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閑話・四天王、或いは呼び出し(三人称風)

「……来たれ、四天王よ」

 暗闇に、響き渡る声がする。


 それは、八咫烏と同じ声。七大天が一柱が選び、一柱が見守る少年の影に潜むものと、寸分違わぬ声質を抱く者の音。

 

 それが明かりを点けず、窓も板を打ち付けて塞いだ漆黒の闇の中に浸透し……

 4つの明かりが、揺れた。


 「テネーブル様。"迸閃(ほうせん)"の四天王ニーラ、此処に」

 真っ先に灯ったのは、青く迸る雷光。


 「おっ、珍しーじゃんお呼びなんてさ。120年振り?」

 次いで、1分程の時を経て、緑の光が揺らめき輝く。

 「カラドリウス。テネーブル様の前」

 そんな彼を嗜めるように、落ち着いているが幼げな高音を隠しきれぬ声が響いた。


 「おっと、悪い悪い。ひさっしぶり過ぎてさー

 "暴嵐(ぼうらん)"の四天王アドラー・カラドリウス、参上したぜテネーブル。今度は何なんだ?」

 響くのは、少年と青年の間の声。風のように軽く、音が吹き抜ける。

 

 「……カラドリウス。

 貴方だけ?」

 「まだ残り来てないっぽいな。みんな自由だもんなー」

 あっけらかんと言う声に、青い光が揺れた。

 「不真面目」

 「ってもさー、そろそろあの忌々しい聖女達に掛けられた世界の影への封印が解けるんだろ?

 みんな忙しいし良いんじゃね?」


 「……テネーブル様が、呼んでいるのに」

 ぽつりと不満を漏らすもそれ以上言うことはなく、青い光は押し黙る。

 

 「ってかさー、はえーよニーラが」

 「仕事は終わってる。

 あとは、テネーブル様がイレギュラーの調査を終えたら、それを作戦に組み込む事を考えれば終わり」

 「はっや」 

 「それほどでも……ない。ニーラは、魔神王の為に全力を尽くしているだけ」

 「これからも、俺の為に頑張ってくれよ」

 そんな青い光に向けて、暗闇の中に座した魔神の王はそう気さくに声を掛ける。


 「はいっ!」

 少しだけ上擦った声で、光は応えた。

 

 「あらー、良かったわねー、ニーラちゃん」

 からかうように輝きを見せるのは、新たに現れ煙る淡い紫の光。

 「……ニュクス」

 「愛しの魔神王様に誉められて濡れちゃった?」

 クスクスとからかうように、紫の光は揺れる。

 「無礼」

 「あらあら、つれないのねー


 でも仕方ないかしら。ニーラちゃん愛しの君だもの、挨拶くらいしっかりするわよ

 はーい、"惑雫(わくだ)"の四天王、ニュクス・トゥナロア、ご指名入りましたー」

 

 「ったく、何だってんだよ」

 そして最後、オレンジの光が噴き上がる。

 「挨拶」

 「ったく、新入りが偉そうに……」

 「そこは無関係。四天王に入った以上、平等」

 面倒くさげなオレンジを、青い光が嗜めた。

 

 「コネガキが。幾らあの方が抜けた穴がデカイからって……」

 「ローランドの轟帝(カイザー・ローランド)と弓の君ティグル相手に、彼は良く戦った。

 今、かつての英雄の話は関係ない」

 「一応挨拶は必要だろ、エルクルルさん」

 緑の光に窘められ、オレンジの光の勢いが緩まった。

 

 「ちっ……"砕崖(さいがい)"の四天王、エルクルル・ナラシンハだ。

 良いだろこれで!

 ったく、折角勇士の頭蓋を削って、脳味噌のスープを奴のクソガキの前で一気しようって時に……」

 

 「もう死んでるだろそれ」

 口を開くのは魔神王。

 「だから、お楽しみだったのによ。

 ライオウフレームだか何だか知らないが、搭乗者が剥き出しの骨みたいな変なゴーレムで向かってきたのを引きずり出してよ」


 「機神ライ-オウか。

 ナラシンハ、そのガキの方を殺せ」

 「は?」

 オレンジの光が、強くなる。

 「そのガキが竪神頼勇だ。殺せ」


 「魔神王さんよぉ!オレはアンタが幾らでも人類を殺させてくれるって言うから、四天王に残ってんだぜ?

 殺し方ぐらいオレが決める。

 あのクソガキは、親父の頭が脳スープのボウルになった時、オレを睨み付けてきた。

 あれは勇士になる」

 「勇士になるなら今殺せ。分かるだろう」

 魔神王の言葉に耳を傾けず、オレンジの光は吐き捨てる。

 

 「はっ!それじゃあつまらねぇ。

 オレへの復讐だって強くなって、大事なものも出来て。そんな時に目の前に現れて食ってやるのが一番なんだよ」

 「……クズ」

 ぽつりと漏らすのは、青い光。


 「ああ!?」

 「というかさ、早く始めようぜ?」

 その場を収めるのは緑の光。

 

 「……アドラー!」

 「カラドリウス。分かった」

 いらだたしげなオレンジの光が収まり、4つの光が揃う。

 

 そして、光が、4つの姿を形取った。

 目深に被ったフードのローブの奥から青い三編みを胸元に垂らす色々と細く小さな少女。


 それと対照的に、背丈も胸も、そして露出も派手な、豊かな紫の髪をまとめずに流す女性。その足は無く、代わりに鱗の生えた魚の尾が揺れる。


 濃い茶色の翼を広げた、白髪の青年。その瞳はエメラルドに輝き、落ち着いて一人椅子に座っている。


 そして、二対の腕の片割れを胸の前で組み合わせた大男。オレンジの鬣のような跳ねた髪が、青年の翼の風に揺れる。

 

 「……あらあら、不思議ねー」

 「そうでもない」

 声だけの光状態から、半透明ながら姿を見せることになった人魚が、しげしげと自分の手を眺める。

 「魂の一部、声からでも体は作れる」

 そう発言したのは、魔神王の背後。帽子を被せた仔犬を胸に抱いた黒髪狼耳の少女アルヴィナ。


 「アンデッドというよりゴーストだけど」

 「あらあらー、居たのね、アルヴィナちゃん

 おねーさんに言っていた、素敵な人はみつかったのかしら?」

 「……まだ」

 一拍の迷いを経て、少女は首を横に振る。


 「まあ、人間なんて遊びよねー

 早く帰って良い相手を見つけないと……」

 ちらり、と女性は横のフードを見つめる。

 「横の子みたいに、女の子の大事な場所にクモの巣張っちゃうわよー」

 「余計なお世話」

 「……クモの巣張らせとけよ、なぁウォルテール?」

 「ナラシンハ、うるさい」

 バカにしたような笑いが響く。

 満月の目を持つ魔神王の妹は、静かにそれを眺めていた。

 

 「それにしても、光の世界ってどうなんだ、テネーブル」

 仲の悪い残りの三人を纏める白髪の青年……アドラー・カラドリウスただ一人が話を進めるため、話題を振った。

 「んー、ちょっとヤバいから、俺自身は外に出てないんだよなー

 なんで、愛妹が調べてるよ」


 「……何人か、真性異言の存在が確認できた」

 「んま、俺程じゃないんだけどなー」

 妹狼の言葉に、けらけらと魔神王はその報告を笑い飛ばす。

 

 「現状、唯一の脅威は……えーじーえっくすと呼ばれていた」

 「そんな感じで、変なのがうろちょろしてる。

 ニーラちゃん、多少、人類の強さを上方修正して計画を立て直してくれ」

 「頑張る」

 こくり、とフードの少女は頷く。


 「あとナラシンハ。お前は、折角封印の綻びから影を世界に送れたんだ、脅威になる前に頼勇を殺しとけ」

 「だから、何でだ」

 「真性異言の俺の預言だよ。

 このままシナリオが進めば、お前は逃がしたそいつに殺されんの」

 「あらー、言われちゃったわねー」

 「けっ!知るかよ、そんな間違った言葉」

 吐き捨てるように言って、大男の姿が揺れる。

 

 「それだけなら、切るぞ」

 「……それだけだ」

 「くだらねぇ……」

 それだけ言うや、男の姿は光に戻り、そして消えた。

 

 「なあテネーブル。全員呼ぶ必要があったのか?」

 その顛末を見届け、アドラー・カラドリウスはどうなんだ?と昔からの戦友に声を掛けた。


 「……正直、ニーラちゃんと話がしたかっただけなんだけどな。

 でも、四天王のうち誰かだけ呼ぶと、それはそれで角が立つだろ?」

 「まーな。特に、ニーラだけは今の……お前の代からの四天王だ。軋轢は大きいよな」

 「全く、困ったもんだよなー」


 「あらー、テネちゃん、おねーさんの前でそんな事言って良いのかしらー?」

 くすくすと、からかうように言う紫の人魚。

 「おねーさんも、古い魔神なのよー?」

 「ニュクスは別に良いんだって」

 「あらあら、嬉しいわねー」

 御世辞に御世辞で返し、紫の人魚はこれ見よがしに豊かな胸を揺らす。

 

 「ボク、もういい?」

 「お兄ちゃんと居るのは不満かー、アルヴィナ」

 「この子と遊んでいたい」

 ワウ!と。生を終えているが故に永遠に成長することの無い仔犬が吠えた。

 

 「んまあ、良いけどさー」

 「……じゃあ、行ってくる」

 死霊術師の魔神は、そのまま踵を返し……

 

 「……ニーラさん」

 「何か、アルヴィナ様」

 「お兄ちゃんの事、本当に大事?」

 一つだけ、聞きたいことを訪ねる。


 「言葉にする必要が?」

 「なら、良い」

 それだけを確認し、少女は部屋を出ていった。

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