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劇、或いは片付け

『~The beginning of DRAGONIC NIGHT~』

 どことなくクラシックを思わせるBGMと共にガントレットから響く、アイリスの落ち着いた少女の声。


 口数少ない彼女の喉を酷使した、最大限格好付けた歌うようなシステム音声に合わせ、おれは降りている奈落から、一気に脚力で飛び出す。

 『DRAGONIC KNIGHT

 スカーレットゼノン!』


 ガントレット(の姿のゴーレム)から、その変身音最後の宣言が流れた瞬間に、子供用なりきりスーツ姿のおれは変身時のポーズを決める。

 轟く爆発に紛れてアナが操作してくれた素の姿から変身するおれの幻影(良く見るとおれよりちょっと火傷の範囲が狭くて髪に輝きがあり、おれよりちょっと顔が良いと幻の精度は割と低い)が吹き消え、フルフェイスの兜に結わえられたマントがその爆発に大きくはためき、少し首が後ろ引かれる。


 因みにだがマントが兜に付いている理由は、劇の最中ドラゴンの羽根モチーフであるマントがより激しくはためくようにである。

 

 「ブレイヴ!トイフェル!イグニションッ!

スペードレベル、オーバーロォォドッ!!

魔神剣帝スカーレットゼノンッ!地獄より還りて、剣を取るッ!」

 そしておれは現物より大きな轟剣デュランダル・ハリボテを手に、そう芝居がかったように剣を大きく一回転させ、叫んだ。


 因みにおれに合わせて作って貰っていた原寸サイズのハリボテ剣はエンジンバーストしたエンジンブレードとかちあった時に根本にヒビが入っていて下手したら折れそうだったので、これは借りたこの劇座のものだ。


 元々割と大きなデュランダルを更に大きくした感じだが、片手で振るうという設定に合わせてか本物に比べて滅茶苦茶軽い。

 本物はアナを抱える方が数倍軽いってくらいの重さなんだが、このハリボテは羽毛のような軽さだ。

 一応魔法で耐久性は確保してあるっぽいが、軽すぎて違和感がある程。


 「魔神剣帝……貴様が」

 「そう!その通り!」

 少しだけ咳き込む声が聞こえる。

 システム音声を演じるためにまた声入れられるように繋ぎ直すのが面倒なのか、音量を下げる事で対応したアイリスが、ベッドの上で喉の酷使に苦しんでいる音が、ガントレットから微かに聞こえたのだろう。


 体の弱い妹には変身音を謳うのは割とキツい労働だ。だから、日に何度も練習などはさせなかった。

 頑張ってくれたアイリスに、喉に良い何か買って帰ろう。

 そんな事を頭の片隅で考えながら、おれは大袈裟に剣を胸の前で横向け、観客席から良く見えるように構えた。

 

 頑張れーだのいけーだの、子供達の無邪気な応援が聞こえる。

 ヒーローショーのアクターになった気分だ。悪くない。

 おれは兜の下で、にっと唇を吊り上げた。

 

 

 そして、子供達の為に素人がやった劇はそこそこの成功に終わり。

 本物はもっと凄いんだろ?とか、家の孤児院の子達だけを集めてもとある程度の人数に公開した結果、一部の子供達からは文句を言われたりしつつ……

 「有り難う御座います、場を貸してもらって」

 おれははぁ……とため息を吐きつつ割と惨状になっている客席を見詰める男に頭を下げた。


 そして、散らかされた菓子のカスが残る紙袋を拾い上げる。

 「あと、すみません。予想より汚くて」

 「本当だよ」

 愚痴るように、その座長は呟く。

 「片付けはしていくので」

 「君も大変だな」

 それだけ言って、男は楽屋へと消えた。


 消える辺り、おれ自体は信じてくれたのだろう。そう思っておれは一人で片付けを始める。

 アルヴィナは寮に帰ったし、アナは疲れていたから休んでくれと言ってアルヴィナと共に初等部へと追い返した。

 アステール?愛娘に掃除なんてさせたことが知れたら暗殺者送られても可笑しくないから無し。おーじさまー!がんばれーと応援だけして貰っている。


 一人で用意した袋にゴミを詰めていると……

 

 何時しか、横で一人の少年がゴミを拾っていた。

 名を、ガイスト・ガルゲニア。公爵令息である。

 「……ガイスト!?」

 いや何でだよ招待はしたけど、とおれは思わず目を擦る。


 「待ち人は来たらず」

 つまり、待っててもおれが出てこなかったから来た、ということなのだろう。

 「いや待て、公爵家の子がやるようなものじゃないぞこれ」

 大貴族の息子に掃除なんてさせたとなれば、ヤバイな評判が死ぬ。


 「不誠実にはタナトスの裁きが下る」

 意訳すると……

 多分だけど、散らかしておいて帰るわけにはいかない、だろうか。


 唇の先に少しだけ付いた菓子屑を見付けて、そう当たりを付ける。

 「第一、皇子にだけさせていては、死神以前に皇帝が怖い」

 「いや、父さんは怖くな……存在が怖いな」

 おれは何とかなってるけど、原作知識で子供への接し方が下手だからと思ってなければ、正直な話おれでも怖い。


 エルフのノア姫なんかは絶望したような目してたし、あの人やっぱり見てるだけで怖いんだな。

 

 「……ゼノ皇子、私はやらなくて良いのか」

 と、聞いてくるのは青き髪の少年竪神頼勇。

 出会ったのが昨日の今日なのに中々に律儀である。因みにだが、エッケハルトは見終わったら帰ったし、何故か何だかんだ来てくれていたヴィルジニーはというと、子供達の煩さにイライラして劇の最中に出てくのが見えた。

 

 「いや、良いよ竪神。あくまでもゲスト側だろ」

 「そうか。少し考え事をしたいので正直有り難いが、必要ならば声を掛けてくれ」

 それだけ言って、少年はおれが渡したガントレットを手に、しげしげとそれを眺める作業に戻る。

 時折手にしたメモ帳に何かを書いている辺り、あの劇から何か機神ライ-オウを完成させるヒントでも得たのだろうか。


 原作では獅子と前輪が2輪のトライクを混ぜたような高速機動形態に変形する機能を備えた獅子頭を胸に付けた……何と言うか子供向け作品にありそうな機神としてある程度完成していたが、話を聞いた限り、現状のライ-オウはまだ基本となるフレームが試作できたというくらいらしい。

 

 正直なところ、AGXと呼ばれているかの化け物に何とか対抗できるとしたら、おれは父か……或いは機神くらいしか思い付かない。

 そして、あのアガートラームは……ANC"14"と言っていた。幾らおれの知識が微妙でも、流石にフォーティーンが14って事は分かる。てぃぷらーあきしおんしりんだー?ってのとか、れうるな?ってのとか、それらが何なのかは知らなくても、あれが14番目の機体って事は分かる。


 ならば……それがあいつより弱いのか強いのかは知らないが、あれ1機以外にも存在する事だけは確かだ。


 そして、おれは既に複数の真性異言(ゼノグラシア)と遭遇している。他にも居ても可笑しくないし、そのうち何者かがアレの同類を持ち出してこないとは限らないのだ。

 ならば、早めに完成して貰うに越したことなんて無いだろう。アイリスと縁を持たせたいのだって、アイリスの為もあるが、原作でアイリスとの交流で100%を超えて改良されていくライ-オウを早めに完成させて欲しいって浅ましい策でもあるんだからな。

 

 なので頼勇にはその為の行動をやっておいてもらい、おれは二人で片付けを続ける。

 「……ガイスト、楽しかったか?」

 「プロとモチーフの二重奏(デュオ)

 意訳すると、前にプロの人のも見た、だろう。


 「そうか、前にプロの人達の劇も見たんだな」

 それに普通におれは返す。

 ガイスト語で小粋に返せれば良いが、そんな才能はおれにはない。

 「あの日、心は光に呑まれた。

 今日は……燃えた」

 意訳、プロの方が引き込まれるがおれのアレはアレで見るものがあったってくらいか。


 「そうか、有り難うな」

 その手にちゃんとおれがアステールから横流し(まあその為のものだが)したガントレットがある。

 おれは両親死んで以来ほぼ見に行った事がないが、仮面のヒーローの映画とか子供達がDXベルト持ってきたりするだろ?あれと同じ感じなのだろうか。

 

 細々とした話をしながら、大貴族の令息と二人ゴミを集める。

 いや、割と真面目に何やってんだろうな。端から見て貴族の行動に見えないというか、これ本当に大丈夫か?

 そんなことを思いつつ……

 

 「そういえば、割と好きなのか、ああいう話?」

 「心が踊る。

 次回作も、初版を回して貰うつもりだ」

 無表情に淡々と。けれども言う言葉は期待のそれ。

 「次回作かぁ……」

 言いつつ、おれはアステール何か言ってたかな……と思い返す。


 「新たなる戦士アズールレオン、敵か、味方か……」

 ああ、そうだアズールレオンだアズールレオン。今日言ってたな。


 モチーフは……さては頼勇だな?ってことは味方か……って、そうやって予想してても面白くないな。


 「すまないが君」

 と、背後からの声におれは振り向こうとして……

 「家の弟に、何をさせているのかな?」

 一瞬だけ感じた殺気に、思い切りおれは地を蹴った。

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