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巨神、或いは守護神

そうして、おれが着いたのは、大きな庭を持つ邸宅であった。

 ガルゲニア公爵邸。守護神ゼルフィード像を抱く庭が特徴的な、帝国貴族の家である。

 

 まあ、原作ゲームでは既にガルゲニア公爵家って無くなってるから、見られるのは今だけなんだが……

 そう思い、門番が見守るなか門を潜って庭に入るや、おれは辺りを見回す。

 

 当然ながら目に入るのは、噴水に囲まれた巨像。

 流麗な金属線が描き出す美しい造形を持つ、翼のようなマントを羽織る巡礼者を思わせる白銀の巨神。どことなく鳥顔の端正な顔立ちのそれが、機神ゼルフィード。ガルゲニアの守護神である。

 全長はメートル法で13mほど。製作は760年ほど前。帝国の起こりより以前、帝祖等が魔神と戦っていたその時に作られた巨大ゴーレム。本来術者無くしては存在できないが故に珍しい、製作者の死後も残る巨神に守られた武家、それがガルゲニア公爵家だ。


 因にだが、初代ガルゲニア公爵と帝祖は親友であったらしいが、友は友のままが良いとあまり血縁はない。皇族を出る際に嫁ぐ事はあっても、皇帝が娶る事はしない、が暗黙のルールだっけか。


 実際、現ガルゲニア公爵と父は喧嘩友達といった感じらしく、その妹とも仲は良いのだが、妻の数もそこそこ多い父にしては珍しく、あれはそういう相手じゃない異性の友人だと線引きしているらしい。


 とても、うっかりでメイドに手出ししておれを産ませた人とは思えないな。

 

 その関係で、アイリスに頼むのもやりにくかったんだよな。

 アイリスの婿候補を見極めたい、おれはアイリス擁立派の頂点だ、と言えばある程度の貴族に面会は出来なくはないが、ガルゲニアは不可能だ。

 アイリスの婿としてガルゲニアを見るということは、アイリスの皇位継承を諦める気かとなるからな。

 おれには、その選択肢は取れなかった。

 

 「お、大きいです……」

 「やっぱりカッコいいよなー」

 呆気に取られる少女と、目を輝かせる少年。

 全てを呑み込むような不思議な威圧感が、其処にはあった。

 

 いや、実際動かせるし、動いたら動いたでこのなかじゃ誰も勝てないから威圧感は当然なんだが。


 ゲームでは味方としてガイストが3ターンだけ召喚できるが、HPは堂々の400(カンスト)、更には大いなるドグマという特殊能力で被ダメージが半減で実質800だ。

 それがどれくらい高いかというと……難易度normalのラスボス、魔神王テネーブルの三形態合わせたのと同じくらい。

 【力】数値は97とアイアンゴーレム程度しかないとかなり低いのだが、【防御】は180もある。何とこれ、1vs1でHP50%以上ならば、家の父が轟火の剣持って殴りかかってもギリギリノーダメージというアホみたいな数値だ。四天王で一番硬いニーラ(第二形態)の【防御】の倍はある。


 更に大いなるドグマには、【魔防】=乗り手の【魔防】になる効果もあるので、ゴーレムの癖に魔法への耐性がある。

 硬すぎて笑えるな。ここまで硬くても意味無いってレベル。


 そして火力面も……巡礼者の姿から分かるようにこいつ後衛型なのだ。乗り手の魔力を使って魔法ぶっぱなので【力】数値は低くても関係無いから普通に高いな。


 欠点があるとすれば、ライ-オウもそうだが、稼働時間が3ターンしかない事。あとは、毎マップ3ターンではなく、召喚可能ターン数は引き継ぎでマップ進むごとに1回復(最大3)。


 キツいと思って早くに呼ぶとボス前に消えてしまうんだよな。

 

 とりあえず、強いことは間違いない。あのアガートラームに勝てるかは兎も角として、だが……

 「ゼルフィード……」

 暫く、おれは一緒にその巨体を見上げ続けた。

 

 そして、庭園会が始まった……のは良いんだが。

 「この死神に何か用があるというのか」

 「……まあ、そうなんだが」

 おれの目の前には、人の集まらない場所の椅子に隠れるようにしてちびちびと取ってきた肉串を齧る影のある感じの少年がいた。

 彼こそがガイスト・ガルゲニア。ガイスト()の名前の通り、何か暗い。

 

 「自分には無い。申し訳ないが消えてくれないか」

 この通りである。話すら出来ない。

 ゲームでも初対面こんな感じだけどな。いや、子供の頃からそうなのか。

 

 無遠慮にならないように、暗い雰囲気を漂わせる少年を少しだけ離れて観察する。

 原作で出てくる時のように目深に黒いフードを被っていて分かりにくいが、髪は短めで黒。瞳の色はエメラルド。

 属性は風/影。ゼルフィード自体が風属性の機体だからか、ガルゲニア一族は全員が同じエメラルドの瞳と風属性を受け継いでいる。


 そして……

 「関わると、タナトスの呼び声が聞こえることになる……」

 厨二病である。

 

 「タナトス、か」

 「あまり自分に関わらないでくれ。禁断の領域に踏み込んだものを、死神の瞳は決して見逃さない。

 タナトスの鎌が、その首を撫でることになる

 互いにそれは困るだろう。」

 目線を合わせず、下を向いたままその少年は席で語る。

 

 「……ガイスト」

 どう呼び掛けるべきか悩み、呼び捨てる。

 「おれは仮にも皇子だ。第七皇子。

 確かに多少、兄弟のなかでは情けない奴だが……それでも、そうそう死神なんぞに負けるつもりはない」

 その言葉に、少年は瞳を泳がせず、首を横に振る。

 その短い髪が、少しだけ揺れた。


 「死神は、そんな甘い存在ではない。

 誰もが死には勝てない。タナトスは誰の前にも現れる。帝国の祖である轟火の剣の使い手ゲルハルト・ローランドにすら、死は平等だった。

 そのことは、貴方も知っているはずだ、第七皇子」

 「……そう、だな」

 ……彼に、しかしおれは彼の魂と轟火の剣を通して対話したと言ったらどうなるのだろう。


 死は平等というが、轟火の剣と一つになって見守っているらしいのは、本当に死んだと言えるのか?

 そもそも、おれ自身、今の『おれ』として混ざり合っている人格の一部は、アステールによるとミチヤシドウなる日本人のものらしい。


 だけれども、万四路もハク兄さんも……きっと、こんな転生という形で新たな人生を歩んでなど居ないだろう。おれが今こうしているのだって、七大天による特例だから。

 

 「だけれども、死は平等なんかじゃない」

 「……兎に角、自分に近付かないでくれ」

 「どうしてなんだ、ガイスト・ガルゲニア。

 おれは、君に、君と君達の守護者に興味がある。だから、此処に来た。

 君達から話を聞きたくて」


 「……嘆きのロザリオを首に掛けたく無かったら、関わらないでほしい」

 「そんなものを手にする気は無い」

 ……で、嘆きのロザリオって……何?

 

 「……と、カッコ付けてて悪いんだが……」

 考えろ、考えるんだおれ。


 原作である程度ガイストの婉曲な言い回しには慣れてるだろう。其処から導きだした嘆きのロザリオの意味は……


 「おれ自身ではない誰かの死を悼む心、か?」

 ロザリオとは祈りの道具だ。この世界にはキリスト教は無いけれども、数珠のように7色の珠を繋げた首飾りの先に七天教の紋章を付けた祈りの道具はそう呼ばれている。


 司祭には必須の道具だが、他にも墓地関係者等、死者を悼む人間は大抵身に付けている。

 とすれば、それを身につけることになるというのはそういう意味、なのだろう。

 

 「……銀髪の女の子。あとは、チラチラとさっきから見ているあの子」

 「アステールは亜人だ。今回の庭園会で、あの子供向け小説の原案として語るからと言ってはいるものの、心無い誰かが汚らわしいと何かをしない保証はない」

 「……信頼がない」

 「違うよ。信じてるから、こうして彼女と離れて、君と話をしてる。

 ……けれど、信じてたのに!って何か起こったときに言って良いのは、伯爵までだ」


 その言葉に、初めて少年は表情を変えた。

 くすりと笑うような顔になり、慌てて仏頂面を貼り付ける。

 

 「自分はタナトスに魅入られた呪われた子。

 近付けば、皆死ぬ」

 「死なないし、死なせない」

 そうだ。ガイストは原作からこうだった。


 大きな事件で、両親と妹を喪って。やはり自分は死神に魅入られていると、自分の殻の中に閉じ籠っていた。

 それを打ち破るのが、原作リリーナ。諦めない彼女に触れ、段々と彼は誰かに心を開いていく。

 

 それが、彼のストーリーだ。

 そして物語は第二部。父から公爵の位を譲られるその日、突然家族を皆殺しにした兄シャーフヴォル・ガルゲニアの真実と、彼……及び彼の裏で彼を凶行に走らせた元凶である四天王ニュクス・トゥナロアとの直接対決に進んでいく……

 ってことで、あのルートだと四天王はあの頭にコウモリの羽根生やしたエロ人魚ことニュクス・トゥナロアが目立つんだよな。

 ナラシンハはまだ頼勇関連のイベントがルート無関係に共通で起こるから目立つけど、ニーラとカラドリウスが割と空気。


 というか、あの二体についてはあのルートだとニーラは覚醒したガイストがゼルフィード・ノヴァで倒し、カラドリウスは誰か……というか状況的にゼノが相討ちで倒した体で話が進むせいで敵ユニットとしては出てこないレベルだ。

 他ルートだと大体四天王最後がニーラ(他の四天王と共に出てくることもあるが)なんだが、ガイストルートだけルート専用の強化形態ゼルフィード・ノヴァ解禁で最初にイベント死する。確か解禁がガイストルート5章だから、2部の序盤だな。

 なんで、ゼルフィード・ノヴァへの進化はカッコいいとはいえ魔神王の為に嫌ってるゴリラ姿になるニーラのイベントが好きなおれとしてはあのルート嫌いだったというか……

 

 「というかさ、ガイスト」

 「止めてくれ」

 「おれには、君の言葉は……」

 少しだけ、言葉を切る。


 「死神のせいで一人ぼっちでいなきゃいけない、助けてくれとしか聞こえない」

 少年は、応えない。

 

 「元々、ゼルフィードに興味があっただけだけど、断然気になった」

 そしておれは、手を伸ばす。

 その手を払い除けられてもお構いなしに、精一杯の笑顔で。


 「改めて名乗ろう。おれはゼノ。第七皇子ゼノ

 ガイスト・ガルゲニア。君と友達に、なりにきた」

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