表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/25

1−18 作戦

 誰が殺したか。

 それは既にわかっている。

 しかし――。


「……それは今から伝える。だが、他に漏れるとまずい」


「それって……」


「情報が漏れると不味い範囲……つまり犯人は直ぐ近くにいる。そう言う事だね」


「そうだ。この部屋で今起きた事は全て他言無用で頼む」


 全員が心得た様子で首肯する。


「それと犯人である証拠を掴むために、宝木にはある事を頼みたい。お願いできるか?」


「うん、わかった」


 その時、ハイメが改まった様子で久頭に語りかけた。


「クズ君……君は、本当に何もかもがわかっているんだね?」


 それに対して久頭は努めて静かに答える。


「ええ。わかっています。犯人も……真実も」


「そうか……」


 目を伏せたハイメは何かを言いかけて、しかしそれを飲み込んだかのようだった。


「……いや、何でもない。それで君はどうするんだい?」


 その質問への久頭の答えは、明瞭で、しかしハイメを驚かせる内容だった。


「犯人を罠にかけます」


「……なに?」


「その必要があります。この犯人は危険だ」


「どうやるのか、考えがあるのか?」


「作戦はあります。そのためには、ハイメさん達にもご協力して頂く必要がある」


「勝算は?」


「十分に」


 ハイメの鋭い眼光を受けても、久頭は微塵もたじろがない。

 彼は一切の誇張なくただありのままに述べている、そんな様子だ。


「……本気のようだな。わかった、話を聞こう。決行は?」


「今夜です。今夜、犯人を罠にかける。それまでに準備を急ぎます」


 一度言葉を切り、久頭は一杉達のいる方を見る。


「優人、それに……元世。作戦には二人の力も必要だ。協力してほしい」


「僕にできる事なら何でも」


「う、うん。わかった」


 一方はにこやかに、一方は半ば勢いでうなずく二人。

 同意を確認すると、久頭は作戦の説明を開始した。


「ありがとう。ではハイメさん、作戦内容を説明します。まず――」





 説明を終えると、各々が準備に動き始める。

 久頭も早速移動しようとしていた。


(まずは研究所だな。所長にいくつか頼みたいこともあるし……)


 久頭が考えながら歩き始めたところを、宝木が呼び止める。


「待って、久頭くん」


「ああ、宝木もこっちを手伝ってくれるか? 運ぶものもあるし……」


「うん、手伝うよ。いや、そうじゃなくって」


 反射的に笑顔でこ快い返事をしてから、会話の軌道を修正する。

 宝木は真剣な、相手を心底心配する表情をしながら言う。


「さっき話してくれた作戦……久頭くんの危険が大きすぎるよ」


「……」


 久頭は思わず口をつぐむ。実際、そこがこの作戦の一番の泣き所だ。

 しかし、既に決めた事だ。リスクはあるが、それ以上のリターンも見込める。

 いや、それ以上に……確かめる必要がある。

 だから、作戦を変えるつもりは無い。

 なるべく明るい調子で久頭は答える。


「大丈夫だ。打てるだけの手は打つし、保険もある。最悪のケースでも犯人が逃げ切れる可能性は低いし……」


「そうじゃなくって!」


 宝木が大きな声で遮る。


「犯人が逃げるかもとか、そう言うことじゃなくて……久頭くんが怪我したり、もしかしたら」


 やっぱりだ、と久頭は思う。彼女はこういう時、泣きそうな顔をする。


「死んじゃうかもしれないんだよ!?」


 彼女が何を言いたいのか、久頭にはわかっている。

 しかし、彼女は何故ここまで真剣に他人を心配できるのだろうか?

 それは、今の久頭には理解できない感情だ。

 いや、それ以前に……今の久頭で無ければ、元の世界にいた頃の久頭であれば、そんな彼女の感情を気にもしなかっただろう。

 まだ、彼にはわからない。それでも彼女がそういう人間である事がわかり、そんな彼女のあり方に疑問を覚えるようになった。それ自体が今までにない大きな変化だった。


 だからその時も。

 彼は、今までの彼なら考えないような事を……初めて考えた。


「宝木は……俺が死んだら悲しむのか?」


「当たり前だよ! だって、久頭くんは大事なクラスメイトで、私の命の恩人で、それで……!」


「宝木が悲しむなら――」


 俺はクズだ。

 俺はロクでなしだ。

 俺は嘘つきだ。

 それでも。


「――俺は死なないよ」


 この言葉は嘘にしない。

次回犯人が判明します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ