ボスは普通が良いです
俺の蹂躙劇が続く。という予想は外れた。
が、狼達は、襲いかかってくる獲物はいないかと、挑発行為を繰り返しながら洞窟を進むこととなった。
あまりにも酷いので内容は割愛するが……俺の精神はかなり削られた。
そして、ボス部屋の前。
『初心者の洞窟』と呼ばれているわりに、立派な両開きの扉が閉ざされていた。
「この中に……」
「あぁ。我らがボスがいる」
俺は緊張のせいで喉をならす。
ここまでの道中で聞いたボスの情報を整理しておこう。うん。
まず、体の大きさ。
俺の周りにいる狼も、熊みたいな巨体たが……ボスはこいつらの二倍から三倍の大きさらしい。
その体躯から放たれる一撃は、まさしく必殺の一撃。少なくとも、ここいらの生き物には防ぎきれるだけの堅さはない。俺なんか、周りの狼でも致命傷になること間違いなしだというのに。
さらに、かなりの巨躯にも関わらず、草原を走り抜ける速度は種族一位だとか。
「ボスが疾走すれば、それだけで雑魚は死ぬ」
そんな発言すら飛び出すしまつだ。
俺の想像だが……四トントラックが高速道路を駆け抜けていくような感じだろうか。とにかく、大きさと速度がヤバイのだろう。
さて。
帰りたい気分になってきたところだが、目の前にある扉は、魔物や動物では触れることしか出来ないらしい。
人間は動物では? と、俺は思うのだが……理屈はさっぱりだ。
ともかく、この場では俺にしか開くことが出来ない扉の奥には、化け物のような狼がいるわけだ。
「……いきなり殺されたりしないだろうな?」
「大丈夫だ」
……本当か?
同族のボスだから、なんていうの? いい人補正? でも入ってんじゃねぇのか?
「だ、大丈夫だと言っているだろうっ!? そんな眼でっ! 俺を見るんじゃないっ!!」
ジトーッと見ていたら、慌てふためくように言い募る狼。
怪しさ満点だが、今断れば、即座に餌になるだろうしなぁ……。
「はぁ……そんじゃあ、開けるぞ?」
俺は両方の扉に手を付き、力強く押し開いた。
ボス部屋というのは、なぜ広く造られているのか。
ゲームなんかだと、縦横無尽に動けるようにするため。なんて理由を思い浮かべるわけなんだが、現実だとよく分からん。
この『初心者の洞窟』も、ゲームなんかと同じように、かなりの広さが設けられていた。
その中央に、僅かな光すらも反射させている毛玉が鎮座していた。
「ボスっ!!」
俺の周りにいた六頭の狼は、その巨大な毛玉へと駆け寄っていく。
扉の側で取り残された俺は、その様子を眺めては思いを馳せる。
どうやって逃げようか。
と。
無理だな。うん。まず、想像よりもデカイ。
普通、想像よりも一割か二割くらい小さいなぁ~と思うだろう。
……俺の想像を軽く越えてやがった。
「さて……」
「はい、ボス……」
ボスという巨大な狼と、その周りにいる熊並みの狼が六頭。
そいつらが一斉に、丸腰で帰宅部だった俺を見つめてくる。
「いやいや。あの目付きは睨むというのが正しいからな」
というセルフツッコミを入れるも、俺が捕食される未来しか見えてこない。
か、考えろっ! 俺っ!!