桃色聖女と仇敵との邂逅(side:リリーナ・アグノエル)
白に赤が混じった和服に身を包んだ少年の姿を見かけて、私は心の中で歓喜した。
うんうん、やっぱりゼノくんってカッコいいよね!原作でも、幾つかの話でだけ和服を着てるんだけど、髪と眼に合わせた色と、青白い刀が相まって綺麗なんだよね。
ずっとこの姿で居てくれたらなーなんて思っても、皇子でなくなって傭兵として出てくる時にはもうおれは皇子じゃないからって、皇家の紋章が付いた和服を着てくれなくなっちゃうんだよね。
そこが残念なんだけど。
でもでも、まだまだ子供なのにカッコいい!ちょっと大人びた顔立ちも、この頃から変わらない眼も!
でも、ゼノくんって皇族の中では簡単に遭遇できるキャラの筈なんだけど、何でか中々会えなかったんだよね
ゼノくんってば、ぜんっぜん庭園会とか出てこないの。
引きこもりの妹姫じゃないんだから幾らでも会えると思ってたのに。
それに、スカーレットゼノン?だっけ?
そんな劇を誰かの為にやった時も、見には行ったんだけど子供達が煩くて、ちょっとイライラするから劇の後で話すとかやらずに帰っちゃってさ。
でも、ここで会えたのはやっぱり運命ってあるんだよね!
だって私、この世界の主人公だもんね!
これ幸いと、私はゼノくんとそこらの女の子の話の最中に割り込む。
「……アグノエル子爵令嬢」
って、静かに私の事をそう呼ぶゼノくん。ちょっとだけ面食らったような表情をして、でも決してやな顔はせずに対応してくれる。
うんうん。やっぱりヒーローってこうじゃないと。結構会いやすい中ではフォースくんとか、露骨に嫌な顔するんだよねー。お陰で後回し。
これもヒロインの辛いところだよね。
最初からは好感度高くないっての。ガイストくんなんかはツンデレさんだから良いんだけど。
「ゼノくんってば、リリーナで良いって」
私、この世界ではアグノエル子爵の娘って事になってるんだけど、ゲームだと親の名前とかホント出てこないから、リリーナって呼ばれないと違和感あるんだよね。
「リリーナ嬢」
って、そう言うとゼノくんは優しく言い直してくれる。
「貴族の娘さんなんですか、皇子さま?」
って、生意気にもゼノくんと合わせて浴衣なんて着てる女の子が、そうゼノくんに尋ねたの。
「……そう。彼女はアグノエル子爵の一人娘、リリーナ嬢だ。
この辺りに邸宅は……なくてちょっと離れた区画なんだけど、遊びに来たのかな。
あんまり失礼の無いようにね」
と、女の子にも優しく諭すようにゼノくんは私を紹介してくれる。
そして、私に向くと、優しく笑うの。
「リリーナ嬢。確か、劇を見に来てくれていた……かな」
「そうそう!ゼノくんってば頑張りやさんだなーって」
「有り難う。素人劇で、女の子にはちょっと詰まらなかったかもしれないけど」
って、お礼と共に軽く頷いてくれる彼は、何でゲームじゃ攻略できないのか良く分からない。
普通さ、こういう人って攻略可能じゃない?
「それで、馬の話だったよね」
と、ゼノくんは軽く首だけ振り返らせて、奥の看板を見るの。
看板を掲げてるのは、何と伯爵さんなんだって。
でも、関係とかあるのかな?
「そこまでオススメはしにくいかな」
「そうなの?」
「そうなんですか?」
何か覚えのある銀髪と声が被る。
「ネオサラブレッド種の馬って、結構じゃじゃ馬なのが多いからさ。
おれがしっかり見てれば大丈夫だとは思うんだけど、万が一暴れた時に危険なんだ」
だから、人が多いとちょっと怖い、おれは一人しか居ないから、とゼノくんはそう言う。
でも、それって大丈夫なんじゃない?
「ねぇねぇゼノくん。
別に関係なくない?」
「ん?」
「馬は何人居ても同じ数だし、見てられるでしょ?」
そんな私の言葉に、ゼノくんは違うよって優しく諭すの。
「普通の馬には追い付けても、ネオサラブレッドにはおれは追い付けないからさ。
それに、1頭じゃあ、あいつ荒れるから」
って、ゼノくんはちょっと遠い目をした。
「じゃあ、お願い!」
そこでめげずに、私はお願いを続けるの。
だって、ゼノくんって押しに弱いから、こうすれば行けるって私は良く知ってる。
お金が必要なんだって押せば原作でも結構なお金くれるしね!
「……アナ、良い?」
って、ゼノくん自身は断らず、生意気にも浴衣な女の子に問いかける。
「わたしは、皇子さまが良いなら良いんですけど……」
と、ちょっと断って欲しそうに、銀髪の女の子はそう言って。
そんな私以外にも優しいゼノくんに、ちょーっとだけ私はむくれて、神様から貰った力を使うの。
実は、私ってば凄い力があるんだ!
なんと、ステータスや好感度が見れちゃうの!
この世界では、ゲームみたいなステータスは何時でも見られるわけじゃないけど……なんと私は、神様から何時でも見られる特別な眼を貰ったの。
ゲームでは敵のステータスとか全部見れたし、きっとその再現。私がこの世界の主人公である証って、神様も言ってたし。
それに、実は好感度だって見れちゃうんだ。
普段は私に向けた好感度が頭の上にハートマークで出て……
と、私はゼノくんの方を見る。そのくすんだ銀髪の上には、14って数字がある。
低く見えるけど、これは全然低くない。この好感度って、全99段階なんだけど……
ゼノくんの横の銀髪の女の子は、露骨に私を警戒してて、その上の数値なんてマイナス3。そう、私の見れる好感度数値って、実は1~100みたいな感じじゃなくて……っていうかそれ100段階だし、マイナス49~49なんだよね表記。だから、+14ってかなり高いの。
やっぱりゼノくんってチョロいなー。そこが良いんだけどね!
そんな事を思いながら、でもゼノくんの彼女面してるお前もぜーんぜん好かれてないんだってするために、私は力で銀髪の子のステータスを見る。
こうして誰かのステータスを開いてると、普段は私への好感度を表してる数字が私がステータスを閲覧している相手への好感度になるんだよね。
これって……やっぱり、逆ハーレム用だよね?低い好感度の間柄を解消すれば、喧嘩とか無くなるし!
って、私はステータスを見て。
名前はアナスタシア……で、やっぱりゼノくんからの好感度は私とそう変わらない+17。
銀髪の、アナスタシア?
……あーっ!
漸く分かった!この浴衣の子!
アナスタシア・アルカンシエルだ!小説での愛称はシエルだったから、ちょっと分かんなかったけど……間違いない!
え?何で居るの!?私此処に居るよ!?
もう一人の聖女って、本来の聖女が居ない時に出てくるもののはずだよね?だから私が聖女な以上、居るわけ無いのに何で!?
「ゼノくん!そいつ可笑しいよ!?」
って、思わず口走っちゃう私。
でも、ゼノくんは真剣な眼で聞いてくれる。
「私が居るのに!」
「い、いきなり何ですか?」
って、有り得ない女は眼をぱちくりさせる。
「リリーナ嬢、あんまり事を荒立てないでくれないかな?」
って、ゼノくんも困ったように、馬のぬいぐるみを持ってない手で、自分の頭を軽く叩くの。
「何を言いたいのか、もっと筋道立ててくれないと何一つ分からない。
そうしたら、どれだけ正しいことを言っていても、君の方が変に見られてしまうよ」
あー、そうだよね。
ゼノくん、転生だ何だっていきなり言っても信じられないよね。仕方ないなー
因みに、ゼノくんへのあの銀髪の好感度は+43だった。
やっぱり可笑しいよあの子。




