表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/687

暴露、或いは誘い

「……竪神、まずはこれを見てくれ」

 そして、翌日。


 父からアレを借りてきたおれは、初等部塔の一室で、借りてきたモノを美しく磨き上げられた石の机の上に静かに置いた。

 それは、鍔半ばに傷が入り、端の飾りが融解した刃の無い剣。ある程度修繕された、ユーゴの落とし物。

 銘を、E-C-B-StV=(蒼輝霊剣)S(シルフィード)【|EX-caliburnエクスカリバー】。ユーゴ・シュヴァリエが取り落とし、遺された遺品だ。


 いや、あいつ死んでないが。

 人殺しはしたくないとはいえ、それが良いのか悪いのかは、生きてた方が良い刹月花の少年と違いおれとしては判断がつかない。

 

 遺されたそれを父が回収し、国御抱えの錬金術師に解析をさせているようだが全く手掛かりはないらしいそれを、今回は借りてきたのだ。

 

 「これは……」

 静かに目線を向ける少年。

 「ゼノ皇子、触れてみて構わないか?」

 「好きなだけ触れてみてくれ」


 おれが言うや、我先にとでも言うべき速度で左手を伸ばし、少年は刃の無い剣を手に取り、ゆっくりと全体を見回す。 

 その瞳が、不思議な色合いを見せる。

 

 「アナ、お茶を頼める?」

 それを見守りながら、おれは横でわたし居て良いんでしょうか……と所在無さげだった少女におれは声を掛けた。

 

 「……成程、機能としては恐らくは私達が使っているエンジンブレードと似通った構想で作られているようだ。

 ただ、どういうことだ?それ相応のエネルギーが必要である以上、普通に考えてエンジンブレードのようにエネルギーを貯蔵する何かが必要であるのは想像に難くない。

 だというのにそれらしい空白はなく、周囲から大気の魔力を集めて刀身を構成するような変換効率の問題から机上の空論とされている無限マガジン理論を実現している様子も無い……」


 少女に持ってきて貰ったお茶(今日のはアイリスお気に入りの花の香りがするが味はあまりしない乾燥させた花弁を混ぜたフラワーティーである)の湯気が消えきり、香りのする温い湯になった頃、漸く青い髪の少年は顔を上げた。


 既にアナは居ない。お昼を作りに別の階に行き、此処には二人と一羽だけが居る。


 「……ああ、すまない」

 そして、喉の渇きに気がついたのか、温い茶を一気に飲み干し、おれに漸く目を向ける。


 「ゼノ皇子。知っているならば答えて欲しいのだが、この剣の刀身がどうなっていたか、知らないだろうか」


 「底冷えのする魔力の塊。見ているだけで魂が凍るような、焔の中にあってすら凍えてしまいそうな、そんな蒼い結晶によって刀身が形成させれていた。

 ……立っているだけで、凍り付くかと思った」

 無我夢中で立ち向かったあの時の事を、おれは思い出す。


 あの時、轟火の剣デュランダルを手にかの剣に立ち向かった時、全身が燃えているのに気にも止めなかった。

 それは、夢中だったのもあるが……とても、寒かったというのもある。

 あれは、異様な寒さだった。肉体は焼かれているのに、まるで熱くない。

 

 「……つまり、剣の刀身そのものがENマガジンとしての役目を果たしている、と。

 衝撃に弱くなりそうだが、大丈夫なのだろうか」

 「馬鹿げた硬さしてたぞ、あれ」


 エンジンブレードにもバリアは搭載されていたりする。だが、あれはあまりにも硬すぎた。

 押し切れるも何もなく、直感的にこれ破壊できないなと思わせる馬鹿みたいな硬さ。


 最後に打ち破れたのだって、恐らくは絶星灰刃・激龍衝の防御奥義の発動を無効、という特殊効果があのバリアを消し去ったからだろう。

 物理的な火力で叩き割ったのではない。


 ということはだ、無我夢中だったが、似と付いていた関係で、本来よりスペックが下がっていたと仮定して……

 ゲーム的な火力倍率は、1.4-自分の現在HP割合(%)÷100くらいか?あの時点でほぼ限界ギリギリだった事を考えるとHP割合は0%(四捨五入の関係で残り2%等は0%扱いだ)、1.4倍はあっただろう。

 おれの力は60越え、轟火の剣の攻撃力は40、恐らく不滅不敗の轟剣は発動していたので+20……いや仮に+10としようか。

 130×1.4は182。2回攻撃で2回目の攻撃は+レベルの半分。なので……多少少なく見積もって火力の合計値としては370程。

 そしてバリアは耐久分ダメージを減らすという説明文がゲーム内では存在したが、計算上は最初に耐久値分だけ攻撃力を下げてからダメージ計算するというもの。防御力だ何だの計算前に計算するのだ。

 例えば、今回の場合……想定としてはバリア耐久を182減らし、更に188減らし、バリアの耐久が0になった時点で残りがユーゴにダメージとして行く

 

 ……では、最後の一撃でもバリアを火力で壊せる気はしなかったというのはどういうことか?

 

 「硬いって?」

 「恐らくだが、刃を構成していた結晶が薄く展開されたバリアの耐久が400を越える、と言えば分かるか?」

 そういうことである。

 数値にして370を耐久から削ってバリアの耐久が余裕をもって残るというのは、耐久が370は軽く越えてるということだ。


 硬すぎだろどうなってんだ。ゲーム内の最強バリアでも耐久50だぞ。


 この世界、味方の【力】最高値が限界突破と【力】+10を積んだカンストシグルドの178、機神を含めるならばアイリスとの絆Sで解禁できる改造などをフルでやったライ-オウの193、敵キャラ含めても最高難易度のテネーブル第三形態の217だ。

 そして、武器攻撃力は刹月花の45が最高値(一応表記の上では礼讃されし雷轟・終の200が最高値なんだが、銃はダメージ計算式が武器攻撃力=攻撃力なので例外とする)。

 【力】+武器攻撃力が火力の基本となる世界で、理論上の【力】+武器攻撃力の最高値よりも倍以上高い耐久のバリアは無体とかそういったレベルではない。そもそもバリアを貼らせない攻撃(おれがあの時撃ったような防御奥義無効奥義等)以外効かないようなものだ。

 

 「……意味が分からなくないか?」

 「ああ、実際に見たおれも意味が分からなかった」

 「ゼノ皇子、何で生きているんだ」

 驚いたように、おれを見る頼勇。

 

 「相手が馬鹿だったから」

 「……確かにそれしか活路がないな」

 同意するように頷いて、少年は改めて柄だけの剣をひっくり返す。

 「そんな馬鹿げた硬さの結晶が刀身を形成していたならば、確かに強度の問題はないし、柄もすっきりしたデザインに出来るか。

 問題はただ一つ。そのそんな結晶を用意出来る技術があれば誰も苦労はしないという点だ」

 難しそうな顔で、少年は呟く。


 「普通に考えて不可能だ」

 「ああ、だから彼等は普通じゃないんだ」

 「この世界にはない何かを、使っている?」

 「ああ」

 目線を上げた少年は、信じられないとばかりにおれを見てくる。


 「彼等は、AGXと呼ばれる機神を扱っている。それは、どうやら他の世界の技術であるらしい」

 「他の世界の技術……。一日が12の時間に区分されている世界……」

 本当は24時間なんで24なんだけどな、とおれは内心だけで訂正して。


 「七大天ならざる何者かによって、この世界にそうした異界のものが流入している。

 あの時計は、その異世界の技術で作られた、異世界の機神を操るためのデバイスらしい。

 竪神、お前のその左手のレリックハートのように」

 「……成程。魔神と、関係はあるのか?」

 「それが、分からない」

 肩を竦めて、おれは答えた。

 

 「そもそも、魔神族自体も元は世界の外から現れたとされる存在。送り込んでいるのは魔神をこの世界に送ったのと同じ存在なのか、或いは別か。

 そこら辺は謎だ」

 「謎、か」

 静かに、少年は今一度剣を見下ろす。

 

 「こんな技術を持つ彼等と、皇子は何故出会った?」

 「……」

 一度、おれも目を閉じる。


 生まれる迷い。これを言うべきかという選択肢

 最初に、おれは異世界の事を説いた。真性異言(ゼノグラシア)の存在などから、それ自体は信じられる話であったのだろう。

 では、そこでおれも異世界の記憶がある程度あると言ったらどうだろうか。おれを何処まで信じてくれるだろう。


 おれは彼等とは違う、そう叫んで、何処まではいそうですかと言える?

 隠すべきかもしれない。おれが何者か、言わずとも行き当たりばったりでアステールを助けることになって対峙したと言えば、それで説明にはなる。疑われも多分しないだろう。

 

 覚悟を決めて、目を開く。

 「……竪神。おれは……真性異言(ゼノグラシア)だ」

 選んだ道は、全てを語る道。


 「おれには、この今のおれ、第七皇子ゼノとして生きている記憶と平行して、ミチヤシドーというニホンという国で生きてきた人間の記憶がある」

 「……ゼノ皇子」

 「そのニホンという国では、ゲームという面白いもの……プレイヤーという凄い存在が幾つかの選択肢を選ぶことで、多彩な結末を迎える劇みたいなものがあるんだ。

 そして、おれが良く知っているその劇の題材は……」

 「この世界、か」

 「ああ。


 数年後に聖女として目覚める少女を中心とした……魔神王テネーブルとの戦いの物語。その物語が辿る、幾つものストーリーと結末を、おれはそのゲームで見てきた」

 真剣な眼で、少年はおれの言葉を聞く。


 「じゃあ、ゼノ皇子。そこに私は出てくるのか?」

 「……すまない。その通りだ」


 「だから、私に声を掛けた……って訳でも無いのか?」

 「いや、君が竪神頼勇であるか否かに関わらず、困っているなら泊まっていくか?とは言う気だった。

 ただ、こうして色々と話しているのは……おれの知るゲームでの『竪神頼勇』という存在の力を見込んでの話になる」


 ……少しだけの誤魔化し。


 ゲームではお前はおれの義弟になるのだと言おうかと迷い、それは止めておく。

 アイリスの将来の為を思えばアイリスを意識してくれるに越したことはないんだが、それは卑怯な気がして。

 

 「疑っているようなら言っておくと、おれは誓ってAGXのような力は持っていない。

 幾つかの有り得る未来を知っていて、さりげなく誘導しようと思えば出来るだけだ。

 

 そして、そうやって未来を知って……おれが死なない方向に誘導しようと思ったところで、彼等とかち合った」

 「それが、この剣の持ち主と」


 「ああ。恐らく、彼等は……おれの知る未来を大きく変えた独自の未来を作ろうとしている。

 そうなってしまったら、おれの知識なんて紙屑みたいなものだ。

 結果、思いきり目的がかち合い、敵対した」

 静かに、おれは左手を伸ばす。

 

 「竪神頼勇。

 勝手なことを言うが、共に戦ってくれないか?」

 そのおれの手を、青い髪の少年は、右手で包むように取った。

 「事情は良く分かった。

 ……ただ、私としては全てを信じきれた訳ではない。暫く、様子を見させて貰っても構わないだろうか」


 「……当然だろ?」

 にっ、と。歯を見せて、おれは笑い返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ