよな?って確認したくなるような存在だぞお前と本人に言いたくなる。
というか、マジで原作ゼノと話してる気分になる。
台詞回しというか、思考回路というか、正義の味方という耳触りの良い大義の下に人々の平和の為に無償で無限に働かされる奴隷の姿をまるで理想像かの如く語る皇族論というか……兎に角、大体のものが原作ゼノとほぼ同じ過ぎる。
ってか、真面目に皇族に助けられるのは当然の権利で恩を感じる必要はないが、皇族を助けた事には相応の礼を返すべきってゼノの基本理念を信じてるお前頭おかしいと思う。
自分は人を助けて当然だから命を張ろうが自腹を切ろうが感謝も礼も何もなくて良いって何で正気で言えるんだ。俺ならそんなクソ理念投げ捨てたい。
それ投げ捨てたらステラちゃんとでもアナちゃんとでも好きなだけイチャイチャ出来るんだぞ?多分皇子辞めても命の恩人として一生養って貰えるんだぞ。譲ってくれよその位置ってレベルだ。
いや、原作ゼノ当人ならそれでも理念捨てないんだろうけどさ。
原作ゼノではない其処に確かに居るはずの転生してきた日本人……完全版である轟火の剣しか海外発売されていない為、封光の杖フルコンプは日本人しかあり得ないんだけど、その誰かの存在がロクに感じられないんだこれが。
そんな奴がどの口で下手に絡むと即バレるなんて言うんだ。転生者であると隠そうとした場合、お前が転生者だと気付けない自信があるぞ俺は。
「そうなのか。知識については?」
「ゲームシステムについては割と適当っぽいな。多分難易度easyくらいまでしかやってない」
と、そうじゃない範囲を出してくるゼノ。
寧ろ、俺はお前のその反応が意外なんだが。普通さ、知識と聞かれてその辺り言うか?流石RTA勢。
「ってそうじゃなくて、どの辺りまで知ってそう?」
「おれに分からない事は言ってこなかったから、多分だけど轟火の剣の全ルートやって逆ハーレムやったくらいっぽいな。
哮雷の剣について君しか知らないことを教えてくれって言ってみたけど何も出てこなかったし雷鳴竜と氷の剣とか読んでなさそう」
……こいつ俺の嘘信じこんでやがる!
ゼノ、騙してて悪いんだが雷鳴竜と氷の剣にはロクに哮雷の剣ケラウノスは出てこないんだ。メインとなるのお前と月花迅雷。あれ、お前ルートだから。お前とアナちゃんのイチャイチャだから。
で、今騙してたと言ったらどうなるんだろうな?
って気持ちを、俺は振り払う。だってそれ、アナちゃんの事をお前の運命の相手だってゼノのアホに言うに等しい。
原作では全く関係ないと思ってるから今のこいつはアナちゃんの俺にすら分かる皇子さま大好きオーラを多分意図してガン無視してる訳で。
その間にアナちゃんに好いて貰うしか、俺があの子と結ばれる手って無い。
ゼノのアホはアホだけど、流石にここ数年付き合ってきて、いっそ死んでくれればってのは流石に思えなくなった。
そして、きっとゼノを止めてるのは自分は忌み子だからアナちゃんに好かれる訳にもいかないって一点。
そこが原作で結婚はしてないけど恋愛関係にまではなる相手と知れば……こっわ、どうなるか興味はあるけどやりたくないわ。勝ち目がたぶん無い。
「んー、ゲーム知識だけを頼りに逆ハーレムルート目指してるって感じか?」
「そうっぽいな」
と、くすんだ銀の髪はうんうん頷いて、アナちゃんお手製のクッキーを軽く俺へと押し出してくれる。
良いのかよ。好きな子の手作りクッキーとかお前に渡さず全部食うぞ。
……良いんだろうな、あいつ原作プレイヤーの割に、どの娘が好きとか良く分からんし。
良いのかよ、アナちゃんとイチャイチャしちまうぞ。
なんて思う辺り、俺も大分思考がゼノ相手に乙女ってる気がしてくる。
いやでも仕方ないだろ!こいつ乙女ゲームの攻略キャラの幼少期って言われたら信じるレベルの相手だもんな。
俺はアナちゃんが好きだから神様っぽいのに言われてこの世界を選んだんで、ゼノ相手にホモりたくてこの世界に転生した訳じゃないんだ、忘れよ忘れよ。
ってか、何でこんな普通に恋のレースしたら勝てないチートが居るんだよ!恨むぞユートピアァ!
「……エッケハルト?」
と、少しだけ屈んで俺と目線を合わせ、少しの心配を込めて赤い目が俺を貫く。
「なあゼノ。
そういえばさ。お前ってどんな奴だったんだ?」
「いきなりどうしたんだよエッケハルト」
このままだとそのうち乙女回路が出来てしまいそうで。
俺は、こいつは原作ゼノとは別人だと思うためにそう転生前の話を振る。
「いや、聞いても面白くとかないと思うんだが。普通の人生だったっぽいしな」
と、顔を変えずに少年は返してきた。
「というか、おれとしてはエッケハルトのが気になる。
……アレットとか割と好かれてたようにも見えたけど、その割には縁をあまり気にしてなさげだし」
……良く知ってんなこいつ!?
たしかにアレットちゃんとは仲良くなれた。寧ろ姉を拐った相手とガチでやりあってたのは俺じゃなくてゼノだろ!?ってなるけど、何でなんだろうな。
「あとはヴィルジニーとか。
一年上だと聞いたら会いたがってた」
いや、だから何で?
ヴィルジニーちゃんとの恋愛ってゲームに絆支援として存在するけど要件は何なんだろう。
ってか、血みどろで暫く内臓が炭化してて吐く息が臭いなんて良く1ヶ月ちょいで治ったなこいつ……になりながら望まない婚約から助けてくれた相手と、ちょっと庇った相手とで後者に惚れるって普通無いと思う。
ってか、劇の際にヴィルジニーには手伝いを断られたと言ってたけど、あいつあそこで死にかけながら助けた事の恩とか全く返してもらう気無いのかよ、こっわ。
「そんなに聞きたいなら話そうかゼノ」
と思いながらも、普通に話す。
いや、俺は割と普通の転生者だと思うし。
「俺は……転生前は確か遠藤隼人って言う名前でさ。
妹の凛とそこそこ仲良しの高校時代……」
ってところで、少しだけ目を輝かせるゼノ。
「いや、そこの何処に感動要素が?」
と、思わずツッコミ。
「おれ、高校行ったことなかったっぽくてさ。
高校の話とか聞けるのかと思うとつい、な」
と、苦笑するゼノ。
いや引きこもり……って性格じゃないし、高校行ってないって何なんだお前。病弱でもなかったっぽいけど。
「ある日、妹と二人で狩りゲーしてたんだけど、そこで妹の部屋に妹にしては珍しいめっちゃくちゃ可愛い女の子が表紙の本を見付けたんだ」
「……妹と仲良しだったんだな」
と、微笑むゼノ。
そこで喜ぶなよ恥ずかしい。
「それが、遥かなる蒼炎の紋章~外伝・雷鳴竜と氷の剣~の2巻」
「2巻だったのか」
「1巻はゼノ関係多めで、他の表紙だったんだ」
嘘ではない。嘘では。
1巻は幼いアナちゃんが表紙で、当時はロリコンじゃなかったのでそっちより胸のおっきなアナちゃんの表紙が気になったから2巻だ。
話をする前に、ゼノが多分出してこないけど手出ししないように全部のクッキーを頬張り、アナちゃんが淹れてくれたお茶で喉を潤す。
「とりあえずさ、借りて読んだら表紙の子はめっちゃ可愛かった。
そして続きとかあるのかなーと調べたら、原作はゲームだったらしい。
そして、ゲームをやって……」
「見事に嵌まったのか」
「そう!妹にも笑われたよ」
「幸せそうだな」
「……幸せ、だったよ」
遠藤隼人としての人生を思い返しながら、俺はそう返す。
「妹は一つ下で、大学に行かずに結婚した。
そしてその帰り道……俺は」
と、ゼノが寂しげに目線を下げた。
……ごめんなゼノ。普通に考えて事故に遭ったって続きそうな引きだけど違うんだ。
「同人誌即売会を見かけた」
「そくばいかい?」
あ、普通に返された。何かマジで御免。
「そう。好き好きにゲームキャラの色んな妄想を漫画なんかにして売る会」
というか、思い返すとアホかよ遠藤隼人!?妹の結婚式の帰りに見掛けたえっちな即売会でアナちゃんのR18同人誌買い込むとかさ。
「そんなものがあるのか、知らなかった」
……落ち着け、落ち着くんだエッケハルト。
なんでこのゼノはそこら全く知らないのにRTA勢やってたとか言うんだとかそんな疑問は忘れろ、キリがない。
「そこで見掛けたのは、可愛いタッチでえっちな、見惚れたあの子の本」
「……おれは、良いと思う」
……何か変な感じだな……
ってか、良く良く考えると、アナちゃんのR18同人誌って、純愛8陵辱2で純愛の約7割はゼノ相手と乙女ゲー主人公としては異例の相手固定度誇るから……同人誌の相手役最大手からR18同人活動を誉められてるんだよなコレ……新手の羞恥プレイか?
というか、陵辱もののほぼ90%でゼノ雑に殺されてたけどそれ言ったら凹むかなこいつ。
でも、それで心がぽっきり折れて一気に快楽に呑まれるアナちゃんはえっちだったし……
基本的にずっと気丈な表情が血みどろの月花迅雷を見たりした瞬間に目尻の涙と共にへにゃってなって、拒絶も止めて一気に顔も蕩けて……って奴。可哀想だけどめっちゃ好きだった。
それはもう、何度致したか覚えてない。100回は多分越えた。
でも、現実で見たくはないかな……
「それはもう買い込んだ」
言ってて恥ずかしくなってくる……
「そして、読んで気分が高揚して色々と致して……」
流石に下品な表現は避ける。何と言うか、ゼノの奴割とこういう言葉に耐性無さげだしな。
「そして、思ったんだ。俺も書きたい。いや、俺があの子を一番えっちで可愛く表現できる……と」
……尊敬を込めた眼差しは止めてくれゼノ。割と黒歴史なんだ。
と、首や頭をかきむしりたくなる衝動を堪えて、話は最後になる。
「そうして思っていたらさ。ズボン脱いで冬だったから、風邪を引いた」
「……それで?」
「何か持ってたらしい持病がその風邪拗らせた際に悪化して、そのまま3月にぽっくり……」
……止めろゼノ。その同情する目を止めてくれ!だから話したくなかったんだよこれー!




